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旧作✿現在非公開中  作者: 元・深 夜 現・雪闇影
4章
107/116

茶番劇と封筒の中身

 

 学院から帰ったレティシアは寝室に向かうと、制服のままベッドに倒れ込んだ。



 食堂を後にして教室に戻ったレティシアは、本を読みながら午後の授業が始まるのを待っていた。だけど、授業が始まる前にライラが彼女の前に現れ、食堂でやった茶番劇の続きを教室でもやり始めた。

 その時は、同じクラスの人がライラを注意したことで、彼女は自分の教室へと戻って行ったが、問題だったのは放課後だ。授業も終わりレティシアや周りが、帰り支度を始めた頃に再びライラがレティシアの教室までやってきた。


 そこからレティシアが馬車に乗るまで、永遠に彼女はレティシアに「早く一緒に暮らしたい」っと何度も言っていたことから、彼女の目的が単純にレティシアという姉に会いたかったわけではなく、タウンハウスに住むのが目的なのだレティシアにもわかった。



 うつぶせの状態で、今日の出来事を思い返していたレティシアは、寝返りを打つと深く息を吐き出した。


(疲れたわ……。まさか、初日に何度も絡まれるとは思わなかった。それに、ライラ(あの子)……、勝手にフリューネって名乗っていたわね……)


 ドアをノックする音が聞こえ、レティシアは急いで起き上がると、リンとルカが二人でレティシアの部屋に入ってきた。


 リンはレティシアのことを見ると、小さな溜め息をついた。


「レティシア様、帰ってきたのならベッドで横になる前に、着替えてほしいと、いつもお願いをしていますよね?」


「着替える気力もなかったのよ……」


 目を伏せながらレティシアがそういうと、リンは心配そうにレティシアに駆け寄って体にケガがないかを確認し、レティシアがどこもケガをしていないとわかると、心配そうな顔をした。


「何かあったのですか?」


「別に大したことはないのよ? ただ、本当に疲れただけ」


 リンを安心させるようにレティシアは優しく微笑みかけると、紅茶のいい香りと食器が小さくぶつかる音がした。


「夕食まで時間があるから、お茶でもどうだ?」


 そう言ってルカは紅茶を入れると、先程出したカップの正面に置いてソファーに腰掛けた。


「ルカ様、お手を煩わせて申し訳ありません」


「俺が持ってきた物だから、気にしなくていいよ」


 レティシアはソファーに腰を下ろして、ルカにお礼を言ってからカップに口をつけると、ふわっとした優しい香りとほどよい甘さが口の中に広がる。心身ともに疲れていたレティシアは、ふぅっと肩の力を抜くように軽く息をついた。


「学校の方はどうだった?」


「そうね……。早速だけど、ライラが私に会いに来たわよ」


「要件は、この家に住みたいってところか?」


「えぇ、一緒に早く住みたいって言っていたわ」


「まぁ、ライラがこの家に住めるのかは、怪しいところだな」


 この国では子どもが一人の場合、男女など関係なくその子どもが後継者となり、結婚をすれば伴侶は養子として迎えられる。

 だから今のフリューネ家は世間から見たら一時的ではあるが、レティシアの父であるダニエルが後を継いでいると思われていて、ルカもこのことを考えて言っているのだろう。


 確かに後継者がレティシアに決まっていても、ダニエルが養子なら再婚相手もこの屋敷に住む権利はあることになる。だけど、実際のところそうではない。


 なぜかと言うと、レティシアがこの別邸にあった書庫で見つけた手紙と同封されていた書類には「ダニエルとは養子関係を結ばない」という事が記載されており、それがわかった上でエディットと結婚をすると書かれている書類に、ダニエルのサインがしてあったからだ。


 二重否定や難しい言葉で書かれていたため、その書類を読んだレティシアも頭が混乱しそうだった。だからレティシアはそんな難しい書類を、ダニエルが理解してサインしたと思えず、結婚する時にダニエルが皇帝とレティシアの祖父母から、信頼されていなかったのだとレティシアは思った。


 では、なぜダニエルが書類を理解できなかったとレティシアが結論付けたかと言うと、彼がエディットが亡くなってから喪があけてすぐに、セブリーヌという女性と再婚をしたからだ。

 養子ではないダニエルが再婚をしたのなら、彼の名前はフリューネ家から外れていることになる。もしも、ダニエルが再婚をする前に、レティシアか祖父母が彼を養子として認めていれば、ライラや彼女の母親であるセブリーヌもフリューネと名乗れたはずだったのだ。


 だけど、この事実をレティシアはまだ、誰にも言っていない。


 知っている者が少ないのをいいことに、レティシアはダニエルやライラの家族、そして弟だと言われているフィリップを泳がせようと考えた。

 だから、ライラが自己紹介をした時にフリューネを名乗っても、我慢して何も言わなかった。


 レティシアはティーカップを机の上に置くと、ゆっくり視線をルカに移した。


「ルカには、話しておいた方がいいかもしれないわね。ついてきてちょうだい」


 レティシアは立ち上がると行先も言わずに歩き始め、ルカは眉間にシワを寄せたが、レティシアの雰囲気から何も言えずにただ静かに後を付いて行った。


 書庫に入る前にレティシアはリンに外で待つように伝え、ルカと二人で中に入るとドアを閉めた。

 それから魔法陣があった方まで行くと、箱を出して中に入っていた封筒を何も言わずにルカに差し出した。


「これはなんだ? 読んでいいのか?」


 眉間にシワを寄せて怪しむようにルカがレティシアにそう聞くと、彼女は封筒に視線を向けたまま、静かにうなずいた。


 何回も封筒の中に入っていた紙を読み直したルカは、やっと書かれていることが理解できたのか、鼻で軽く笑って封筒の中に紙をしまった。


「ダニエルがこれを理解できたとは、思わねぇな」


「私もよ。お母様が亡くなった後から、ダニエルたちが使った分の請求書がここに届くようになったらしいの。でも、ジョルジュやパトリックがダニエルたちの方に送り返してたみたいで、その度に自分にも権利はあるって騒いでたらしいから、理解はしていないわよ」


「これからどうする?」


「そうね……。しばらくはあの家族を監視付きではあるけど、そのままにしておくつもりよ。彼らの目的の一つがフリューネ家の財産だということもわかっているし、ダニエルが渡した指輪がお母様の死因に関係があると私は考えているから、どこからそれを手に入れたのか突き止めたいわ」


「なるほどな……。この手紙のことは、フリューネ騎士団に報告はしないのか?」


 ルカはそう言いながらレティシアに封筒を渡すと、レティシアは箱の中にしまった。


「えぇ、この封筒の中身を知る人は少ない方がいいと思うし、ロレシオの報告で鼠がいることもわかっているから、今は伝えるつもりはないわ」


「わかった。それならダニエルたちを監視をする時は、スキア隊を使うといいよ。彼らは誓約があって俺とレティシアのことを裏切れないから」


「それは知らなかったわ。教えてくれてありがとう、そうするわ」


「何かあったら、言ってくれれば俺も動くから一人でむちゃはするなよ?」


「えぇ、わかっているわ。――それと、今度城で開かれるルシェルの誕生日パーティーのことなんだけど……」


 レティシアが困ったように眉を下げて、髪を耳にかけながら上目遣いでルカのことを見ると、まるで予想していたのかルカは柔らかく笑った。


「あぁ、招待状が届いていたな。俺の方で用意させてるから、心配しなくていいよ」


「ありがとう、助かるわ。ドレスをどうしようかと悩んでいたところなの」


 心配事が消えたレティシアの表情は花が咲いたように明るくなる。今年のルシェルの誕生日はちょうど週末で十六歳になることから、彼のデビュタントも同時に開催される。

 前もってこのことを知らされていたはずなのに、レティシアはどうせ間に合わないと思って、準備をしてこなかった。

 だけど、三月の新学期に合わせてヴァルトアール帝国に帰ってくることになり、慌ててドレスを用意しようとしたが、ドレスが出来上がる時期を聞いてレティシアは諦めた。


「だろうな」


 ルカはそう言ってレティシアの頭を優しくなでると、レティシアは懐かしい気持ちになる。


 書庫を出た二人は庭に出ると、レティシアは空を見上げた。


「ねぇ、ルカ……。昔、家のことやルカ自身のことを話してくれなくて、私が怒ったことがあったでしょ?」


「あったな……。あの時は書庫でレティシアが泣いてたな」


 からかうようにルカがそう言うと、レティシアの顔は赤くなっていく。


「うるさいわね!」


「それで? それがどうかしたのか?」


 ぶつぶつ言いながら手で顔を扇いでいたレティシアは、目をつぶってゆっくり開けてまた星空に目を向ける。


「いつか、私もルカに話したいことがあるなぁって思ってね」


 ルカは悲しそうに言ったレティシアの横顔を見ていたが、ゆっくり視線を星空に向けて、眉を下げて軽く笑った。


「なんだそれ。――いつか、レティシアが話せる時でいいよ……」


 ルカもレティシアが何か隠し事をしていることは、昔から知っている。だけど、レティシアからそのことについて話があったことはない。


 夜の風はまだ冷たく、二人の間を吹き抜けるとレティシアはふぅと息をついた。


「まだ冷えるわね、部屋に戻りましょう」


 レティシアはそう言うと、室内に戻って行った。


「君は俺から離れる準備をしているのか……それとも一緒にいてくれようとしているのか、たまにわからなくなるよ……」


 ルカはレティシアのいなくなった庭でそうつぶやくと、レティシアが歩いていった方を見ていた。

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