森の都〜リグヌムウルブ〜
二日後、最初に立ち寄った村を出発してからレティシアたちは新たに襲撃を受けることもなく、次の村にたどり着くと同じように宿屋で一泊して、このリグヌムウルブへと出発した。
乗合馬車を降りたレティシアは、背伸びをしながら大きく息を吸い込むと、新鮮な空気で肺をいっぱいにする。
「んー! 空気が美味しいわ!」
そう言ったレティシアは、目を輝かせながら周りを見渡す。
レンガで作られた建物が多かったフリューネ領やマルシャー領と違い、このリグヌムウルブはコンクリートで作られ白を基調とした建物が多く、建物の窓辺には花が飾られ、道路もしっかりとコンクリートで整備されており、歩道には等間隔で木が植えられている。
そして乗合馬車の待合場から見える噴水も大きく、その噴水を囲むように、花や背丈の低い木などが植えられていた。
「ここがリグヌムウルブなのね!」
(人であふれてるわ! お店の方も賑わってるし、街の人たちの顔も生き生きとしてて、すてきな街だわ。獣人族も多いけど人族も多いわね、さすがエルガドラ第二の都市と言われるだけあるわ! でも剣や杖を持ってる冒険者ぽい人が多いのは、魔物討伐のせいかしら?)
「ララ、どお? 気に入った?」
そう言いながらルカはレティシアの横に立つと、同じように街を見渡した。
「気に入ったわ! 観光で来たかったわ」
「それなら良かった。観光じゃないけど、俺はこの光景を初めて見た時にララにも見せてあげたかったんだよ。きっとララの好奇心を刺激してくれると思ったから」
「ルカ、連れてきてくれてありがとう」
「あぁ」
ルカはそう返事をすると、レティシアに喜んでもらえたことが嬉しかったのか、頬を緩ませながら行き交う人々をみる。
『ねぇルカ、あの人たちは冒険者よね?』
『……』
『あれ? 聞こえてなかったのかな? ルカ?』
『はぁ……、レティシアは相変わらず、場の雰囲気ってものを全くっと言っていいほど気にしないよな? 今その話する必要があったのかな?』
『あ、ごめん、気になって……つい』
顔に出さないがルカの声色から呆れてるのがわかると、レティシアは申し訳ない気持ちになった。
『まぁ、いいよ……、そうだな、あれは冒険者だ。きっと魔物討伐で集まったんだろうな、魔物の素材も金になるし、エルガドラ王国からちゃんとした依頼も出てるはずだから』
『そうなのね、それなら後で回復薬を作りたいわ』
『またなんで?』
そう聞かれたレティシアは、行き交う冒険者たちに目を向けた。
『私たちの中で、私以外に簡単な回復魔法が使えないからよ。それに今回の討伐で冒険者が多く集まっていて、魔塔や教会が出てくるなら魔物が弱いと思えない。それなのに、この討伐がいつまで続くかわからないなら、回復魔法を自在に使える精霊師か聖女の力が必要になるけど、その子たちは全員の回復をして回れるのかしら? そう考えたら確実に回復薬が足りなくなるわ。そうなってからじゃ素材も間に合わなくなる。だから作れるうちに作って置きたいなぁって……そ、それに、いまなら精霊たちが森を案内してくれれば、素材は簡単に手に入ると思うわ!』
途中でこれは今世での経験じゃなく、過去での経験談だと思ったが途中で言うのを辞めるわけにもいかず、結局最後までレティシアは話した。
『ふーん。まぁ、前回この街に来た時より冒険者の人数が多のは、気になるな』
『でしょ? それなら後で薬草を探しに行きましょ』
『あぁ、わかった』
「よっ! 黒いの久しぶりだな」
突然そう言って肩まである髪を一つに結んだ赤髪の少年が、ルカの方をたたくとルカは振り返り、その少年を確認すると片眉を上げて不愉快そうな表情をした。
「俺には、ちゃんとした名前がありますよ? もうお忘れですか?」
「いいや? ちゃんと覚えてるよ? そっちが君のお姫様?」
赤髪の少年はルカの機嫌なんて気にするそぶりも見せず、そう言ってレティシアに青緑色のつり目を向けると、ルカは彼の事を睨んだ。
「悪かった悪かったって……、そう睨むなって、もう宿屋は決めたのか?」
ルカに睨まれた彼は軽く両手をあげて謝ると、頭の後ろで手を組んでルカにそう聞いた。
ルカは睨むのをやめて探るような視線を彼に向ける。
「いや、これからだ」
「ふーん。それなら、おれと同じ部屋に泊まればいいよ、どうせなら同じ部屋の方がいいと思って、広めの部屋を借りておいたからさ」
「それは助かるよ」
「まぁ〜前みたいにずっと屋根裏に居座れても、困るからなんだけどね〜」
「あの条件ならそっちが宿をとるもんだろ」
面倒臭そうにルカがそう言うと、レティシアの方を向いて赤髪の少年の前に紹介するように軽く手を出す。
「ごめんララ、こちらが今回の護衛対象のアランだ」
ララが一歩前に出ようとした瞬間アランは、片手を上げて軽く左右に降った。
「いいよいいよ。そういうのも宿屋でやろう、そっちは前回と違って人数が多いみたいだし、さすがにここで自己紹介とかしても、別にいいことなんてないと思うしさ」
そう言ったアランはチラッと人の通りがある方を見ると、ルカもそちらに横目で視線を向けた。
「あぁ、それもそうだな」
ルカはそう言うと、アランと並んで歩き出した。
「また大きくなったなアラン、俺より少しだけ高いのか?」
「まぁな! おれ成長期だから!! 今一六九センチくらいかな? ルカは?」
「負けた……一六七センチ……」
「まぁ、大きいから……竜人は……」
アランが泊まってる宿屋は、ここから近いのか彼は振り返ることもなく、ルカと一緒に話しながらどんどん先へと進むと、四階建ての宿屋へとたどり着いた。
フロントでアランが人数の追加を申し出ると、店主に断られることもなく「ごゆっくりどうぞ」っと言われてレティシアたちは、アランについて行き四階まで階段を上がると彼が借りていた部屋へと通された。
「ゆっくりしてっていいよ。部屋に風呂もあるから好きな時に入ればいいよ」
「ありがとう、アラン」
ルカがそう言ってお礼を言うと、レティシアやアルノエもお礼を言って軽く頭を下げた。
「いや。こっちこそ悪いな、また呼ぶような事になって……、正直、助かるよルカ。とりあえず座ってくれ」
そう言いながらアランは一人用ソファーに座った。
ルカは、アランの向かいにある一人用ソファーにへと向かい腰掛けると、長い足を組んだ。
アルノエは少しだけ悩んだようだがルカの左側に座ると、テオドールはアルノエの向かいに座った。
(うん。これは私が完全に出遅れたわね)
レティシアはそう思い窓辺まで行くと、窓から外をチラリと見ると宿屋の前を行き交う人たちが見えた。
(どこに座るか悩むくらいなら、立ってる方がいいわ)
あの日からテオドールは、レティシアたちと行動を共にしているが、マルシャー領にいた頃とは違い、三人は彼と深く関わることはなかった。
テオドールが話しかければ普通に話したりするが、そうじゃないなら三人から話しかけたりなどしなかった。まだ七歳の子どもに冷たいかもしれないとレティシアは思いつつも、いまだにテオドールとのわだかまりが残ったままだったのだ。




