ライアンの後悔
移動魔法陣でレティシアとライアンが宿泊していた宿屋に戻ると、レティシアは深い溜め息をついた。
どうやら王妃が地下牢の様子を見に行かせ、レティシアたちが牢屋にいないことが、もう王妃に知られてしまったようで、王妃の罵声が黒蝶を通じて聞こえたようだった。
レティシアは黒蝶から届く声を聞き漏らさないように耳を傾けて、これから王妃がどのように動くのか聞きながら、ある程度の予測を立てていく。
(このままでは、地下牢にいた女性たちは移動させられるわね……もし、ステラがいる所と違う場所に連れていかれたら……)
レティシアはそう思いつつも、彼女が好きに使える人材は既に使い切っている。もしも、牢屋にいた女性たちの後を追うなら、レティシアかライアンが直接動くしかない。
黒蝶のような魔法で女性たちのことを追っても、彼女たちの安全が確保できる訳ではないため。あと考えられるのはライアンの使い魔だったが、震えながら魔法陣を描いたライアンに使い魔を頼んで良いのかレティシアは考えていた。
「レティシア様、どうかしましたか?」
「え? ぁあ、王妃が私たちが居なくなったことに気がついたわ。牢屋にいた女性たちを移動させるかもしれないから、どうしようか考えていたのよ」
「そうですか……。では、オレが使い魔を使って後を追います」
「その……、大丈夫?」
「正直に言うと、魔力が暴走しないか……っと言う不安はありますね」
「そうよね……」
レティシアは腕を組んでアゴを触りながら考えていたが、ライアンはその様子を見ながら歯を食いばっていた。
「オレ……、怖いだけじゃなくて、後悔してるんだと思います。オレが魔力の暴走を起こす前に、助けられる命を、自分が助かりたいがために目の前で見殺しにしました。それでも最後は捕まって、次に魔法を使おうとした時には彼らの悲痛な叫びが聞こえてました。記憶を取り戻した今も、魔法を使おうとすると、彼らの悲痛な叫びが聞こえてきます……。なんで助けてくれなかったんだ。なぜ逃げたんだ。助けてくれ。死にたくない。そう言う彼らの声が聞こえてくるんです……。でも、その声は次第にオレのことを責めてきます……」
(ライアン……)
「兄上にもこの話をしました。兄上には、助けられなかった命より、これから助けなければならない命を考えろ。っと言われてしまいましたが、オレにはあの日のことを忘れることはできません」
「そうだったのね……。――私は忘れる必要はないと思うわ。だけど、同じ過ちを繰り返さない努力はするべきだと思うの」
「はい、それもわかってます。エディット様が生きていた頃は、オレが失敗をして落ち込んでいた時に、レティシア様と同じようなことをエディット様から、いつも言われてましたので」
「お母様とは、そういう話をしたことがなかったから知らなかったわ」
「いつもレティシアのことをすごいと言ってましたよ。普通の子と違うので、先代様と同じように好きに生きてほしいとも……」
「そうなのね……」
「レティシア様……。もし……、もしオレが魔力の暴走を起こした時は、お願いできますか?」
「……ぇえ。そもそも、この部屋の外に被害が及ぶことはないから、安心してちょうだい」
「ありがとうございます」
ライアンはそう言ってその場に膝を着くと、指先を軽く切って魔力を流しながら震える指先で魔法陣を書いていく。
レティシアはその様子をただ静かに見守っていた。
魔法陣を描き終えると、ライアンは魔法陣に魔力を流して黒猫を召喚した。
『なんだ、やればできるではないか』
黒猫が偉そうにそう言うと、ライアンからは乾いた笑いがこぼれた。
「まぁね……。まだ震えてるけど、これで自由に動けるだろ? 頼みを聞いてくれないか?」
『良かろう、頼みとは何だ?』
「さっき、君に首枷を取ってもらった場所はわかるよね? あの場所にいた女性たちの後を追ってほしい。そして、彼女たちに危害が及ぶことがあれば、彼女たちを守ってほしいんだ」
『……なんだ、今度は子守りか。まぁ良いか、わかった』
黒猫はそう言って影に吸い込まれていくと、レティシアの魔力探知から黒猫の気配が消えた。影を使って移動したのだろう。
「ライアン、ありがとう。とても助かったわ」
「いいえ、お役に立てて良かったです」
レティシアは空間魔法からブローチを取り出すと、まだ宿屋に帰ってきていないルカに連絡を取ろうと、ブローチに魔力を流した。
通信がすぐにつながったことで、レティシアはルカたちが手紙を読んだのだとわかり安心した。
「ルカ、今どこにいるの?」
『まだ森の中だ。だけどこっちも収穫はあった。レティシアの手紙に書いてあった通りだったよ』
「そう、それなら一週間後に城で会いましょう。リビオ王がみんなを集めるように言ったわ」
『わかった。頼むから、くれぐれも無理だけはするなよ』
「えぇ、わかっているわ。ライアンもいるから、心配しなくていいわ」
『レティシア……』
「ん? なに?」
『……、また後でな』
「えぇ、また後で会いましょう」
レティシアは通信を切るとブローチをポケットにしまい、空間魔法から黒いフード付きマントを取り出して羽織った。
「ライアン、私たちも証拠を確保しに行くわよ」
ライアンは言われるがままレティシアの後を追って宿屋から出ると、レティシアが向かったのはライアンが前に使った魔塔につながってる建物だった。
建物に入る前にレティシアは辺りを見渡し、他に人がいないことを確認してから、その建物に入らずに向かいの建物のドアまで行くと、レティシアはドアの鍵を開けて中に入っていく。
中に入ると部屋の中は暗く、灯りがなければ歩くこともままならない暗さだった。
だけど建物の中から獣の声が聞こえ、レティシアは灯りをつけずにその声が聞こえる方に足を向けた。
足音を立てずに地下に続く階段を見つけると、人の気配を感じたレティシアは透明化魔法を使って、階段をゆっくり下りていく。
見つからないように地下に下りると、地下にある一室から明かりが漏れ出ていて、レティシアとライアンはゆっくりとその部屋に近寄った。
ドアの隙間から中の様子を確認すると、そこには一人の男性と檻の中に入れられた魔物の姿があった。
魔物は檻の外に出ようと中で暴れていたが、男性は魔物に何かを突き刺すと次第に魔物が静かになっていく。
中の様子を見ていたレティシアは男性がドアの方に歩いてくると、慌ててドアから離れ隣にあった部屋に入ってひとまず隠れた。そして男性が部屋から出て、地下から出ていくのをそこで静かに待った。
思ったより男性がなかなか部屋から出てこなくて、レティシアは他に通路があったのか? っと考え始めたが、男性は部屋から出て地上につながる階段を上がって建物から出ていくと、レティシアは灯光魔法を使って明かりを確保した。
「ライアン、悪いけどこの部屋を調べてちょうだい。私はあっちの部屋を調べてくるわ」
「わかりました。何かありましたら、声をかけます」
先程まで男性がいた部屋に入ると、レティシアは魔物の様子を確認したが、どうやら薬で眠らされているみたいで暴れることはなかった。
部屋に本棚やデスクがあり、レティシアは本棚にある本を済から調べてからデスクの上と引き出しの中を調べた。
デスクの一番上の引き出しには鍵が掛けられていたが、レティシアはその鍵を開けて、引き出しの中に入っていた資料を読むと眉間にシワを寄せた。
それから何気なく足元に視線を向けた時に、レティシアはある違和感を感じた。不思議に思い首をかしげながら膝を着いて床を確認すると、ほんの少しだけ隙間がある事に気が付き、魔法を使って床板を持ちあげてレティシアは中をのぞき込むと、そこには隠すように紙の束が置かれていた。
レティシアはそれを手に取ると、体を起こして紙の束に目を通した。
「レティシア様、あちらの部屋でこんなものを見つけました」
難しい顔をしながら読んでいたレティシアだったが、ライアンがレティシアに資料を渡して、それを読んだレティシアは不敵な笑みを浮かべた。
「ライアン、これを見てちょうだい」
レティシアは先程見つけた資料をライアンに渡すと、ライアンの顔は次第に険しくなっていく。
「これは……」
「これで、彼らは言い逃れができないわ」
レティシアはそう言うと、ライアンと共に残りの部屋を調べてから、魔物が入っている檻に魔法をかけて見つからないように建物の外に出た。
(あの魔物たちも、檻から出すことができなければ使うこともできない……。あとは、あの人ね……急がなくちゃ)




