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旧作✿現在非公開中  作者: 元・深 夜 現・雪闇影
4章
110/116

スミレの花とレティシア

 

(入学してからこの時期まで魔法の基礎である体力作りと、男子は剣術で女子は弓の戦闘訓練か……)


 レティシアはラウルから渡された紙を読みながら、一人で魔法の授業が行われる訓練所へと向かう。


 水晶で属性を調べた日、彼女は家に帰るとこの学院を卒業したルカに組み分けのことで愚痴をこぼした。

 だけど話を聞いた限りでは、ルカの時も光と闇属性は水属性に振り分けられたと言っていたので、レティシアは前もって聞いておけばよかったと悔しそうにしていた。


(三学期という時期に改めて判定したのは、二年生に上がったタイミングでは測定をしないからってルカは言っていたけど、進級のタイミングでまた測定があるなら、属性を変えようと考えてただけに残念ね)


 訓練所につくと既にBクラスの生徒も集まっており、今回の検査で属性が変わっていない人たちは、もともと入学時から同じ班に組み分けされていただけに、仲が良さそうに見えた。

 レティシアはカトリーナを見つけて彼女の方に歩いていくと、ルシェルとアルフレッドの間にたっているライラを見つける。


 ルシェルはレティシアが来たことに気がつくと、彼女の方に歩み寄ろうと一歩を踏み出すが、ライラがそんな彼の腕に抱きついてそれを止めて、レティシアは彼から距離を置いた。


(彼女とも同じ班だったのね……。憂鬱な時間が増えたわ。それにしても水属性の生徒って少ないのね)


 水属性の生徒が集まってると思われる付近を、軽く見渡したレティシアはそんなことを思った。

 実際のところ、水属性に振り分けられたと生徒は彼女を含めてたったの九人。他の班は十三から十七人と人数が多く、人数だけで考えれば圧倒的に対抗戦では不利になる人数差だ。

 だけど、不利だからといって負けていい理由にならないのが、この学院の方針でもある。戦場では、人数で不利になることも考えた上での対抗戦なのだ。


「全員、集まったな。それじゃ、それぞれの班に別れて訓練開始」


 ラウルはそう言って高い壁を土魔法で作ると、紅紫色の髪と瞳をした水属性を担当するリリ・ヴィオレッタ先生が集まっていた生徒を見渡した後に口を開いた。


「結局、今年も人数が少ない。でも、光属性の二人が来ることは前々からわかっていたから、対抗戦の作戦も立てやすいか……。とりあえず、おまえたちの魔法の実力を知りたいから、二人一組になって模擬戦をしてもらう」


 リリはそう言って指を鳴らすと、レティシアの左胸ポケットに一輪のスミレの花が咲いた。


「ルールは簡単だ。おまえたちの胸についた花と、同じ花がついたやつとペアを組んで、他のペアと戦ってもらう。その花が散ったら負けだ。もちろん、花を守るのも有効だ」


 そう言われた生徒たちはキョロキョロと辺りを見渡し、同じ花がついたペアの生徒を探す。だけど水属性の生徒は全員で九人、絶対に一人が余る状態だ。


「まぁ、首席は一人でも問題がないだろ。ちなみにだが、水属性と関係ない魔法の使用は禁止だ。ぁあ、それと殿下たちは光属性を使っても構わない。得意属性だからな」


(最初から私を一人にするつもりだったのね)


 リリがレティシアを見ながらニヤリと笑ったのを見て、レティシアは直感的にそう思った。


(歓迎はされていないのね。どこかで負けた方がいいのかしら?)


「スミレの花とラベンダーの花をつけたペアは前に出ろ!」


 ラベンダーの花を付けた二人の茶髪の少年が前に出て、レティシアも一歩前にでると他の生徒たちから声援が上がる。


「命を奪う行為は禁止だ。相手が戦闘ができない状態、もしくは花が散った瞬間に終了だ。――それじゃ、始め!」


 合図と同時に急速に霧が発生し、そこから一分もしないうちにドサッと何かが倒れる音が二回霧の中から聞こえた。

 見ていた生徒やリリも何が起こったか理解ができず、風が吹き抜けると霧が晴れて、レティシアの後ろで茶髪の少年が二人とも倒れていた。


 その状況を見ていた控えの治癒を担当する先生は、慌てて二人の元に駆け寄って容体を確認する。


「あらあら、これは脳しんとうを起こしてますね」


 彼女はのんきにそう言ってから、倒れている生徒を浮遊魔法(トリスティク)で浮かせて運び、リリはレティシアに鋭い視線を向けた。


「レティシア・ルー・フリューネ。おまえは一体何をした」


「大したことはしてませんよ。ただ霧を発生させて、彼らの首の後ろを手刀で当てただけです」


 レティシアは正直に自分が何をしたか言うと、他の生徒からは感心するような声が上がったが、リリは声を上げた彼らを睨むと再びレティシアに視線を向けた。


「これは魔法の授業だ」


「手刀もダメでしたか……。それでしたら、私の負けで構いません」


「次の試合でも魔法を使わないのであれば、この試合もおまえの負けとする。ミモザを付けた生徒は前に出ろ!」


(魔法は使ったんだけどなぁ……、霧は魔法に含まれないって認識なのかしら?)


 レティシアがそんなことを考えていると、前に出てきたのはアルフレッドとカトリーナだった。

 二人が構えるとリリがゆっくりと手を上にあげた。


「それでは、始め!!」


 リリの合図とともに眩しい光が放たれ、カトリーナの方向から地面を伝って氷が伸びてくると、今度はアルフレッドが光属性で作った剣を構えてレティシアの方に走ってきた。だけど、まるでそれを読んでいたように、レティシアは勢いよく飛んでそれらを避けた。


(目潰しをして、足元を固めてから胸元の花を狙ったのね)


「悪くないんと思いますよ? でも……、もしここが戦場ならアルフレッド殿下は死んでいましたよ?」


「なっ!!」


 レティシアが挑発するように言うと、アルフレッドは顔を真っ赤にしたが、すぐにカトリーナが水球魔法(ルドゥス・アクア)を使ったようで水の球が飛んでくるが、それもレティシアは難なくかわしてしまう。


「今度は私から行きますね」


 レティシアはそう言うと、水弾魔法ボンバルダルム・アクアを使った。ビー玉サイズの水の球が出現すると、銃弾のような速さで二人に向かって飛んでいき、方向を変えると胸元にあった花を横から貫いた。

 もしも、レティシアが操作をしないで、ただ正面から打ち込んでいれば、水の弾丸が二人の胸元を貫通していたことだろう。


「これで、私の勝ちですね」


 アルフレッドは負けたことで顔を真っ赤にして怒りで震えていたが、腕を組んで見ていたリリはレティシアに手招きをした。


 なんだろう? っと思いながらも、レティシアは渋々といった様子でリリに近づくと、彼女の胸元にあったスミレの花が散る。

 そして立ち上がったリリはレティシアの肩に手を置くと、耳元でささやいた。


「おまえも、これが戦場なら死んでいたな? おまえの負けだ」


 突然のことにレティシアはただ呆然としていた。


「レティシア・ルー・フリューネの胸元の花も散っている! そのため、彼女も負けたと判断する! 残ってるペアは前に出ろ!」


(……意味がわからないわ)


 別にレティシアの花が攻撃を受けたわけではない。もし仮に不意打ちであろうとも、戦闘を終えたばかりのレティシアは周りを警戒していたため、即座に反応ができる。攻撃でなければ、花を咲かせたリリがレティシアの花を行為に散らしたとしか思えなかった。


 レティシアはリリの方を見ると、彼女はレティシアの方に振り返り、声に出さずに”くやしいだろ?”と言ってニヤニヤと笑った。


(こんなことをしてまで、私を勝たせたくなかったのね)


 怒りよりも、エディットと同じ年代であろうリリがとった行動に、レティシアは呆れてしまいどうでもよく思えた。

 彼女は静かに端の方に移動をすると、戦っている四人に視線を向けた。対抗戦では一緒に戦うのだから、彼らの実力を知っておくのも悪くないと思ったからだ。


 ルシェルとライラの対戦相手の茶髪の少女たちは、低級魔法である水球魔法(ルドゥス・アクア)氷矢魔法(グラキエス・サギッタ)で攻撃を仕掛け、防御壁の氷壁魔法(ムルス・グラキエス)駆使して戦っていて、総合的に見てバランスが取れていい動きをしている。

 それに対してルシェルとライラのペアは、どうもライラが足を引っ張っているせいか、ルシェルが攻撃にできずにいた。


(試合が長引けば、ルシェルたちの対戦相手の方が不利か)


 四人の魔力量を確認したレティシアはそう思った。


 本人たちもわかっていたのか、中級魔法の氷柱魔法(コルムナ・グラキエス)で氷の柱を作ると、ルシェルたちとの間を詰めて氷槍魔法(グラキエス・ハスタ)氷矢魔法(グラキエス・サギッタ)で攻撃を仕掛けた。

 だけどルシェルは近距離戦になると、光の剣を作って彼女たちの胸元にあった花を散らした。


「勝負あり! 勝者、ルシェル、ライラ、ペア!」


 名前を呼ばれた二人は嬉しそうに喜びあい、互いに褒めあっていたが、負けた二人は悔しそうにしていたものの、すぐになぜ負けたのか分析を始めていた。



 しばらくしてからラウルが授業の終わりを告げると、土の壁がなくなりレティシアは他の人たちから離れて校舎の方に向かった。



 ◇◇◇



 昼食の時間になると、レティシアは食堂に行き適当に空いていた席に座った。別にアランと約束をしているわけではないので、用がなければわざわざ彼を探さないのもレティシアらしいところだ。



「レティシア様、ここの席に座ってもよろしいですか?」

「あ、あの! 私たちも良いですか?」

「良いでしょうか?」


 ゆっくりと食事を楽しんでいると、レティシアはカトリーナと先程の少女たちが声をかけられ、戸惑いながらもレティシアは口を開いた。


「え、えぇ、空いてるのでどうぞ」


「ありがとうございます」


 三人の声が重なり、三人は顔を見合わせて笑う。その様子を見ていたレティシアは、楽しそうでなによりだっと心の中で思った。


「あの! レティシア様、先程のうちらの試合は見ててどうでしたか?」


 向かいの席に座った、茶色の髪を高い位置で一つに結んだ少女が前のめりになってそう聞くと、レティシアは呆けた顔をして彼女を見ていた。耳の下あたりで茶色の髪を二つに結んだ少女は、そのことに気がついて慌てる。


「あ、あの! ごめんなさい! 自己紹介がまだでした。こちらがリズで自分はエミリです」


 エミリがそう言って気まずそうにうつむくと、リズと呼ばれた少女はエミリの方を一瞬見て気だるげに頭をかいた。


「あ〜。すっかり忘れてた。うちら貴族じゃなくて平民なんだけど、やっぱり話しかけちゃダメだったか?」


「いえ、この学院は家柄とか関係なく、通ってる人たちは対等な関係だと聞いたから、ダメだと思ってないわ。――ただ少し、驚いただけよ」


「ね! ワタシが二人に言った通り、レティシア様は優しいでしょ!」


 嬉しそうにカトリーナが両手を合わせながら言うと、レティシアは驚きながらも彼女の方をみた。


「カトリーナ、この二人はあなたの知り合いだったの?」


「はい! ワタシの幼なじみです」


「そうだったのね、リズとエミリ。これからはよろしくね」


「よ、よろしくお願いします!」

「よろしくな! それにしても良かったぁ」


「何が良かったの?」


 ホッと息をついたリズに対してレティシアは首をかしげると、リズは周りをキョロキョロと見たあとに、声の声量を下げてコソコソ話し出した。


「ぁあ。実はさ、この学院でも平民は話しかけるなって言ってくる貴族もいるんだよ。だからレティシア様が気にしてなくて、安心したんだ」


「そうだったのね、知らなかったわ」


「まぁ、殿下たちがいるから、みんな表向きは気にしてなさそうにしてるからなぁ。な! な! それでどうだった?」


「そういうことね。――そうね。さっきの試合だけど、総合的に見て良かったと思ったわ。だけど、距離を詰めた後に殿下を狙うのではなくて、足元を凍らせてライラを先に狙うべきだと思ったわ」


 またもや前のめりになって聞いてきたリズに、引きつつもレティシアが答えると、リズは深い溜め息をついた。


「……やっぱり殿下より、ライラ様を狙うべきだったかぁ。すっごく悩んだよなぁ。でも狙ったら狙ったで、後でうるさいって考えたら狙えなかったよ。ぁあ、くやしいぃ!」


「後でうるさいってどういうこと?」


「あっ……。悪い」


 眉間にシワを寄せてレティシアが聞くと、リズが慌てて口を押さえてばつの悪そうな顔をした。


「どういうことか、教えてくれるかしら?」


 少しだけ高圧的にレティシアがリズに再び問いかけると、雰囲気が変わったことに気がついたリズは、困ったような顔をしながら話しだした。


「いや、その、不愉快に思ったら悪いんだけど……。その、ライラ様は結構、言うんだよ、平民のくせに生意気だとか、調子に乗ってるって……、それでこっちが言い返すと、フリューネ家が黙ってないって言うんだ。――だから、さっきカトリーナがレティシア様に話しかけようとした時、止めたんだ。――レティシア様は、ライラ様の姉だから、同じだと思って……」


(……フリューネ家が黙ってないねぇ)


「――そうだったのね。リズ、教えてくれてありがとう」


 レティシアはリズに微笑むと、先程までの威圧的な雰囲気が消えていたことに、三人は胸をなでおろした。

 例え、この学院内で家柄は関係なく平等だと言っても、学院の外に一歩でも出れば決して対等な関係ではないことを三人は知っている。だからこそ、学院内でいざこざを起こしたくないのが本音なのだろう。

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