それぞれの思い
その後ルカは、留守の間にたまってしまった報告を聞くためと、モーガンを連れてくるために一度オプスブル領へと帰り、一週間後には再びフリューネ家に戻ってきて、モーガンに話し合いの場を作らせた。
その際、久しぶりにレティシアもエディットと顔を合わせる事となり、少しは気持ち的に落ち着きを取り戻したようだったが、話し合いの場でレティシアとルカは、エディットの頼みによって部屋から退室しなければならず、それに対してレティシアは不満に思う気持ちと、久しぶりに見たエディットの様子に異変が見つけられなかった事に安堵し複雑な気持ちになった。
『ねぇ、ルカ、変だと思わない?』
「何が?」
『護衛をルカがするって話で決まってるのに、わざわざ私たちを部屋から退室させる理由は?』
「子供に聞かせられない話があるんだろ? 初めて俺がお前の護衛に着いた時もそうだったし、なんか気になるのか?」
レティシアはルカにそう言われると、考えるように顎を指で触る。
(子供に聞かせられないってのは、ルカが頭領だと知らないからよね…? お母様の体調に変化は、見つけられなかった。 でも、オプスブル家から話し合いの場を設けなかったら、そもそも、この話し合いもされなかった? なぜ…? お父様から手紙が本当に届いてない? それじゃ、なぜ前回帰り際に今年も来るって言ったの?
もしかして、お母様がお父様のことを許して、お父様に気持ちが戻った…? いやいや。愛人と子供がいる人だよ?
……それとも、もともとそこら辺の感覚が私と違うの?)
『…ルカ、後でこの話し合いの内容を私も聞ける?』
「俺に、あの人たちが隠し事をしなければな」
(隠す可能性もあるって事を、ルカは視野に入れてるのね…)
「わかった。聞けたら教えてほしい、ルカが教えられる範囲で大丈夫だから…」
レティシアは、そう言うと再び先程の事を考えながら歩いて庭園へと向かった。
庭園に着くとレティシアは宙に向かって、はぁーっと息を吐くと、体温で暖められて空気は、冷たい空気の保有できる水分量を超えて細かい水滴となって姿を表す。
(いつもより、静かに感じる……)
そう思ってレティシアは小さくつぶやくように静かに言う
「もうすぐ、はるね…」
「あぁ、もうすぐお前の誕生日だ…」
(一才の誕生日から見えない違和感がずっと付きまとう…今年は、ルカがまた隣に居てくれる…大丈夫、ノエもニヴィもレオも居てくれる…大丈夫…大丈夫よ)
今にも泣き出してしまいそうな不安な気持ちを抱えて、宙を見つめるレティシアの様子を見ていたルカは、レティシアを抱き上げると同じように、はぁーっと宙に向かって息を吐く。
そしてただ、庭園の風景を目に焼きつけるように、しばらくの間二人でその光景を静かに眺めた。
「レティシア……」
「んー?」
「いや、なんでもない…また今度ちゃんと伝えるよ」
「そっか」
「そろそろ、部屋に戻ろう。話し合いも終わってる頃だろ」
「そうだね」
ルカはレティシアに何かを伝えようとして辞めた。
そんな彼の表情からは、それが何か読み取れず、またそれをレティシアは、気にする様子もなかった。
応接室に戻ると、話し合いが終わっていたのか誰も残っておらず、レティシアとルカはそれを確認すると、騎士団の執務室へと向かう。
騎士団の執務室にたどり着くと、中にはジョルジュとモーガンも居て先程の話をアルノエ達と聞く事となった。
「で?手紙は届いていたのか?ジョルジュ」
足を組んでソファーに座ってジョルジュに渡された資料を見ながら、幼い少年の顔から頭領の顔に変わったルカが、そう聞くとジョルジュが答える。
「手紙は、届いておりました。」
「なんで連絡が遅れた? 俺と連絡が取れなくてもお前には、騎士団に報告する義務はあったと思うけど?」
「私もエディット様に言われた仕事がありましたので、騎士団への報告が遅れました」
(久しぶりに会ったジョルジュの顔に、疲労の様子がうかがえるけど、それでも報告をしなくて良い理由にはならないわ)
「手紙の内容でそうなったのか?」
「はい。手紙にはアンナの事が記述されており、彼女をレティシア様の専属侍女にするのは、どうかと記述されておりました」
「なるほどな。それで俺に連絡が取れなくて違う専属侍女を要請しに行ったのか?」
「いえ。そちらは以前にレティシア様によって拒否なさいましたので、そのような事は御座いません。ただ…アンナの事が厳しい様でしたら、レティシア様を騎士団の宿舎に滞在させるべきではないと…
レティシア様が騎士団の宿舎に、ご滞在なさっていた事を、ダニエル様は快く思っておらず、騎士団を別に移転するべきだと提言なさっていらっしゃいました。
その事で帝都に行ったりしておりましたら、報告が遅くなりました」
「皇帝陛下から親書を頂けたんだな?」
「はい。先日親書を頂けた所にルカ様がご帰還されました」
「なるほどな」
(ふーん。力じゃ勝てないから騎士団を排除したいって所かな?)
「何日頃来る予定なんだ?」
「滞在なさる日取りは、レティシア様のお誕生日一日前からと、前回と変わりません」
「そうか、三人にも既に言ったが、今回表向きは俺がレティシアの護衛に着く、三人にも引き続きレティシアの護衛をしてもらうつもりでいる」
「承知いたしました」
「それでだ…、エディット様の様子はどうだ?」
先程まで資料から視線を外す事も、表情や姿勢も変えることもなく、淡々と会話していたルカが一瞬レティシアを見てジョルジュにそう聞くと、ルカと同じように表情や姿勢を変えなかったジョルジュの瞳孔がわずかに開いた。
「私から申し上げる事はいたしかねます」
「ふーん? ならもう下がっていい」
「失礼いたします」
そう言ってジョルジュは頭を下げて、モーガンと共に執務室を後にした。
(やっぱ、お母様の体に何らかの変化があったのね…)
そうレティシアは思うと、理由がわからない不安な気持ちが大きくなって言ったのである




