今年もまた。
レティシアの誕生日前日に例年通り、ダニエルがフリューネ領にあるこの屋敷へと訪れた。
相変わらず、玄関ホールに入るとエディットと二人きりになりたいのか、エディットの部屋へと入るとリタに退室命令する。
レティシアは出迎えをせず、レティシアの部屋でソファーに座ってルカと一緒にピアスから入ってくる音に耳を傾けていた。
◇◇◇
「エディット、会いたかったよ」
「…そう? それならもうちょっと帰ってきてもいいと思うのだけど?」
「俺も、忙しいんだよ、ほらっ! これまた改良してみたんだ…着けてもいいかな?」
「えぇ…ねぇ、ダニエル、今回は壊れないわよね?」
「あぁ、あれからも研究を続けてて、今回は自分で言うのもアレなんだけどさ、結構自信があるんだよ」
「それならいいのだけど、また壊れてしまったらどうしようかと思うと何も出来ないわ…」
「大丈夫だよエディット、今回は壊れたりしないさ」
「そお?」
「さすがに毎回のように壊れてたら、研究費もかさむからね! 大丈夫だ信じてくれエディット」
「わかったわ…」
「ありがとうエディット、愛してるよ」
◇◇◇
『渡したわね』
「あぁ、一緒だな…後で三人にエディット様の魔力を観察しておくように伝えとく」
『ルカ、ありがとう』
「はぁー…キアス隊が帰ってたらもうちょっと楽何だけどな…」
ルカはソファーに寄りかかりながらため息をついて、そう言うとレティシアはルカの方を見て答える
『仕方がないよ、帝都の問題が片付いてないんでしょ? ルカとフリューネの皆が居てくれるから大丈夫だよ』
「んで? これからどうする? 書庫に行くか?」
『そうね…動くの四日目とかだと思うから、書庫に行こうと思う…一応昨年と同じように、勝手に入られたりしないようにするけどね』
「その方がいいな」
レティシアは、机の上に置いたピアスを手に取ると自分の耳に着けて書庫へと足を運んだ。
「そういえば、一昨年と違って金の話しなかったな」
本を探していたルカが思い出したかのようにレティシアにそう聞くと、レティシアはお目当ての本を探しながらこたえる
『去年もしなかったよ、その代わりに私を探し歩いたみたいだけど』
「ふ〜ん? じゃ今年も探しそうだね」
<ガチャガチャガチャガチャ>
「「!!!」」
突然、書庫内のドアを開けようとドアノブを激しく、何度も回す音が響くように聞こえ、全く警戒していなかったレティシアとルカの二人に緊張が走った。
「っんだよ! また部屋はあかねーし、ここもあかねーのかよ!」
(今回は早いわね…まだ初日なのに来たってことは、去年も初日に部屋を確認したの?? あー! もう!!! アンナにいつお父様と接触したか聞いとくべきだった!)
「去年のメイドもいねぇーし、ガキにあのメイドをつけろって言ったのに本当に使えねぇ女だよな、あのガキ騎士団の方にまたいるんじゃねぇだろうな…、クソッ!」
ドアを勢いよく蹴る音が聞こえ、人の気配が遠ざかっていく。
「お前、あんなのと本当に直接話すのか?」
唖然とした様子でルカがそうレティシアに聞くとレティシアは、面倒くさそうに口を開いた。
『去年は、リタに殴りかかったわよ…』
「はぁ? それであいつまだ生きてんの???」
『そうよ、お母様が止めたからね。後で知ったわよ、リタがオプスブルから来た人だって、それで納得したわ殴られたのに、怪我のひとつもしてなかったからね』
ルカが驚いたようにレティシアに聞くとレティシアは、淡々とそう答えた。
「……」
『何も言わなくていいよ。言ったでしょ? 別に言わなくていいって、でもリタとパトリックがそちら側だって分かって正直に言えば安心したのよ…さすがにリタとパトリックが裏切り者だったら、その場で私が彼らの時間を止めたからね』
「レティシアは俺の事、嫌になったりしないの?」
ルカは俯きながらそう言うと、レティシアは首を傾げてルカに聞く。
『なんで? 人の命を奪うから? 人の秘密を暴くから?』
「……」
何も答えないルカを横目にレティシアは、一冊本を手に取りページをめくりながら話を続けた。
『正直さ…どうでもいいのよ。私に関係ない所で、私の知らない誰かが死のうが生きようが…そもそも、それを気にして生きてる人なんていないと思うの、きっと今日も、この世界のどこかで誰かが死んで、誰かが産まれてる、そして誰かが誰かの秘密を握っているんだよ、そんな事を全部気にしながら生きてる人なんていないでしょ?
私は私の護りたいものを護る。
もし、誰かが私が護りたいものを傷付けるなら、私がそいつを処刑台まで送ってあげるよ。そう思ってる私をルカは、嫌だと思う?』
そう言ってルカの方をみたレティシアは、首を傾げながらニッコリとルカに笑いかけた。
「…いいや、思わない」
『でしょ? それと同じだよ、人って冷酷になれるんだよ…大切な者を本気で守りたい時や失ってしまった時って…』
「そっか…」
『ルカもその一人だからね…信じてるよルカ』
「あぁ」
ルカはそう短く答えると、顔を上げて静かに本を取ると読み始めたので、レティシアも本の続きを読んでいく。
(ルカは優しい…それにまだ子供…。それでもこの先、彼が彼の運命から逃げる事を決して誰も許さない。どんなに血塗られた道でも彼は進むしかない、この帝国がある限り…そしてルカがルカとして生きている限りそれを背負っていくしかない…それが闇で生きる人の運命)
一度でも助けたいと思った少年が、簡単に助けられない場所に居るのだとわかっているからこそ、レティシアはそう思うと胸に鈍い痛みを感じた。




