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旧作✿現在非公開中  作者: 元・深 夜 現・雪闇影
3章
81/116

守れなかった者

 

 ルカたちが王都へと旅立って翌日。


 朝からレティシアは図書館へと向かい、魔術や付与術の本を端から目を通していく。


 レティシアが図書館にこもってる間、ステラは情報収集をしに街へと向かい、ステラが必要と感じればその都度レティシアに視覚と聴覚の共有をした。


 図書館の閉館時間になると、レティシアは本を数冊借りて図書館を出ると、ステラがレティシアのお出迎えをする。


 ステラが姿を現したタイミングで、ずっとレティシアの事をステラが待っていたのだとわかり、レティシアの顔が緩んでいく。


「ステラ、待っててくれてありがとう。宿屋に帰ろっか」


 レティシアがそう言うと、ステラは肩に飛び乗りレティシアのほほをペロッとなめる。


『帰ろうレティシア』


『ステラ、どうだった?』


『今日も破片の手がかりはなかったわ』


『そう、私の方も全くダメね……この様子じゃ直接魔塔関係者に聞かないと、無理かもしれないわ』


『でも、魔塔関係者は……』


『うん……わかってるわ。この時期に彼らと接触しても、きっと何も教えてもらえない』



 レティシアがそう言うと、ステラは軽く地面を向き。

 レティシアは空を見た。


 そしてゆっくり歩いて宿屋へと戻った。


 アランがリグヌムウルブを出た後から、あちらこちらで魔塔関係者が絡むちょっとしたトラブルがさらに増えていた。

 アランが王都へ出発し一日でこうもトラブルが増えると、さすがに誰かの思惑が絡んでるとしか思えなくなる。


 その事でレティシアは嫌な胸騒ぎを覚えた。



 宿屋の部屋へと帰ると、レティシアはお風呂でゆっくり過ごし、出てくると髪をタオルで乾かしながら、図書館から借りてきた本に目を通す。



 夜もだいぶ遅い時間に、レティシアが泊まっている部屋のドアをノックする音が聞こえ、レティシアとステラは警戒しながらドアへと視線を向ける。


 もう一度ドアをノックする音が聞こえると、レティシアとステラは警戒したままドアへと近寄った。


「はい、なんの御用でしょうか?」


 レティシアはドアを開ける事もなくそう聞くと、ドアの向こうから荷物を床に下ろす音が聞こえた。


(殺気は感じないわ……誰かしら?)


「ララ、オレなんだけど……えっと……ジャンです」


(えっ? いやいや……さすがにジャンは来ないでしょ)


 そう思いながらも、レティシアが警戒しながらそっとドアを開けると、そこには確かにジャンの姿があった。


 理解が追いつかない頭で結界魔法陣の入出制限にジャンの名前を加えると、ジャンを部屋の中へと招き入れる。


「えっと……数日間は一人だと聞いていたんだけど……どういうこと?」


「あぁ、オレが早馬を乗り潰してきたんです。ララ様の事をみんなが心配してましたので」


「そうなのね、えっと……それで、何でシャンが来たのかな?」


「それは、マルシャー領にいて自由に動けたのがオレだったからです! 後……ララ様を一人にしておけば、食事を忘れて物事に集中する事があるので、ララ様の健康も考えてオレが選ばれました」


 食事に関して言われると、レティシアは何も言えなくなる。


 フリューネ領にいた頃は、おなかが空く度にご飯の催促をしていたレティシアだが、マルシャー領に行ってからはそれが減っていった。


 そして周りが気がついた時には、誰かが声をかけないと食事を取らなくなっていたのだ。


「そういう事ね……ジャンの美味しいご飯を楽しみにしてるわ。それとこの子は、ステラよ。私の使い魔なの、この子のご飯も用意してくれると助かるわ」


「かしこまりました。ララ様、元気そうで良かったです」


 ジャンはそう言うと、膝をついてレティシアを抱きしめた。


「ジャンもね」


 そんなに離れて月日がたっていないのに、長い間ジャンにあってなかったように感じ、レティシアもそっとジャンの事を抱き締め返した。


「さっ! 台所を案内してください。ララ様の事なので、まだ何も食べてないのではありませんか? オレがお作りします」


「確かに食べてないわね……ありがとう。台所はこっちよ」


 レティシアはそう言うと、ジャンに台所や泊まってる部屋を案内して回りながら、ジャンからの近況報告を聞いていく。


 どうやらヴァルトアール帝国内でも、エルガドラ王国とガルゼファ王国の事が話題に上がっており、志願兵の募集が行われているとの事だった。


(それにしても情報が早いわね、皇家や爵位が高い貴族なら独自の情報網があるからわかるけど、冒険者でもそんなに情報が早いものなの?)


 ジャンに夕食を頼み、レティシアはそう考えながらブローチを空間魔法から取り出すと、ニルヴィスのブローチに通信をつなげた。


『レティシアちゃん、どうしたの〜?』


「あ、ニヴィ。さっきジャンが着いたから連絡しておこうと思って」


『そっかそっか! あのね、また今度連絡してくれると助かるんだ〜今ちょっと面倒な人が来た所だから』


「えっ? そうなの? わかったわ。また明日にでも連絡するわ」


『レティシアちゃんありがと〜! それじゃまたね!』


『ニルヴィス、まぁ、待て。フリューネの姫なら私も話したい事がある』


 通信の向こう側で慌ただしい音がすると、聞き覚えがある声が聞こえレティシアの顔は険しくなっていく。


『レティシアよ。そこにまだいるのだろう?』


「はい、ここに。皇帝陛下、お久しぶりです」


『あぁ、久しぶりだな』


「早速ですが、ご要件を伺っても?」


『あぁ、私も話を聞いてから速急にやるべき事を済ませて、皇后の転移魔法陣を使いここに来た所だが、君と通信がつながっていて良かったよ』


(あれ? 前回と違って声の雰囲気が違う……? どうしたのかしら?)


『レティシアよ、君にとってつらいことを言うが、どうか私を許してほしい』


「言っている意味がわかりません。いったいなんでしょうか?」


 レティシアがそう聞くと通信の向こう側で、皇帝陛下が静かに息をはいたような気がした。


『ヴァルトアール帝国は当分の間、レティシア・ルー・フリューネの入国は許可しない!』


「えっ?! 皇帝陛下! 本当に意味がわかりません! なぜですか!?」


『実はな……こちらで、エルガドラ王国とガルゼファ王国の話が思ったよりも早く広まった』


「はい、先程その話を聞いて、私も早いと感じました。ですが、その事と私の帰国を許可しない事と、どうつながるのでしょうか?」


『そうだな……』


「皇帝陛下?」


『私の……私の雪の姫が数時間前に亡くなったのだよ』


「えっと……皇帝陛下? それはどういう事でしょうか?」


『君の母、つまり、エディット・マリー・フリューネが亡くなったのだ、だから君の安全のために今は帰国は認められぬ。レティシアの継承権を承認はしているが、まだそれを私から公にするつもりはない。もし君に被害が及べば、私は、私の雪の姫に顔向けができないからな」


「皇帝陛下、冗談にも言っていい事と悪い事がございます」


 レティシアは震える手でブローチを持ちながらそう言う。


『そ、そうですよ〜陛下、そう言う冗談は止してくださいよ』


『私だって冗談だと、ウソだと思いたいさ! だが確かにリタが慌てて城に来たのだ……』


『そ、そんなの……ボクは信じたくありません』


「陛下……どうか、ウソだと、冗談だと、この間のように、笑ってください」


 瞳に涙をためたレティシアは、そういうのがやっとだった。

 信じたくない、ウソだと言ってほしい、そう思えば思うほど現実逃避したくなる。


『ふっ、私だって同じ事が言いたかったさ……、私は……エディットが延命治癒装置に入った頃から、覚悟していた。覚悟していたはずなのだ、だが、いざ先立たれると……覚悟なんてできていなかったのだと思い知らされるな……』


 レティシアは膝から崩れ落ちると、手に持ったブローチから皇帝陛下のすすり泣く声が聞こえてくる。


 その声が先程の話がウソではなく真実だと語る。


 レティシアの目からあふれ出した大粒の涙が頬を伝うと、静かに彼女の太ももにこぼれ落ちた。


(私は……自分を愛してくれた、お母様を助ける事も見送る事もできないのね)


 レティシアも延命治癒装置にエディットが入ったと報告を受けた日から、心のどこかで覚悟はしていた。

 それでも、まだ助ける事ができるなら助けたいと思って、レティシアは手がかりを探してきた。


 レティシアの目の前は暗闇に突き落とされたように、暗くなっていく。


『すまないレティシア……私は君を、エディットから頼まれた君を……どうにかして、守らなければならない。だから……だから、どうか、どうか今は耐えて帰国を待ってくれ……。すまない……私に精霊の力さえあれば、エディットを守れたかもしれないのに……すまないレティシアよ。エディットの葬儀は皇家が責任をもって行う、だから安心してほしい。君にとってふがいない皇帝で、すまない』


『待ってください! それならレティシアちゃんがフリューネ家を継いだと陛下から告げて、帰国させた方がいいじゃないですか!?』


『本当にエディットの子どもかもわからない、あの息子がいるのだぞ? 相手の本当の狙いも、目的もわかっていない……。単純に爵位を継ぎたいと思っているだけなら、次に命を狙われるのは、レティシアかもしれないんだ! エディットの事だって、どうやって帝都の病にかかったか、いまだによく分かっていないのだ! 仕組まれた事だと私はおもっているが、その手口も犯人につながる証拠もない。

 それにレティシアが戻って来たとなれば、あのダニエルの事だ、なんだかんだ理由をつけて、そうそうにレティシアの婚約者を連れてくる事も、容易に想像がつく。そうなれば、当主がレティシアだと公にしなければならなくなる。よく考えろニルヴィス!』


 そう話す皇帝とニルヴィスの声は、レティシアの耳に届く事はなかった。



 八月上旬、ずっとレティシアが探していた指輪の真実に、関係がありそうな手がかりを見つけたと思った、そんな矢先の出来事だった。


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