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旧作✿現在非公開中  作者: 元・深 夜 現・雪闇影
3章
61/116

初夏の薫りと進む時間

 

 初夏の薫りが心地よいこの時期、魔の森に面してるこのマルシャー領の空気はより一層澄んだものとなり、風に乗って木々の香りが運ばれてくる。

 小さな泉は太陽に照らされ、宝石のように煌めくとその周りを鳥や虫たちが飛び回る。

 そして精霊たちは誘われるように、魔の森に近い泉まで姿をみせて楽しそうに語る


 あの日から五年。

 レティシアは、八才になっていた。


 自分の幸せのためにレティシアは、現在もエディットに出来る事を手探りで探しながら、生きている。



 ◇◇◇



『みんなは、元気だね』


『げんきー!』『ねぇ! 今度森に遊びに来てよ!』

『そうだよ!』『遊ぼ! 遊ぼ!』


『ふふふ、そうね、間の森に行けたら遊びに行くわ』


『わーい』『わーい!』『約束だよ!』

『やくそく! やくそく!』


『私が行ったら、森を案内してね?』


『あんないするー!』『する! する!』

『森で遊ぶー!』


『そういえば、なんか新しい事とか、変わった事とかあった?』


『街の方で夏のお祭り、準備してたよ!』『してた!』

『うん! うん!』『お花! 咲いた!』『さいた! さいた!』


『そっか〜もうお祭りの時期なんだね』


『そうだよー!』『そう! そう!』

『あー!』

『いつものこ、きたー!!!』『きたー! きたー!』

『かえるー! かえるー!』『またね! また話そ!』


 人が来る気配を感じた精霊たちは、そう言いながら楽しそうに森へと帰っていくのをレティシアは残念そうに見送った。

 エディットがレティシアを逃がした理由に、精霊が関わっていたのだと、少し経ってからレティシアはルカに聞いた。

 延命治癒を行うには、教会の力を借りなければならなかったが、その教会がレティシアか精霊が見えると分かれば、連れていかれるのをエディットは危惧したのだ。


(はぁ……今日も、ほんのちょっとしか、お話できなかった…いつも、シッポみたいに付きまとうから、精霊たちとも世界とも話す時間をなかなか作れないのよね)


 溜め息をつきながらガックリ肩を落としたレティシアがそう思っていると、後ろからレティシアを呼ぶ声が聞こえてくる


「ララー! ララー! あーー! もう! ララ! こんな所にいた! 僕、ララの事をずっと探してたんだからね!!」


 そう言いながら走ってきたテオドールは、泉の近くに座ってるレティシアに抱きつくと、彼の鼓動の速さと微かに香る汗の匂いで、レティシアは彼が本当に自分の事を探していたんだとわかる。


「別に遊ぶ約束とかしていないじゃん、テオにそう言われても困るよ」


 レティシアがそう言いながら、テオドールの乱れたサラサラのブラウン色の髪を手でとかしながら整えていくと、テオドールは頬を膨らませながらレティシアから離れ、持っていた袋をレティシアに差し出した。


「約束してなくても、いつも一緒だからわかってるでしょ? なんで僕の事を置いてくんだよ! これ、ジャンからだよ!」


「持ってきてくれてありがとう、いつも一緒だけど、たまには一人になりたい時だってあるじゃない? テオも食べる?」


 レティシアは袋を受け取ると、その袋から一枚のクッキーを取り出しテオドールに差し出すと、彼はレティシアの隣に座って「ララ、ありがとう」っと言ってレティシアからクッキーを受け取って美味しそうに食べるので、レティシアは嬉しそうに微笑んで袋をテオドールに差した。


「もっと食べるなら、どうぞ」



 五年前のあの日、移動魔法陣でオプスブル領へと着いたレティシアたちは、報告も兼ねて一度ルカの家に立ち寄った後、リタとリタの姉である皇后陛下の故郷であるマルシャー領へとやって来た。


 マルシャー領に向かう馬車の中で、ルカの叔母であるレクシアに姿を隠した方がいいのでは? と言われ、レティシアは前世で姉のように慕っていたララを思って ″ ララ ″ と名乗る事にし、レクシアが作った薬を飲んで、髪色と瞳の色をブラウンに変えた。


 数日かけて魔の森と国境に最も近いリタの実家に着くと、彼らに暖かく受け入れてもらい、彼らから近くの一軒家を借りてフリューネ家を出発した六人で、現在も住んでいる。


 その家の近くにテオドールも住んでおり、住み始めてからすぐに歳も近い事もあって、レティシアは彼と仲良くなった。

 今では午後になると、テオドールが当たり前のようにレティシアと同じ時を過ごしている。



「午前中もさ、一緒だったら、こんなふうに僕がララの事を探す事もないのになぁ〜」


 テオドールは奇麗な眉を下げて目を細めながら、頬を膨らませてると、不貞腐れたようそう言った。


「私は、午前にマルシャー家に行ってお仕事してるんだから、しょうがないでしょ? そういうテオだって午前中はお勉強してるじゃない」


 そう言いながら、レティシアはひとつクッキーを取って口に入れると、その場で横になって空を見上げる。するとテオドールもレティシアの真似をして横になり、そっとレティシアの手に触れて手を繋いだ。


「ふふふ、ララの手、気持ちがいい」


「ふふふ、テオの手もね」


 そう言って二人は向き合うと少しだけおてごを合わせた。

 レティシアの気持ちが落ち着かない時や、エディットの事で悩んでいた時期にテオドールが彼女に良くこうしていた。

 テオドール自身も気持ちが落ち着くため、いまでも時折こうしている。

 おでこから人の体温と、近くから彼の呼吸を感じると、レティシアは安心した気持ちになり、次第に眠くなっていくのがわかった。


 


「おい、お前らこんな所で寝るなよ?」


 そう言いながらルカがやって来ると、テオドールが勢いよく起き上がった。


「ルカにー! おかえりー!!! ねぇ、僕に剣の稽古つけてよ!」


「あぁ、テオドールただいま。剣の稽古ならいいよ」


「やったぁー!」


 ルカがそう言うとテオドールは嬉しそうに立ち上がり、レティシアに手を差し出して「行こう、ララ」っとにっこり笑って言うと、レティシアはコクンっと頷いて、テオドールの手を取って、一緒にルカの元へ歩いていった。


 


 この五年で色んな事があり、ルカやジャンそして騎士団の三人が仕事などで、レティシアに寄り添ってあげられなかった時も、テオドールが常にレティシアのそばで、レティシアを支えていた。そのためあまり深く関わると危険だと思いつつも、ルカは負い目を感じてテオドールと距離をとる事が出来なかった。

 だからこうして頼まれれば早めに帰ってきた時や、仕事に行かない時は、テオドールに剣や魔法を教えている。



「ララも、剣の練習するだろ?」


 ルカにそう聞かれたレティシアは、木剣を手に持ち笑って剣先をルカに向けた。


「もちろん! ルカにいつか ″ 降参だ ″ って言わせてみせるんだから!」


「はははっ! まぁ、今日は余り遅くならないように早めに切り上げるから、悪いなテオドール」


「ううん! ルカにぃに教わるなら少しの時間でも、僕は嬉しいから!」


 テオドールのブラウン色の瞳は本当に嬉しそうに輝くと、ルカに向かって木剣をふっていた。


(ルカって本当に教えるのもうまいよね…テオの飲み込みも早いし、私もいざって言う時に逃げられるようにだけは、しとかなきゃね…それと…ルカの様子からして今夜は報告会かな…)




 ある程度、練習で疲れたレティシアが座っていると風が吹いて木々の囁くような声と一緒に鳥たちが巣へと帰っていく声が聞こえた。

 レティシアはそれを聞きながら、夕日に照らされる二人の少年を楽しそうに眺めていた。


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