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旧作✿現在非公開中  作者: 元・深 夜 現・雪闇影
3章
82/116

無意識に森の中を突き進む

 

 見渡す限り黒で塗りつぶされた空間。

 聞こえるのは一人の呼吸音だけ。


 一歩も進むことも戻ることもできない。

 出口のない暗闇に飲み込まれていく。


(私は……また死んでしまったのかしら……)


 辺りを見渡したレティシアは、その場にしゃがんで膝を抱えた。

 幸せだった日々を思い出すと、喉の奥が痛いくらいに熱くなり鼻がツーンと痛くなるが、涙が瞳に浮かぶことはなかった。


 周りがレティシアを守りたいと強く思う程、レティシアの行動には制限がかかってきた。

 自分の事を心配しているから、自分の事を大切にしてくれているから……そう思えば周りの気持ちを余りむげにできず、その制限の中で出来ることを彼女はやってきた。

 エディットの病気について調べたくて、本当は魔塔に乗り込みたい気持ちもあったし、教会に行きたい気持ちもあった。


 それでも魔塔も教会も、そこに行ってしまえば連れていかれて、二度とみんなの元に帰れない可能性があることを、レティシアは知っていた。


(それでも手がかりを見つけるのが、遅すぎたんだわ)


 できた事はきっと他にもっとあったと思えば思う程、答えが見つからない後悔がレティシアの中で増えていく。


 何が悪かったのかなんて、後になれば何とでも言える。


 何度も人生をやり直してわかっているはずなのに、それでも考える事を辞める事ができない。


(いつも後悔しかしないわね)


 我が身可愛さにやらなかった事をひとつずつ上げていけば、レティシアの中で小さな疑問が生まれる。


(私は本当にお母様の事を愛していたのかしら……)


 少しずつ抜け出せない闇へと、引きずり込まれていく。



 ◇◇◇



 レティシアが本来の姿に戻ったステラにまたがると、ステラは森の中を突き進む。


 魔物を見つけると目の動きや、呼吸の仕方まで確認をして、そのまま迷わず一気に短剣で急所を刺していく。

 相手が動きを止めると、今度は魔物の体内をあさるように確認する。

 お目当てのものが魔物の体内から既に消えてると事が分かると、魔物から丁寧に取れる素材を剥ぎ取った。

 その様子を静かに見ていたステラは、レティシアに声をかける。


『レティシア、残ったお肉はステラが食べるよ。今日のご飯まだだから』


 魔物の素材をとり終えたレティシアは、素材を空間魔法に放り込むと、虚ろな目をしてステラの側まで行きステラの右腕をポンっと一度だけ軽くたたいた。


 食べていいよっという合図だ。


 ステラはレティシアの表情をチラッと盗み見ると、少しだけ泣きそうな顔をしたが、急いで大きな体のまま一口で魔物を食べる。

 ステラがゆっくり食事をしていれば、その間に待てなくなったレティシアが一人で走り出してしまうのを恐れているのだ。

 ステラはまたすぐに姿勢を低くしてレティシアが背中に乗りやすいようにする。

 レティシアが背中に乗ったのを確認すると、ステラは再び森の中を走り出した。


 森の中心辺りまで行くと広がった空間感があり、そこには大きな泉がある。

 この泉は前回アランたちと魔の森に入った時よりも、さらに奥にある泉で魔物の強さも上がっている。


 ステラとレティシアはそこで喉を潤すと、ステラは泉の奥に広がる森からでてきた魔物と軽く会話をして、レティシアにその情報を伝えていく。


『この泉の奥は、まだ操られている魔物はいないみたい』


 ステラがそう言うと、レティシアは観察するように泉の向こうをみてコクリと首を縦に振った。

 感情を失ってまるで人形のようなレティシアの姿を、ステラは悲しそうに見つめると、レティシアの傍に寄り添った。


 エディットが亡くなったと報告を受けた日。


 通信魔道具の通信をきったレティシアは静かに立ち上がると、おぼつかない足で何も言わずに部屋から出ていった。

 話を盗み聞きしていたジャンとステラは静かにレティシアの様子を見ていたが、異変に気が付き慌てて部屋から出ていったレティシアを二人で後を追いかけた。

 レティシアに追いついた二人は宿屋に帰るように説得したが、それでもレティシアの足が止まることはなかった。


 そのままレティシアは魔の森に入ると、操られている魔物を次々に倒して体内をあさった。

 まるであの破片を探してるみたいで、ステラとジャンはそんなレティシアを止める事ができずに、ただ見てることしかできなかったのだ。


 そしてその日からレティシアは魔の森から出なくなった。


『ねぇ、レティシア。そろそろ宿屋に戻った方が良いとステラは思うんだ。きっとあのジャンって人も心配してるよ』


 そうステラはレティシアに言うが、レティシアは首を縦にも横にも振らない。


 静かに立ち上がると、ステラの肩を二回たたき街の方を指さし、街とは違う方向に歩みを進めていく。


 ステラは慌ててレティシアの後を追うと、そのまま並ぶようにしてまた森の奥へと進んで行った。


 レティシアの行動から目を離さずにジャンを守れないと思ったステラは、森に入って二日目にジャンを宿屋へと帰らせた。

 その際、帰らないと言い張ったジャンに対してステラは『必ずレティシアを連れて帰るから!』っと言った事もあって、ステラは何度かレティシアを背中に乗せたまま、魔の森の外へと出ようとしたが、その度レティシアはステラから飛び降りた。


 結局、ステラはレティシアがケガをする危険性があると思い、それ以降そういった行為を辞めた。


 ステラはレティシアの前へと出ると、姿勢を低くしてまたレティシアを乗せて魔の森の中を走っていく。



 魔物の気配がしてレティシアはステラの左側を軽くたたいた。

 ステラはレティシアを降ろすと小さくなってレティシアに付いていく。


 魔物のがいる所まで気配を消して近づき、魔物の体内まで観察するように見ていと、本来魔物が持ってる魔核とは違う禍々しい物が、体内にあるのがわかる。


 目の瞳孔は開いており、呼吸は戦闘もしていないのに荒い。


 森の中なので使う魔法も限られるが、無意識の中でもレティシアにはそれが分かっているのか、弓の構えをすると氷の矢をを出現させ矢を射った。

 氷矢魔法(グラキエス・サギッタ)は見事に一体の魔物の頭に命中すると、他の魔物がレティシアたちの方へと向かって突進してくる。

 それがわかっていたかのように、今度は風の刃である 風刃魔法(ウェントス・ラーミナ)を使って胴体と頭を切り離した。


 そこからいつものようにレティシアが魔物の体内をあさっていると、人が近ずいてくる気配を感じたレティシアは手を止めて、そちらの方に視線を向けた。


 相手がさらに近ずいてくるの待っていると、剣を持った男性が叫びながら斬りかかってくる。

 とっさにレティシアが男性と距離をとると、今度は逃げた先に一本の矢が飛んでくる。

 それを難なくかわすと女性の声が聞こえた。


炎球魔法(グロブス・フラッマ)


 ちょうど攻撃はレティシアが避けた先に大きな炎が放たれ、レティシアに直撃するとレティシアは黒い煙に包まれた。


「やったか!?」「狙い通りだ!」


 最初に斬りかかって来た男性と弓を射った男性がそう言うが、警戒したまま戦闘の構えを崩さない。

 煙が風に吹かれて消えていくと、防御結界デフェンセィオ・オビセで守られたレティシアの姿があった。


「何で今ので無傷なのよ!!」「な、なんで!?」


 回復役と思われる女性と魔法を使った女性が困惑した様子でそう言うと、感情がこもってない虚ろな目でレティシアがそちらを見る。


「おいおい、冗談だろ!? クソっ!」


 レティシアが女性たちに視線を移したのがわかったのか、そう言ってまたもや男性がレティシアに向かってくると、避けなかったレティシアは切り付けられた。


「へっ! 油断したな」


 男性が喜んだのもつかの間、切り付けられたレティシアの体は色をなくし、無色透明な水となって地面に勢いよく広がった。


「な、何だよこいつ!!」


 レティシアは炎に包まれた時、防御結界デフェンセィオ・オビセ で自分を守ると同時に操水幻影魔法アクア・シクムラクルムを使って水で自分の幻影を創り出したのだ。


 このままではレティシアが彼らを殺してしまうと思ったステラは、レティシアの肩に飛び乗る。


『今なら見逃してやる。だが、これ以上やるなら死を覚悟することだな』


 強い殺気を含んでステラがそう伝えると、悲鳴をあげて彼らは逃げ帰った。


 レティシアはしばしの間彼らが去った方を眺めると、興味をなくしたのか先程倒した魔物に視線を向けて、ステラの右腕を軽くたたいた。


 ステラは久しぶりにゆっくりと食べながら、全身が魔物の血で赤黒くなったレティシアに言う。


『いつまでも魔物の血を洗い流さないから、レティシアが魔物と間違われたのよ? そろそろステラの言う通りにして泉で水浴びしよ?』


 そう言われたレティシアは、歩き始めた。

 先程までゆっくりと食事をしていたステラは元の姿に慌てて戻ると、魔物を平らげてレティシアの後を追う。



『だいぶ魔物は狩ったと思うけど、まるでいたちごっこね』


 ステラがそう言うも、レティシアからの返事はない。


 辺りが暗くなっても寝ないレティシアに付き添い、ステラも森を走り回る。


『ステラはレティシアの味方だよ? でもレティシアが何を考えてるのか、ステラには全くわからない。ステラはそんなに信用できない?』


 そうステラが言うも、レティシアからの反応はない。


『本当に、ただのお人形さんね』


 ステラは悲しげにそう言って、レティシアを下ろし座らせると意識の共有をした。

 それでもつながった意識の中で、ステラの言葉はレティシアに届く事はなかった。


 それでも諦めず意識の共有を続けたステラが見たのは、レティシアの過去と彼女の叫びだけだった。


 意識の共有を辞めるとステラは大きな体でレティシアを包んで、わずかの時間目を閉じた。


『レティシア、ステラはレティシアのそばに居るよ』

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