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イミテーションウォーク


 伊吹は頭の中を整理した。

 

 煌は、この世界の記憶しかない、と言う。

だけど、俺には、ここに来る前の、バンド練習をする日常の記憶がある。

あの日、ひばりヶ丘駅で自分が轢かれた事も覚えている。

暗闇に見た、あの変な奴とのやり取りも覚えている。

 

 俺と、煌達は何故違うんだ。

何故、俺には記憶があって、煌達には過去の記憶が無いんだ。

 

 ふと、伊吹は思って言った。

 「ドライヤー、何でこの世界に無い物の名前が分かるんだ?」

 そう、煌に尋ねた。

 

 煌は、少し何かを考え込んだ表情で答えた。

 「そう、それはそうなんだ。

そう言った物の名前は何故か分かるし、

どう使うのかも分かるんだけど、


使っていた記憶は無いんだ。」

 煌は続けた。

 「私達は、記憶の無い過去を抱えながら生きているんだけど、

気づいたら、いつもの様に、

そんな事気にしないで、日々を生きている。

 

 人が、誰かから生まれて、成長して、死んでいくものだって、分かってる。

でも、この世界には、生まれたりも、成長したり年老いたり、死んだりもしない。

 

 まるで、進む時間を取り上げられた人達みたいに、

その場に生き続け、

自分がどこから来てどこへ行くのかも分からないまま、

今日をまた終わらせてく。

 

 不思議だと思う。だけど、いくら考えても分からないんだ。」

 そう言い切った煌の表情はとても暗かった。

伊吹は、煌の初めて見る表情にまた困惑した。

 

 煌の頬に残る、先程流れた涙の後。

いつもの元気でキレのある瞳は、

迷いと不安に暗く濁っている。

 

 自分の肘を抱えながら、心無しか小さくなった煌を見て、

煌もか弱い、普通の女の子なのだと、伊吹は思った。

 

 咄嗟に、伊吹は言った。

 「大丈夫、生きているんだから、そこに意味も理由もある。」

 

 何も返事を返さない煌。

 

 「行くんだろ、旅。楽しみをまた見つけに行くんだろ?」

 笑いながら、伊吹は言った。

 

 煌も、少し笑って答えた。

 「うん、そうだね。やっぱ、難しい事分からないし、考えても分からないし!」

 煌は、手を空に向けて伸ばして、思いっきり背伸びをした。

 

 そして、煌は言った。

 「ねえ、過去の話聞きたい!聞かせてよ!」

 

 「そうだな、じゃあ牛丼って知ってるか?」

 「知ってるよ、そんくらい!」

 「その牛丼を作る店、牛丼屋が、とりあえず沢山ある世界だ。」

 「何それ、何で?」

 煌に、伊吹は過去の世界の事を色々と話した。

伊吹は、何も知らない子供に、世界を教えているみたいで面白い、と思った。

 

煌の、流れた涙の理由など、とうに気にならなくなっていた。

 

 それから二人は、

様々な所を旅して、色々な人々に会っていった。

 

 皆、心からこの世界を楽しんでいる様に思えた。

 

 煌や伊吹も、何を求めるわけでも無く、歩き続け、

行き交う人との交流を楽しんだ。

時があったなら、それは軽く3年間ほど過ぎていただろう。

 

 いつしか、煌も伊吹も、互いを心の拠り所としていた。

 

 その事を、二人も自覚し始めていた。

 

 そんな平生の中、動き出した者がいた。

 

 伊吹の視界は、突然、暗闇に解かされ始め、黒よりも黒い黒に呑まれた。

 伊吹は意識ごと、黒い世界に呑み込まれる感覚を感じた。

 

 この感覚は、、

 

 「やあ、青年!

 

 ユートピアに馴染んでいる様だな、

 

 さて、願いを聞こうか?

 欲のまま、言えばいいさ!」

 異物の者が、さっそくと伊吹に言った。

 

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