帰参と傲慢
レティシア達が玄関ホールに着いてから少しだけ待っていると、くたびれた上着を羽織った茶色い髪の男性が、玄関ホールへと入ってきた。
「やぁ、エディットただいま。久しぶりの我が家だ! 帝都はタウンハウスに入れないし、いろいろ大変で、なかなかこっちに戻って来れなかったんだよ」
エディットに向かって手を広げたダニエルだったがエディットは彼の胸へ飛び込むこともなく、ただ冷ややかな目を向けた。
「まぁ? 帝都にある我が家のタウンハウスへの滞在は、現当主の私が一緒じゃない場合、お父様とお母様しか許可されないと前にも申したはずですよ?」
と返事をしたエディットを今度はダニエルが強引に引き寄せ、エディットを抱き締めた。
「もちろんわかってるよ。だから少し君と話がしたい。とりあえず部屋に行こうか?」
そう言って、そのままエディットを半ば強引に彼女の部屋へと連れていく、その後ろをリタが音も立てずに追いかけた。
(子供の私へのあいさつもなければ、眼中にも入ってなかったようね)
その様子を静かに見ていたレティシアは、そう思うとエディット達から視線を変えることもなく、伝えた。
『ルカ、部屋へと戻って』
そう言われたルカは、特に何も言わずに急いでレティシアの部屋へと向かった。
レティシアとルカが部屋に戻ると、レティシアはルカに下ろしてもらい先程エディットに渡したピアスとペアであるもう一つのピアスをポケットから取り出すと机の上に置いた。
そしてそれに書いてある術式を発動させるとエディットが着けた方のピアスからエディットのいる部屋の音が流れてくる。
◇◇◇
『リタ、悪いんだけど、少しエディットと2人で話したいから席を外してくれないかな?』
『…』
『頼むよリタ』
『…』
『使用人の分際で、主人の言う事が聞けないのか!!』
『ダニエル様、申し訳ございません。私の主人は、エディット様おひとり様だけですのでダニエル様の指示に従う事は、できません』
『何だと!!!』
『はぁ…いいわ。リタ、下がってちょうだい』
『エディット様、かしこまりました』
扉を軽く閉じた音だけが聞こえた。
◇◇◇
(お父様は、プライドが高い傲慢な人のようね)
「これ、喋っても平気?」
レティシアの耳元で囁くように聞いてきたルカにレティシアは頷くと、机の上に置いてあるピアスを見ながら話し出す。
「へぇー。盗聴とは、レティシアも考えたねぇ〜」
『本当は本で読んだ使い魔と契約出来ればよかったんだけど、そう簡単に契約できるわけでも出会うわけじゃないからね、いつかは契約するけど、とりあえず思い付きで持たせてみたの。
何か狙いがあるなら必ずお母様に言うだろうから』
「なるほどね」
◇◇◇
『エディット、いろいろとすまなかった。これ俺が作ったんだ、もらってくれるかな? エディット…手を出して』
『これを、あなたが本当に作ったの?』
(お母様になにか渡したのね)
『ぁあ。綺麗な石が付いた指輪だろ? できれば外さずに、ずっと着けててほしいんだ』
『ぇえ、綺麗ね。あなたが滞在してる期間は、身に着けるわ』
『ありがとうエディット、それでなんだが…実はこれで新しい事業を始めたいんだ、お金を出してくれないか? 数年もすれば元金も戻ってくるし、最初の投資と思えば大丈夫だよ』
『またお金の話ですか!? 以前にもこの家でお金の話は、辞めてほしいと申したはずです! ダニエル、今日この屋敷に帰ってきて、あなたは他に言うことがないのですか??』
『この屋敷じゃないならどこで金の話するんだよ!! それとも君が帝都の家を俺に解放してくれるのか?!』
『普段こちらに帰ってくる事もない人が、こちらに帰ってきたと思ったら、お金の話しかしないのを、やめてほしいと伝えた迄です。普段からこちらに、帰ってくるような行動をダニエルが少しでも、とっていたら話も違った事でしょう。今回こちらに来た理由がお金であるならば帝都の ″ あなたが ″ 住んでいるお宅に帰っていただけませんか?』
『お前は、昔からそうだ! 金を持ってるのに出し渋る! 俺の事を愛してれば金を出すはずだろ!! 金も出さない、タウンハウスの出入りも許可しない、他になんの用があって帝都から遠いこの家に戻ってくるんだよ!」
激しく扉が閉まる音が聞こえた。
◇◇◇
(ドアを力任せに閉めたのね…来たのもお金が目的か……)
思ってた通りの屑っぷりにレティシアは呆れてしまう。
(後でお父様がお母様に渡した指輪を確認しても、いいかもしれない)
そう思いルカにお願いしてレティシアは耳にピアスを着けてもらう、これで常にエディットが着けてる間だけエディット周辺の様子がテレパシーのようにレティシアに聞こえるのである。
『ねぇ…ルカ、本当にお金だけが目的だと思う?』
「どうだろう? レティシアの考えは?」
『お金が目的なら、予定を早めて帰ってくる必要は、なかったはずだと思うのよ…お金を出してもらいたい相手の機嫌を損ねるような事は、しないと思うし』
「それは、俺も同意見だ、一応警戒はしとく」
『お願いね』
そう言ってレティシアは先程着けてもらったピアスを軽く触った。




