騎士団の小さなお姫様
昨年と同様にダニエルは指輪が壊れた次の日に、帝都へと帰って行った。
前回と違う点をあげるとすれば、お金の話を一切しなかった事と、レティシアの部屋から宝石を盗めなかった事の二点だけだ。
宝石に関しては、レティシアが前もって対策をしていた事により防げた事だが、それによりダニエルが大胆な行動に出たのは、レティシアの予想の範囲内だったが、ダニエルが街まで彼女を追いかけたことに関しては、予想外だった。
ダニエルが帰った後も、相変わらずレティシアは自分の部屋へと戻ることはなく、宿舎で寝起きして早朝の訓練も欠かさず続けている。
「ボク達騎士団のお姫様は、訓練所の隅でお昼寝ですか?」
そう言いながら、寝そべっているレティシアの隣にニルヴィスが腰を下ろす。
『寝てないよ…疲れたの…』
「ふふ。そっかそっか〜。さっきはすごかったね〜浮遊魔法を使ってあそこまで君が戦えるとは、正直ボクは、思ってなかったよ」
先程レティシアは、浮遊魔法を使い戦闘訓練に参加したのである。
けれども所詮二歳児…魔力でどんなに身体強化をした所で、勝てるはずもなく最終的にニルヴィスから軽くなぎ払われていた。
『魔法なら勝てたもん…』
「短剣に魔力を流し出した時はびっくりしたよ〜本気で命の危険を感じたし…まぁ、剣を使った戦闘訓練では、違反なんだけどね〜身体強化しか認めてないし」
そう、力では負けるがレティシアの魔力量は努力のかいもあり格段に増えている、そのため魔法勝負なら軽く負ける事はない。
そして、レティシアには戦場での経験もあるため、後は体がついて行けばいいだけの話である。
『はぁ…身長が大きくなる魔法…ないのかなぁ』
「あはははっ! 面白い事を思いつくね〜。
でも残念ながらそんな魔法は、ないよレティシアちゃん…。
ボクさ…小さい頃は、うーんと小さくてさ、力もなかったから色々と調べたんだよ…それでも見つからなくて…兄さん達は、大きいのにボクは大きくならない事に、すごく悩んだよ。
まっ! 成長と共に体は大きくなったんだけどさっ! その時それを補うように、レティシアちゃんみたいに付与付き武器を使ってて、その知識と経験でボクは認められてここに居る」
遠くの空を見つめながらニルヴィスがそう言うと、レティシアは口を開いた。
『私は多分…どんなに頑張っても、ニルヴィスより身長が大きくなる事も筋肉がつくこともない。それでも、魔法を自在に操る体力作りはできる…そんなに悲観してないよ。
私は私のできる範囲で、私の護りたいものを、守る。
大丈夫だよ。ありがとうニヴィ。私が落ち込んでると思ったんでしょ?』
そう言って起き上がったレティシアは満面の笑みでニルヴィスの方をみると。
「レティシアちゃんが元気そうなら良かったよ」
そう言って笑ったニルヴィスは、レティシアの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「さぁーてと…それならボクはまた戦闘訓練に戻るけど、レティシアちゃんは走り込みしてきてね」
そう言いながらニルヴィスが立ち上がり、訓練へと戻っていくのをレティシアは見届けると、レティシアも立ち上がりニルヴィスに言われたように走り込みをした。
訓練が終わり思い足取りで執務室に辿り着いたレティシアは、ソファーに倒れ込むように横になる。
「レティシア様、お疲れさまです。少しお休みになられますか?」
『んー…寝る…寝る子は育つって言ってた誰かが…』
「それでしたら、先に湯浴みをされてはいかがでしょうか?」
ロレシオにそう言われ、レティシアは急いで立ち上がった。
『シャワーを浴びてくる!』
レティシアはそう言って浮遊魔法を使い慌てて、シャワールームへと駆け込んだ。
この後、シャワーを浴びに騎士達で溢れかえるからだ。
皆レティシアが訓練後に汗を流したいだろうっと気を使って、時間を少しずらして入ってるので、中で鉢合わせたりする可能性はないが、レティシアが遅くなればなるほど、彼らがシャワーを浴びる時間も短くなっていくのを、レティシアもわかっている。
そのため、体が重くとも慌てて入りに来たのである。
シャワーを浴びてタオルで軽く乾かした後、ニルヴィスが作ってくれたラフなワンピースに着替えて外に出ると、レティシアと入れ替わるように騎士達がシャワールームへと入っていく。
ニルヴィスやアルノエ、ロレシオの三人や隊長、副隊長クラスは、部屋にシャワールームがついてるが、レティシアの部屋にはシャワールームはついていない。
一度その事で部屋を交換しようと三人に言われたが、三人が実力で勝ち取った部屋だからとレティシアは、断った。
レティシアが再び執務室に戻ると、ロレシオの姿はなく、代わりにニルヴィスがソファーに座って資料を読んでいた。
ニルヴィスはレティシアが部屋に入ってくると資料から視線を上げてレティシアをみると声をかけた。
「おかえり〜レティシアちゃんおいで、髪の毛を乾かして、かわいくしてあげる」
そう言われたレティシアは、ニルヴィスの膝に座ると彼はレティシアの髪を乾かし髪を丁寧に櫛で整えた後、二つに分けてリボンで結んだ。
「あり…がとう…」
髪を整えてもらってる時に気持ちが良くなりウトウトしたまま、レティシアがお礼を言うと。
「ぃーぇ、おやすみなさい。レティシアちゃん」
っと言いながらレティシアを自分の方に向きを変えながら抱き寄せると、優しく背中をたたく…。
(寝ないよ……まだ……寝ない…よ……)
トン、トン、トン、っと背中を軽くたたきながら、ニルヴィスは先程の資料に手を伸ばし読み始める。
レティシアは、たまに聞こえる紙をめくる音と背中を軽くたたかれる心地良さに、意識が夢の中へと誘われるように落ちていった。




