二つの存在
翌日、目を覚ましたレティシアは、まだ眠い目をこすりながらテントの外へと出ると、他のテントの片付けは既に終わっていて、寝坊したのだと寝ぼけた頭でも理解できたが、それでも彼女の体はまだ休息を欲しがった。
(魔力量はちゃんと回復してるはずなのに、とても眠いわ……それに体も重いわ)
レティシアはそう思うと、もう一度自分の魔力量を確認するがやはり魔力量は回復しており、体の不調を疑問に思いながらも重たい足取りでたき火の近くに腰を下ろすと、討伐隊に参加していた獣人たちがレティシアから距離をとっていて、レティシアは理由がわからず居心地の悪い思いがした。
(私なにかしたかしら? 寝ながら暴れたかしら? それならこの眠さも体のだるさもわかるわ、でもそんな痕跡なんて何もないわよ?)
「ララ、もう起きたのか?」
ルカはそう言いながらアランと一緒にレティシアの方に近ずいてくると、レティシアの隣に腰を下ろした。
「えぇ、よく寝られたわ、ありがとう」
「ララ、昨日は助かった。君が危険を犯してまで部隊のみんなを守ってくれた事に感謝する」
立ったままだったアランはそう言うと、レティシアに対して頭を下げた。すると先程までレティシアを遠巻きに見ていた隊員たちが、レティシアの方を向いてアランと同じように一斉に頭を下げだした。
そしてアランは頭をあげると再び話し出す。
「彼らも、こちらの方向からきた他の部隊の者から被害がなかったと聞いていたし、実際に夜の襲撃まで我々から攻撃を仕掛ける形になっていて気が緩んでいた。その事で魔物の襲撃に対応できず、君ひとりに無理をさせた事に対し」
「謝罪とか言ったら許さないわよ? 私の勝手な判断でみんなに迷惑をかける形になった事に対して、むしろ私が謝罪すべきだわ。それにあんなの半分は、ただの八つ当たりよ」
アランに謝罪をさせなかったレティシアがそう言うと、ルカは鼻で笑いレティシアに向かって、意地の悪い微笑みを浮かべながら呆れたように言う。
「確かにな。眠かったからって俺が散々言ってるのに、自分を大切にしない癖はどうにかしてほしいものだ」
ルカにそう言われてしまったレティシアは、申し訳ない気持ちでいっぱいになり小さくなっていく。
「ゔぅ、それはもう何も言えないわ、本当にごめんなさい。でも昨晩の事で一つだけ確かになった事があるわ」
レティシアが謝ったことに満足したのか、レティシアがそう言うとルカは少しだけ笑いかけると、すぐに真剣な顔をした。
アランはレティシアの話を聞いて、眉にしわを作りながらレティシアの方を向くと口を開いた。
「それはなんだ?」
「ルカも気がついてると思うけど、私たちを襲撃してる魔物の後ろには二つの存在がいるわ。一つは、単純に私たちをこの森から追い出そうとしてる存在。もう一つは、確実に私たちを全滅させようとしている存在。どちらも知能を持ったモノが魔物たちを指揮しているわ」
「なぜ、君はそう思ったんだ?」
「ルカがどう考えたか知らないけど、私が考えた理由はとても単純よ。まず森に入って三日目の朝方に襲撃をしてきた魔物たちは前者ね、負傷した者を襲わなかったし、目立って狙われたのが私やノエで負傷する確率が低かったの、それにある程度戦ったら一斉に退散を始めたわ。でも昨晩の襲撃は後者よ、そもそも森から撤退を始めた私たちを前者なら襲う理由がない。それに森から追い出したいだけなら、私の一撃目の攻撃で撤退をしていたはずよ、無謀な戦いをすれば私たちを森から追い出す事もできないからね。それなのに臆することもなく向かってきたのを考えれば、私たちを全滅させたかったんだと思うわ。昨晩の襲撃は街に戻るまでそんなに日にちがないし、討伐中の事故に思わせたいなら絶好の機会を伺ってたんだと思うの、だからみんなの気が一番緩んだ瞬間を狙ったんじゃないかしら?」
「確かに、これからみんなが寝るって時に襲撃を受けた」
アランは昨晩の出来事を思い返すようにそう言うと、レティシアは当然その答えが返ってくると思っていたようで、納得した様子で再び話し出した。
「そうでしょうね、私でもその時か寝静まってから襲うわ。でも寝静まってからだと見張りが優秀だとバレてしまうから、全員が疲れきった状態で、これから休めるんだって思った瞬間が一番精神的にもダメージを与えやすい……そこを狙われたんだと思ってるわ。相手は確実に私たちを全滅、もしくは部隊が機能しない形にしたかったのよ、きっとね」
(そして私が寝ていたのも大きいと思うわ、襲撃者は私が寝ていたからルカやノエの注意が、寝てる私に向いているんだと思ったんだわ……そうなると目立った私もだけど、私と同じように目立っていたルカやノエも、今後の標的になる可能性もあるわね。アランが目的なら、その目的達成のために私たちは邪魔でしかないもの)
「それと昨晩私たちを襲ってきた魔物たちからは、知ってる気配がしたわ」
「どういう事だ?」
今度はルカが眉を寄せて睨むように目を細めてレティシアに聞くと、レティシアは立ち上がってルカが腰に着けてるカバンを指さした。
「ルカ、そのカバンの中にまだ入っているんじゃない? あの紫色の破片。体が大きいオーガやサイクロプスからあの破片と同じ気配がしたわ。魔物を貫いたらあの時と同じように気配が消えたから凍らせてみたけど、それでも気配が消えたの、だから余計に同じ物だと私は思ったわ」
レティシアがそう答えると、ルカは腰のカバンから破片が入ってる小瓶を取り出して、何かを考えるようにしながら破片を観察していくと、アランもルカに近寄ってその破片をルカと同じように見ていた。
(きっとあの破片で魔物を操っていたんだわ。それなら私が魔法で攻撃したのにも関わらず、魔物が少しも恐れを感じていなかった事も、魔物の中からあの破片と同じ気配を感じとった事も辻褄が合うわ。問題はどうやってあれを作って魔物の体内に入れたかよ、そして一体誰がそんな事をしたのか……)
レティシアはゆっくりと森へと視線を向けると、昨日の夜に感じた破片の気配を思い出し、体の毛が逆立つ気がした。
(嫌な感じだわ、わからない事ばかりが増えていく)
◇◇◇
その後当初の予定より遅れて、アランたちは街へと向け進み出すと魔物の気配を感じるも、魔物とある程度距離があるため、こちら側から魔物たちへ攻撃を仕掛けるといった事をするつもりもなく、魔物側もこちらを襲ってくるという事もなかった。
「襲ってこないな」
辺りを見渡すようにアランがそう言うと、レティシアは前を向いてまま答えた。
「今私たちの周りにいるのが、先程話した前者よ、ある程度チェックポイントに近づいたら魔物たちはもっと私たちと距離をとるはずよ」
「そうなると、今周りにいる魔物たちは、おれ達を守ってる事になるな」
そう言ったアランの顔は少しだけ緩んだが、レティシアは横目で右隣にいるアランの様子を盗み見ると少しだけ呆れてしまった。
「そうとも限らないわ、先程話した後者がどうやって魔物たちを操ってるのか、何一つわかってないんだもの、油断したら襲ってくるわよ」
「それは、さすがにもう勘弁してほしいところだ」
「それなら気を引き締めてちょうだい」
レティシアはそう言って、アランが左耳につけてるピアスを一度だけ確認するように見ると、少しだけ目を細めて前を向いた。
(昨日と変わらず自動防御壁の付与効果は残り一回……無事に街へと帰れたらいろいろ制限を付けなきゃだけど、次の討伐までには効果回数を増やした物を作るしかないわね)
そう考えながらレティシアは重たい足を、一歩一歩前へと進めていくが、アランの討伐部隊の足音を聞く限り、皆の足取りはレティシアと同じように重たい事がわかる。
ルカはそんな彼らをチラッと見た後アルノエに目配せをすると、部隊の真ん中の方を歩いていたアルノエはテオドールを連れて、レティシア達の後ろまでやってきた。
レティシアは二人の行動を軽く振り返って見ると、すぐにまた前を向いてチェックポイントを目指す。
(なるほどね……確かにこの方が安全だわ、なんだかんだ言っても、私もルカもテオの事もちゃんと守りたいって思ってるんだよね、テオの方も何か心境の変化があったのかしら? 森に入った日と顔つきが違う気がするわ……でも戦闘で変わらなければ何も変わってないのと同じか)
夕方頃になると出発が遅れたにも関わらず、魔物と戦闘をしなかったことで当初の予定通り、レティシアたちはチェックポイントにたどり着くことができた。
それぞれが今夜の野営の準備に取り掛かり、話し声も聞こえたがその声色からは、昨日と同じように気の緩みを感じる事はなかった。
レティシアは野営地に着いても森の奥から視線を感じていて、森の奥に時折鋭い視線を向けていた。




