ダニエルとレティシア
結局、あれからレティシアの部屋や書庫をダニエルが訪れる事はなかったが、彼は何度か騎士団の方に顔を出して、雪の雫隊の団員に怪我を負わせたとレティシアは聞いた。
あんな人でも、一応フリューネ家の一人なんだと思うと、レティシアは頭を抱えたくなる思いだった
(本当、何でお母様あの人と結婚したんだろう…)
「レティシア、俺ちょっとエディット様に呼ばれてるんだけどさ、アルノエ達の誰か呼ぶ?」
ルカに話しかけられ、窓辺の椅子に座って本を読んでいたレティシアは、本からルカへと視線を向けた。
『んー良いよ、一人で待ってるよ』
「そっか…何かあったら騎士団でもらったブローチを使って、俺も持ってるから」
『うん! ルカ、行ってらっしゃい!』
「行ってくるね」
(お母様が、ルカだけを呼び出すなんて珍しいわね…)
レティシアは不思議に思いながらもルカが出て行くと、また読んでいた本に視線を戻して続きを読み始めた。
ルカが部屋を出て行って少したった頃、不意にドアの向こう側から人の気配がし、レティシアの鼓動はドクンッと大きく脈を打つと、一人の男性がノックもなしにレティシアの部屋へと入ってくる。
レティシアは横目で入ってきた男性を見ると、冷ややかな視線を向けた。
(さぁ、あなたは何を語るのかしら?)
「ぁあー…いたいた、レティシア! 君に会いたかったんだよー!! 初めましてかな? 君のお父さんだよ」
(いや? あなたとは一度お会いしてるんですけどね?)
そう心の中で思うも顔に出さないで、レティシアは椅子から立ち上がり本を椅子に置くと、笑顔の仮面をつけて子供らしいカーテシーをした。
「はじめまして、レティシア・ルー・フリューネです」
レティシアの態度にダニエルは少し驚いた様子だったが、少しだけにんまりすると小さく鼻で笑った。
「初めまして、レティシア、君と話がしたかったんだけど、なかなか会えなくてね、少し話をしないか?」
(ふふ、ただの子供と思ってくれたみたいね)
「いいよっ!」
「そっかそっか、こっちにおいでレティシア」
レティシアはそう言われ、ダニエルが居るソファーの近くまで歩いて行くと、彼の向かい側にあえて座った。
「実はね、君に言わなきゃ行けない事があるんだよ」
「なぁ〜にぃ〜?」
そう子供らしく言ったレティシアは、不思議そうな顔をしながら首を傾げるとダニエルは、一瞬満足気な顔をしてから悲しそうな顔をした。
「お父さんね、お母さんがなかなかレティシアと合わせてくれなかったから、今日まで毎年誕生日の一週間しか、この屋敷に来られなかったんだよ。それで、今まで会いに来なくてごめんな?」
「んーん!」
「レティシアは、エディットの娘なのに優しいんだな。レティシアのお母さんをあまり悪く言いたくわないけど、お父さんにも冷たいし、お母さんはレティシアをこんな屋敷に閉じ込めてるんだよ…。本当は帝都にも屋敷を持ってるのに、一度もレティシアは行った事がないだろ?」
「うん、ない!」
「そうだろ? お父さんも心苦しいんだよ…レティシアが帝都に来たら毎日会えるのに、お母さんはレティシアとお父さんがこうやって話すのもよく思ってないんだ…ごめんな?」
「んーん」
「レティシアは、賢いんだな」
そう言うとダニエルは立ち上がりレティシアの隣に座ると、レティシアの頭を撫でたが、ダニエルのその手からレティシアは、優しさを感じとる事はなかった。
レティシアはダニエルがなぜ自分と会いたがっていたのか、知りたいという思いと少しでもこの不快な時間を終わらせたくて話を切り出した。
「よーじなーに?」
「ぁあー、実はねレティシア、君に妹がいるんだよ! 今度さ帝都に来て会ってあげてくれないか? その時にレティシアの新しいお母さんも紹介するよ」
「…」
「レティシアには、妹と新しいお母さんが居るんだよ。新しいお母さんはレティシアをこんな所に、閉じ込めたりしないし、レティシアの欲しいと思った物を何でも買ってくれるよ? 妹もレティシアと二ヶ月しか変わらないから、きっとすぐ仲良くなれるよ! あの子は本当に可愛くて優しい子なんだよ、大丈夫だよ! レティシアが人見知りでも、あの子ならきっとレティシアと仲良くなれるから。そもそも、レティシアが人見知りなのは、エディットの責任だよ、こんな屋敷に閉じ込めて可哀想に」
ダニエルは、そう言うとまたレティシアの頭を撫でる。
(親に触れられて、こんなに不快な気持ちになるのも久しぶりね)
「なぁ、レティシア、お父さんと一緒に帝都で暮らさないか?」
「なんでー?」
「その方が楽しいからだよ? こんな所でエディットに閉じ込められてレティシアも嫌だろ?」
「んーん! たのしいよ?」
「でも、エディットはレティシアを置いて、お父さん以外の男と出歩いてるんだよ? レティシアは、それでいいのかい? お父さんならレティシアにそんな思いをさせないよ?」
「…」
「ほら、レティシアだって嫌だろ? レティシアは、知らないかもだけど、お母さんねお父さんと別れて、新しい人と結婚するのにレティシアが ″ 邪魔 ″ だからレティシアを ″ 養子 ″ に出そうとしてるんだよ…レティシアは知らなかっただろ? こないだお母さんが、何日か家を空けただろ? その時お母さん帝都に来てて、偶然お父さんその話を聞いちゃったんだよ…だからそうなる前にレティシアと話さないと! って思ってね」
(邪魔じゃない…お母様は私の事を愛してくれてるわ!!)
「レティシア、捨てられるくらいなら、お父さんと一緒に帝都で暮らそう」
レティシアの鼓動がドクンッドクンッと大きく脈を打つと、それと同じくらいにドンドンどす黒い感情が溢れそうになる。
「…」
「ぁあ〜 可哀想なレティシア、大丈夫だよ、お父さんの所においで? そしたら新しいお母さんと妹がレティシアを歓迎してくれるよ! それに大丈夫だよ、お父さんはレティシアを捨てようと思ってるエディットの所になんか、レティシアを置いて行ったりしないからな」
そう言ってダニエルはレティシアの頭に手を伸ばすが、手が届く前にレティシアが口を開いた。
「かえって…」
「ん?」
レティシアは一言それだけ言うと、ソファーから勢いよく立ち上がりドアの前まで走って行く、そして今度はドアを指さして叫ぶように言う。
「おかあさまの、わるぐちをいう、おまえなんか、かえれ!!!」
「俺に対して、ガキの癖にどんな口の利き方してるんだっ!」
ダニエルは顔を真っ赤にして、そう怒鳴りながら立ち上がると、レティシアの頬を力いっぱいに叩いた。
叩かれたレティシアは飛ばされる形になり、勢いよく床に倒れ込む。
(いったぁあ……子供にすら手を上げるのね)
レティシアはゆっくり体を起こすと、ドンドン殺意のこもった感情が溢れでる。
(はぁ…もうこの屑…もう、いいか、そもそもこいつが居なくなれば、お母様の事で心配しなくて済むよね? そうだよね? 何でこいつに毎年、私が脅えなきゃ行けないのよ)
レティシアはゆっくりと立ち上がると、ダニエルに向かって右手を向けた、その瞳は淡く光を帯びていくと、それに合わせて右手に魔力が集まっていく。
「悪いんだけど、ダニエル様帰ってくんない?」
「そうですね、帰ってほしいですね」
ハッとした様子でレティシアは声がした方を見ると、ルカとアルノエがドアの所に立っていた。
「レティシアちゃん大丈夫?」
そう言いながらニルヴィスがレティシアに駆け寄ってレティシアに怪我がないか、ドレスから出ている部分を確認した。
「ダニエル様、今日の所はお引き取り願います」
高圧的にロレシオがそう言うとダニエルは、脅えて逃げるように部屋から出て行った。
(二度と来んな!!!)
ダニエルの後ろ姿を睨みながら、レティシアはそう心の中で叫んだ。




