街に潜むモノ
アランは斜め後ろを向いて、窓辺にいるレティシアの方をチラッと見たが、特に何かを言うわけでもなく、再びルカの方を向いて話し出した。
「それじゃ、自己紹介をしようか。おれの名は、アラン・ソル・エルガドラだ。竜人と人族のハーフでこの国の第二王子。王子だからといって変に気を使わなくていい、気軽にアランって呼んでくれ」
そうアランが自己紹介をすると、ルカが口を開いた。
「俺から紹介する。左隣にいるのがロレシオ、右隣がテオドールだ、そしてあそこの窓辺にいるのが、ララだ」
レティシアはアランの方を向いて淑女の礼をしようとしたところ、レティシアの方に振り向いたアランが軽く片手をあげて左右にふる。
「あーそういうの、いらない。おれ、お堅いのあんまり好きじゃないから、本当に気軽に話してくれていいから。それと、おれこう見えてまだ九歳だから」
アランはダルそうにそう言うと、ソファーの肘掛に頬杖をつきルカの方を向いた。
(あれで九歳なの! ルカと身長そんなに変わらなかったわよ!? 確かに竜人は魔力量が多いと成長が早いって本に書いてあったけど、そういうこと!?)
レティシアはアランの発言に驚きつつも再び横目で窓の外を見ると、宿屋の前を行き交う人々に視線を向ける。
(なるほどね……行き交う人たちに紛れて、何人かいるわね)
レティシアはそう思い、外を警戒しつつもルカとアランの話に耳を傾けた。
「アラン早速で悪いが、あれから何があったのか知りたい」
ルカはそう言いながらおなかの上で手を組んで、アランの方を真剣な顔をして見た。
「あぁ、ルカがヴァルトアール帝国に帰って一年ぐらいたった頃かな? そのくらいの時期に、まずおれの食事に毒が盛られたんだよ。すぐに気が付いて、吐き出したからなんともなかったけど、そこからちょくちょく毒は盛られたかなぁ」
「他には?」
「そうだな……ココ最近は刺客が送り込まれることが増えたかもしれない。確か……その頃から魔の森が、おかしくなったんだよ。それで討伐隊が組まれることになって、討伐隊の中におれまで組み込まれてたんだよ。親父にその理由を聞きたかったんだけど、ヴァルトアールに密書を送った後に倒れたから、おれは城にいるより安全だと思って、討伐隊にそのまま参加したわけよ。子どもでも、半分でも、竜人は竜人だからそこそこ戦えるしな」
「エルガドラの国王が倒れたのは聞いた」
「そっかそっか、やっぱルカは情報を手に入れるのが早いねぇ」
「他に気になることはあったか?」
「気になることじゃないけど……親父が倒れてから、討伐隊に聖騎士が加わった事かなぁ? さすがになんかあるだろうなぁ〜って思ってたら、魔塔まで協力するって言い出したからびっくりしたよ」
「なるほどな、冒険者も多かったけど?」
「あー。魔物の行動が活発になってるって報告されてると思うんだけどさ、実際は凶暴化してるんだよ、だから正直に言って通常の魔物より強い。おれもこないだ参加したけど、普通の個体より倍強いと思っていいよ。それに魔物によっては、さらに手ごわくなってる。まぁ、それで聞くんだけどさ? そこの兄ちゃんは強いってわかるけど、その子どもと、あの姫さんは大丈夫なわけ?」
アランにそう聞かれたルカは、テオドールの方をちらっと見るとアランの方に視線を戻し答えた。
「正直に言えば、テオドールはまだ足でまといになるかもな。ララの方は何も心配していない、最悪アルノエが彼女を守るから」
ルカがそう言い切ると、テオドールは目を伏せてテーブルの一点を見ていた。
「おいおい、そんな二人を連れて大丈夫なのかよ?」
(ルカの評価は間違ってないわ、それにアランの不安もわかる、彼から見たら私なんて彼より幼いし、ひ弱な存在だもの)
レティシアはそう思いながら、視線を落としたテオドールを見ていたが、またルカとアランの二人を見た。
「それなんだが、こっちにもいろいろと事情がある。だからテオドールは連れていくが、アランが気にすることじゃない。ララは剣じゃ体がついていかないけど、魔法に関していうなら俺より使い慣れていると思ってる。ちなみにこれは、ララが付与した物だ」
そう言ってルカはブレスレットを外し、アランの方へと差し出すと、アランはそれを受け取り、じっくり観察するように角度を変えたりして見ていた。
「ふーん。結構しっかり刻まれてるんだな」
アランはそう言いながらブレスレットをルカに返すと、ルカはそれを受け取って手首にはめた。
「これをララとテオドールにも持たせてる。だから最悪の場合、一人でも逃げ切ることはできると思ってる」
「なるほどな、ルカがそう言うならいいよ。まぁ、二人が死んだところで連れてきたルカの責任だしな」
「あぁ、わかってる」
「それじゃ、おれの部隊に入れるけど問題ないよな? 獣人が多いから最前線になるけど」
「あぁ、それも問題ない。そもそも俺たちはアランの護衛だ、細かい事をいまさらアランが気にする必要もないだろ」
「それもそうだな。んでさ、ララだっけ? 君いつまでそこに居るつもりなの?」
アランはレティシアの方を向いてそう聞くと、レティシアはその場にいるわけにもいかず、考え事をしながら下を向いてアルノエの隣まで歩みを進めると、黙ってアルノエの隣に座った。
「なぁルカ、この子さ人見知り?」
「いや? そんなことはないけど、ララ? どうかしたのか?」
ルカとアランが不思議そうにしていると、レティシアは顔を上げて首をかしげた。
「別に? ただ少しだけ魔物が凶暴化する原因を考えてただけよ?」
「ララは今の話をどう思った?」
ルカがレティシアに聞くと、レティシアは横目でチラッとアランの方を見る。
「そうね……アランを完全に消そうとしてることだけは、わかったわね」
「後は?」
「確実に魔の森で何かが起こっていて、それを調査しなければいけない事くらいかな? 魔物が凶暴化する原因っていろいろあるけど、そのことを一つ一つ確認しない限り何が原因だってハッキリと言えないし、倒しても増えてるなら原因が一つとは、限らないのかも」
「へぇー。おちびちゃんだけど結構しっかりしてんなぁ」
そうアランに言われたレティシアは、作り笑いをするとアランに向かってにっこり笑いかけながら言う。
「王子様、おちびちゃんは、余計な一言だと思いますよ?」
「悪い、おちびちゃんは失礼だったな」
レティシアの目が少しも笑っていないことに気がついたアランは、慌ててそう言った。
「わかっていただけたなら、大丈夫ですよ」
レティシアはにっこり笑いかけながらそう言うと、アランは少しだけ下を向いて困ったように頭をかいた。
「ところで、次はいつ頃森に入る予定なの?」
そうレティシアが聞くと、アランは目を細めてレティシアの方を見る。
「三日後にまた森に入るつもりだけど、なんで?」
「ありがとう、いつ森に入るかわかれば準備ができるでしょ? こんな子どもが予定を聞いたから、アランは不思議に思ったの?」
「いや、悪い……本当にただのおちびちゃんだと思ってたから……」
アランは少しだけ気まづくなりレティシアから視線を外した。
(普通はそうよね)
「まぁ、どうでもいいわ、この部屋もさっきアランが言っていた刺客にはバレてると思うし、宿屋についてからずっと外に三人の見張り役がいたわ。それなら森に入る前に対策できることは、やっておくべきだと思うけど?」
「本当に普通の子どもじゃないんだな……外のヤツらに気がついてないと思ってた」
アランが口元を抑えながら言うと、ルカは小さく笑った。
「アラン、ただの子どもだと思ってララのことを見てたら、護衛に刺されるぞ」
ルカは楽しそうに笑って言うと、アランは顔をしかめた。
「やめてくれよな、護衛に刺されるとかマジで笑えねぇから」
「外の害虫はこのままにしておくが、一歩でも宿屋に入ったら駆除する。三日後の討伐までアランの護衛をしつつ、アルノエもララも、そしてテオドールも準備しておけ」
「わかったわ」「かしこまりました」「うん……」
そう返事をした三人をアランは静かに見ていたが、レティシアやアルノエそしてルカが席を立ってもその場から動かないテオドールを、アランは呆れたように見ていた。




