需要と供給
翌日レティシアはアルノエを連れて街へと出かけた。
ただそれが観光目的ではなく、薬屋にある回復薬の品ぞろえと在庫の確認なので、楽しむという要素は何もない。
レティシアが出かけると知ったテオドールは、レティシアについて行こうとしたが、それをアランが「君には、他にやるべきことがあるんじゃないのか?」と言ってルカと一緒に外へと連れ出した。
そして今日未明に、宿屋に侵入者が入りアルノエとルカで捕まえたが、尋問をしようとしたところ侵入者は逃げきれないと悟ると、何も語らず仕込んであった毒を迷うこともなく飲んだ。
それによって、誰に依頼されたのか、彼がどこの誰だったのか、それすらわからないままとなった。
(侵入者の事も考えると、ルカに足でまといとまで言われてるのに、テオが何もしないのはアランもよく思わないよね、今頃はアランとルカがいろいろとテオに教えてるのかもね)
レティシアはそう思いながら、この街で一番大きいと宿屋の店主に紹介された薬屋へと、アルノエと一緒に入っていった。
薬屋に入るとさまざまな回復薬があり、一つ一つレティシアは手に取ってみて回る。
(フリューネ領の薬屋では初級回復薬が多かったけど、ここは中級回復薬が目立つわね、解毒薬も多い……魔の森に毒を使う魔物が多いかもしれないわね)
「すみません、このお店に中級回復薬は、後どのくらい在庫がありますか? それと上級回復薬はありますか?」
レティシアが店員にそう聞くと、店員は仕入れ状態などを確認をしながらレティシアに答えてくれた。
「お嬢ちゃんお使いかな? えらいな。そうだなぁ、今この店にある在庫だけど……中級回復薬が百個ほどあってまた三日後には五十個ほど中級回復薬が納品されるよ。悪いけど上級回復薬は、直接納品されちゃってるから在庫はないんだよ」
「ありがとうございます。これのお会計お願いします」
そう言ってレティシアは、中級回復薬を三つと、解毒薬を一つカウンターに置いてお会計を済ませ薬屋を後にした。
(中級回復薬が三万セリー、解毒薬が五万セリー……結構するわね……)
「ララ様、次はどうしますか?」
「ノエ、私のことを様付けするのを、仕事だと思ってやめてくれと助かるんだけど、無理そうかな?」
「気をつけるよ……、あと荷物オレが持つよ」
「ありがとう、薬屋をあと何件か回ってみて在庫の確認をしようと思う、その後に冒険者がよく行く装備屋に立ち寄りたいわ」
レティシアはそう言うと、先程の店で買った物が入ってる紙袋をアルノエに渡して、次の薬屋に向かって歩き出した。
「オレ、ララが初めて獣人を見るからもう少しだけ、怖がったりはしゃいだりするのかと思ったけど、案外普通なんだね」
「んー。本で読んで知っていたし、露骨に反応すると相手も嫌がるわ、それに耳としっぽさえ隠れてしまえば、私たちと変わらないわよ」
そう言ったレティシアはアルノエに優しく笑いかけた。
(獣人族は今回が初めてじゃないからね、驚いたり過剰に反応したりしないわ、それにルカの時で学んだもの)
その後レティシアは三件の薬屋へ行くと、最初の店と同じように質問をし、中級回復薬と解毒薬を二つずつ購入した。
そして、冒険者がよく行く装備屋につくと防具やカバンなどみて回り、レティシアはアイテムボックスになってるショルダーバッグと短剣そして二枚麻袋を買った。
麻袋をレティシアが店主に確認した時、アルノエは眉を寄せてレティシアを見たが「まぁ、いいから、いいから」っとレティシアが言うと、諦めたように買ったものを受け取って店の外へと出ると、既に夕方になっていた。
「あと一件だけ行きたい所があるから、そこに行ったら帰ろっか」
そうレティシアが言うとアルノエは「そうですね」と返事をしレティシアについて行く。
レティシアが最後に立ち寄った所は、冒険者ギルドだった。
建物の中に入ると夕方だからか、多くの冒険者がアイテムボックスから、今日森へ行って倒したであろう魔物の素材や採ってきた薬草を、カウンターに並べてギルドスタッフとやり取りをしていた。
レティシアはそのまま依頼が貼ってある掲示板まで行くと、端から全ての依頼に目を通していく。
(夕方になっても、やっぱり討伐系が多いわね……それよりも、薬草の依頼もやっぱ緊急を含めても結構あるわ、既に手遅れだったかしら?)
レティシアはそれだけ確認すると「ノエ、帰ろう」と言って来た道を引き返していく、その時狼獣人の男性がレティシアに勢いよくぶつかりレティシアは、尻もちをついた。
「いったぁ……」
「たくよぉお! ここはガキが来る所じゃねぇーんだよ! 邪魔だからとっとと帰れ!」
レティシアにぶつかった狼獣人の男性は、そう言いながらレティシアのことを見下ろすと舌打ちをして睨みつける。
「冒険者ギルドの登録は六歳から可能ですよ? あなたは知らなかったのですか? そもそも人にぶつかったのなら、相手に暴言を言うのではなく謝るべきですよ? お嬢さん、大丈夫ですか?」
腰まである三つ編みをした黒髪の男性がそう言って、優しくレティシアに手を差し出した。
レティシアはその手を借りて立ち上がると、男性はしゃがみこみレティシアと目線を合わせると、桃色の目でレティシアにけががないか確認して柔らかく微笑んだ。
「けがはなさそうですね。良かったです」
「ありがとうございます、助かりました」
レティシアが黒髪の男性にお礼を言うと、先程レティシアにぶつかった狼獣人の男性が怒りに振るえながら大声を出した。
「おい! 俺様を無視するんじゃねぇー!」
そう大声を出しながら持っていた剣で、レティシアと男性に切りかかろうとしたその時、アルノエが瞬時に動き彼の首に剣を押し付けた。
「そこまでです!! ギルド内での争いは禁じてます! 冒険者としてまだ活躍したいのであれば、お止めください!!!」
そう兎獣人の女性が叫ぶと、狼獣人の男性が剣を下ろしそれを確認すると、アルノエも剣をしまった。
先程叫んだ兎獣人の女性はどうやらギルド職員だったようで、狼獣人の男性を呼ぶと何やら注意をしていた。
「ララ、もう帰ろう」
そうアルノエが言うとレティシアに手を差し出し、レティシアはもう一度黒髪の男性にお礼を言って、アルノエの手をつかむと冒険者ギルドを後にした。
レティシアたちが宿屋に戻ると、ソファーに座って話していたアランとルカがレティシアたちの帰宅に気が付き「おかえり」っと言った後にテオドールが疲れきって寝てしまっている伝えると、そのまま二人はまた話の続きをしだした。
レティシアは会話の邪魔をするのも良くないと思い、部屋の隅に行くと今日街で買ったものを紙袋から取り出していき、そして空間魔法から小さなガラスのコップを八個取り出すと、その中に回復薬と解毒薬を入れて色や匂い、そして少しだけ指につけるとそれをペロッとなめて味の違いを調べる。
(作った人は違うけど、品質にバラつきはなさそうね……これを作った人たちの魔力量を考えれば、一日で作れる量もこれじゃ限られるわ)
そう思いレティシアは回復薬を試そうと、自分の腕を軽く切る。
「ララ様! 何をなさっているのですか?!」
レティシアの様子を見ていたアルノエがその光景に驚き大きな声を出すと、ルカもアランもアルノエの声に驚いてレティシアの方へと走ってやってきた。
「何があった?」「どうした?」
そう言った二人はレティシアの腕をみて、回復薬の瓶を見るとアランは大きな溜め息をついた。
「何をしようとしてたか、だいたいわかるけどさ……普通自分の腕を切るか?」
そう呆れたようにアランが言うが、ルカはレティシアの顔を悔しそうにそして泣きそうな目で見ていた。
「ねぇ、ララ……俺、前にも言ったよな? 自分をもっと大切にしてって……俺の言葉ってララにとって、どうでもいいことなの?」
「どうでも良くないよ? でも自分が大切だからちゃんと使う物は確認したいの、これよりひどいけがをしてからじゃ何も意味がないわ」
そうレティシアが言うと、ルカはしゃがむと回復薬の瓶を手に取り、回復薬をレティシアの傷口にかけた。
「これでいいか?」
レティシアは回復薬をかけた腕をじっくりとみると、先程の傷口が奇麗にふさがっていき、けがをする前の状態に戻っていることを確認した。
(この効果なら過去と同じね。それなら解毒薬も同じ効果が出るはず……さすがにこの状況で、解毒薬も試したいとか言えないわ)
レティシアにとって自分の体を使って薬品を試す事は、過去では当たり前だった。だからレティシアは、三人がこうやって心配すると少しも思っていなかったのだ。
「ありがとう、大丈夫だわ」
レティシアがそう言うと、ルカは軽くレティシアの頭をポンっとたたくと、アランとルカはレティシアの近くで話の続きをしだした。
その二人の行動にレティシアは、監視されているのだと感じ、ショルダーバッグに麻袋と新しい短剣をしまうと、回復薬や解毒薬の瓶を片付けた。
(明日は薬草を探してみよう……このままいけば本当に回復薬が足りなくなるわ……いえ……もう手遅れかもしれないわね)
そう思いながらレティシアは、翌日の準備をした。




