不安と月明かり
いつもの様に、レティシアが夜の鍛錬へと向かう。
ただ以前と違うのは、アルノエ達に話してから彼らの誰かが、交代で付き添ってくれることだ。
書庫の扉を静か開けて中に入ると、お気に入りの場所にアルノエが布を床に敷いてくれる。
そしてレティシアは、その上に座った。
『ありがとう、ノエ』
「いえ。オレは、本を読んでます。異変があったら教えてください」
アルノエはそう言ってレティシアに何かあっても駆け付けられる場所に座り、魔道具のランプで手元を照らしながら、本を読み始めた。
レティシアはいつものように、一呼吸すると宝石に集中し魔力を溜める。
魔力コントロールの制度が、あがった事や、アルノエ達の誰かと書庫でやっているので、結界を張る必要もなく、帰りの心配もなく、レティシアは魔力量のギリギリだけを見極めれば良くなった事で、効率が良くなり、以前に比べて半分の時間で済んでいる。
(魔力コントロールも魔力量も上がって、効率が上がってる…まだ幼い幻獣か聖獣どっかに転がってないかなぁ…)
そうレティシアは思うが、幻獣や聖獣は契約出来たらそれだけで幸運な事と言われているぐらい珍しく、簡単な話じゃない事もレティシアは理解してる。
(精霊と契約するにしても、低級、中級だとそもそも、偵察に向いてないしなぁ…)
「はぁ…」
そうため息をつきながら、使う分の魔力量を出し切ったレティシアは、横になった。
それが合図だったかのように、アルノエは本を閉じて本棚へと戻すとレティシアの方へとやってくる。
「レティシア様、お疲れさまです。ゆっくりお休みください」
そう言いながら、片膝を付いてレティシアを横抱きに抱えると、床に敷いた布を器用に畳み拾い上げた。
「ねぇ。ノエ…あした…おかあさまに…あえる?」
「そうですね…。近頃は、お忙しそうなので、少々難しいかもしれませんね…エディット様に前もって予定を合わせないと厳しいかもしれません」
レティシアが少しだけ寂しそうに言うと、アルノエはエディットの予定を頭の中で考えてそう答えた。
「そっか…」
(忙しいなら、仕方がない…わがままは言えないもん…)
そうレティシアは思い、無意識にアルノエの洋服をギュッと掴んだ。
「さっ、部屋へと戻りましょう」
レティシアの様子に、一瞬胸を痛めたような表情をしたアルノエは、そう言うと書庫を後にした。
レティシアは、近頃エディットと会えずにいる。
午後のテラスで過ごす時間や、食事の時間といった、前から一緒だった時間が減りレティシアは、寂しいと思うと同時にエディットの健康状態が、毎日確認できない事に不安を覚えていた。
レティシアは、ジョルジュやリタに会うと、エディットの様子を聞いてみるが、彼らから見たレティシアの行動は、子供が親を恋しがってるようしか映らず、レティシアがほしいと思う情報が、入ってくる事はなかった。
その事で、レティシアは焦る気持ちが大きくなり。
ニルヴィスとの戦闘訓練では、どこまでできるのかと全力を出して戦おうとしたり、ニルヴィスに対して、レティシアは彼を困らせる行動を取るようになってきた。
それでも戦闘訓練でロレシオやアルノエが止めるので、全力が出せない事もあり、余計に幻獣や聖獣との契約を考えるようにもなった。
「だいぶ冷えてきましたね」
部屋へと帰る途中、アルノエが足を止めて外を見ながらポツリと言うと、レティシアもアルノエが見てる方向に視線を向ける。
窓の外には月が出ており、暗闇を優しく照らしていた。
「そうだね、もうすぐ、ふゆのきせつ…」
レティシアがそう言うと、アルノエは外を眺めたまま、再び話しはじめた。
「レティシア様、このフリューネ領、帝都セーラス、オプスブル領には、同じ冬の時期に同じお祭りがある事ご存じでしたか?」
「んー。くわしくしらない」
「そうですか。このお祭りは、精霊に感謝を伝えるお祭りです。当日お菓子や小さい玩具を窓辺に置いておいたり、玄関にかけていると精霊達が持って帰ると言われてます。
そして精霊が訪れた家には、ささやかな幸せが訪れると言われております。
今年、レティシア様もやってみましょうね…。
きっとレティシアにとって、小さな幸せが訪れますよ。
そろそろ戻らないと、寝る時間がなくなりますね、すみません」
アルノエはそう言いながら、レティシアに優しく笑いかけると、また部屋へと歩みを進めた。
(精霊達のお祭り…始まりはなんだったんだろう…精霊達もお菓子がもらえる事しか言ってなかったんだよなぁ…そもそも、庭に精霊も居るし…今度お菓子をあげたら…お母様の様子…見てきてくれるかな……)
レティシアはそう思いながら、静かに目をつぶって少しずつ深い眠りへと落ちていった。




