動き出す者たち
城の地下へと続く階段をレティシアは眉の辺りにシワをよせながら、アランとルカと共に降りて地下牢に向かっていた。
あの後、リビオ王の声で三人の諜報員が部屋に現れると、レティシアは彼らにだけ聞こえるように、細かい指示をだした。
レティシアの指示を聞いた諜報員が部屋から出って行った後、レティシアはディーンに聖女と精霊士を呼びに行かせた。
だけどディーンは彼らに「疲れてるから」と言われてしまい、彼らがリビオ王の元へ来ることはなかった。
そこでレティシアは彼らがリビオ王の元に来ても、自分がいない時に接触させないでほしいことと、あの二人が来る時は事前に知らせてほしいっとディーンとルークにお願いをした。
そして、次にここへ来やすくするために、レティシアはリビオ王に許可をもらって隣の部屋に移動魔法陣を描くと、レティシアたちは姿を隠すこともせずに、地下へと向かったのである。
レティシアたちが地下牢にたどり着いくと、辺りは薄暗く鼻をつく悪臭がして、アランは思わず鼻を押えた。
「こんな所になんの用があるんだよ」
鼻声でアランはそうレティシアに言ったが、レティシアは何も答えずに靴を鳴らしながら地下牢を進む。
そうすると、牢屋の中から女性たちの脅えた声が聞こえてくる。
レティシアは臭いの原因になっていると思われる牢屋の前で立ち止まると、牢屋の中にいる女性を静かに見ていた。
彼女の首には他の女性たちと同じように首枷がされており、その首枷には魔力封印の付与術がされているようだった。
「アラン、ここを開けられるかしら?」
「あぁ、開けられるけど罪人だぞ?」
何も説明されないでここに連れてこられたアランは、怪訝そうな顔をしながらそう言ったが、レティシアは女性から目を離すことはなかった。
「開けてちょうだい」
「……わかったよ」
アランは諦めたように溜め息をつくと、牢屋の鍵を魔力を使って開けていく。この牢屋にも付与術がされており、王族の限られた者なら鍵がなくても、開けられることをレティシアは既にステラから聞いて知っていた。
牢屋の鍵が開くとレティシアは牢屋の中に入っていき、女性に近ずいてからしゃがんで優しく声をかけた。
「来るのが遅くなってしまって、ごめんなさいね。いま手当をしてあげるわ」
レティシアがそう言うと、ボロボロと涙を流しながら女性が振り返ったが、その胸元には魔物の爪で傷付けられたような大きな傷があった。
傷口は適切な処置などされておらず、普通の令嬢なら傷口を見て気を失って倒れていたところだろう。
(虫が死んでいる組織だけを食べてくれていたから、感染症を起こさなかったわね)
「……ありが……とう……ございます」
涙を流しながらそう言った女性に、レティシアは優しく微笑みかけてから、傷口を水魔法で清潔にすると│生命の水を使った。
ルカとアランはレティシアが女性の治療をしているあいだ、辺りを警戒していた。なぜならレティシアがなんの理由もなく、罪人の治療をするとは思えなかったからだ。
「もう大丈夫よ」
傷口が完全にふさがったことを確認したレティシアは、女性に優しく微笑みかけながらそう言うと、女性は安心したような表情をして気を失うように体から力が抜けていく。
レティシアは慌てて彼女を支えようと頑張ったが、余りにも突然の事で支えきれずに、女性はゆっくりと床に倒れ込んだ。
慌てて顔色や脈で女性の容体をレティシアは軽く見ると、張り詰めていた緊張の糸が切れて、ただ寝ているのだとわかり胸をなでおろした。
「これから忙しくなるわよ。ステラ、彼女たちのことを頼むわ」
『わかったわ』
どこからともなくステラがそう返事をすると、レティシアは立ち上がって牢屋から出ていく。
「アランもういいわ、牢屋の鍵を閉めて宿屋に帰りましょう」
レティシアはそれだけ言うと、来た道を戻っていく。
ステラが城に来てから、先程の女性がケガをした状態でここに連れてこられてきたことを、レティシアはステラから聞いていた。
レティシアが彼女を助けたのも、ただの善意で助けたわけではない。生きていれば証人になると、彼女がステラに言ったからだ。
「どうやって戻る? アランに乗せてもらうか?」
「いいえ。姿は隠さずに早馬を使って帰りましょう」
レティシアが首を左右に振ってそう答えると、ルカは思い当たることがあったのか、納得した様子で口を開いた。
「わかった。あとはリグヌムウルブに戻ってから様子見だな」
「そうなるわね」
「ふーん。そういうことか」
アランもレティシアの考えがわかったのか、そう言うと先頭を歩き始めた。
「こっちだ、着いてこい。それと、妬くなよ?」
アランがルカに向かってそう言ったが、レティシアは意味がわからずに首をかしげた。
それからレティシアたちはアランの案内で馬小屋に向かい早馬を選ぶと、馬の手網を引いて歩きながら城の正面にある門へと向かう。
アランが城に戻ってきていることを知らなかった者たちが、驚いた様子で遠目に見たりアランに話しかけていたが、アランは暗い表情をしながら相手をしていた。
集まった人たちの中には、リビオ王の容体が急変した時に王の寝室に来ていた、メイドや貴族たちの姿もあった。
「ごめん、リグヌムウルブに戻らないとだから、親父のことは……頼んだ」
アランはそう言うと、レティシアを大切そうに抱き上げて馬の背中に乗せた後に、アランも同じ馬にまたがった。
「絶対に、君を落としたりしないから安心してね」
「ありがとう、アラン」
わざとらしく脅えたレティシアにアランは優しい声でそう言うと、レティシアの頭を一度なでてから馬を走らせた。
アランの馬を追うようにルカも馬を走らせると、二頭の馬は城の正面門から次々に出ていった。
アランが帰ってきていたこと、そして婚約者がいまだに決まっていないアランが、女の子を大切そうに扱っていたことに対して、集まっていた人たちは驚いた様子で話していた。
そのうちに、アランと同じ馬に乗っていた女の子が、婚約者候補なのでは? っと言う話にまでなり、隠れて話を聞いていたステラは、不敵な笑みを浮かべる人物を見逃さなかった。
『さてさて、ここからレティシアの思惑通りになるかしらね』
そうつぶやいたステラも、不敵な笑みを浮かべるのだった。




