おふだのうら
「……ねえ、あの古びたアパートの噂って知っとる?」
「何の話ね、それ」
「あそこの敷地にある『おふだ』、あれに触っちゃいけんらしいよ」
▪▪▪
とある地方に引っ越した俺。
まあ、進学した大学の近くに引っ越そうと思ったんだがな。
独り暮らしをするに最安値とまではいかないが、なるべく安いところを探していた。
で、借りたアパートは住宅街の外れにある。
若干古びた感じだが内装はそこそこ綺麗で、尚且つ近場の相場より2~3割程安値だったから、思いきって借りた。
……そこまでは良かったのだが、実のところ俺しか借りていない。
いや、部屋は何部屋かはあるんだ。
あるんだが、誰も借りていない。
大家さんにも聞いてみたが、「事情は話せんよ」の一点張りだ。
仕方がない、と割り切って大学生活に励もうと思った。
▫▫▫
それから、大学生活はそこそこ楽しい時を過ごしていた。
バンドのサークルに入って、気の合う仲間と活動もしていた。
「……せや、馬場君って他の地方から来たんやろ。今どこに住んどるん?」
一番の仲良しである、樹葉がそう聞く。
「大学の近く……ほら川沿いにある、科芽荘ってとこ」
『科芽荘』の言葉を聞いた途端、樹葉の顔が曇る。
「どうした?」
俺はそう聞き返す。
「あ、えっとな……何でもない。そうか、そこに住んでんやな。と、ごめんな……バイトあったの思い出したわ。ほな、またな」
そう樹葉が言うと、その場を去っていく。
「……なんだ?あの態度……」
▫▫▫
それから、俺は『科芽荘』の事が気になって仕方がない。
多分だが、樹葉のあの態度と入居者が居ない事が関係するだろう。
まあ、あの後から色んな人に聞いてみたが「知らない」の一言で済まされた。
仕方がないから、ネットで調べる事にした。
一つのサイトを見つけた。それは、オカルトサイトだ。
そこには、『科芽荘』にある『おふだ』の裏を見ると呪われると書かれている。
こんなの只の噂話だろう、と考えた。
……が、ひと目確かめたい、そうも思った。
呪いとか信じないし――
それがあるのは、アパートのごみ捨て小屋にあるらしい。
部屋を出て行ってみると、裏手にあった。
「こんなもん、只の紙くず……」
剥がして裏を見ると、そこに俺の名前が―――
▫▫▫
『昨日の午後6時すぎ、市内のアパートにて大学生の遺体があったと通報がありました。警察は事件とみて、捜査をしています』