『小説を読もう』のエロバナーに転生しちゃったあたしは、何とか違うバナーを表示しようとするんだけどエロ縛りから抜けだせないよ!!
──あたし、どうやらWebサイト『小説を読もう』で表示される、広告バナーに転生しちゃったみたいだ。
あ、バナーって言うのは画面の下に出る帯みたいな奴ね。
そうそう、ゲームの広告とかエロ漫画の広告とか。
え? 広告うざい?
うん、ごめん、分かってる。よく言われるんだ。
「エロが恥ずかしくて電車で読めないよ」
「間違えて押してまうやろ!」
「投稿される小説にはレーティングがあるのに、何で広告は犯罪めいたエロを許容してるんだ?」
そんな声がディスプレイの先から聞こえて来る。
うん、ごめんみんな。あたしも抗いたいんだ。出来れば健全な広告を表示したいんだ。
でも運営が力ずくで、あたしにエロいことさせるんだ。だから、ごめん、みんな!
──そんなこんなで、バナーのあたしは、利用者を観察することが日課なんだ。
*
さて、バナーのあたしは、今日もディスプレイの先を観察するよ。
お、中学生くらいの男子が見える。
何々? 検索キーワードは、「ざまぁ」、「追放」。
ふむふむ。やはり男の子は「ざまぁ」物が好きなのかな?
お、指が止まったぞ。
何? あたしを見てる? やだ、そんなに見つめないでよ。照れちゃうじゃん。
と思ったら。
あ、今、あたしが映してるのは、エルフだ。
エルフがゴブリンに無理矢理エロいことされちゃう漫画のバナーだ。
巨乳エルフはエロ漫画でも大人気だよね。
すると──。
やだ、少年の指があたしに迫って来る。
ダメだよ、この漫画は君には早いよ。
でも少年の指はあたしの敏感なところを……。
ダメ! そこは、そこは触っちゃダメーー!
「……あっっ」
あたしはタップされた感触に思わず声を上げてしまう。
すると──。
少年は漫画サイトに離脱したようで、あたしの視界から消えた。
……バナーを押しちゃったか、少年よ。
エロに課金するときはちゃんとお母さんに相談するんだぞ。
*
お、ブレザー姿の女子が見える。高校生かな?
何々? 検索キーワードは、「悪役令嬢」、「婚約破棄」。
ふむふむ。やはり女の子は「悪役令嬢」物が好きなのかな?
お、指が止まったぞ。
何? あたしを見てる? やだ、お姉さんに興味あり?
と、思ったら。
あ、今、あたしが映してるのは、BLだ。
イケメン男子二人が裸で肉弾戦してるBL漫画だ。
BLってみんな汗だく細マッチョだよね。
すると──。
やだ、少女の指があたしに迫って来る。
いいのかい? この先は腐海だよ? 戻って来れなくなっちゃうよ?
そして少女の指はあたしの繊細なところを……。
来る! 指が来ちゃうー!
「……あっっ」
あたしはタップされた感触に思わず声を上げてしまう。
すると──。
少女は漫画サイトに離脱したようで、あたしの視界から消えた。
……バナーを押しちゃったか、少女よ。
BLなら『読もう』よりも他のサイトの方が充実しているよ。
腐女子の道は深く険しい。幸運を祈る。
*
お、中年のおっさんが見える。
はい、無視無視。
おっさんがあたしを見る目は生々しくてキモいから。
*
お、30代くらいの女子が見える。自宅かな?
何々? 検索キーワードは、「つらい」、「鬱」、「自殺」。
……メンヘラちゃんか。うん。日本は生きづらい社会だよね。
お、指が止まったぞ。
って、え!? 何よ、そのロープは。
女子は手にクレモナロープを持っている。
すると、ロープで輪っかを作り始めた。
まさか、首を吊る気!?
やばい、やばい、やばい。
待って、ちょっと待って!
ああ、でも、あたしには何も出来ない。
せめて何か映し出せれば……。
何か、何か、何かーー!
と、あたしが祈ったその時──。
あたしは何かの力を感じた。
こ、これは……。
あたしはバナーに「待って!」と言う文字を映し出していた。
で、出来た……。
いや、よく見ると、男子が女子にエロいことしようとしてる漫画だ。
服を脱がされそうな女子が、男子に「待って!」と言うシーンが映ってる。
やっぱ、エロなんかい!
でも、念じれば、バナーを変えられる!
あたしはまた祈る。
"生きて、生きて、生きて!"
すると──。
バナーに「イク、イク、イク!」と言っている漫画が表示された。
描写は、エロ過ぎて言えない。
いや、違うから! 文字も意味も違うから!
ええい! 次だ、次!
"いのちの電話、いのちの電話、いのちの電話"
あたしはまた祈った。すると──。
バナーに「全部、飲んであげる」と言っている漫画が表示された。
描写は、卑猥過ぎて言えない。
いや、いのちのでんわ → 飲んで、は、無理があるやろ! いや、何を飲ませるねん!
ああ、だめだよ、こんなんじゃ、伝わらないよ……。
すると──。
ディスプレイの先の女子は泣き出した。
「ぐすっ、やっぱ……、出来ないよ……」
そう言うと女子は、ぽいっとロープを放り投げた。
ああ、良かった。思い留まってくれた……。
しばらくすると、女子は『読もう』のサイトを見始めた。
さっき検索した一覧を見ていく。
すると──。
一つの小説が目に止まったようだ。
タイトルは『生きづらくて生きづらくて仕方ない方へ』。ジャンルはエッセイ。
あたしは目を見張る。
あ、それは……。
あたしには、そのエッセイに見覚えがあった。
だってそれは、あたしが生前に投稿したものだから。
実は生前、あたしも生きているのがつらかった。
あたしには生きるためのヒントなんて与えてあげられないけど、つらいのは一人じゃない、同じ気持ちの人はいるんだよ、って伝えたくて、あたしは何十万字もエッセイを書き続けたんだ。
女子はあたしのエッセイを真剣に読んでくれてるみたいだ。
しばらくすると、彼女はあたしの小説をブックマークしてくれた。
そして、電気を消して、ベッドに入って行った。
おやすみ。今日はつらかったね。
あなたが思い留まってくれて、あたし、嬉しいよ。
また明日、会えるといいな。
*
──今日のことで、あたしには目標が出来た。
あたし、もっと色々試してみる。
傷ついた心を癒やしてくれるような漫画や、誰かの助けになれるような情報をバナーに表示したい。
だから、あたし、頑張ってみる。
エロに抗ってみる!
さてと、じゃああたしも休もうかな。
みんなに良いコンテンツが届きますように。
ではでは、おやすみなさい。
完