王妃とのお茶会
ライアンの魔法で宿屋に戻ったレティシアたちは、それぞれが思うように自由に過ごしていたが、ルカは悩んだ末にロッシュディ皇帝陛下に連絡を取ると、無理やりではあったがライアンと話をさせた。
その間、家族の話を聞くのは悪いと思ったレティシアは、別室でステラと情報の交換をしていた。
『ふーん。それでジャンは皇弟だったのね』
『そうなのよ。今はルカの通信魔道具を使って、皇帝陛下と話しているわ』
『それで、レティシアはこれからどうするの?』
『そうね。本当はもう少しだけ犯人たちを泳ごさせて、裏にいる人物をあぶり出そうと思ったけど、ステラの話を聞く限り、のんびりしている時間はないと思ったわ』
『リビオ王も、まさか自分の国で反乱の準備が進んでいると、思わなかったのでしょうね』
『それはそうでしょう』
『まぁ、ステラには関係ないけどね。ステラはレティシアのために動くだけだし。それじゃ、ステラはこのまま城でレティシアの指示通りに動くわ』
『えぇ、そっちのことは頼んだわ』
レティシアがふうっと息を吐き出すと、ドアをノックする音が聞こえて、ルカが部屋に入ってくる。
「終わったか?」
「えぇ、ステラとの話は終わったわ。ルカの方は?」
「俺の方は皇帝陛下が、ライアンの家族を呼びに行かせたから、もう少しだけかかりそうで、そのままライアンに通信魔道具を貸したよ」
「そっか……。陛下は泣いてたでしょ?」
「泣きながら謝ってたよ。ライアンが事件に巻き込まれずに、今も帝国にいたなら、きっとこんなことにならなかったって……」
「そう……。別に陛下が悪いわけじゃないのにね」
「……そうだな」
レティシアとルカはそれだけ話すと、二人の間には長い沈黙が流れた。
特に話すことがないからと、本を取り出して読み始めたレティシアのことを、同じように本を読みながらルカは時折見ては、言葉に詰まったように話しかけるのをためらっていた。
だけどレティシアはそれに気がついていても、ルカに話しかけることはなかった。
「あ、いた。ルカ、今少しだけいいか? 三日後に出発する討伐のことで話があるんだけど」
「あぁ、大丈夫だ」
「悪いな。レティシアは留守番でいいんだろ? それなら、オレとルカは向こうで話すけどいいか?」
「えぇ、私は今回の魔物討伐に参加しないわ。それに、その日は王妃と会う約束をしているもの」
立ち上がろうとしていたルカと、歩き始めたアランの二人は、レティシアの言葉を聞いて動きを止めた。
「悪い、なんて言った?」
困惑気味にアランはそう聞き返すと、レティシアは聞き返されると思わなかったのか、少しだけ驚いた。
「え? だから、アランたちが討伐に向かい当日、私はエルガドラ王国の王妃と会う約束をしているのよ」
「それ、予定をずらせないか?」
考えるようにしながらアランはそう言ったが、ルカは眉間にシワを寄せている。それでも、レティシアはそんな二人を少しも気にしていない様子で答えた。
「もう返事もしたから、無理だと思うわよ?」
「オレたちの方の予定ずらすか?」
アランはレティシアの返答を聞くと、ブツブツとそう言いながら考え始めた。その様子から、アランがレティシアを王妃と二人で合わせたくないのだとわかる。
「いや、ただのお茶会の誘いだろ? それなら俺たちは普通に討伐に向かおう」
「だけど!」
「大丈夫よアラン。当日はライアンに付いてきてもらうつもりよ」
アランを安心させるようにレティシアはそう言うと、アランは肩を落としながら口を開いた。
「それならいいけどさ……オレ、あの人のことは苦手なんだよ」
(でしょうね……)
何日も王妃の部屋の様子を聞いているレティシアは、純粋な獣人族以外は見下しているところがある王妃に対して、アランが苦手意識があっても仕方がないと思った。
「何かあったら、すぐに連絡するわ」
「あぁ、頼む」
ルカはそう言うと、まだ何か言いたそうなアランを連れて部屋を後にした。
◇◇◇
魔物討伐当日。
レティシアは討伐へ向かうアランとルカに封筒を渡した。
「これは、今日の夜に読んでほしいわ。二人のことを思って書いたの」
ルカとアランはそれぞれ封筒を受け取ると、上着の内ポケットにしまう。
「ララ、行ってくるよ。オレの無事を願ってくれてありがとう」
アランはそう言ってレティシアの手をとると、手の甲に触れるか触れないくらいの距離にキスをして、上目遣いで言う。
「必ず君の元へ帰ってくるから」
他の隊員を見送りに来ていた女性たちは、アランとレティシアのやり取りを見ながら口元を押さえると、頬を赤く染めた。
「仲がよろしいのね」
「あの噂は本当だったのね」
「あの方が、アラン様の婚約者なんだわ」
そう言っている声が聞こえると、レティシアは恥ずかしそうに下を向いた。
(アラン、やりすぎよ!)
アランはレティシアの頭に優しく触れて「行ってくるね」っと優しく微笑みかけながら言うと、踵を返してルカや隊員たちともに魔の森に入っていった。
しばらくの間、レティシアはアランたちが入っていった森を見つめていたが、そんなレティシアにライアンは声をかけた。
「ララ様、次の予定がありますので、そろそろ行きましょう」
「そうね。行きましょう」
その場にいた女性たちが、レティシアに声をかけようとしたタイミングでライアンがレティシアに声をかけたため、女性たちからレティシアは声をかけられずにすんだ。
「危なかったですね。このまま王妃殿下のところに向かうのですか?」
「少しだけ寄り道をしていけば、向こうが指定した時間になると思うわ」
「わかりました。では、手土産を買っていきましょうか」
「えぇ、そうしましょう」
二人は王妃に渡す手土産を選ぶのに、紅茶を置いている店に入ると、時間をかけてライアンが王妃のためにお茶と茶菓子を選び、包んでもらっている間にその店で紅茶を注文してゆっくりとした時間を過ごした。
それから店を出ると王妃が泊まっている宿屋に向かうが、レティシアたちの後を複数の影が付いてくる。
(隠れるなら、もっと上手にやりなさいよね)
レティシアはそう思いながらも、その影たちに気が付いてないように振る舞い、子どものようにライアンと話しながら街中を歩いていく。
王妃が泊まっている宿屋に着くと、入口のところには衛兵がたっており、これまたわかりやすいなぁっとレティシアは思いながらも、王妃から届いた手紙を衛兵に見せると宿屋の中に通された。
宿屋の中に通されても、レティシアもライアンもそのまま勝手に王妃の部屋に向かうこともできず、受付のところでしばらく待っていると、獣人族のメイドがレティシアたちに声をかけた。
「ララ様でございますね? 王妃殿下がお待ちしております。こちらへどうぞ」
言われるままその後を着いていくと、レティシアが見たことのある部屋に通された。
「お待ちしておりましたわ。どうぞお掛けになって」
レティシアとライアンは言われるままソファーに向かうと、レティシアはカーテシーをする。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
王妃はレティシアとライアンを下から上まで見ると、ふんっと鼻を鳴らしてソファーに腰掛けて足を組んだ。
「座ってちょうだい」
レティシアは言われるままソファーに座り、ライアンは先ほど購入した物をメイドに手渡すと、レティシアの隣に座った。
ライアンに手土産を渡されたメイドは、包みを開けると王妃に中身を見せたが、王妃は顔をしかめて顔を背けた。それを見ていた二人は不快な気持ちになったが、それを顔に出すことはなかった。
レティシアたちの前にお茶が出されると、王妃は話し始めた。
「最近、アランと親しいみたいね」
「はい。アラン様は優しいので、私のことも大切にしてくれています」
「へぇ、そうなのね。あの子は中途半端な子どもだから、あなたくらいが相応しいのかもしれないわね」
レティシアとライアンは差し出された紅茶を飲みながら、王妃と会話をしていく。
「相応しいのかわかりませんが、アラン様のことを中途半端と言わないでほしいです。アラン様はとても素晴らしい方です」
「あら、本当のことを言っているだけよ? あの子は人族と竜人のハーフよ?」
「それは知っておりますが、それを言うのでしたら、あなたの息子も中途半端なのでは?」
レティシアがそう言うと、王妃は飲んでいた紅茶をレティシアにかけた。
レティシアは思わず王妃を睨むと、王妃はさらに持っていたティーカップをレティシアに向かって投げたが、そのティーカップがレティシアに当たる前に、ライアンがはたき落とした。
「この者たちを捕らえなさい!」
王妃がそう言うと、控えていた護衛がレティシアたちの両脇を掴んだ。
「やめてください! 話してください!」
レティシアは抵抗してみせるも、足が地面から離れた。
「早く連れてってちょうだい! 臭いわ!」
王妃がそう叫ぶと、護衛はレティシアたちを部屋の外へ連れていき、近くの部屋に連れていく。
その部屋に入ると、床には魔法陣が描かれていた。
レティシアとライアンは、必死に叫びながら抵抗を続けていたが、それも虚しく床が光りだした。
光が収まるとそこは城の地下牢だった。
レティシアとライアンは首に枷をはめられると、牢屋に乱暴に入れられた。
牢屋に入れられたレティシアはライアンに駆け寄ると、次第にライアンの体がぐったりしてくる。
レティシアも目眩がして、意識が少しずつ遠のいていく。
(紅茶に薬を入れすぎよ……)




