戻っていく日常
次の日、ルカとモーガンは早朝にオプスブル領へと帰って行った。
仕事が溜まっているらしく、ルカが戻らなければならない状況だと、ルカが帰る前にこっそりレティシアに教えていた。
レティシアの訓練所への出入りも、ルカが帰って護衛がいなくなった事により禁止となり、ルカが来る前の日常に少しずつ戻っていく。
部屋もレティシアが1人でいると広く感じてしまい、部屋に居る時間より書庫やエディットと過ごす時間が増えたが、それでも時折、レティシアは寂しさを感じていた。
あの後レティシアは、エディットの魔力を覗いてみたが、特に異変も見受けられず変わらない日々が続いていた。
そしてルカが帰る前に。
「怪しいと思った事に対し、答えが出ていない段階で考え過ぎって事はない。でも思い詰めて体だけは壊すなよ」
っと言っていた事が、考えすぎだったか? っと考えて、思考を止めようとするレティシアを、思い留まらせている。
(お母様に異常が出た場合、近くにいる娘の私が気付かなかったらダメだよね)
そう思い考えながら、レティシアはテラスのある庭に座った。
だいぶ暖かくなりテラスにあるこの庭にも、たくさんの花が咲きみだれるようになった。
鳥たちは精霊と楽しそうにメロディーを奏でては、楽しそうに笑ってる気さえしてくる。
レティシアはそんな彼らの声を聞きながら空を見上げた。
どこかで、この空を赤目の少年も見ているのではないかと思うと、レティシアは少しだけ寂しさを覚えた。
レティシアがボーッと空を眺めていると、少し離れた後ろの方からレティシアに話をかける声が聞こえた。
「レティは、ルカが居なくなって寂しいのね…」
そう言いながら、エディットがテラスからおりて庭へとやってきた、レティシアそれでもエディットの方を振り返る事もせず空を眺めたまま、話し出した。
『…いつも一緒だったので…ちょっとだけ寂しい気持ちは、ありますけど…それは、きっといつも一緒だったからですよ…』
自分の曖昧な気持ちを伝えるかのようにレティシアがそう答えると、エディットはそんなレティシアの隣に静かに腰を下ろし、レティシアと同じように空をみつめた。
「ねぇ、レティ…レティが望むなら、この屋敷にルカを呼んでもいいのよ」
心配を含んだ様子でエディットはレティシアにそう言う。
『ふふふ、大丈夫ですよ。それほど寂しいわけじゃないので…それに…』
レティシアは口元を隠すようにそう言って笑って答えると、エディットはレティシアの方を向き、不思議そうに首を傾げながら聞き返した。
「それに?」
『…それに、またすぐ会えますよ。お父様も戻ってくると言っていたのですよね? ならその時にお母様は、ルカに私の護衛をお願いしてくれるのですよね?』
そう聞いてくるレティシアに対しエディットは、目を細めて優しく微笑みながら答える。
「そうね。今回レティシアとダニエルを接触させないよう、彼に念を押したけどそれも守ってくれたし、あなたに何事もなく、窮屈な思いをさせたのに楽しそうだったから、また彼にお願いするわ」
『ありがとうございます、お母様』
そうお礼を言うレティシアの横顔から感情が読み取れず、エディットは心苦しいような表情をしてレティシアを抱きしめた。
「レティ…ごめんなさい…あなたにも弟か妹が必要だと思うけど、あなたのお父様と子供を作るつもりは、お母さんにはもうないわ。だから…ちょっと早いと思うけど、あなたの2歳の誕生日には、専属侍女が来られるようにお願いするつもりよ」
それを聞いて咄嗟に、リタがエディットの専属侍女になった時の話を思い出したレティシアが慌ててエディットの方に顔を向ける。
『いえ! お母様! 大丈夫です!!! 専属侍女はもう少したってからにしましょ!』
(ここで頷いたら私が子供の親離れを、急かした気分になるわ!)
「そお? それならそうするわ。レティの気持ちが1番大切だもの」
『お母様、大好きですッ!』
残念そうに答えたエディットに対し、レティシアは専属侍女の親離れを回避できた事と、自分の事を考えてくれるエディットの気持ちを嬉しく思い、そう言ってエディットに抱きついた。
エディットはあらあらっと嬉しそうにしながら。
「私もよ、レティシア……」
そう言ってエディットはレティシアを抱きしめていた腕に、少しだけ力を込めた。
(ほんの些細な日常だけど、今の私にはこの穏やかな日常の全てが宝物なのよ…だから守りたいわ)
そうレティシアは、思いながらエディットの温もりを確かめたのであった。




