それぞれの報告
「レティシア、集まりに参加するのか?」
「私の家に関する報告は聞くわ」
「そっか…わかった、また後でな」
そう言ってルカはレティシアの頭を二回手のひらで軽く叩くと、何かを考えるようにして、彼が書斎としてして使ってる部屋に入っていく、レティシアはルカに軽く叩かれた所を触ると、ルカの行動を不思議に思って首を傾げながら、自分の部屋へと入っていった。
レティシアが部屋で、時間になるまで本を読んで待っていると、アルノエがレティシアを呼びに来た。
レティシアが居間へと入ると、既にルカ、ロレシオ、ニルヴィスの三人は、ソファーに座って待っていた。
ロレシオの隣にアルノエが腰掛け、レティシアは空いていたニルヴィスの隣に座ると、手馴れた手つきでお茶を入れていたニルヴィスは、レティシアとアルノエの前にお茶を出した。
レティシアは「ニヴィ、ありがとう」と言って、お茶を一口だけ飲むと、一人用ソファーに足を組んで座ってるルカの方に視線を向ける。
ルカはレティシアの視線に気が付くと、口を開いた。
「消音魔法をかけたから普通に話して平気だ、それぞれ報告を頼む」
ルカがそう言うと、ロレシオは膝の上で手を組み真剣な面持ちで話しを始めた。
「それでは、俺から報告します。早速ですがジョルジュ様の報告によりますと、フリューネ家前当主様の居場所がいまだにわかっておりませんが、エディット様は現在も延命治癒によって生き長らえております。帝都にいるキアス隊からの報告ですが、帝都でおきた奇病の原因は、いまだにわかっておりませんが、エディット様がかかってると言う話が、ごく一部の貴族間で話題にあがっていると報告を受けました」
「あ〜 それはボクも参加したパーティーで聞いたなぁ〜 まぁ、ボクもそれに関する事なんだけど、その事でレティシアちゃんの行方を探してる人たちが、いるみたいなんだよね〜」
ニルヴィスは頭の後ろで手を組んで、いつもの調子でそう言うと、すぐにロレシオが話を続けた。
「あぁ、それに関しても騒いでる貴族たちだ、ダニエル様が帝都の屋敷に入れないのは、どういうことだって騒いだからな。それでレティシア様が姿を消してるから、オプスブル家に連れていかれたんじゃないか? っと疑ってる人もいる」
「あ〜 その騒いだのだって、あの子供の事でしょ〜? でも、リタもジョルジュ様はいまでも、否定してるんでしょ?」
「そうだ、だが違うと証明ができてないんだ」
「ふ〜ん? でも入れないでしょ? だってエディット様の次はレティシアちゃんなんだから。そもそも帝都のタウンハウスは、前当主と現当主そして次期当主の誰かと一緒か、許可がないと入れない決まりのはずだよね?」
「そうだが、皇帝陛下がレティシア様の継承に対して、いまだに認めたとも言っていない。子供がエディット様のだったら継承権問題で、彼が次期フリューネ家当主だ。帝都の屋敷に入る資格は、子供の親であるダニエル様にもある事になる」
(弟ね〜。お母様は、産むつもりがないって言っていたし、生まれた時は、お医者様も産婆様もいなかったと聞いたわ。
それにお母様のおなかも延命器の中で、膨れていたと聞いたけど、正直に言って、お母様が産んでない証拠もないけど、産んだって言う証拠もない。
お母様の子供だと言ってるのはお父様と、出産に立ち会ったと言った教会の人たちだけだし…少なくとも私は、ダニエルが家に居た時に、そういう事は聞いてないんだよね)
「あの、たぬき親父め」
先程まで、会話をただ静かに聞いていたルカがそう言うと、レティシアたちは驚いてルカの方に向いた。ルカは少しだけ苛立った様子を見せながらも、気にするなとでも言うように手を軽く振ると、口を開いた。
「俺からの報告だ。先日、報告も兼ねて皇帝陛下に会ったが、その子供の事も、レティシアの話も、話題に上がらなかった。だから俺からその話をしたけど、のらりくらりと軽くかわされた。それで仕事の依頼をされたんだよ。まぁ、その内容が内容だけに、断る事は出来なかったけど」
「その仕事というのは?」
ロレシオが眉間に皺を寄せて聞くと、ルカは一瞬だけレティシアに視線だけを向けたが、またすぐにロレシオに視線を戻した。
「内容までは言えないが、エルガドラ王国での仕事だ、一つは六年前の続きだと思って構わない……、それで、だ、オプスブル家の事もあって皇帝陛下から提案があった」
ルカはそう言うと、ひと息ついてからレティシアの方を向くと、続きを話し出す。
「陛下からの提案というのが、教会やダニエル様の行動がまったく読めないから、レティシアを一緒に連れていくのは、どうか? って事だった。それで…レティシア、俺と一緒にエルガドラに来てくれないか? 決して安全じゃないが、貴族たちも動き出したのなら、ここに残るより安全だと思うし…正直に言えば俺もその方が安心できる。
それに魔塔に関してもこの国よりも、情報が入ると思う。どうだ?」
そうルカに聞かれたレティシアは、カップとソーサーを手に持つと、お茶を少しずつ飲んだ。
(エルガドラ…確かヴァルトアール帝国の友好国よね。このままマルシャー領に残っても、ルカが帰るまでは、まったり魔法や剣術を鍛えるだけだと思うし、正直…いろいろ情報が足りてないから、行き詰まってるわ。それに陛下の言うように、教会とお父様の行動も読めない…もし今ここで、ここに貴族たちが押し寄せたら皇后陛下にも、迷惑がかかる…それならその方が良いかもね…)
そう考えをまとめたレティシアは、カップとソーサーを机に置くと、ルカの方を真っすぐにみる。
「いいわ、私も行くわ。調べたい事もあるし、もしここに貴族たちが押し寄せて、私がここにいたら、私だってわかる人が居なくても、皇后陛下には迷惑はかかると思うし」
レティシアがそう言うと、ルカはどこかホッとしたような表情をして、また真剣な顔に戻った。
「レティシアありがとう。それじゃ、ニルヴィスとロレシオは引き続きこっちに残って、情報収集を頼む。ニルヴィスは引き続きパーティーとかに顔を出してくれ。ロレシオは、騎士団の方と連携を取りながら、帝都の病とエディット様の事を頼む。
俺がエルガドラに行けば、また連絡がつかない状況になるかもしれないが、こっちから連絡ができる時は連絡を入れる。アルノエは悪いけど俺に、ついてきてくれ」
「かしこまりました」「わかったよ〜」
「あの!!! オレ空気になってましたがちゃんと報告が、ございます! レティシア様に言われて、ダニエル様の愛人について改めて調べたのですが、彼女に一人娘がいるのは、以前にも報告を受けてると思うので省きます。…少し気になる名前でしたが…」
アルノエが気まずそうに、レティシアを見ながらそう言うと、レティシアは片眉をあげて不満げに口を開いく。
「なによ? 気になるじゃない」
「…少々申し上げにくいのですが、お名前が ″ ライラ ″ だったので今のレティシア様と似てるなぁっと…」
「あら、子供にはなんの罪もないわ? 私に牙を剥かなければ気にしないわよ」
アルノエの話を聞いたレティシアは、どうでも良いと思いそう言うと、アルノエは安心したような顔をした後、続きを話し出した。
「それなら、大丈夫です! では報告を続けます。その愛人というのがラコンプ家の娘でしたが、彼女はラモルエール家やロワール家と親しい間柄だと思われます」
アルノエがそう言うと、ルカは肘掛に頬杖をつきながら、アルノエの方を見たが、その瞳は氷のように冷たかった。
「親しいとは、どの程度だ?」
「頻繁にお茶会へと呼ばれるくらいには、親しい間柄だと思われます」
「…なるほどな、そうなると最悪ラコンプ家は、魔塔とも繋がってるわけか…」
「そうだと思われます」
「後で、オプスの方でラコンプ家の周囲を探るように行っておく、お前たちはラコンプ家から手を引け、フリューネ騎士団が動いた事によって、これ以上エディット様の身を危険には晒せない…それとレティシア、アルノエ、良くやった」
(お母様の病にも、魔塔が絡んでるならあの指輪に秘密があった事に、納得がいくわ…、私が調べたい事でもあるし…、でも、もしそうなら双方の利害が一致する目的は何??)
「他にないなら、今日は以上だ。今月末にはエルガドラに出発する、帰国は仕事が片付き次第だ」
「りょ〜かい」「承知しました」「承知しました!」
(教会に続いて、魔塔ねぇ…)
話し合いを終えてレティシアが部屋へと戻ると、部屋の中央付近に座って自分の周りに、魔力遮断結界を張り、透明化魔法と陰影魔法そして消音魔法を使って、フリューネ家の自室で魔力を溜めてた頃と同じように、準備をしていく。
ただあの頃と違うのは、宝石のほとんどをフリューネ家の書庫に置いてきたため、宝石に溜めることはせずに、ただギリギリまで放出していくだけだ。
(お母様…今回の報告でも生きていたわ…お母様を救うのに、後どのくらい猶予があるのかしら…)
レティシアは今もあの頃と変わらず、魔力量と魔力コントロールを磨いている。
まだ間に合うなら、エディットを助けたい…そう思いながら。




