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旧作✿現在非公開中  作者: 元・深 夜 現・雪闇影
3章
83/116

小さな赤い獣

 

「魔の森に入ると小さな赤い獣がいるんだってさ、その獣に手を出すと殺されるらしいんだよ」


 エディットの死から二ヵ月がたつ頃になると、冒険者たちの間でそんな噂がまことしやかにささやかれていた。



 ◇◇◇



 森の中も季節は変わり、木々も色を変えはじめて奇麗に染り、秋の味覚が森のあちらこちらに生えている。


 日が落ち始めた頃レティシアが魔物を仕留めると、素材を剥ぎ取ってから近くのキノコを採り、匂いや形を確認した。

 食用キノコだと分かると、空間魔法の中に放り込む。

 空間魔法に放り込んだことから、なぜ採ったのかステラにはわからず、とりあえずいつもの薬草採取と同じだろうと、少しだけ冷めた気持ちで見てしまう。


『レティシアがそれを食べてくれたら、ステラも助かるんだけどね……。それにしても、また操られてる魔物の数が増えたよね?』


 レティシアが仕留めた魔物を食べながら、ステラがそう口にすると、話しかけられたレティシアは、相変わらず黙ったまま一度だけ上下に首を振ってうなずいた。


 ここ数日で操られている魔物との戦闘が増え、休息も食事もまともにとっていないレティシアの体が、悲鳴をあげ始めていた。


 だがステラには魔物が増えた理由に心当たりがあった。


 それは以前にアランが率いる討伐隊が魔の森に入ってきた時と、森の中が今と同じ状況だとステラは感じたのだ。


 だがむやみに討伐隊の集団に向かえば、一目見ただけのレティシアの姿や幻獣であるステラは最悪の場合、討伐隊の討伐対象になってしまう。


 自分だけではレティシアを、間の森から連れ出すことは出来ないため、どうにかしてルカたちと合流をしなければならない。

 だけどレティシアがそれを悟れば、ステラを置いて逃げてしまう。

 そう考えると、ステラは頭を抱えてしまう。


 日に日に弱っていくレティシアを見ながら、ステラにできることは、野営ポイントに近づき人の食事を奪うことだけ。

 それも手間取って時間がかかれば、レティシアが移動を開始してしまうため、ルカたちがいる野営ポイントだとしても、わずかな時間でルカたちに気がついてもらうしかないのだ。



『ステラはおなかがいっぱい! 今度はレティシアのご飯ね。レティシア、ステラに乗って』


 ステラはそう言ってレティシアを背中に乗せると、人の匂いがする方向へと走り出す。

 食事を分けてもらうのが一番の目的だ、そうでなければレティシアが水以外口にしない。



 日が落ちて辺りは暗くなっているため、ステラはある程度離れた所でレティシアに降りてもらうと、体を小さくしてから野営している所に入っていく。


 早く戻らなければレティシアが行動を開始してしまう、そう思うとステラの中で焦りが生まれる。

 その結果として、食事を分けてもらうと言うより魔物の素材を置いて、食事を強奪していた。


 ステラは急いでレティシアの元へ戻ると、木の幹に座ったままのレティシアを見つけて、ステラは胸をなで下ろす。


『レティシアのご飯を取ってきたよ。少しでも食べて』


 そう言ってレティシアに渡すが、レティシアは軽くそれを見ると別の方向を向いた。


『……食べたくなったら食べてね』


 いつまでたってもレティシアがそれを口にすることはなく、ステラはレティシアを包むように丸くなる。

 十月の森は冷えるため、ステラは少しでもレティシアの体を温めようとしたのだ。



 ◇◇◇



 翌日、太陽が登り始める前にレティシアは行動を開始した。

 魔物の集団が泉の方向へと向かう気配を感じたのだ。


 泉に近づくと、操られている魔物が集まっていた。

 このまま放置していれば、泉の奥に住んでいる魔物が泉に集まった集団を襲い捕食する。

 操られている魔物を他の魔物が捕食すれば、今度は捕食した魔物が操られてしまうため、それを防がなければならない。

 レティシアとステラが森に入ってからわかった事だ。


 レティシアはステラから降りると、戦闘態勢に入る。

 魔物を仕留めさえすれば、魔物の中にある破片が消える。


 無数の氷の弾が出現し、次々と物凄い速さで魔物へと飛んでその体を貫いていく、レティシアが氷の連射弾魔法(グラキエスブッレテ)を使ったのだ。

 氷の弾は魔物の数を減らし、ステラが残った魔物を仕留める。

 さらにレティシアは氷矢魔法(グラキエス・サギッタ)を使ってステラの支援をする。

 それを繰り返すと、操られて泉に集まっていた魔物は全滅した。


 レティシアがいつものように魔物素材をある程度取り終えると、今度は操られていない魔物が泉の奥の森から出てきて、先程レティシアたちが倒した魔物をくわえてまた泉の奥の森へと戻っていく。

 レティシアはその様子を目を凝らして見ていた。


『今日も多かったわね』


 そうステラが言うと、レティシアはステラに寄りかかった。

 いつもと違う雰囲気を感じて、ステラがまた話しだす。


『レティシア? 早めに移動して、ご飯も食べてゆっくり休む?』


 そうステラがレティシアに聞くと、レティシアは微かにうなずいた。

 ステラはすぐさま姿勢を低くして背中にレティシアを乗せると、人の匂いがする方向へと走り出す。



 しばらく走ると人の匂いが濃くなり、ステラはレティシアを降ろすと低木に隠した。

 日が落ちるのが早くなり辺りは既に薄暗い、無防備に置いては行けないと思ったのだ。


『ここで待っててね。すぐに戻るから』


 そう言ったステラは体を小さくして野営ポイントに近づき、いつもより警戒してレティシアが奇麗に取った魔物の素材を置くと、食事を奪い走りだした。



 その時ステラは呼ばれた。



「ステラ! 待て! ステラ!」


 ステラは呼ばれた方を振り返ると、聞き覚えがある声にポタポタ涙を流した。


『ルカ、ルカ、あっち! あっち! 早くしないと行っちゃう!』


 ステラは泣きながらそう伝えると、大きな体に戻りルカを傷つけないようにくわえて、森の中へと走っていく。


 つい先程レティシアを隠した所まで戻ると、そこにレティシアの姿はなく、変わりに棒で矢印が書かれていた。


『いない! ルカ! ステラに乗って!』


「わかった!」


 ルカは急いでステラの背中に飛び乗ると、ステラは矢印の方向に向かいながらレティシアの匂いを必死に探す。

 魔物の血を浴びているレティシアを探すのはそう難しい事でもないが、レティシアが魔物を狩りながら移動していたとなれば、森の中に鉄の匂いと腐敗臭が広がるため、ステラでも探すのが困難になる。


 匂いをたどりながら森の中を突き進むと、ステラは気配を消して何かを見ているレティシアを見つけた。

 途端にステラは小さくなると、ステラもルカも気配を消してレティシアに近づく。


 レティシアが見ていたのは、男が肉を捨てるところだった。


『あれじゃ、魔物が寄ってくるわ』


 ステラがそう言うと、レティシアもコクリと静かにうなずく。

 そして男が去った後、レティシアは急いで積み上げられた肉の塊に近寄ると、その中に手を入れ何かを探すように腕を動かす。

 ルカは静かにレティシアに近づくと、そっと後ろから抱きしめた。


「ごめん……また大変な時にそばに居なくて、ごめん」


 それでも動きをとめないレティシアをみて、ルカは胸が締め付けられたような表情をした。

 レティシアが肉の山から手を出すと、その手の中にはレティシアがずっと探していた、あの紫の破片が握りしめられていた。


『レティシア! アイツよ! アイツを捕まえれば!』


 レティシアはコクリとうなずくと、ルカの腕から離れて一歩を踏み出したが、次第に体が傾いて行く。

 とっさにルカが手を伸ばすと、レティシアはその手を払いのけて、そのままドサッと地面に落ちていった。

 思うように体が動かないのか、なかなか立ち上がることができない。

 その様子を見ながらルカはステラに聞いた。


「ステラ、いつから話さなくなった??」


『レティシアのお母さんが亡くなった日からよ』


「食事は?」


『ステラが盗った日は食べてくれたり、食べなかったりしてた……でも食べてない日が多かったわ』


「ステラ、俺との約束を守ってレティシアのそばに居てくれてありがとう。レティシア、帰るぞ」


 ルカはそう言ってレティシアの腕をつかむと、レティシアはいやだ! っと言うようにルカの手から逃げようとする。


「レティシア、頼むから一緒に帰ろう?」


『レティシア、ステラからもお願い! もう帰ろう!』


 ずっとレティシアの腕をにぎっていたルカは、ある違和感を感じ取りレティシアの腕を離すと、しゃがんでレティシアの頭を手で押えて顔をしっかりと見た。


 そしてそっと自分のおでこをレティシアのおでこに合わせると、レティシアの体温が異常に高いのを感じた。


 ルカは慌ててレティシアを離すと、空間魔法から薬を取り出してレティシアに飲ませようとしたが、レティシアはそれを拒否する。


「飲め! これはお願いじゃない、命令だ! 飲め!」


 無理やり飲ませようとするルカに対して、レティシア絶対に飲まないと言う姿勢を崩さない。


「いいから飲め! 飲んでくれ!」


 無理やりレティシアに飲ませようとするが、レティシアは口を開こうとしない。

 何かを耐えるように歯を食いしばって目を閉じたルカは、気持ちを落ち着かせるように何度も大きく息を吸い込み吐き出し、目を開けてレティシアをしっかりと見つめて言う。


「死にたいなら飲まなくていい! でも生きたいなら飲め!」


 ルカがそう言うとレティシアの動きは止まり、ルカの指示通りに三つの薬を口に含んで静かに飲み込んだ。


 そうすると次第にレティシアの体は力が抜けたようになり、レティシアは目をつぶった。


『ルカ! レティシアに何を飲ませたの!?』


 心配したステラが慌てたようにルカに聞くと、ルカはレティシアを抱き寄せた。


「髪の毛と瞳の色が元に戻ってたから、それを変える薬と、後は解熱剤と睡眠薬、レティシアが暴れられたら手が付けられないだろ?」


 ルカはそう言うと、レティシアの背中と膝裏に腕を通すとしっかり支えて持ち上げる。


「ステラ、悪いがさっきの男をまだ追えるか?」


『えぇ、追えるわ』


「それなら追ってくれ。逃がしたとなれば、今度はレティシアは一人で森の中に入っていくから」


『わかったわ。ルカ……レティシアをお願い』


「あぁ、そっちも頼んだぞ」


 ルカはそう言うと、野営ポイントの方へと歩き出し。

 ステラは先程の男の後を追った。

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