母の娘自慢と赤目の少年
「ねぇねぇ! モーガン! レティシア、すごいでしょう!!」
「そうですね」
「まだ一歳前なのに喋るし歩くし何なら本も読むのよ!
それに教えてもいないのに魔術の本も読んでて、あーやって魔法も使うの!! 我が娘ながら天才だわ! ねぇ! ねぇ!
モーガンあなたもそう思わない!?」
っと無邪気にはしゃぐエディットを見ると、レティシアは少しだけ気恥ずかしく感じるがさっきの失敗も、まっ正解だったかな? っと思えてレティシアの口元が少しだけ緩む。
モーガンはと言うと……ただただ…信じられない……。
という目でレティシアを何回も見ては、エディットに目線を戻し、ねぇ! ねぇ! 聞いて聞いて! っとなってるエディットの子供のような無邪気さに押され気味だ。
(いつもは、もう少し落ち着いてるんだけどなぁ…)
っとレティシアはその光景を見てそう思った。
(ぁあ、なったお母様を止めるのは、娘の私ですら一苦労なんだよね…)
っと思い、今度はやれやれと思って力なく笑った。
あの後、玄関ホールにいたレティシア達は、エディットがこうなる前にジョルジュの判断でこの客間に場所を変えた。
ルカは、客間へと向かう途中は一番後方をゆったりとした足取りで進み、顎に手を置きながら黙り込んで何かを考えているようだった。
綺麗な顔なのでそれだけでも絵になるなぁっとか考えてしまうくらいには、彼は美少年だ。
そして時折レティシアに向ける視線は、好意や真意を確かめるような視線とは違い、隠そうとしても彼のその幼さからまだ隠しきれていない憎悪に近い敵意に似た何かを感じた。
レティシアを抱っこしてるリタや他の誰も気がついていないので、もうこれは経験の差なのだろう…とレティシアは、思った
ぶるっと身震いがしてレティシアは彼の方をジッと観た
何を考えてるのか読めない表情と、真っ赤なガーネットの様に綺麗な赤い瞳をレティシアが見つめていたら不意に視線がぶつかった。
重なった視線の先の瞳は一瞬だが、ほんの僅かに淡く光を帯びていた…ふっと視線をそらされると、レティシアは彼の中で感情が大きく揺らいだのだろうとそう思った。
魔法を使う者達は、魔物を除けば魔族でも経験が浅いものは、力を使う時と感情の揺らぎでも瞳が光る。
それは、レティシアが経験した過去の転生でもそうだったように、今世でもそのようだ。
フリューネ家で働く使用人が魔法を使ってる所をレティシアは、確認したが瞳が光っていたし、ジョルジュにお願いして魔法を使用してもらったら、彼も僅かに淡く光った。
鍛錬や訓練次第では、それもコントロール出来るが並大抵の事では、できない。
それだけ瞳が光るのを制御するのは、結構難しいのだ。
それが僅かに淡く光っただけ…。
どれだけ精神を追い込めばこんな子供にできる事かと考え前世を思い出しレティシアは、つらい気持ちとなった
レティシアが実際に出来ているのは、何度も転生を繰り返した結果で、もはやチートだ。
(彼は幼い…まだ七歳だと聞いたわ)
そんな七歳の少年が感情を常に押し殺し、顔面に仮面を貼っつけて歩いてる。
それなのに、隠しきれずあんな目をこんな赤子に向けるのだ、他者が理解できない何か深い理由があるのかもしれない。
(詳しく話を聞いてみたいけど…それは私が無断で勝手に踏み込んでいい領域じゃないか…)
そう思ってレティシアも彼からそっと視線を外した。
レティシアは、モーガンとルカの関係性を観察していたら気がついた事がある。
それはなんなのか? と言うと、どうも親子と思えない距離というか壁を感じてしまう点だ。
二人を観察すればするほど親子だと言われる事にレティシアを違和感が襲う。
なぜならモーガンがルカに話しかける時、時折ほんの僅かにモーガンがなにかに脅えて、ルカに対してお伺いを立てるかのような雰囲気が抑えきれず滲み出ていた。
モーガンも感情のコントロールをしているのであろう、なんせジョルジュの息子なのだ、そんな二人に違和感を覚えない程、レティシアも鈍感ではない。
そう。例えるなら年下の青年が上司で、部下が年上の中年男性というペアが潜入捜査した際。
目上の人間に対し下の者がこの発言は、許されるのだろうか? どこまでの発言は許されるのか? っと不安に思ってるそんな空気が時折モーガンから伝わってくる。
エディットもリタもジョルジュも気が付かないほど、ほんの僅かだが、レティシアの過去での経験が囁きかける。
『あの二人はただの親子じゃないぞ』っと。
そこから、さらに思考を巡らせようとレティシアは、軽く会話から外れていく、会話は勝手にレティシアの耳に入ってくるから何も問題がない、レティシアが発言しないだけだ。
軽くテレパシーを使うの疲れたっと言っておけば深追いはしてこない。
これは今世での経験でレティシアが得たエディットへの対処法でもある。
レティシアがいろいろと思考を巡らせていると。
「そうだ! ルカ! おまえもここに滞在するするし、将来オプスブルの頭領になるんだから、レティシア様連れて庭の探索してこいよ!」
レティシアがここにいたらエディットの娘自慢が止まらないのを、悟ったモーガンはルカにレティシアを外へ連れ出すように指示をする。
ルカは、その指示に僅かに苛立ちを見せたものの。
「あぁ」
っと短く返答し頷くと立ち上がりレティシアが座ってるソファーの前で片膝をついた。
(……ん?)
「レティシア様、良かったら私にお庭の案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
っとニッコリと仮面を貼り付けたように微笑みながらルカはレティシアに聞いてきた。
(はっ? えっ? 何その微笑み…
多分何も知らない少女だったら、イチコロでしょうね!
そうでしょうね! でも、私は騙されないんだから!
あんたの眼が全然笑ってないの私は、わかってるんだからね!!!
嫌だ! 嫌だ!! あんな敵を見るような憎悪を含んだ視線を送ってきた相手だよ? 二人きりとか無理!!!
私まだ赤子だよ!!! まだ修行の途中でひ弱なんだよ! 全力で断りたい!!! まだ生きていたいの!!! 早死だけはしたくない!!)
レティシアは、そういろいろと思い考えて完全に作り笑顔で何も答えないでいると、困ったような声で。
「レティ? ルカを案内してあげて? お母さん、いまからとても大切お話をしなくちゃなの…お願い出来る?」
っとさっきまでの無邪気っぷりが嘘かのように、目をうるうるさせて今にも泣き出しそうなエディットを見たら、嫌だとレティシアは言えず。
レティシアは、ただコクリっと頷くしかなかった。




