恋に溺れし者
日差しが溢れる初夏の匂いが漂ってきてある日。
訓練後に騎士団で会議が開かれる事となり、会議に参加ができないレティシアは、一人で時間を潰そうと考えていたが、ニルヴィスがレティシアを連れて庭園で過ごしていた。
アルノエと過ごす時間も多いが、ニルヴィスが色々と気にかけてくれるのでレティシアは、彼と過ごす時間も多い。
そろそろ昼食の時間という事もあって、ニルヴィスはレティシアに「お昼だよ〜行こ〜」っと言いながら抱え、食堂へと向かう。
「レティシア様!」
庭園から屋敷内に入ると、レティシアは突然声をかけられ、声がした方を見るとそこには、アンナが立っていた。
アンナはレティシアがアンナの方に振り返った事を確認すると、レティシアに駆け寄った。
「レティシア様は、いつ頃お部屋に戻ってくるのでしょうか? もう、ダニエル様がお屋敷を出ていかれて結構月日がたっております! あのお部屋は、もうお使いにならないのですか?」
「つかうけど、あさ、いないよ?」
「なぜですか? 前までアルエル様と、楽しく三人で過ごしていたじゃないですか!? レティシア様が戻ってくれば、また元通りになると思うんです! なのでまた以前のように、お部屋に戻ってください! お願いします!」
アンナは、そう言いながらレティシアに頭を下げた。
「あんな、しごとほかあるよね?」
「ありますが、わたしは寂しいんです。突然アルノエ様が来なくなって、レティシア様も部屋に帰らなくなって…なのにお屋敷内で、お二人の姿を見たりもして…本当なら、わたしもアルノエ様の隣に居たはずなのに…って思うと悲しいです。
訓練所や宿舎の方に伺っても、わたしじゃ会えないし…、それで…別の方法でお会いしに行ったのですが……それでも会えなくて…。
屋敷の外へと、お出になられるの見たら余計につらかったです…、お仕事は大丈夫です! なのでお願いします! お部屋へと戻ってきてください。お願いします! レティシア様!」
そう言いアンナは、もう一度頭を下げる。
だが、そう言われたレティシアの顔から表情がどんどん抜け落ちていき、冷たく刺すような視線をアンナに向けていた。
(この子か…、私が宿舎に居る事…街に出たこと…その情報をお父様に流したのは……)
レティシアからどんどん、殺気を含んだ冷気が盛れ出してきそうな、そんな雰囲気に気がついたニルヴィスは、あえて口を挟む。
「アンナちゃんだっけ? 君の気持ちは分からない訳じゃないけどさぁ、レティシアちゃんが今部屋に戻っても、アルノエは以前のように君に接しないと思うよ?」
ニルヴィスにそう言われ、顔を上げたアンナの眼には涙が浮かんでおり、その瞳は怒りを含んでいた。
「あなたは、なぜそう言えるんですか!?」
アンナのそんな態度に、ニルヴィスの顔からいつもの子供のような無邪気な笑顔はスっと消え。
僅かに光を帯びたダークグリーンの瞳で、真っすぐにアンナをみると薄ら笑いを浮かべた。
「一番は君の行動だね〜、君の働く場所が変わったでしょ?
ボク達騎士団は、エディット様が君を拾ってきた事もあって、君が感情的にレティシア様に接触をしなければ、一度は目をつぶろうって事にしようとしたんだよ。
だけど君はこうやって接触した。
そして今アルノエは、レティシア様の護衛についてる。
″ 自分が護るべき主 ″ を ″ 身勝手な気持ち ″ で ″ 危険に晒した者 ″ をアルノエは決して ″ 許さない ″
ボク達の団長も決して許さないし、もちろん、ボクも君を許すつもりもない。
それと、今更だけど逃げようと思わない事だね、仮に逃げたら…その時は首と胴がバイバイしちゃうからさ。
また後で君に会いに行くよ。
君が会いたいと思ってる ” アルノエ副団長 ” と一緒にね」
「そ、そんな…」
アンナは、騎士団や屋敷内で働いてる者達が、敵だと判断してる相手に情報を与えたのだ。
自分がした事の重大さがやっと理解できたのか、アンナの顔から徐々に血の気が引いていく。
(恋に溺れて周りが見えなくなった結果か…バカバカしい。
お母様に拾ってもらった恩を仇で返すなんて、余計に救いようがない…、ルカやお母様がお父様を警戒してた事を、去年も近くで見ていたのに……そのお父様に協力してまで、ノエに会いたかったのね。
恋は盲目と言うけど、ここまで周りが見えなくなるものなのね…)
そう思いながら、レティシアはアンナから視線を逸らす事もなくニルヴィスに話しかける。
『ニヴィ、行こう。後で捕縛するなら今は時間の無駄でしょ。それとも私一人で食堂向かった方がいい?』
ニルヴィスは、レティシアにテレパシーを使って話された事もあり、何も言わず踵を返すと食堂へと向かった。
食堂につくと、まだエディットの姿はなく。
レティシアの食事が運ばれてくる頃、遅れてエディットが食堂へとやってきた。
そして食事をしているとエディットがレティシアに話しかけた。
「レティ。そろそろ、もうお部屋に戻ったらどうかしら? 朝の訓練も少し…回数を減らすか時間を短くしたらどお??」
エディットにそう言われたレティシアは、静かに持っていたスプーンを置くとエディットの方へ向いた。
『お母様、それはお母様のお考えでしょうか? それとも誰か、からお願いをされたのでしょうか?』
レティシアにそう言われたエディットは、レティシアの言葉に若干殺気が混じってる事に気が付き、少し言葉に詰まりながら答えた。
「…そ、そうね…アンナが寂しがってたわ…だ、だからね? …私からレティに言ってほしいって…言われて…」
『それなら、既に解決しましたよ。何の問題もございません』
「そ、そお? そ、それならいいんだけど…」
そう言うと、レティシアは再び食事を再開した。
ニルヴィスがジョルジュに目配せをし、ジョルジュと共に食堂から出ていくのを、レティシアは横目に見ながらニルヴィスが先程の事を伝えるのだと思った。
食事が終わり、ニルヴィスを置いて先にテラスへと向かったレティシアを、ニルヴィスが慌てて追いかけてレティシアを抱き上げた。
「つーかまえった!」
『テラスに行くだけだし。捕まるような悪い事なんてしてない』
「うん。そうだね…レティシアちゃん……ボクじゃルカ様の代わりもエディット様の代わりも出来ないけど、君を少しだけ抱きしめたり、お話をすることは、出来るよ?」
ニルヴィスは、そう言いながらレティシアを抱きしめる
『……アンナがさ、ノエの事を好きだって気がついてた…』
「うん」
『でも、なんも出来ないからって思って、何もしなかっただけじゃなくて、彼女とノエが関われる時間も奪った…』
「うん。でもレティシアちゃんが訓練に参加するってなった時点で、ノエは彼女に、今後朝は来なくていい事を伝えていたよ。もちろん、団長からジョルジュ様にもダニエルにも伝えてあった、だからレティシアちゃんの責任じゃないよ」
『奪ったって思うのに、アンナに同情したり悲しんだりする私はいなくて…間違った行動をした当然の報いだと思ってるところがある…ねぇ、ニヴィ…私はちゃんとアンナの事が好きだったのかな?』
そう言ってレティシアは、ニルヴィスの服にしがみつくと静かに涙を流した。
「ちゃんと好きだったから、レティシアちゃんは怒ったんじゃない? 彼女の事を気にしてたんじゃない?? 少しは傷ついたんじゃない…? 大丈夫だよ。君はちゃんと好きだったと思うよ…」
そう言ってニルヴィスは、レティシアを抱きしめながら、頭を優しくなでた。




