第1話 きっしょ
「咲水、今日もありがとう。気持ちよかったよ。好きやで」
「私も。刃銀のこと大好き♡」
ケンカした日の夜はいつもこんな感じ。
普段よりも情熱的に求めてくる彼女が可愛い。
ヤルことヤッた後はすごい眠気襲ってくるけど、この頭をなでながらのピロートーク、俺も結構好きなんよね。
普段なかなか言えんようなこっ恥ずかしいことも言えるし。
「あのさ、刃銀......。刃銀は私のこと愛してる?」
「うん、愛してるよ」
「そっかぁ。嬉しい。私いろいろわがままやけど、いつも許してくれてありがと♡」
「好きやからワガママくらい聞くよ」
「そっか............」
わがままなのは否定できへんからな。咲水のそれはなかなかやし。完璧メンヘラ入ってるし。
実際、今日もかなりイラつかされたけどな。
それでも、俺にも悪いとこあることも少なくないし、それに、彼女の見た目の良さでだいたいのことは許せるとこあるし。
今も俺の胸に顔埋めてきて可愛い。
肌に触れる彼女の焦げ茶色のウェーブかかった髪の毛がこしょばいけど、それも心地良い。
いろいろひっくるめて、これからも仲良くやっていけたらいいな。
とか余韻に浸ってたら、次の会話で一気に全部ぶっ壊された。
「あんな? 私のこと好きやったら怒らんといてほしいねんけどな? 刃銀のこと愛してるから言うんよ?」
「ん? どうしたん?」
「私、この間浮気してもうたねん」
..........................................?
「はぁっ? え、なに、どういうこと?」
え、まじでどゆこと? どういう冗談? 咲水が言ってる内容も、それを言ったタイミングも意味わからんねんけど。
「先月さ、刃銀とちょっと喧嘩したときあるやん? あんときさ、友達に合コン誘われてさ。そこで会った人と1回だけヤッちゃったんよね」
いやいや、意味わからん。
どういうこと? なんで今? つーか、は? 浮気? え、何?
「ヤッたって......」
「うん。えっちした」
冷や水ぶっかけられるっていうのはこういうコトか。
さっきまでの甘い空間が急に地獄に変わったな。
「違うんよ。その人、私らの大学の卒業生らしくてな? お酒いっぱい入ってたのと、刃銀とケンカしてて落ち込んでたのもあって寂しくて、親身に相談のってくれてさ。それで向こうに強引に誘われて勢いでホテル行ってしまってさ」
やばい、頭痛なってきた。あと吐きそう。
なんでそんな話続けてんの? なんなんこの人。気持ち悪いんやけど。
「黙ってようと思ったんやけどさ。刃銀やったら許してくれると思って。けどさ、私、それで改めて思ったんよ。私、刃銀のこと愛してるなって。刃銀も私のこと、好きなんやんな?」
よくわからんけど、ほんまに浮気してたんやったら許すわけないよね?
え、もしかしてさっきまでの甘い雰囲気の流れで俺が許すとでも思ったん? なんでこんな平然とした感じで話してくんの?
なにこれ、俺、なんか試されてる?
「まじでその人と浮気したん......?」
「うん、ごめん。でも、二度とせぇへんから! 私が好きなんは刃銀だけやから! だから、なっ? 許して?」
きっしょ。