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旧作✿現在非公開中  作者: 元・深 夜 現・雪闇影
3章
103/116

入手経路は闇の中

 

 登城命令で城に集まったあの日から一ヵ月。


 あれから新聞で今回のことが大きく取り上げられると、戦争を望んでいた声が次第に沈静化していった。


 アランの話によると、ガルゼファ王国との話し合いもエルガドラ王国に有利に進めることができたそうだ。


 登城命令があったあの日、リビオ王がラウルに手渡した資料を書いた魔導師を見つけて捕まえたのは、レティシアとライアンだ。

 二人は地下室で紙の束を見つけたあの後、他の犯人につながる手掛かりを探しながらも、ライアンの書斎に飛ばしていた黒蝶で様子を確認して、書斎を使っていた人物が他の仲間と接触する時を待った。


 そして……。待ったかいがあったのか、翌日に地下の魔物の様子を見に来た犯人が違和感に感づき、他の仲間と連絡をとったことでレティシアたちは、まとめて彼らを捕まえることができた。


 ライアンの書斎とあの地下室があった建物を使っていたのは、ラウルの宿を訪れた時にレティシアたちを、部屋まで案内したあの男だった。そして、彼が地下室にあった資料を書いた人物でもあった。


 ライアンが彼に動機を尋ねると、彼はライアンに唾を吐きかけて「ヴァルトアール帝国の奴らに話すことなんてない」と言った。そんな彼の様子から、ガルゼファ王国でもヴァルトアール帝国は嫌われているのだとレティシアは感じて、もう嫌われているなら、とことん嫌ってもらおうと、レティシアは彼を拷問にかけて、自らの罪を述べてもらうことにした。


 医学の知識と回復魔法が使えるレティシアのやり方は、ライアンが顔を背けるほど、残酷なものだった。

 拷問の最中、レティシアは決して相手は死なせることはなかったし、彼の身内の名前を出して脅すこともなかったが、レティシアは彼らが本気で死んでも話すつもりがないのなら、それでもいいと思っていた。

 ただ目の前で拷問を受けている仲間を見れば、言わなくても次が自分の番だとわかる。その恐怖に耐えながら、どこまで真実を語らずにいられるのか、レティシアはそれだけを見極めていた。この時に初めて、ライアンとリビオ王はレティシアの残酷性を知った。


 結局、犯人たちは震えながらぽつりぽつり自白した。


 魔物を操るときに使った紫色の欠片については、自分たちで作ったわけではないと話した。それならどのように手に入れたのか彼らに聞いたが、彼らは頑なに語ることはなかった。


 いや……。正確には話すことができなかったのだ。


 なぜなら、彼らの一人が破片の入手経路を話そうとした時に、ガタガタと震えだして口から泡を吹いて椅子から倒れた。

 レティシアとその場にいた医師が原因を調べたところ、倒れた男性には、ある物事を話すと死んでしまう魔法が使われていたことがわかった。もちろんこの魔法は書いて伝えようとしても、同じように死んでしまう。

 他にレティシアたちが捕らえた犯人たちを調べたところ、他の者たちにもこの魔法がかけられていることがわかった。そのため、レティシアたちは最後まで破片の入手経路がわからなくなった。




 ◇◇◇



 久しぶりに宿屋へと帰ってきたレティシアたちは、リビングに集まって今回の結末を聞いていた。



「それじゃ、今回の事件に手を貸していた貴族たちは、アンドレアに脅されたわけじゃなくて、アンドレアに賛同した者たちだったのね」


「そういうわけだ。アンドレアはもともと、おれの母親と親父が結婚する前に婚約者候補として上がっていた一人で、純血思考が高い家系だったんだよ。親父は純血思考じゃなかったけど、貴族たちからの圧力に負けてアンドレアも城に迎え入れたそうだ」


 疲れた様子で深く椅子に腰かけたアランは、出された紅茶を一口だけ飲むと、ふぅっと軽く息を吐き出した。


「アンドレアはその時から、リビオ王の命を狙っていたの?」


「いや……。城に住み始めた頃は、純粋に親父のことが好きだったらしい……。でも、母さんが兄さんを産んでから、少しずつ気持ちの変化があったと本人が言っていたよ。ただの人族である母さんが親父に愛されることも、その子どもを産んだことも許せなかったって……」


「ゆがんだ愛って言うのかしら?」


 レティシアが考えるようにしてそう言うと、アランは呆れたように軽く鼻で笑った。


「それは、おれにはわからねぇ。でも、それがきっかけで、人族が余計に嫌いになってこの国から、排除しようと思ったって話していたよ」


「捕まってた女性たちの行方は?」


「そっちはお手上げだね。その件に関わってた者たちは、変わり果てた姿で見つかるか、魔物の件に関わっていた者たちと同じように話せなくなっていたよ」


(やっぱり、全員は帰って来れないのね……)


「そう……聖女と精霊士は?」


「その二人も、相手に魔力を定期的に流せる魔法を、どこで教わったか聞いたけど話せなくなっていたな。まぁ、親父はそのことについて、二人の故郷であるルーンハイネ教国に聞いたけど、二人は故郷を捨てていいて自分たちとは関係ないって言われていたよ」


(それなら、なぜルーンハイネ教国はあの場に来ていたの? 関わりがないなら、登城命令を断っても良かったはずよね? もしかして、あの場で切り捨てた? それとも、なにか他に目的があって登城したの?)


「そうだったのね……。この後、事件に関わってた彼らは、どうなるの?」


「事件に関わってた貴族は、服毒が既に決まってる。聖女と精霊士はルーンハイネ教国が二人を切捨てたから、断首が確定しているよ……その時にアンドレアも、同じように処刑されるはずだ。魔導師たちは、ガルゼファ王国に犯人たちを引き渡したから、あちらの法律で裁かれると聞いたよ」


「……オスカーは?」


 異母兄弟の名前を出されたアランの顔は、途端に暗くなっていく。直接オスカーが今回の件に関わっていたわけではないことは、アランも調べて知っている。


「……ハッキリ言えば、まだ決まっていない。王族から除名されることは確定しているんだけど、その後のことは宙に浮いたままだな……。死ぬまで幽閉されるのか、それとも国外に追放されるのか……」


「――どっちにしても、彼にとっては地獄そのものね」


 オスカーが国外追放されれば、確実に刺客が放たれ、彼は命を落とすことになる。だけど、幽閉されれば確実に国外追放よりも長生きはできるが、命を狙われるのは同じだ。

 そして、アンドレア妃と同じような考えを持っている人が現れれば、オスカーを次期王に押す人たちが出ててきて、確実に血がまた流れる。だけど、オスカーが亡くなればその心配もなくなる。そのため、争いを望んでいない者たちの中に、オスカーが生きていいと言える者がいないのだ。


 アランもそのことをわかっているのか、悲しそうに深い溜め息をついた。


「そうだな……。それで、おまえたちはこれからどうするんだ?」


 少しでも話題を変えようと、アランはそう言って紅茶に手を伸ばし、気持ちを落ち着かせた。


「皇帝と話してレティシアも帰れるようにしてあるから、俺たちはヴァルトアール帝国に帰るつもりだ」


 アランと同じように疲れた様子で、足を組んで話を聞いていたルカはそう言うと、ライアンはソファーにもたれかかりながら話し出した。


「オレは、兄上に許可をもらったから、ここに残るかなぁ……。紫色の破片についても調べたいし、他に調べたいこともあるから」


「ふーん。ルカとレティシアは帰るのか……寂しくなるな」


「レティシア?」


 うつむいてしまったレティシアを心配そうにルカが声をかけると、レティシアは顔を上げて真っすぐにルカの目を見た。


「ルカには悪いけど、私はライアンとここに残るつもりよ」


 レティシアがそう言うと、アランはおどろいて飲んでいた紅茶を吹き出しそうになったものの、何とかこらえて胸をたたきながら咳をしだした。ルカはそんなアランの方を見ることもなく、ただ目を細めてレティシアを睨むようにみたが、レティシアはルカから目をそらすことはなかった。ルカは深く息を吐き出すと、疲れたように右手でこめかみを触りながら口を開いた。


「悪いけど、それは許可できない」


「ルカに許可されなくても、ライアンは許してくれたわ。だから、私はここに残ることに決めたの」


 ルカはパッとライアンの方を見たが、ライアンはルカの方を見ようともしない。

 だけど、天井を見ながらライアンは口を開いた。


「大丈夫だよ。いろいろとレティシアには制限はつけたし、ルカが心配することはない。それに、ここでレティシアを返したところで、学院に入ってしまうルカに何ができるの? そのことも考えて、オレと兄上で許可を出したんだ。これは皇弟と皇帝の決断だよ」


 ライアンがそう言うと、ルカは拳を強くにぎった。


 レティシアが決めた以上、ルカが皇族に口を出すことなどできない。だけど、ルカはレティシアと一緒にヴァルトアール帝国に帰りたかったのだ。

 悲しそうな目でルカはレティシアの方を見ると、レティシアはルカの方を真っすぐに見る。


「私はお母様の死に紫色の破片も関係していると考えているわ。だから、あの破片がなんなのかちゃんと調べたいの。ヴァルトアール帝国に帰って、ライアンの報告を待っているだけでは、また私は進めないと思うのよ。ライアンもいるし、ステラもいてくれる……それに、困ったらアランもいるわ」


 レティシアはそう言いながら、隣で丸くなっていたステラをなでると、ステラは大きくあくびをした。


「ルカには、向こうでお母様の件について調べてほしいの。これは……私個人からのお願い。だから、断ってもいいわ」


 ルカは深く椅子にもたれ掛かると、ひたいに腕を当てて深く息を吐き出した。


「……わかった。――でも、定期的に連絡はしてほしい……」


 そう言ったルカの声は、少しだけ震えていた。


「えぇ、もちろんよ。ルカにもらった通信魔道具もあるから、直接ルカに連絡するわ」


 レティシアはそう言うと、ルカはレティシアの顔を見る。


 ルカの顔は少しだけ子どものように泣きそうになっていて、レティシアは少しだけ胸がチクッとした気がしたが、ルカに微笑んで見せた。


「ルカ、すぐにまた会えるわ」


「あぁ、今度は俺が向こうで待ってる」


そう言ったルカの顔は、やっぱり子どものように泣きそうな顔をしていたが、それでもレティシアにルカも笑って見せた。




 ◇◇◇




 それから二週間後、ルカはアルノエと一緒にヴァルトアール帝国に帰って行った。


 ルカは馬車に乗り込んだ後も、ときどき振り返っては、悲しげにレティシアの顔を見ていたが、次第に馬車が遠くなるとレティシアは踵を返して、ライアンと一緒に魔塔に向かった。


 レティシアの表情からは、迷いや寂しさなど感じられず、ただ真実が知りたいと言っているように見えた。


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