不敵な笑み
レティシアがステラと契約を結んだ日、当たりが暗くなってもアランの魔物討伐部隊は歩みを進めたため、日付が変わる頃には、リグヌムウルブの街へと帰って来ることができた。
だが森から帰って数日過ぎると、宿屋に泊まっていたレティシアたちの元へ刺客が送り込まれるようになり、魔の森から帰っても常に警戒し続けなければならない、そんな状態が二週間も続いていた。
その中でも比較的自由に動けるステラが街へと出て、情報収集に当たってくれている。
「悪いわねステラ、今日もお願いするわ」
『ステラに任せてレティシア!』
レティシアが抱き抱えてるステラの頭を撫でると、ステラはそう言ってレティシアの腕から飛び降りドアの方へと向かう。
レティシアはステラのためにドアを開けるとステラは元気に駆け出して出かけていき、その後ろ姿を見ながらレティシアは手を振って見送るとドアを閉めた。
(名前が気に入ったのね。初めて会った時は私って自分のことを呼んでたのに、ふふふっ、かわいいわステラ)
「ステラは、もう行ったのか?」
ルカは部屋を見渡しステラがいないことに気がつくと、レティシアにそう聞いた。レティシアはルカの方に振り返り、ソファーがある方へと歩きながら答える。
「えぇ、元気に出かけて行ったわ。ステラに何か伝えたい事があるなら伝えるわよ?」
「いや、大丈夫だ。アランと買い物に出かけるけど、ララも行くか?」
ルカは一度左右に首を横に振ると、手に持っていた薄い黒い上着を羽織りながら、レティシアにそう聞いた。
「そうね……私も買っておきたい物があるし、一緒に行くわ」
レティシアは少しだけ考えた後にそう答え、足早に自分の荷物が置いてある場所までいき、薄手の上着を手に取って羽織ると、レティシアと一緒に移動してきたルカは、レティシアの荷物が置いてある場所から同じ色のリボンを二本と櫛を手にとった。
そしてレティシアの髪に手を伸ばすと、レティシアの髪をとかして二つに分け、左右に三つ編みをして一番下をリボンで結んだ。ルカは「できたよ」っと言うと、レティシアは少しだけ恥ずかしそうにお礼を言った。
レティシアたちが街へと出ると宿屋の室内とは違い、人々の熱気とともに肌にまとわりつく嫌な暑さを感じて、レティシアはこっそりと魔法を使い、自分が過ごしやすいように魔力を薄くまとう。
「ねぇ、アランとルカは何を買う予定なの?」
「あぁ、おれは次の討伐に向けていろいろとね。ララは?」
アランはそう言いながら、暑そうに指で襟元をつまんで前後に振り、少しでも胸元に涼しい風を入れようとしていた。
「とりあえず、冒険者ギルドで魔物の素材を売ってお金を作りたいかな? あとは魔力で伸び縮みするステラの首輪と、普通にアクセサリーとかも欲しいわね」
「んじゃ、先に冒険者ギルドに行って魔物の素材を換金するか。街に帰ってきた日は、時間的にステラの登録しかできなかったもんな、それにしても、今日もあちぃいな」
「そ、そうだね。アランありがとう! ルカは何を買うの?」
レティシアは自分と同じように、アランに魔力をまとえば良いとは言えず、一瞬だけ返事に困ったが悟られないように、右隣を歩くルカの方に向くと、ルカはレティシアの右手を一度見てから、また進行方向を向くと口を開いた。
「俺は冒険者が良く行く武器屋に行きたい。どこかの誰かさんが、俺が準備して渡した指輪を壊したからな」
そう言われたレティシアは小さくなると、レティシアの左隣を歩いていたアランに「自分で地雷を踏みに行くなよ」っと小声で言われてさらに小さくなった。
冒険者ギルドにつくとレティシアたちは中に入り、まっすぐ受付のあるカウンターに向かっていると、冒険者たちは小声で何やら会話しながら、レティシアたちに蔑んだような視線をむけていた。
それでもレティシアは少しも気にせずカウンターまで進むと、受付の女性に声をかけた。
「魔物の素材を買い取ってほしいのですが、こちらで大丈夫ですか?」
受付の女性は怪訝そうな顔をしてレティシアの方を見たが、すぐに作り笑いを浮かべた。
「えぇ、大丈夫よ、薬草じゃなくて魔物の素材でいいのかな?」
「はい、魔物の素材で大丈夫です。ちょっと量があると思いますが、お願いします」
そう言ってレティシアは、カバンから麻袋を取りだすとカウンターに置き、さらに麻袋に入り切らなかった魔物の素材を、次々にカウンターの上に置いてあったトレイに出していくと、一人の男性がレティシアの元へと近づいてくる。
「おいおい、お嬢ちゃんよ〜、それ全部、盗んだんじゃないのか? お友達の二人も強そうには見えねぇけどなぁ?」
男性はニヤニヤしながらレティシアにそう言ったが、レティシアは男性の方を向くこともなく、魔物の素材をカバンから出し続け、全てを出し終わるとまた受付の女性に声をかけた。
「では、買い取りの査定お願いします」
「は、はい、査定してまいりますので少々お待ちください」
そう言った受け付けの女性は、慌てたように麻袋の上にトレイを乗せて麻袋を抱えると、カウンターの後ろにあった部屋へと入っていく。
「おいおい、無視するなよ〜お兄さんが悲しくなちゃうじゃん、よぉ」
苛立ったようすの男性はそう言いながら、レティシアの肩をつかむと、そばにいたルカが男性の手首をつかんだ。
「今すぐ、ララから手を離せ」
「あぁ? 離さなきゃどうなるんだ?」
ルカはレティシアのつかまれた肩を、睨みながらそう言うと、男性はルカを見下ろしながら挑発するかのように言った。
(前回も思ったけど、この国の冒険者は見た目めだけで、相手を判断するわね)
レティシアはそう思うと、呆れて溜め息がこぼれた。
レティシアが男性の方を向くと、しっかりと男性の目を見ながら話し出した。
「私の記憶が間違ってないのなら、ギルド内で問題を起こした冒険者は冒険者の登録を抹消され、二度と冒険者として活動できなくなるけど、それでも良いならこの手を離さくていいわよ? 私はおすすめしないけどね」
「私もおすすめしませんね、お兄さんは彼女から手を離すべきですよ? 少なくとも彼女は、先日の魔物討伐に参加していた討伐隊の一人なので、魔物の討伐部隊に参加できないあなたより、実力は上だと私は思っています」
レティシアが魔物の討伐部隊に参加していたと聞いた男性は、とっさにルカの手を払うようにしてレティシアの肩から手を離すと、一歩、一歩と後ずさった。
レティシアは声がした方に視線を向けると、先日このギルドでレティシアを助け、さらに魔物の討伐に魔塔討伐隊として参加していた、ガルゼファのラウル王子だった。
(彼も冒険者ギルドに来ていたのね……それにしてもタイミングが良いような気もするけど、どこかで様子を見ていたのかしら?)
「また助けてくださり、ありがとうございます」
レティシアはそう言って頭を下げると、ラウルはレティシアの方を見ながらにっこり笑って答えた。
「いえいえ、知っている方がいると思ったので近寄ったのですが、なにやらもめている様子でしたので、口を挟んだだけです。気にしないでください」
「アラン様に御用ですか?」
「いえ、私はそちらの彼……ルカさんと話がしてみたかっただけです、この後少しだけよろしいでしょうか?」
レティシアがラウルに問いかけると、ラウルは一度首を左右に振りルカの方を向いてそう言った。するとルカはラウルに探るような目を向けて答えた。
「アランとララが一緒でもいいなら、別に俺は構わない。ララとアランはそれでいいか?」
「私は別にいいわよ」「おれも別に構わないよ」
「ありがとうございます。それでは、査定が終了するまで私も一緒に待ちます」
その後、時間はかかったが査定を終えてギルド職員が戻ってくると、レティシアはある程度まとまったお金を手に入れる事ができ、冒険者ギルドを後にした。
四人はお昼の時間だった事もあり、そのまま料理店へと向かい席に案内されると、それぞれが好みの物を注文していく。
注文を終えると、会話が始まらずにただ重苦しい空気が流れ、それは注文の品が届いて食べ始めても続いていた。
レティシアが食事を終え、他の三人が食べ終わってる事を確認すると、その空気に耐えられず口を開いた。
「ラウル様は、ルカに話があって待っていたのではないのですか? 話がないようでしたら私たちは食事も終えた事ですし、これで失礼しようと思います」
「……」
(何も話さないなら、何で冒険者ギルドで待ってたのよ)
レティシアは少し腰を浮かせて椅子から立ち上がろうとすると、ラウルは重たい口を開いた。
「雪の姫は、思っていたより気が短いんですね」
レティシアはラウルが言った雪の姫の意味がわからず少しだけ首をかしげだが、ルカはラウルに強い殺気を含んだ険しい目付きを向けていた。
「何を知っている?」
低い声でルカがラウルにそう聞くと、ラウルはチラリとレティシアに視線を向けた後、うっすらと笑みを浮かべてルカに言う。
「そうですね……それは先にルカさんと話をしなければ、どこまで話していいかわからないので」
(ラウルはルカと二人っきりで話したかったのね)
「雪の姫って何か知らないし興味もないですけど、ラウル様は初めからルカと二人で話がしたかったのですね。それならラウル様はなぜ、私たちを冒険者ギルドで待っていたのですか? ルカは私たちが同席してもいいか聞いたはずです。私たちが居て話せないようなら、私はこれで失礼します」
そう言いきったレティシアは、後は二人で話すだろうと思い、迷うこともなく席を立つとアランも席をたった。
「ルカ私たちは先に行くわよ?」
「いや、俺も行く」
歩き出したレティシアにそう言われたルカは、ラウルを睨みつけながら立ち上がると、レティシアたちの後を追うように歩き出した。
「ルカさん、雪の姫……必ずお二人は私の元に来ますよ……必ずね」
ラウルがそう言うとレティシアは立ち止まり、振り返らずラウルに聞く。
「それは、私の件に関して? それとも、この魔物討伐の件に関して?」
「今はどちらとも……っとだけ」
ラウルがそう言うとレティシアは振り返り、まっすぐにラウルの目を見ながら告げる。
「ラウル王子、あなたが何を知っているのか私は知りません。ですが、もしあなたが……、いえ、魔塔が私たちの敵だった場合、私は魔塔を許したりなどしません。そして、もし私の前にガルゼファ王国が立ちふさがるなら……その時は」
レティシアは不敵な笑みを浮かべると、その目がわずかに淡く光る。
「私と命をかけて、戦いましょう」
そう言ってレティシアは堂々とした態度でカーテシーをすると、振り返って店の外へと足を進めた。




