思ってること
翌日の早朝、早くに目が覚めたレティシアは火の番をしていた狐獣人に声をかけて、一人で近辺の探索に出ていた。
レティシアは薬草を見つけては麻袋の中へとしまい、前に拾ったあの紫色の破片が落ちていないかも確認しながら周辺を探していく。
想像以上に回復薬の薬草が見つからず、レティシアは少しイライラした様子で辺りを睨む。
「もしかして、採取のやり方を知らないの!? 普通はもう少しくらい残ってるわよ!」
そう小声で言いながらも薬草を探していくと、こちらに向かって人が近づいてくるのが分かり、レティシアはその方向に目を向けてその人物が木の影から出てくるのを待った。
「ララ、おはよう。少しだけいいかな?」
姿を現したテオドールはレティシアを見ると優しく笑いかけてそう言うと、レティシアの答えを聞くこともなくレティシアの隣まで進むと、隣にしゃがんでレティシアの方を向いた。
「おはよう。テオは私の返事なんて、聞くつもりはなかったと思うけどね」
呆れたようにレティシアがそう言うと、テオドールはマルシャー領にいた頃のように笑った。
「ごめんね。どうしても話しておきたくて」
「薬草を探しながらでいいなら、別に構わないわよ?」
「それでもいいよ、僕がララに聞いてもらいたいだけだから」
「そう? なら好きに話してちょうだい」
レティシアはそう言うと、また周辺に回復薬に使える薬草が残っていないか探しながら、料理や他の薬にも使える薬草を採取していく。
「ララ、ありがとう。……僕さ、ずっと考えてたんだよ。このエルガドラについてから、ずっと僕はララたちに守られてる。その事で、アランからもいろいろと言われてさ、正直に話すと、ララにも嫌われたと思ってるし、ここに僕の居場所はないって感じてたんだよ。別にララたちが僕の存在を無視したとか、そういうわけじゃないのに……ララたちと一緒にいる意味を考えれば考える程、僕は場違いな場所にいる気がしたんだ。
まぁ実際に場違いなんだけどね……、それに僕がここで死んでも、誰も悲しまないだろうし、そんな僕に生きる価値があるの? って事も考えた……、生きてる意味やこれから生きていく意味も考えたりした。不思議とね、そこから少しずつだけど、僕は思うようになったんだよ、生きる意味も生きる価値も、何もしてない僕には何もないって……。だから僕は何をやるべきなのか、僕に何ができるのか考えるようになった……まだなにも出来てないけど……でも、もう逃げないって決めたんだ……」
テオドールはそう言って少しだけ地面に視線を落として黙ると、レティシアはテオドールの方を一度だけ盗み見るよにしてみたが、またすぐに手元に視線を戻した。
(彼はまだ子どもよ、子どもが生きる意味とか存在価値を考えるべき事じゃない、それでも彼が子どもでいる事を周りが許してくれないし、彼の立場なら子どもでいる事も許されないわ)
「ララにちゃんと謝らなきゃってずっと思ってた。僕が勝手に付いてきたことによって、君やルカそしてアルノエに迷惑をかけて本当に悪かったと思ってるし、僕の行動でロレシオに対して君たちが不信感を感じてしまった。僕がララと離れたくないっていう自分の気持ちだけを優先して、そのあとの事を全く考えていなかった、本当にごめんなさい」
テオドールは立ち上がりそう言ってレティシアに頭を下げると、レティシアはテオドールの方を向くこともなく、そのまま薬草を採取しながら口を開けた。
「別にもういいよ、私もエルガドラに旅立つ前に、あなたとちゃんと話をすべきだったのよ。そうしていれば、あなたが勝手に私たちに付いてくる事もなかったと思ってるわ」
「ううん。僕が悪いんだ……本当にごめんなさい……あとね、これからは、自分の身は自分で守るようにするよ」
「テオは戦えるの?」
「自分の身は自分で守れるよ。それにもう大丈夫。僕が手を汚さなくても、もう僕の手は真っ赤に染ってるんだってちゃんとわかったから。それなら守りたいものを自分の手で守ろうと思った」
「そう、それなら私から何も言うことはないわ」
レティシアはそれだけ言うと、薬草をカバンの中にしまって立ち上がり、野営をしている場所まで振り返らずに戻って行く。
テオドールはレティシアの後ろ姿を見ながら何かをつぶやいたが、あまりにも小さなその声をレティシアが聞き取ることは出来なかった。
野営の場所まで戻ると、レティシアが帰ってきた事に気がついたルカはレティシアに駆け寄って話をかけた。
「ララ、薬草を採りに行っていたのか?」
「えぇ、やっぱりそんなになかったわ、このまま討伐が長引けば、絶対に回復薬が足りなくなるわよ」
レティシアはそう言いながら、カバンの中身をルカに見せようと思いカバンを開けようとしたところ、ルカはレティシアに手を伸ばして彼女の手をつかむと、アランがいる方へと少しだけ引っ張るようにして連れていく。
レティシアはルカの行動を疑問に思いながら、ルカの方を見るもその横顔からは何もわからず、今度は振り向いてルカが見ていた方向に視線を向けると、テオドールが森から出てきていてルカはテオドールを見ていたのだとわかった。
「テオと軽く話したの、私たちに勝手に付いてきた事を謝ってたわ」
「そう」
短く返事をしたルカはレティシアの手を離さず、しっかりと手をつなぐとアランの所まで連れていく。アランは片手を腰に当てながらレティシアとルカのつないでる手を見た後、テオドールの方を軽く見ると、少しだけ呆れたような視線をルカに向けた。
ルカはアランから気まずそうに視線を逸らすと、アランは軽く息を吐き出した。
「まぁ、ルカにはいろいろと聞きたいし、いろいろと言いたいところだけど、今はこの先の話をしようか? 一応このまま順調に進めば明日の夜には街に戻れると思う。だが襲撃を受ければその翌日の昼になると思っていい。それでだ、二人はこの先敵襲があると思うか?」
「俺はないと思ってる」
「私もないと思ってるわ」
「なんでそう思うんだ?」
「街が近いからよ、私たちを襲うだけの魔物の戦力がないもの。私たちを事故に見せ掛けて、倒したいなら森の奥しかチャンスがないわ、でも魔物じゃない襲撃も考えられるけど、そうなったら事故だと思わせるのは難しいから、襲ってくる確率は低いわね」
「ララと同意見だ、ここで襲撃するぐらいなら罠を仕掛けられる街の方が有利だ」
「そうか……それならこのまま先へと進む」
アランは何かを考えるようにしてそう話すと、街のある方向の空に視線を向ける。
「あぁ」「えぇ、そうしましょう」
この後、アランが出発をする事をみんなに伝えた。
そしてそこから慌ただしく朝食やテントの片付けが始まり、一時間後には次の野営ポイントに向けて部隊の移動が始まった。
レティシアは周りを警戒しながら次の野営ポイントまで歩みを進めるが、時折森の奥から視線を感じ振り返って確認すると、そこには何もいなかった。
そのことを不気味に感じたレティシアは、魔力探知の範囲をどんどん広げていくと遠い場所で強い反応があり、この反応がレティシアたちを森から追い出したかった主なのだと、レティシアは思った。
(あちらも私の魔力探知範囲内に、わざわざ入ろうとしてこないの見ると、襲ってくる気はないってことよね。他の魔物たちも襲ってくる気配はないし、人の気配もない……これなら私とルカの予想通りになりそうね)
その後もレティシアとルカの予想していた通り、襲撃をされる事もなく次の野営ポイントにたどり着くと、野営の準備をしてその日は何事もなく無事に夜を迎えた。
襲撃を受けなかった事によって、アランもこの魔物騒動に人為的な動きがあったのだと確信をもち、その事でルカを呼び出して二人で話しをしていた。
レティシアはそこに自分が呼ばれなかったことを、少しだけ不満に感じたが、この仕事はルカのだからっと思い直してテントの中に入っていった。
そしてエルガドラに来て初めて大地との対話をやってみるものの、大地から反応が帰ってくることはなかった。
(やっぱり森に精霊がいないことが関係してるのかな……それとも大地の恩恵が弱いから? 他の場所でも後で試して確認してみよう)




