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旧作✿現在非公開中  作者: 元・深 夜 現・雪闇影
3章
65/116

嫌な予感は当たる

 

 乗合馬車が立ち寄る予定の最初の村に着くと、レティシアたちは先に宿屋へと向かうことにし、三人で一つの部屋を借りた。

 とてもシンプルな部屋で三つベッドがあるだけだったが、寝るためだけに泊まる部屋だ、それで困ることはない。

 アルノエはそのまま荷物をおくと、宿屋の一階にあったシャワー室へと行き、ルカは窓辺のベッドまで行くとベッドに腰を下ろすと、レティシアも真ん中のベッドに腰掛けた。


 レティシアは、右手を軽く前に出すと『空間消音魔法(サイレント)』と唱える。


『ねぇ? 襲撃を受けてから変じゃなかった?』


『はぁ…やっぱその話か』


 少しだけ面倒くさそうにルカがそう答えると、レティシアは眉間にしわを寄せた。


『何よその言い方、他になんかあるの?』


 ルカはそのまま後ろに倒れると、ベッドに寝転んで目をつぶって口を開いた。


『いや?』


『なら答えてよ、変だったわよね?』


『変だったな、微かに精霊たちの気配がした』


『そうよね? ルカがそう感じたんなら間違いないわね』


 レティシアは考えるようにアゴに手を当てると、ルカがふたたび話し出す。


『あぁ、でも俺のカンが言ってる。″関わるな″って、俺にとって良くない事が起こる気がする』


 それを聞いたレティシアは、そっとアゴに当てていた手を下におろした。


『そう。それならこの話は終わりね、私も考えないようにするわ』


『そうしてくれ。俺は仕事に集中したい、できれば余計な厄介事は避けたい』


『わかったわ』


 そう答えると、レティシアもベッドに倒れ込んだ。



 ◇◇◇



 馬車の移動で疲れていたレティシアは、いつの間にか寝てしまっていたらしく、食事の香りに誘われて目を覚ました。


「…寝てたわ…ごめんなさい」


 まだ眠そうにしながらレティシアが体を起こしてそう言うと、窓辺に立ってアルノエと話していたルカが、アルノエのベッドに置いてある紙袋を指さした。


「あれ、今日の夕食ね。これから、ニルヴィスたちと連絡を取るけど、レティシアは先にご飯を食べておく? アルノエがレティシアの好きそうな物を、買ってきてくれたよ」


「んーん。一緒に話を聞くわ…」


 目をこすりながらレティシアは、そう答えるとベッドの端に座った。

 レティシアの答えを聞いたルカは、自分のベッドに座ると空間消音魔法(サイレント)をかけてから、通信魔道具を使ってニルヴィスと連絡を取り始める。


『やっほ〜ルカ様たち、無事に一つ目の村にたどり着いたんだね〜』


「あぁ、とりあえずな。騎士団のブローチに連絡があったがどうした?」


『んー。ルカ様が気にすることじゃないと思うよ? それでも聞く?』


 アゴに人差し指を起きながらニルヴィスがそう聞くと、ルカは何かを感じたのか、少しだけ面倒くさそうに答える。


「いや、いい。特に報告することがないなら切るよ」


『は〜い! ルカ様またね〜』


 ニルヴィスがそう答えると、勢いよくドアが開く音が聞こえたと思うと、ロレシオの声がした。


『ルカ様! お待ちください! お聞きしたい事がございます!』


 そう言われたルカの表情は、ストンと抜け落ちたように無表情になり、映像に映るロレシオを見ていた。


「その聞きたいことってさ? 俺にとって厄介事じゃないよな?」


 そう言ったルカの瞳は、とても冷たくどこか怒りが含まれていた。

 その瞳をみたロレシオは、何も言えなくなり下を向く。


『ルカ様、切っちゃっていいよ〜。ハッキリ言うけど、ロレシオの事は気にしなくていいよ〜』


「あぁ、じゃあまたな」


 ルカがそう言って切ろうとした瞬間、震える声でロレシオが言う。


『テオドールが居なくなりました』


 とっさにレティシアは、ルカに向かって身構える。


 レティシアが無意識で身構えるくらいに、ルカから殺気がもれだしていたのだ。目に見えない恐怖が、肌にまとわりつくような嫌な感覚をレティシアは感じた。


(テオドールのことも気になるけど、ロレシオなんで言うのよ! それは、今の私たちが聞いたところで、何も出来ないわよ! それに、ルカの仕事の支障になるじゃない!)


「…で? そこから離れた俺になんの関係がある? そもそも俺は聞いたよな? 厄介事じゃないよな? って、それなら厄介事の時点で、そっちで解決してから俺に報告すべきなんじゃないのか?」


『そうなのですが、ルカ様に言ったのにも理由が』

「ロレシオはさ、皇帝陛下から受けた俺の仕事と、テオドールが居なくなった事を比べた時に、テオドールの方が大切だったんだな」


 ロレシオが全てを言い切る前に、被せるようにルカがそう言うとロレシオの顔からどんどん血の気が引いていく。


『ち、違います!』


「いいよ、もうわかったから。テオドールがこっちに来ていないか、こっちでも探してみるよ、ニルヴィス、悪いが後のことは頼む」


 ルカはニッコリと映像に向かって笑いかけるが、その瞳は変わらず冷たかった。


『りょ〜か〜い』

『ルカ様、待ってください!』


「黙れ」


 食い下がるようにルカの名を呼んだロレシオを、ルカがその一言で黙らせるが、レティシアはその一言でさらに恐怖に震えた。


(怖い…、こんなルカを、私は見たことも感じたこともない…本気で怒ってるんだわ…)


「ロレシオ、お前はいつから俺やレティシアに忠誠を誓わなくなったんだ? ブローチに魔力を流してみろよ? ちょくちょくレティシアの情報が皇帝陛下に届いていたみたいだが、お前が裏切り者じゃないのか?」


 そう言われたロレシオは、震える手で魔力をブローチに流したが、そのブローチはフリューネ家の家紋がうっすらと出ているだけで、紋章がハッキリと浮かび上がることはなかった。


『ち、違います、こ、これは…』


 顔から完全に血の気が引いて青白くなっているロレシオがそう言うが、ルカは嘲笑うかのように鼻で笑った。


「何が違うって言うんだ? それが事実だろ」



「ル、ルカ…待って…」


 勇気を振り絞ってレティシアがルカに声をかけると、先程までロレシオに向いていた殺気が全てレティシアに向いた。


(怖いわ…怖いけど…)


「ルカにこんな殺気を向けられてたら、ロレシオだって忠義が鈍るわ…それに紋章だってうっすらと出ているじゃない」


「だから?」


「だから? って…ルカが何に対して怒ってるかわからないけど、私にまでそんな殺気を向けるんだから、ルカこそ私を裏切るつもりじゃないの!?」


 恐怖から思わずレティシアがそう言うと、ルカの殺気がどんどん薄れていく。


「ニルヴィス、後で再度確認しろ、ハッキリと浮かび上がらなければいつも通り頼む」


「は〜い。任せて〜」


 ニルヴィスがそう言うと、ルカは真剣な面持ちでレティシアの方を向いた。


「レティシア、何があっても俺から離れないって、ここで約束して」


 そう言われたレティシアは腕を組むと、ルカから顔を背けた。


「いやよ。今のルカとそんな約束なんてできないわ」


「そっか…」


 そう言ったルカは、静かに目を伏せた。


「でも、ここで帰ったりしないわよ。それは安心していいわ」


 いまだに震える体でレティシアがそう言うと、ルカは安心をしたのか、彼から出ていた殺気が完全に消えた。


 ここでレティシアがテオドールを探すのに、帰ることを選択すれば一人…もしくはテオドールが来ていた場合、二人でマルシャー領に帰ることになる。

 この村に着くまでに襲撃を受けたのだ、帰りにだって襲撃される可能性も充分に考えられる。

 フリューネ騎士団の団長が、その事も考えず、守るべき主を危険にさらそうとしたのだ、ルカが怒るのも当然の事だと言える。


 ルカの殺気が収まると、必死にブローチに魔力を流し続けていたのだろう、ロレシオのブローチにハッキリとフリューネ家の紋章が浮かび上がった。

 それをニルヴィスが確認すると、ロレシオの肩にポンっと手を置いた。


『ルカ様、ロレシオのブローチにちゃんと家紋が出たよ〜』


「そうか、ならいい」


『良かったね〜ロレシオ。ところでルカ様は、何であそこまで怒ったわけ? 皇帝陛下と何かあったの?』


「皇帝陛下は…、レティシアが精霊と話す事を、知っていた。レティシアだって精霊たちと話す時は、周りを警戒しているのにも関わらずだ…、それなのに知っている。そして今の皇帝陛下は精霊が見えない」


 ルカがそう言うと、今度は部屋の中に緊張が走る。

 レティシアが精霊と会話ができる事を、誰かが言わない限り精霊を見ることができない皇帝陛下が、その事実を知ることはない。

 レティシアが精霊が見えることを知っているロレシオが、疑われるのも当然だと言える。


『お、俺は、皇帝陛下と関わっておりません!』


「それなら、なぜテオドールのことを言ったんだ?」


『テオドールの親から、切羽詰まった様子で、もしかしたらレティシア様を追って行ったかもしれないっと、言われましたので…考えなしでした。申し訳ございません』


 ルカは深い溜め息をつくと頭を抱えた。

 テオドールを探すつもりではあるが、もしこの村で彼が見つかればその後、彼をどうするのか悩んでいるのだろう。

 アルノエはレティシアとルカの護衛と言って連れている、そのためテオドールが見つかったからと言って、アルノエをマルシャー領に返すわけには行かない。

 だからと言って、マルシャー領から誰かが来るのを、のんびりと待つような時間もルカたちには、ないのだ。


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