地下からの脱出
今世では毒に対して免疫を付けていなかったレティシアが、目を覚ましたのは地下牢に入れられて、半日がたってからであった。
レティシアは頭を押さえながら体を起こすと、既に目を覚ましていたライアンが鉄格子を見ながら、ぶつぶつと何かを言っている姿が目に映る。そこからゆっくりと辺りを見渡した。
(頭も痛いけど、体もだるいわね……)
どうやらここは、前にレティシアがアランたちと訪れたことがある地下牢のようで、知らない所より知っている所でひとまずレティシアは安心した。
ライアンはレティシアが起きたことに気が付くと、足早に彼女に駆け寄って体を支えた。
「ララ様、大丈夫ですか?」
「えぇ、頭が痛いくらいで、他は大丈夫よ……ジャンは?」
「オレは生まれが生まれなので、体が薬には慣れていて大丈夫ですよ」
「そう、それなら良かったわ」
「これからどうしますか?」
「これがある限りどうしようもないわ。とりあえずこれを外しましょう」
首枷をつまんで引っ張りながらレティシアはそう言うと、ライアンはうなずいて指先を切って床に膝をついた。
「では、オレに任せてください」
ライアンは真剣な顔をして床に魔法陣を描き始めたが、次第にその手が震えて顔色もだんだんと白くなっていき、ライアンを見ていたレティシアは、彼がまだ魔法を使うこに対して恐怖心があるのだと思った。
「無理しなくてもいいんだよ?」
「……大丈夫」
ライアンのことを心配をして聞いたレティシアに対して、ライアンはまるで自分に言いかけせるようにそう言うと、その後に何度も「大丈夫」と繰り返しつぶやいた。
「そう、それならいいわ」
レティシアもライアンが大丈夫だと言ってしまったので、彼の手伝いをするのに手を出すことも、顔色が悪い彼を止めることもできずに、ただその様子を見ていることしができなかった。
時間はかかったけれど、青白い顔で汗を流しながらも、何とか震える手で魔法陣を描き終えたライアンは、ポケットから赤い丸い玉を取り出すと、まだ震える手で魔法陣の上に置いた。
魔法陣が発動するとその光の中から黒猫が現れ、ライアンは黒猫に話しかけた。
「久しぶりだね。急に呼び出して悪いんだけど、この首輪をとってほしいんだ」
『ふん。久しぶりに呼んだと思ったら、貴殿は捕まっているのか』
黒猫はそう言ってライアンの首枷を爪で切り落とすと、レティシアの首についた首枷も同じように切り落とした。
『これで良いだろ』
「ありがとう。助かったよ」
『次に呼ぶ時は、もう少しこっちに居られるように呼べ』
先程の赤い丸い玉に、それほど魔力が込められていなかったのだろう、黒猫は不貞腐れた様子でそう言うと、影に消えていく。
「使い魔がいたのね、驚いたわ」
「一応ね。彼とは若い頃に契約したんだ。また呼べるか不安だったけど、呼べてよかったよ」
眉を下げながらライアンが笑うと、胸を押さえながらレティシアはニッコリ優しく微笑んで見せた。
それからレティシアは魔法を使って、二頭の黒蝶を作り出して飛ばした後、先程首につけていた首枷と同じものを二個作り出すと、一個を自分の首にはめて、もう一個をライアンに手渡した。
ライアンはダミーの首枷をつけると、それをさすった。
「ありがとうございます。でも、先程と違って変な感じがしますね」
「すぐになれるわよ。それを着けていても、魔法は使えるからただの飾りだと思えばいいわ。だけど、自分で魔力を抑えないと気付かれることもあるから、気をつけてちょうだい」
「わかりました」
レティシアは鉄格子を確認し魔法を流すと、魔力が弾かれてしまう。だけど、それは予想していた通りだったのか驚いた様子もなかった。
「普通に出るのは無理ね……アランたちが手紙を読んで、戻ってくるまで待っていても、いいかもしれないわね」
レティシアは鉄格子を目を凝らしながら見ると、もう一度だけ魔力を流して弾かれる様子をじっくり観察してから、過去の記憶をたどり、同じような物が過去に使われていなかったか考えていた。
(魔法から少しだけ離れた方が良さそうね……)
薄暗い静かな地下牢に、カチカチとたまに小さく何かがぶつかる音が聞こえ、しばらくたつとその音が聞こえていた方からカチャと鍵が開く音が聞こえた。
(開いたわ……)
魔法がダメなら魔法を使わなければ良いだけのこと。過去に社会の裏側で生きたことがあるレティシアにとっては、牢屋の鍵を開けることなど、そんなに難しいことではなかったのだ。
レティシアにそんな知識があるとは知らなかったライアンは驚いていたが、レティシアは全く気にする様子などもなく、牢屋の扉を開けると牢屋の外に出て背伸びをした。
すると先程まで静かだった地下牢に人の動く音が消え始める。
どうやら、レティシアがど牢屋の扉を開けたことで、捕まっていた女性たちが自分たちも……っと思って鉄格子に近寄ったのだろう。牢屋の中から外へと手を伸ばして、かぼそい声で「助けて」と言っている声が聞こえる。
だけど、レティシアには彼女たちを今の段階で外に出すつもりはない。
彼女たちを今牢屋から出したところで、彼女たちを連れてここから出る姿が想像できなかったからだ。
例え魔法で彼女たちの姿を隠して移動を始めても、外に出た瞬間にレティシアの指示に従わずに、一人でも走り出してしまえばすぐに見つかってしまう。
そうなれば、レティシアは彼女たちのことを守りながら、リビオ王の部屋に向かわなければならないが、彼女たちは王妃にここへ容れられた人たちだ。
王妃から受けた仕打ちがあるのに、国王のことは信じられるのか? っと言う不安もある。
そのため、レティシアは彼女たちを連れて行かないという決断をした。
レティシアとライアンは透明化魔法で姿を隠すと、足音を立てずに地下から出ていく。
地下にいた時はわからなかったが、外に出るとだいぶ長い時間地下にいたみたいで、太陽の位置から考えて、捕まってから丸一日が経過していることがわかる。
(アランたちと、合流をしましょう)
レティシアはそう思うと、少しだけ歩く速度を上げてリビオ王の寝室へと向かった。
◇◇◇
レティシアとライアンがリビオ王の寝室の前につくと、ちょうどドアの前に聖女と精霊士がいて、王への謁見を求めていた。
ディーンは彼らに帰るように言っていたが、それでも二人は引き下がらなかった。
渋々と言った感じで、ディーンが二人をリビオ王の寝室に招き入れると、レティシアとライアンも見つからないように二人に続いた。
部屋の中に入ると、聖女は前回と同じようにリビオ王の容体を見るからと言って、リビオ王の方に手を向けて小さい声で何かをつぶやくと、リビオ王の周りに淡い光が広がっていく。
そして光が収まると、今度は精霊士が先程の聖女と同じように小さい声でつぶやきながら、リビオ王に手を向けた。
そして、先程と同じようにリビオ王の周りに淡い光が広がってその光が消える。
ただ前回と違うのは、レティシアがこの場にいて聖女と精霊士が何を言っているのか聞き取れたことと、既にレティシアがリビオ王にかけられていた魔法を解いていることだ。
リビオ王にかけられていた魔法が解いてあることに気がついた二人は、お互いに顔を見合わせるとうなずきあった。
「陛下の容体が思っていたより、悪くなってます。私たちはこれから陛下に、回復魔法を施しますので、お二人は部屋から出て行ってもらえますか?」
精霊士がそう言うと、ディーンは首を横に振った。
「二人と言うのは無理です。私は部屋から退室しますが、ルーク殿にはこの部屋に残ってもらいます。それがダメだと言うなら、許可はできません」
「私からもお願いします! このままでは、リビオ王の容体は悪くなるばかりですよ!」
「申し訳ございません。例え聖女様からのお願いであっても、これはアラン殿下からのご命令です」
「わかった。だけど、後で前回のように慌てて呼びに来ても、じぶんたちは知りませんよ」
苛立った様子で精霊士はそう言うと、聖女の腕を引っ張りながらリビオ王の部屋を後にする。
レティシアはそのままリビオ王に近ずいて容体を確認すると、最後にレティシアが見た時よりリビオ王の容体はだいぶ回復していた。
「小さなお嬢さん、そこにいるのかい?」
「はい、ここに」
姿を現すこともなくレティシアはそう答えると、ルークは剣に手を置いた。
姿を現さないレティシアたちのことを警戒したのだろう。だけどそんなルークに対して、リビオ王は軽くルークに向かって片手をあげて、大丈夫だと目で言う。
「彼女たちが、何をしていたのかわかったか?」
「いろいろと言いたいことはありますが、彼女たちが何をしていたかわかりました」
「そうか。それでこの後、予はどうすればいいのだ?」
「陛下も報告を受けているのではないですか?」
「あぁ、もちろん予も報告は聞いているよ。――そうか……決断の時ということだな」
「そうなりますね」
レティシアがそう言うと、リビオ王は寂しそうに笑った。
「今回、私は王妃の誘いにのってわざと捕まりました。あのままどこに連れていかれるのか、それも私の目で確認することもできましたが、私の変わりにステラが確認してくれました」
「そうか……。そなたの使い魔は優秀なんだな」
「はい、とても優秀です。陛下にも優秀な部下や王子がおります。どうか正しい決断を」
地下牢に捕まっていた女性たちの行方は、ステラに任せていたため、彼女たちの安否も確認済みだ。
だけどこのままでは、彼女たちの安否の保証はできなくなるために、レティシアはわざと捕まれば犯人たちも動くと思ったからわざと捕まった。
「アランたちは、いつ頃こちらに戻る予定かわかっているか?」
「問題がなければ、陛下が指定した日には必ずこの城に戻ってきていると思います」
レティシアがそう言うと、リビオ王は深い溜め息をついた。
そして拳をにぎるとディーンに向かって告げる。
「一週間後に皆の者を謁見の間に集めてくれ。無論、王妃やこの国にいる他国の王族もだ」
「かしこまりました」
ディーンは頭を下げると足早に寝室を出ていき、部屋には暫しの沈黙が流れる。
「迷惑をかけて、すまないな……」
力なくリビオ王はそう言うと、にぎっていた拳を見つめていた。
「いえ、では私は一度アランたちと合流をするので、ここで失礼します」
レティシアはそう言って頭を下げると、前に描いた移動魔法陣へと向かった。
同じ王族として、ライアンは思うことがあったのか、何かを言いかけたが言うのを辞めると、歯を食いしばったてズボンを強くにぎりしめていた。




