他の討伐部隊との違い
魔の森に入って五日目。
朝方に再び魔物の襲撃を受けて魔物を倒すと、隊員たちの顔には疲労の色が浮かんでいた。
連日の戦闘で疲労が取れず、いつまた襲撃されるかわからず、夜にまとまった睡眠が取れていないのも、疲労が取れない原因の一つだろう。
まだ森の中へと進むことができるが、今回は予定通り街へと引き返すため、来た道ではない別ルートから街のある方角へと向かい、道中にあるポイントで他の討伐部隊と一度合流をし、今日までにあった事の報告や話し合いをする事となっている。
レティシアたちが落ち合う予定ポイントにたどり着くと、既に聖騎士部隊と魔塔部隊や他のエルガドラの討伐部隊、冒険者部隊が到着していて、アランたちの到着を待っている様子だった。
「アラン様お待ちしておりましたよ、時間もないですし、あちらで話をしましょう」
そう聖騎士の男性が言うと、アランとルカは彼についていった。その時レティシアは見覚えのある男性が、ルカたちが向かう方にいる事に気が付き、アルノエに話しかけた。
「ノエ、あの三つ編みの黒髪の男性に見覚えない?」
アルノエはレティシアにそう言われると、聖騎士部隊と魔塔部隊を目を細めてみた。
「冒険者ギルドであった方ですね、どうやら彼は魔塔関係者だったようですね」
「そう見たい。しかもルカたちと話してるのをみると、魔塔部隊の中では偉い人みたいね」
「ララが拾ったバッジの事もあるので、魔塔と聞くと気になりますね」
「うん、もし仮にあのバッジが最近あそこで落としたものなら、アランの襲撃は魔塔って事になるわ」
「そうなると先日ララが見つけた破片も、魔塔が絡んでるのかもしれませんね」
「考えたくないけどね……それも視野に考えないとだわ」
レティシアは読唇術で彼らの会話の内容を探ろうとしたが、口元を布で画してたり手で押さえるなどしていたため、なかなか口元がはっきりと見えず、レティシアは会話の内容を知ることが出来なかった。
話し合いが終わりそれぞれが散らばると、ルカは走ってレティシアの元へとやってきた。
「ララ、ただいま」
そう言ったルカはレティシアの頭を撫でると、優しく笑いかけレティシアもそんなルカに笑いかけた。
「おかえりなさい、ルカ」
『やっぱり、あのバッジは魔塔のだったよ。同じ物をつけているのを確認した。そして問題はここからだ、俺たちがずっと魔物の襲撃を受けてここまでたどり着いたのにも関わらず、他の部隊が襲撃を受けたのは一度あっただけで、襲撃を受けなかった部隊もあった、魔物との戦闘は基本討伐部隊の方から魔物に攻撃を仕掛けたものだったそうだ』
ルカがテレパシーを使い、そうレティシアとアルノエに伝えると、三人はゆっくり表情には出さず歩き出した。
『私たちがいるアランの部隊が一番危険なルートを通るって聞いていたけど、それでも変だわ……もし帰りも同じだった場合、誰かが魔物を誘導しているか刺激してる可能性が出てくるわ』
『そうなるな』
『仮にそうなると、犯人はきっとアランを狙ってるわ。街に戻っても警戒のレベルを落とさないようにしましょ。ところであの魔塔の黒髪の男性、実は私とノエは先日冒険者ギルドで彼にあってるのよ。その時に彼に助けてもらったの』
『そうか、向こうもレティシアとアルノエに気がついていたよ。彼はガルゼファのラウル王子だ』
『そうだったのね……あれよね……こんな時に言ったらダメだと思うけど、パーティーがある訳でもないのに、他国の王子が良くもこんなに集まったわね、私は嫌な予感しかしないわよ』
『俺も同じことを思ったよ』
『そういえばテオの事も、アランが気がついてるってルカは知ってたの?』
『あぁ、俺がいる所でバカ正直にアランがテオドールに聞いてたからな、そん時に彼の本名も知ったよ』
『そうだったのね、まぁ私には関係ない事だけど』
『……そうだといいな』
そう言ってルカはレティシアの頭をポンっと軽くたたくと、アランの方に向かった。
「ノエ、今のどう意味だと思う?」
「オレにはわからないです」
「私もよ」
レティシアはルカの言ったことを不思議に思い、触れられた場所を手で触りながらルカの後を目で追った。
休憩をかねて昼食もそのポイントで摂る事となり、アランの部隊の人たちも他の部隊の人たちと会話を楽しんでいると、その中にレティシアとテオドールがいることに対して。
「なんで子どもが、魔物討伐に参加してるんだ?」
「お遊びじゃないのに、何を考えてるのかしら?」
と言う人たちの声がレティシアの耳に届いたが、それでもレティシアは少しも気にする様子はなく、逆にレティシアと一緒にいたアルノエが、彼らを刺すような視線で見ていた。
(不思議に思うのも仕方ないわ、だって本当にただの子どもだもの、ノエには悪いけど彼らがそう思うのもしょうがないわ)
そろそろ移動する予定時刻になるとアランは口を開いた。
「さて、そろそろ出発するぞ! 帰りも気を引き締めていけ!」
アランがそう声をかけると、重たい腰を上げて隊員たちが歩きだす。レティシアは立ち上がると急いで走ってアランの左隣に行き、アランの右隣を歩くルカとアランを挟むような形で歩き出した。
「どうした?」
そうレティシアはアランに聞かれたが、レティシアは表情を変えずアランに言う。
「テオのことはアルノエに頼んだから、アランはアランの心配をして、この部隊の要はアランなんだから」
「……わかったよ、それと心配かけて悪かった」
アランはそう言うと、レティシアに自動防御壁を付与してもらったピアスを少しだけ触った。
レティシアはアランの行動が気になり、彼の左耳のピアスをよく見ると、あと一度しか付与の効果がない事を知った。
(アランにかけた保険が後一度だけって……もっと早くに気づくべきだったわ)
そう思うとレティシアは無意識に、ショルダーバッグに手を当てていた。
だがその日は襲撃を受けることもなく、こちら側から魔物に仕掛けるといった戦い方ができた事によって、少しだけ隊員たちの顔色も戻り、気持ちに余裕がでてきたようにも感じ取れた。
野営ポイントにたどり着き野営の準備が終わると、彼らから気の緩んだ話し声や笑い声が聞こえ、レティシアは少しだけ不安な気持ちになる。
(もしここで襲撃を受けたら、即座に対応しきれないかもね)
そう思うとレティシアは、魔力探知範囲をできるだけ広げたが、それはレティシアの負担が大きくなった事を意味する。
ただでさえ休むこともなく、ずっと魔力探知で辺りの警戒をしてきたレティシアの疲労は、一言で表せないほどになっていた。
レティシアが魔力探知範囲を広げた事に気がついたルカは、そんなレティシアに声をかけた。
『レティシア、ちょっと休め。俺が探知範囲を広げてるから心配要らない』
『今から休んだら、明日の朝まで起きない自信しかないわ』
『大丈夫だから、少しは休んでいいよ』
『ごめん……それじゃ、お言葉に甘えて少しだけ休むわ』
『あぁ、おやすみレティシア』
『ルカ、ありがとう……おやすみなさい』
そう言ってレティシアはテントの中に入って行くと、全ての警戒を解いて倒れ込むように眠った。
◇◇◇
『レティシア、起きろ! 敵襲だ!』
レティシアはルカからのテレパシーが聞こえると、勢いよく起き上がり急いでテントの外へと出ると、状況の確認をするかのように辺りを見渡す。
「ルカ! 敵の到着は後どのくらい?!」
「悪い、後五分もない」
レティシアが心配したように、隊員たちが対応できずにいるのをレティシアは、テントを出て見渡してすぐに気がついた。
そしてレティシアは髪を結ぶと、ルカに告げる。
「ルカ! みんなを出来るだけアランの近くに集めて! 後は私がやるわ!」
レティシアは右手を前に軽く出すと、目をつぶって大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。そして魔力探知を使い敵の位置を把握していく。
少しだけ時間がかかったものの、敵の位置を全て把握すると心の中で「半分八つ当たりで、ごめんね」っと言うと目を開けて魔法を唱えた。
「氷の連射弾魔法!」
無数の氷が出現し追従するかのように魔物を貫いていくと、倒しきれなかった魔物は止まることもなくレティシアに向かって襲いかかるが、レティシアはニヤリと不敵な笑みを浮かべると攻撃を続ける。
「全てを凍てつくせ凍結魔法!」
レティシアがそう唱えると今度はレティシアを中心に半径二キロ圏内にいた魔物たちが凍りついた。
だがレティシアはそれで攻撃の手を辞めない。
「これで終わりよ! 氷の連射弾魔法!」
凍りついた魔物たちを今度は氷の弾が貫いていくと、魔物たちは砕け散った。そしてレティシアの魔力探知範囲から魔物の気配がなくなると、レティシアはその場に膝をついて座り込んだ。
その様子を見ていたルカが走ってレティシアの元へ行くと、レティシアの眠気が限界だと気がついた。
「ルカ……ごめん、本当に寝るわ……今度こそ明日の朝に起こして……」
そうレティシアは言うと、彼女の意識は夢の中へと沈んで行きスースーッと気持ちよさそうに寝はじめる。
「あぁ、起こして悪かったよ……ゆっくり寝てくれ」
レティシアにはそうルカが言った気がした。




