大切に思う気持ち
ルカは腕を組んで壁に寄りかかると、不機嫌そうに眉を寄せながら、黙ってうつむいているレティシアに視線を向けた。
「なぁ、お前バカなのか?」
「……」
「何かあったら、ブローチで知らせろって言ったよね俺?」
「……」
「黙ってないで、なんか言えよ」
「ルカ様、今はレティシアちゃんも感情的になってるから、もう少し落ち着いてからにしよ?」
ニルヴィスがそう言って話を中断させようと会話に割って入ったが、レティシアはうつむいたまま、吐き出すように話し出した。
『帰れって言ったら殴られただけだよ』
「あぁ、聞こえてたよ? それで?」
『お母様が、アイツと離婚する気で他の男の人とあってるって……お母様は…私を捨てるつもりだって……』
レティシアは、ダニエルに言われた事をルカに伝えると、ルカは鼻で笑った。
「有り得ないだろ」
『わかってるよ……でも我慢できなかった……』
「はぁ……一人にするんじゃなかった……」
落ち込んだように肩を落としてうつむいている、レティシアをいつまでも見ていられなくなったのか、ルカはそう言うとレティシアに近ずいてしゃがむと、レティシアの頬に優しく触れた。
そしてルカは少しだけレティシアの顔をあげさせると、レティシアは泣くのを我慢するような、それでいて今にも泣き出してしまいそうなそんな表情をしていた。
「アルノエ、騎士団の方に回復薬がなかったか? あったら持ってきて、ロレシオは、ジョルジュにこの事を報告してきて」
「「畏まりました」」
ルカにそう指示されたアルノエとロレシオは、急いで部屋を後にすると、ルカはレティシアの頬を時折親指で優しく撫でながらレティシアに再び話しかけた。
「防げただろ、何でわざわざ受けた?」
『防いだら、次の瞬間には殺しちゃうかと思ったから……結局……同じだったけど……』
「痛いだろ?」
『お母様に捨てられるって一瞬でも考えた時の方が痛かった……』
「……なぁ……レティシア、頼むから……今度からは、もっと自分を大切にしてくれ」
今にも泣きそうな表情をしてルカがそう言うと、レティシアは何も言えなくなる。
そんな雰囲気に耐えられなかったのか、ニルヴィスが雰囲気を変えるように明るめの声で話し出す。
「そうだよ〜 レティシアちゃんの殺気もヤバかったけど、ルカ様やノエとロレシオとかも、レティシアちゃんの頬を見た時もヤバかったんだからね?」
「ニルヴィス、お前だって変わらないだろ」
ニルヴィスが言った事に対しルカはそういい返すと、それを聞いていたレティシアは、ルカから視線をそらして目線だけ下げた。
『ごめんなさい……後で二人にも謝らないとだね……』
『あら、やっぱりまた壊れたわ 』
突然レティシアが着けているピアスから、エディットがそう言ったのが聞こえると、レティシアの鼓動は大きく跳ね上がった、そしてルカの方に視線を向けるとその出来事をそのままレティシアは口にした。
『ルカ……指輪が壊れた』
「……回収するか?」
レティシアの頬を親指で撫でながら悲しそうな目をしたルカがそう言うと、レティシアがピアスから聞こえている状況を伝える。
『いや……アイツがちょうど部屋にいて回収してる……』
「……夜に忍び込んで盗るか?」
『……そんな時間もくれないみたいよ、今から帰るって』
「……この後、ジョルジュがエディット様に報告するから、その前にここから出たいんだろうな……」
『多分ね……』
「ボク一応、ルカ様に言われてエディット様の魔力を視てたけど、変わった様子はなかったよ?」
『結局 ″ 同じ ″ ね』
「そうだな……」
(結局、私に接触した理由もよくわからない……。嘘をついてまで引き取りたい理由は? 私が向こうで住めばその分のお金が入るとか? 帝都の屋敷に住めるとか? でもそんな事有り得るの? 後、考えられるの人質とか……?)
そうレティシアは考えると、ダニエルが一人で動いてるように思えなくなり、余計にレティシアの中で謎が深まる。
(一人で動いてないなら、一体裏に誰が居るの? 傀儡にしても、あの傲慢な性格じゃ衝突するでしょ……それとも利害が一致した人がいる? でもどんな目的があって?)
レティシアが考えを巡らせてると、回復薬を取りに行ったアルノエが走って戻ってきた。
「ルカ様、回復薬お持ちしました。あの…オレが塗ってもいいですか?」
「……あぁ」
アルノエがそう聞くと、ルカは不機嫌そうにしながらも短く返事をしてから立ち上がった。ルカがレティシアの前から場所を移動するとアルノエは「ありがとうございます」っと言って、今度はレティシアの前に来ると、しゃがみこみ一度レティシアの顔をみて奥歯を噛み締めるような表情をした。
「レティシア様、痛かったら仰ってくださいね」
アルノエは、手に回復薬を出してそれを、優しくレティシアの頬に塗ると痛ましそうな表情を浮かべた。
『ノエ、痛くないから大丈夫だよ? ノエの方が痛そうだね、ごめんね?』
「いえ、次はダニエル様でも、許さないので大丈夫ですよ」
そう言ったアルノエの表情は、まるで痛みと怒りが混じりあったような表情だった。
『そ、そっか……本当にごめん……』
(うん。全然、いろいろと大丈夫じゃないわね)
アルノエが何度も赤くなってるレティシアの頬に回復薬を塗ってると、こちらに向かって数人の足音が聞こえ、慌てた様子でエディットが部屋へと飛び込んできた。
「レティ!!!」
エディットの顔からは、血の気が引いたように青白くなっていた。
エディットに呼ばれたレティシアは、エディットの方に視線をを向けると、自分の事を心配してくれた嬉しさと、先程ダニエルに言われた事が耳に残っていて、複雑な気持ちのままエディットを呼んだ。
『お母様ッ!!!』
レティシアがそう言うとアルノエがすぐさまその場を立ち上がり場所を移動する。
そしてエディットがレティシアに駆け寄り、膝をついてレティシアの顔を触りながら、眉を下げて苦しそうな表情を浮かべた。
「レティ、ぁあ……ひどいわ、まだ赤くなってる……レティ、ごめんなさい……! 私がルカを呼び出したばっかりに……本当にごめんなさいレティ……」
『お母様は、何も悪くないですよ? 全てあの人が悪いんです』
「でもっ」
『お母様、あの人が言ってました、お母様が離婚して再婚する気でいると……先日……家を留守にしてた時、浮気相手と帝都で私の事が邪魔だと話してたって……』
レティシアは、嬉しさと不安な気持ちを隠すように、できるだけ冷静にそうエディットに伝えると、エディットはダニエルがそうレティシアに言った事が許せなかったのか、眉間に皺を寄せ顔を赤くしてレティシアの方を真っすぐに見つめた。
「そんな事なんてしていないわ!!! 相手が誰だったとか、細かい事は言えないけど、浮気なんてしないわ! レティを捨てるなんて絶対に有り得ないし、仮に養子に出すなら私に何かあった時で、レティのお爺様とお祖母様にお願いするわ!」
『そうですかッ……良かったッ……良かったッ……』
エディットがそう言い切った事でレティシアは、安心してそう言いながら涙が瞳からこぼれ落ちた。
「レティ……私はレティの事を一番に愛してるわ……これは、本当よ?」
エディットは泣いてしまったレティシアを見て、泣きそうな表情をしながらレティシアの頬を触りそう言うと、涙を流しながらレティシアは頷いていた。
『はいッ……わかってます……お母様ッ……大好きですッ』
レティシアはそう伝えてエディットの首に腕をまわして抱きつくと。
「レティシア、私もよ」
エディットもそう言ってレティシアを抱き締め返した。




