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旧作✿現在非公開中  作者: 元・深 夜 現・雪闇影
3章
85/116

進むしかない

 

 ただ暗闇が広がっている空間で、膝を抱えていたレティシアは周りを見渡した。


(いつものが始まらない? 私……まだ死んでないんだわ)


 これまでレティシアが何度も死んだ時、暗闇の中で最初に願った時の光景が映し出されてきた。

 なかなかその光景が映し出されないことで、自分が死んだのではなくまだ生きているのだとわかると、レティシアはなんとも言えない気持ちになった。


(そう、私は死んでないのね……。良かったと喜ぶべきかしら? それとも悲しむべき? お母様はもう、この世にいないのに)


 レティシアの中に生きたいと思う気持ちはある。


 だけど助けたかった者を、守ることも、助けることも、できなかった事を考えると、それでも生きてていいのかわからなくなった。



 助けられなかった命、傍観者として見送った命、奪ってしまった命、過去も含めて今まで直面した死に際の悲痛な叫び声が、幻聴のように聞こえてくる。

 その声は次第にエディットが死んだのも、レティシアのせいだと責める声に変わった。


 叫びながら否定したい気持ちと、完全に否定できない現実にレティシアは打ちひしがれた。


 自分を守るかのように、目をつぶり耳をふさぐ。


 それでも聞こえてくる声に、気が狂いそうになる。





『レティシア、迎えに来たわよ』


 暗闇の中で全ての声を消し去るような、鈴のように透き通る声がした。


『ねぇ、聞こえてるのでしょ? レティシアはいつまで、その場所で立ち止ってるつもり?』


 透き通った声の持ち主は、続けてそう言う。


 レティシアは恐る恐る耳から手を離し、顔を上げて声がした方を見ると、そこには白く小さな姿のステラが座っていた。


『お母さんがいなくなったら、レティシアにとって他の人たちなんてどうでもいいの?』


『そうじゃない! ――でも、こんな私に何ができるの?』


『そんなのステラにもわからない、でもステラの主はレティシアだよ? 主なら主らしく堂々としなさい』


 ステラがそう言うとレティシアは、背を向けてまた膝を抱え膝に顔を埋めた。その様子を見ていたステラは悲しそうな表情をする。


『無理よ。――それに私が嫌なら、ステラが契約を破棄すればいいわ』


『……ねぇ、レティシア。あなたにとってステラは、どうでもいいと思える存在だったの?』


『ステラのことは好きよ? でも、その好きがどれくらいなのか分からない』


『ステラが居なくなったら、レティシアは悲しい?』


『悲しいわ……まだ知り合って間もないけど、ステラは私の』


『私の?』


『私の大切な使い魔よ……』


『それでいいんじゃない? ダメなの?』


『わからなくなるの、本当に好きだったのか……お母様のことだってそうよ……本当に好きだったのに、その気持ちが曖昧になっていくわ』


『そう、それならレティシアのお母さんを助けたいと思った気持ちは、全部ウソだったのね』


『それは違う!』


 ステラは挑発するかのように言ったが、レティシアはステラの方を見ることもなく即座に否定した。


『それなら、立ち上がりなさいよ! レティシアは愛してた人や守りたかった者を、奪われるだけの人生でいいの?』


『嫌よ! 私の大切な家族を奪った事を絶対に許さないし、もう私の大切な人たちを奪わせたりなんてしない……!』


『レティシア、それでいいのよ。答えなんてとっくに出てるじゃない。大切だから守りたいと思うのも、好きだから守りたいんだよ? どうでもいい人なら仕事以外で守ろうなんて思わない。それとね……もう周りの顔色を伺ってなくていいの、ステラがいるんだから国が相手でも、レティシアはまけないわ。だから……もう少しだけレティシアは気持ちを優先して、自由に生きてみても良いんだよ?』


『自由に生きるっね……ねぇ、ステラ。私、本当は怖いの……今まで自分の決断が間違ってる事が多かったから、後悔することも多かったの。その事で守れたはずの命も守れなかったし、見捨ててしまった命もあった……もちろん生きたいと望む者も敵なら奪ったわ。後悔しないように生きてるつもりなのに、いつの間にか後悔が積み重なる』


『後悔って言うのは生きてる証だと思ってるわ。自分で選んで生きてきた結果なの。後悔がない人生ってつまらないと思うし、空虚なものだと思わない? それにね、後悔してからが大切だとステラは思う』


『そう……なの?』


 ゆっくりと顔を上げてステラの方に振り向いたレティシアの顔は、不安そうに眉を下げて子どものように頼りなかった。


『そうよ? 後悔する暇があるなら次を考えなさい、そうすれば未来につながるから。後悔だけしていれば先になんて進めないわ』


『そっか……ステラは強いんだね』


『レティシア、それは違うよ? ――ステラもいっぱい後悔してることがある。でもステラを信じて、未来を託してくれた者たちがいる事をステラは忘れてないだけ。その者たちのことを考えれば、反省をする時間はあっても後悔する暇はないわ』


『未来を託してくれた者……?』


『そうよ……。少なくともレティシアはお母さんに託されたんじゃないの? 生きてほしいって言う願いを』


『私を宝物だと言ってくれたわ』


『なら、その宝物も守らなきゃね』


『うん……、そうだね。ねぇ、ステラ』


『なぁに?』


『迎えに来てくれてありがとう』


『気にしてないわ、戻ろう。ステラたちがいるべき場所へ』


『そうね、戻ろう』


『レティシア、あなたの事を大切に思う人がいることを忘れないで』


『うん……そうだね。ごめんね……ステラ』


 レティシアは立ち上がると、ただ真っ暗な暗闇をステラと一緒に歩いていく。


『そういえば、ステラは私の過去も見たの?』


『見たわよ? 勝手にごめんなさい』


『ステラなら良いわよ』


(まだ、好きとか愛とか……よくわからない。いろんな不安も消えないし、後悔がなくなったわけじゃない。それでも……進んでみよう)


 過去で親の愛を知らずに育ったレティシアは、愛をよく知らない。

 今世ではエディットが彼女にわずかな期間だけ、親の愛を注いだ。

 だけど不安定なまま生まれた心は、不安定なままに育った。


 レティシアがこの先生きていく中で、向き合わなければならない事は、多いのかもしれない。



 ◇◇◇



「なんで起きないんだよ……」


 レティシアの手を願うように、つかんだルカはそう言った。


「ルカ、ララは今日も起きないのか」


「あぁ、ダメだ……あれからステラも起きない」


 項垂れるようにルカがそう言うと、アランは目をつぶって悔したような表情をした。

 しばしの静寂が流れるとアランは、大きく息を吸い吸い込みゆっくり吐き出す。


「ルカの気持ちもわかるが、ステラが帰ってきて今日で五日だ。さすがに医者を手配するぞ」


「……あぁ、迷惑をかけて悪い……。頼む」


「気にするな、できるだけ信頼できる医者を手配するから」


 そう言ったアランは、いまだに目を覚まさないレティシアに触れると、話しかけた。


「なぁ、君の覚悟ってこんなもんだったのか?」


 そう言ったアランの声に反応した声がひとつ。


「ち……が……うわ」


 レティシアの声が聞こえると、ルカは顔を上げてレティシアの顔をしっかりと見た。


「レティシア!」


 ルカに呼ばれたレティシアはゆっくりと瞬きを繰り返し、ルカの手を軽く握り返した。


「おいおい……嬉しい気持ちもわかるが、聞き耳を立ててるやつが居るかもしれないから、一応呼び方は気を付けろよ」


「わ、悪い」


 アランはうっすら目に涙を浮かべながら、呆れたように注意をすると、ルカはばつが悪そうな顔をした。

 ステラも起きると、大きく伸びをしてレティシアの隣に座った。


『起きたわね、ステラの主』


「えぇ、久しぶりによく寝たわ」


 かすれた声でレティシアがそう言うと、ステラはレティシアのおなかに顔を埋めた。


『お寝坊さんよ……レティシア』


 そう言ったステラの目には涙が浮かんでいた。


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