登城命令
地下から資料を見つけたレティシアとライアンは、あの後も犯人たちにつながる証拠を集めた。
そして……。
リビオ王が指定した日を迎えた。
警戒のレベルを上げたエルガドラ城には、多くの武装した兵がいるためか、その光景が異様な雰囲気を醸し出している。
続々とリビオ王から呼び出しを受けた貴族や王族がエルガドラ城に登城すると、謁見の間に通されてその場で待つように言われるが、待つように言われた謁見の間もただらぬ空気がした。
その雰囲気を感じ取って帰りたそうにしている貴族や、ヒソヒソと話している貴族たちがいるため、謁見の間はざわついていた。
もちろん彼らはリビオ王に登城命令を受けているため、王の許可がなければ謁見の間から出ることもできない。
レティシアは集められた人たちを確認すると、魔塔関係者の中にラウルの姿を見つけ、さらに服装などからルーンハイネ教国とラノーマス王国から来たと思われる人たちがいた。
ライアンは思うことがあったのかレティシアの腕を引っ張ると、できるだけ気配を消して隅の方でリビオ王が出てくるのを静かに待っていた。
時間だけが刻一刻と過ぎていき、何も説明を受けていない人々からは、苛立ちの色が見え始める。
全員が集まったのかディーンとルークが姿を現すと、先程までざわついていた謁見の間は静寂に包まれ、王に敬意を表すように集まっていた人々は深々と頭を下げた。
レティシアは鋭い目付きで正面にある玉座の方を見ていると、遅れて正装をしたリビオ王が姿を現し、それに続くように王妃であるアンドレア妃とアランの弟であるオスカー王子が現れた。
(あの人がアランの異母兄弟ね……)
肌をできるだけ隠した服装をしていたオスカーだったが、レティシアは目を凝らしてオスカーを見ると、その肌はアランと違って竜の鱗がうっすらと浮かんでみえる。さらにレティシアはオスカーの魔力量を見ると、肌に浮かび上がっている竜の鱗に納得した。
(アランとは逆で魔力量が少なくて、竜の血が濃いのね……でも、あの魔力量ではアランのようにドラゴンの姿にはなれないわね)
オスカーはレティシアの視線に気がついたのか、レティシアの方に視線を向けると、困ったように笑った。
レティシアはその瞬間、幼い頃にアルノエから注意をされた時のことを思い出し、慌てて視線を床に向けた。
「おもてをあげよ」
玉座に腰を下ろしたリビオ王の声が静かになった謁見の間に聞こえると、集まった人々は顔を上げてリビオ王の方を向いた。
「皆に集まってもらったのは、時期国王……そして、これからのエルガドラ王国について話したいと思ったからだ」
リビオ王がそう言うと、また謁見の間がざわつき始めるが、リビオ王が持っていた杖で床を力強くたたくと、そのざわつきもすぐに収まる。
「今、この国は危うい所を歩いておる。エルガドラ王国内ではいまだに魔物が暴れ回り、それをどうにかしようと、この国のためにアランも出陣して、魔物たちがなぜそのような行動をしているのか原因も探っておった! その途中で魔物が操られていると仮説を立てると、今度はリグヌムウルブの街で女性が襲われ、ガルゼファ王国との戦がささやかれるようになった! だけど予はガルゼファ王国と争うつもりはない! 同じようにアランも考えてくれ、予が床に伏せている間にアランがガルゼファ王国と、そのことについて話し合ってくれたと聞いておる。――だが、それが納得できなかった者たちが居たのだろう……。エルガドラ王国では、日に日にガルゼファ王国との戦を望む声と準備が進んでいたのだ。だからこそ、改めて宣言する! もし、このままエルガドラ王国がガルゼファ王国と戦になった場合、エルガドラ王国は無条件でガルゼファ王国に降伏する!」
(何言ってんのよ!?)
リビオ王の宣言を聞いた人たちはざわつき始め、レティシアはリビオ王の発言が信じられず、ライアンは目を見開いていた。
「この話をすれば、エルガドラ王国内ではガルゼファ王国との戦ではなく、予の首を狙う内戦が起きるだろが、もう予の首をとる準備はできているのだろう? なぁ、ドランド・ロ・マローリ」
名を呼ばれた男性は、リビオ王の容体が変わった時に寝室にいた人物だ。彼は名を呼ばれると、ビクッと体を震わせて下を向いてしまったが、リビオ王は気にせず続けて寝室にいた他の二名の貴族の名前をあげた。
「おまえたちは、予の容体に異変があればすぐ駆けつけていたが、予が生死の境をふらふらとしていた姿を見るのは、さぞ滑稽だったろう? 悪いがおまえたちのことは、いろいろと調べさせてもらったぞ。ゴロツキを雇い、わざわざガルゼファ王国の者たちを陥れ、民主の不安を煽って楽しかったか? それだけでも許せぬのに、おまえたちは何年も前から国税を懐に入れていたそうだな? 税で贅沢をするのも、さぞ気分が良かったのだろう。それだけに留まらず、国外から安い武器を仕入れては国内で戦争が起きるからと、高く売り付けていたのも調べでわかっておる! 逃げられると思うなよ?」
リビオ王が睨みながらそう言うと、壁際に控えていた騎士たちが三人の脇を固めて捕縛する。
リビオ王は深く息を吐き出すと、疲れたように言う。
「他に何か申したい者はいるか?」
長い沈黙が流れ、人々は顔を見合わせる。
途端に静寂を破るように勢いよくドアが開き、レティシアはその方向を見ると、アランとルカが謁見の間に現れた。堂々と胸を張って歩く二人の後を、捕縛された男性を連れてアルノエが歩きながら進むと、人々が左右に別れて中央に道ができた。
「国王陛下、報告がございます」
「アランか。なんだ申してみよ」
「魔の森にいる魔物を操っていたと思われる一人を、連れてまいりました」
「ほう? それは証拠があるのか?」
「はい。そして彼がオレの命を狙っていたことも、彼は白状いたしました」
「そうか、それで魔の森にいる魔物も落ち着くんだな」
「彼から聞いた情報を元に、次々に彼の仲間も捕まえていますので、落ち着くと考えております」
リビオ王が目配せをすると、壁際に控えていた騎士たちがアルノエに近付き、アルノエは彼らに男性を引き渡した。
「そうか、苦労をかけたな」
「いえ。当然のことをしたまでです」
「他の者で何かあるか?」
リビオ王がそう聞くが誰も何も言わず、リビオ王は深い溜め息をついた。その顔はどこか寂しそうであった。
「――そうか、他にないようなら予から違う話をしよう。皆も知っていると思うが、予は床に伏せて追った。はじめはただの病か毒だと思っていたが、実は原因がほかにあったのだと、ある者の助けで既にわかっておる。無論、それに関わっていた者たちも既に調べがついている状態だ……。予は、その者たちがここで白状してくれることを望んでいたが、その者にはその気がないようだ。悪いがこれ以上野放しにはできぬ、捕らえよ」
リビオ王の声で騎士たちが動き出し、リビオ王の部屋に出入りしていた精霊士と聖女が騎士によって両脇を捕まれ、アンドレア妃の周りも騎士が取り囲んだ。
精霊士と聖女は暴れ騒ぎ立てるが、レティシアの命令で動いてた諜報員は、既に彼らが王妃とつながっていた証拠をつかんでいるため、言い逃れなどできない。
「聖女よ。そなたには命を助けてもらったと思っておったが、それも仕組まれていたことは、既にわかっておる。精霊士よ、聖女と結託していたことも調べがついてるのだ、もう諦めるがいい」
アンドレア妃は騎士によって椅子から引きずり下ろされ、彼女は暴れ叫び始めたが、リビオ王は立ち上がるとアンドレア妃を見下ろした。
「アンドレア。おまえは第一王子であった予の息子ハラルトと、予の妻であったアリスの殺害の容疑がかかっておる」
「わたくしは何も知りません! 何かの間違いです!」
目に涙をためてアンドレア妃は叫んだが、リビオ王はアンドレア妃に氷のように冷たい視線を向けた。
「白々しい……。予の子や妻だけには飽き足らず、王妃の座についた後も、アランの命を狙い、予の命も狙っておったことなど、調べがついておるのだ! そして貴様がさまざまな理由をつけて貴族を脅し、その娘をいたぶって地下牢に罪人としていれては、他国に奴隷とし売っていたことも調べがついておる!! もう言い逃れなどできぬ!」
「違います! 地下牢に入っていたあの者たちは、確かに罪を起こしたのです!」
「罪とはなんだ!! 貴様の言う罪とは、彼女たちが生まれてきたことか! 予は彼女たちから全てを聞いておる! 諦めるがいい! 連れていけ!!」
リビオ王は肩で息をしながら、目を閉じて涙をこられるように歯を食いしばった。
(自分が愛した女性と息子を殺した人と、政治が絡んでいたとはいえ結婚していたことを考えると、つらいでしょうね……子どもまで作ってるわけだし)
レティシアはオスカーの方をみると、彼は青白い顔をしてうつむいていた。彼の今後を考えると、レティシアは少しだけ暗い気持ちになった。
「ラウル殿下。この度はエルガドラ王国の者がガルゼファ王国の者に対して、ひどいことをした。すまなかった」
リビオ王がラウルに頭を下げると、ラウルはどこか満足そうに微笑んだ。完全にエルガドラ王国が非を認めたため、この後に話し合いをしても、優位に話が運べると考えたのだろう。
「いえ。我が国の無実が証明されれば、何も問題はありません。ただ、今回のことで我が国が被った被害も少なくありません。その保証はしていただくことになると思います」
「ほう? その事だが、貴殿はこれを見ても同じことが言えるのか?」
リビオ王はディーンに目配せをすると、ディーンは書類をラウルに手渡した。
ラウルは怪訝な顔をしながら書類を受け取り、その内容を読んでいたが、次第に彼の顔色が変わっていく。
ディーンがラウルに手渡した書類には、レティシアがあの地下室で見つけた物と、今回エルガドラ王国で起きた事件に、ガルゼファ王国の魔導師が関わっているという内容が記載されていた。
「国同士の話でもありますので、後で別室にてこの話をしましょう。その方が、ガルゼファ王国としてもいいと思います」
リビオ王は先程と変わってラウルを睨みながらそう言うと、ラウルは手にしていた紙束をにぎりしめた。
「ありがとうございます」
「さて! ここに残っているもの達は、なぜ自分たちがここに呼ばれたのか、そして、本当に予になにか申すことがないのか考えてほしい! それとだ、本当はもう少しだけ様子を見ようと思ったが、今回の働きでアランを次期王に押す声が届いている。そのため、王太子は変わらずアランのままだ! 話は以上だ!」
リビオ王はそう言って踵を返すと謁見の間を出ていく。
謁見の間に残っていた人たちの顔を、レティシアはただ静かに見ていた。ある人は顔を青くしガタガタと震え、ある人たちは肩を抱き合って泣いていた。
今この場で脅えている者たちは、何かしらの形でこの事件に加担しているのだろう。
そして、泣いている人たちは、囚われていた女性たちの家族なのだろう……。何人の女性が家族の元に戻れるのか、レティシアも詳しくわかっていない。レティシアが詳しく知っているのは、亡くなった女性の人数と売られていった女性の人数だけだ。女性たちがどこに売られたのか、そのことについては書かれていなかった。
これから、王妃やこの件に関わった人たちが白状すれば、彼女たちの行方を調べることも可能になるが、レティシアは犯人たちが素直に話すとは考えられなかった。




