命名
「エディット様! エディット様!!! お生まれになりましたよ! 元気な女の子ですよ!!!」
涙ぐみながら嬉しそうに、そう言う女性が私を抱き抱えると、出産を終えたばかりの、エディットと呼ばれた女性の胸元に私を近ずける。
エディットは女性から私を恐る恐る受け取り、不慣れな手つきで女性に教わりながらそっと優しく抱きかかえた。
そして私の手に指を近づけると私は、その指を握った。
エディットは、一瞬ビクッとして身構えたが、大丈夫だと分かると、出産を終え疲弊した顔をしつつも私の顔を、嬉しそうにそして、愛おしそうに見つめてその瞳に涙を浮かべた。
「ねぇ…リタ…レティシアは?」
エディットは、少しだけ耳を染めて、ニッコリ微笑みながらリタに聞いた。
リタと呼ばれた女性は、不思議そうに少しの間、考えこむようにして。
「…エディット様…お嬢様のお名前ですか…?」
「そうよ…この子の名前…レティシアは、どうかしら? って思ったの…」
「そうですねぇ……」
リタは、エディットと私を交互にみた後、何かをまた考えてから少しだけ悩み、結果的に考えるのが面倒になって結論が出たのか、幸福感に満ち溢れたような表情をした。
「…良いですね! レティシア様! とても素敵なお名前だと思いますよ! エディット様」
「そう! 良かったわ…。レティシア…今日から貴女は、レティシアよ……愛しい私のレティシア…私と同じ瞳の色だわ…」
今にもその眼からこぼれそうな程、涙を浮かべてキラキラしたロイヤルブルーの瞳で、愛おしそうに私の顔を見ながら優しくほっぺを指で撫でた。
私はその後、今世で初めての食事を済ませて2人を観察した。
まだ完全に見えるというわけじゃないから、ぼんやりとだけど、リタと呼ばれた女性は、シルバーブロンドの髪にバイオレットパープルの瞳をしていた。
エディットは、ブルーシルバーの髪をしていて、私はたまにその髪に手を伸ばしたりして自分の髪色は、何色なのか少しだけ気になった。
そのうち眠くなり、たわいもない2人の会話を目を閉じ耳を傾けながら聴いていた…2人は気心の知れた仲なのだろう…っと思いながらふわふわする意識を手放していく。
私だって生まれたばかりなのだ…。
ご飯を食べたら眠くなる……。
記憶を維持したまま、私は ” また ” 生まれ変わった。
私の転生は、どの時代や、どの世界に生まれ変わっても、必ず今までの前世で学んだ事、見聞きした事や経験。
その ” 全ての記憶 ” がある。
1つ前の前世で最後にあった出来事を思い浮かべながら、後悔と悔しさがまた蘇る…。
何度も…転生していたし、それなりに戦闘に関しても自信があった、知識も経験も豊富だからって、何があっても仲間を守れると自惚れていたんだ…。
何がパーティーリーダーよ…。
仲間も守れない、仲間を死なせてしまった自分が…また転生していいはずがない!
大好きだった…とても大切だったんだ…あの世界に家族が居なかった自分にとって、仲間が家族のような存在だった…。
どんなに後悔しようが前世をやり直す事は、できない…。
涙が枯れるまで泣き叫ぼうが、あの場所に戻る事がもうできない…。
何度も転生してきたけど、同じ時間軸や同じ世界…それこそ同姓同名に生まれ変わった事がない。
過去の全てを思うと、溢れ出す涙を止められずにいる私をエディットはよく。
「大丈夫よレティ…大丈夫…」
そう言いながら優しく包み込んでくれた。
その温もりが余りにも優しく、暖かくて、傷付いたであろう私の心を少しずつ癒やしてくれた。