The unscattered cherry blossoms, and the clown princess 〜 散らない桜と道化の姫 〜
心象的な曇天は晴れかけている。
かつては見えなかった私達の先行きも、今では切り開かれ陽の当たる道となって目の前に伸びている。
春の日差しは移ろい初夏のそれに変わり、同時に人によっては陰鬱と感じるであろう小雨の続く季節に入っていた。
降雨故の順延を免れながらも見上げる空は鉛色。
いつ降り出すか解らない空模様も、人によっては都合が良い。
程良い湿気は私としては不快感を感じざるを得ないとしても、ある種の人間にとっては背中を押す好材料足り得るのだ。
「いやいや、ストレートが気持ち良いわ」嬉々とした表情で肩を回しながら、上条が同意を求める。「なあ、ミナちん」
「それを言ったら、全部良いすよ? 私的には」
「おお、言うねえ」上条はニヤリと口元を上げる。「なら、今日は私の出番はないと」
「まさか。指に掛かると言っただけで、打たれないなんて言ってないすよ。だからしっかり準備しておいて貰わないと。私は怖くて投げられませんよ」
「どの口がそれを言うのさ」上条は湊の軽口に苦笑した。
上条の気持ちも解る。
言葉とは裏腹に、この日の湊はいつも以上に豪胆だった。
実際、指の掛かりが良く気持ちよく投げれているのだろうな、と受ける私もそこは同意する。
ただ、普段に比べテンションが少し高いのが気になる。
まさかね、と思いつつも、私は私で思う事もあり、それを確認する為に立ち上がった。
「あら、もうおサボり?」隣でエースの球を受けていた荻野が愉しげに言う。
「んな訳ないじゃないすか。ちょっと小噺をと」
「サボりじゃない」
荻野は笑いつつ、手の甲を振った。それを了承と捉え、私はこの日の先発を担った乙女の元へ。
「なによ、アンち」小首を傾げつつ、湊もまた私に近づいて来る。丁度プレートとベースの中間あたりで落ち合った。
私は一息ついて湊を見遣る。
「お前、緊張してるだろ」
「別にそんな事ないけど?」
さらりと言う湊ではあるけれど、やや上気した頬や、何処か落ち着きのない様と、普段とはやはりどこか違う。
その理由が公式戦初登板によるプレッシャではないのか、と私は訝しんでいた。
一見大木の如き神経を有する様に見えるこの乙女も、公式戦という晴れ舞台には何か感じる物があるに違いない。
「じゃ、そのテンションの高さは何だよ」
「そりゃあ、嬉しいから仕方ないじゃんか」
成る程。コイツの場合、緊張がこういう形で表面に浮き出るのか、と納得。とは言え、修正すべき点がない訳ではない。
「まあ、緊張すんのは解る。けどさ、ストレート右に上ずってる。少し落ち着けよ」
「だから、緊張なんて……」言いかけた湊は言葉を止め、大きく深呼吸した。「ああ、これって緊張なのか。妙に球が上ずると思ってたんだ」
「気持ち良く投げれてるのは解るよ。球も走ってるし」私は続ける。「でも嬉しい、楽しいが先に来てちょい雑になってる。だから落ち着けって、ね」
私は周囲を見回す。頬に感じる空気は生暖かく湿っている。
「確かに」湊は大袈裟に頷く。「さすがアンち、冷静だな。まじ、助かるわ」
「バカヤロウ」私は湊に苦笑を演じてみせる。「胃が痛くて堪らんわ」
ブルペンのホームとマウンドの中間で、二人して小さく笑い合う。
私はミットで湊の腰を叩き、声を掛ける。
「まあ、緊張は仕方ない。だからそれを踏まえて一球一球丁寧にな。お前の持ち味はストレート」私は再び周囲に目を向ける。「今日の天候は私らの味方だ、気持ち良く投げ込んで来い」
「おっし、まかせろ」湊はそう言って、自身のグラブを叩いた。
言わないよりはマシ、その程度の事。
実際その場に立たないと真実なんて解らない。緊張がリズムを狂わす事もあれば、上がったテンションが普段以上の結果を導いたりもする。いずれ慣れるのだとしても、何事でも”最初”という物は存在する訳で、偶々それがこの時だっただけの事。
私はと言えば、湊程表面に浮き出て来てはいなかった。
心のどこかでは失敗した時を想像し萎縮している自分もいるのだろう。けれど、この日の対戦相手のデータがあった事が私の緊張を和らげる要因となっていた。
未知の領域だからこそあれこれ想像し最悪の展開を恐れ、それを忌避しようと体は強張ってゆく。緊張とはそういうもの。
とは言え、先の湊同様に、ないよりはマシといった所。それでも緩和されるのは、偏に私があまり緊張しないからなのかもしれない。
敵は己、とはよく言ったものだ。
想像を膨らましそれに呑まれて自滅する。
それが現実に起きるからこそ、私は客観的視点を愛するのだ。
「初スタメンなのに、貴女は普段通りね」私が定位置に戻るなり荻野が言った。意地悪そうに、目を細める。「あたふたしてる姿を見たかったのだけれど、ね」
「生憎、緊張とはあまり縁のない体質なもので」
「ああ、成る程」荻野は笑みを浮かべ頷く。「だから、所構わず噛み付くのね」
「……ミウさんはどうしても、私をワンコにしたいんすねえ」
荻野の軽口はおそらく普段通りを演出する為の言葉。
僅かでもあるかもしれない、私の中の緊張を解そうとする、女帝なりの気遣い。
それが伝わって来るからこそ、私もまた軽口で返す。そのお心遣いだけ頂戴いたします、と。
「ところで」私は話題を別方向へと向ける。「私がやらかさず、制限内に収まる場合、夏目はどこまで行きます?」
「完投」荻野はぽつりと言った。
この日、私達に課された制限は三点。
データから導き出した相手の戦力を考慮するとやや甘めの設定。余裕とは言わないけれど、荻野達の手厚いバックアップによりお膳立ては完璧。
言い換えるのなら、シナリオは作られており、私達はそれに基づき演じるだけ。
唯一警戒すべき点はイレギュラな出来事。これに関しては、もうその場の空気を読む以外に対処は出来ない。データでは解らない、試合の流れや雰囲気から生じる想定外への対処。
私達に貼られた強豪というレッテル故に、相手も又こちらの情報を取得しているだろう。
それに加え、私達が高校生なら、相手もまた高校生。伸び代は互角、何が起きても不思議ではない。故に警戒すべき唯一点は中々に発生率は高いのだろう。
愚か者はそこを蔑ろにして己の力を過信する。故に足を掬われる。
ちゃんちゃらおかしい。
過信など出来ようものか。
多少はマシになったとは言え、このヒョロい腕を見てどう考えれば過信に繋がるのか、と自虐的発想すら出て来る始末。
責務は果たそうと努力はする。
けれど、私は私自身を然程信用していない。
過去を紐解いてみれば解る。やらかすからだ。
それを心に刻んでいる限り、私に慢心の二文字は無い。
どの口が、という外野の野次にはそっと耳を塞いでおこう。
「点は私達が取る。貴女は点をやらない。初めての試合だもの条件は甘くしてある。こなして見せなさいな」
「はい」
私の力強い返事とほぼ同時に、湊の勢いのある直球が左手に収まった。
曇天の下、暫しの調整をこなしていると私達の下に使者が現れた。
初めて見る試合用のユニフォーム姿。背番号は無い。
「シートの準備整ったから」暇を持て余した様に見える我が儘プリンセスは、両手を尻ポケットに突っ込み普段と何ら変わらない態度で顎をしゃくる。「仕方なしとは言え、ちゃんとした球場の方が良かったよなあ、初先発組」
「それは贅沢じゃないすかね」私は自分の小荷物を片しながら碧に返す。「私が場所に文句付けるのなんて百年早いすよ」
「へえ、謙遜なんて珍し」
「別にいつも通りじゃないすか」私はニヤリと口元を上げて見せる。
「はっ、どの口が」そう言って碧は片頬を上げた。「思ったよりは緊張してないみたいだな」
「まさか。胃が痛くて堪りませんて」
「また心にも無い事を」碧は苦笑しつつ荻野に同意を求める。
荻野もまた肯定の息を吐いて立ち上がった。
「私達も切り上げて、そちらに参加しましょう」
五人で少しだけ荒れた地面を慣らし、目と鼻の先にあるグラウンドに向かう。
起伏のある地形の葉山と違い、市街地らしくここは広々としていて平坦だ。樹木と背の低い建物から覗く先の空は僅かに明るい。
碧がちらりと話題に出したけれど、初めての公式戦、その肩書きがある以上場所の好き嫌いなど些細な事だ。返答同様、別にこの場所に嫌悪感を抱いている訳ではない。碧が言う様な恵まれた環境の方が好ましいとはいえ、出来たらラッキー程度。自分が今は未だその場所に見合っていない事を自覚している。故に目の前の事からコツコツと、である。
ノッカーを担う碧の罵声を隣で聞きつつ、一つづつグラウンドに在る事、そして自分自身を確認してゆく。
この日のスタメンの調子や動き、慣れ親しんだ者達の中に混ざり込む私という異分子と、その協調。
「キャッチ!」
碧の声と共に、真上に上がった白球が曇天に吸い込まれてゆく。
太陽に呑まれるよりは幾らかマシというだけで、鉛色の空に溶け込んだボールは見え難い。
けれど、それは既に経験として私の中にあり、少しだけ風に流されつつも胸元のミットに難なく収まるのだ。
「良いね」碧が人差し指を突き出し片頬を上げた。
手慣らしのランダムノックが終わり内野連携の確認が始まった頃、相手チームが到着した。
小さく頭を下げつつグラウンドに臨場する揃いのジャージ姿の面々は仄かに上気している。
この場所は最寄り駅からはそこそこの距離がある。早足で歩けばアップにもなろう。
遠目でも士気は十分。臆する部分は微塵もない。
乙女達は自軍ベンチの端に一列に並び、主将の声掛けと共に皆が頭を下げる。
一矢乱れぬ連帯感は春季リーグの二部にいる証。
私達と対等な関係。上のカテゴリのチームの様な胸を借りるなんて表現は当てはまらず、対等な遣り合いが出来る相手だ。
私達もまた、動きを止め挨拶を返す。
ノッカーを碧に任せていた理香が、準備に取り掛かる相手チームの主将と二、三会話を交わし、後着した車に駆け寄ってゆく。
監督同士の会話を横目に見つつ、私達は最後の調整を終わらせた。
入れ替わりに、殻を脱ぎ去りグラウンドに散らばって行く純白のユニフォーム。
千葉は柏にある由緒ある女子校、常桜学苑の乙女達。
校名にある桜のイメージなのか、袖のラインや校名のロゴには薄い桃色が配われ、縁取りは黒。それらに絡まる様に、若葉色の小さな葉っぱの刺繍が彩を加えている。
帽子やアンダー、ソックスは同じ黒で統一され、お嬢様高と巷で囁かれるに値する中々に洗練されたユニフォーム。
けれど、グラウンドに響く嬌声にはお嬢様じみたものはなく、私達と大して変わらない女子高生のそれ。真剣に且つ楽しげに、白球と戯れる姿も又、私達と何ら変わりはない。部員数も同じ程度、背番号のない数人がサポートよろしく駆け回る。
「守備は一応データ通りだなあ」
ベンチで、隣に佇む碧が言った。
「見る限り、先発もエースの坂下さんみたいね」荻野が横から口を挟む。シートノックのマウンドにいる、長身の恵まれた体躯の乙女を見遣り続ける。「フィジカルが良いから球は強い。それ任せの雑な印象を持っていたけれど、その通りね」
「まあ、そすね」碧が頷く。「実際始まってみないと細かい事は解らないすけど、ざっと見た感じはまあ力任せっすね、仕草を見る限り」
「きっと調整はここに来る前に済ましてるのでしょうし、ぶつけ本番は覚悟しないと」
「となれば、やる事は昨日言った通りだな、コハク」碧が私に振った。
「そうすね。っていうか、どう転んでも今はそれしか自分を活かせないすからねえ」自嘲気味に私は言う。「映像通りであれば、制球があまり良くないんで、そこを攻めるのは常套っちゃ常套すけど」
「貴女が出れば、それだけ得点には繋がる訳だし。打順関係なくしっかり役目を果たしなさいな」
「はい」
前日にスタメンと共に大まかな方針は伝えられている。
この日の私の打順は九番。上位程のプレッシャは無い。つい気が楽、と口を突きそうになるのを堪える。そんな事を公言すれば、集中砲火の餌食になるのは自明。
口は災いの元。クワバラクワバラである。
常桜の面々がベンチに引き揚げ、試合前最後のグラウンド整備が始まった。
いつも通りと言える程には数をこなしてはいないのだけれど、これまで同様、試合前の茶番に勤しむ為に湊を探す。
彼女に必要なのは発破ではなく日常。
非日常が彼女の内にあるのは既に解っているので、余計に日常をぶつけてやる。
湊を探す目が、別の乙女の稀な姿を認めた。
感心しつつも興味が勝り、湊を捕まえた後こそりと這い寄る。
「何だよ、アンち」
訝しがる湊に人差し指を唇につけて、目線をずらす。
つられてその光景を見た湊がつい言葉を漏らす。
「へえ、珍し」
「だろ?」
声を潜め頷き合う私達。這い寄る姿はどう考えても不審者のそれだろう。
バックネットの裏、試合前だというのにも拘らず、両軍の乙女数名が何やら密談じみた会談に勤しんでいる。
「みーちゃん久しぶり」
関谷みなみは自身に向けられた好意的な言葉に曖昧な笑みを返す。
困惑する姿は見慣れない。
多少人格が変わったとは言え、強気な姿勢が彼女のデフォルト。感情過多のみなみがそれを出せない状況に私は興味が湧いていた。
「みーちゃん葉山だったんだね。しかも背番号も貰ってるんだ、やっぱさすがだよね」みなみの背中を見ながら、常桜の少々ふくよかな乙女がはしゃぐ。
「みなみ、もしかしてスタメンなん?」同じユニフォーム姿の日焼けしたショートカットの乙女がみなみにきいた。
曖昧な笑みを崩さずにみなみは頷く。
「すごーい」
手を叩きながら二人の嬌声が高くなった。
みなみのこの様な態度を鑑みるに、彼女からすれば常桜の二人は招かれざる客といった所だろうか。触れて欲しくない部分がやはり彼女にもあるという事か、と私が納得する傍で、チャーミングな八重歯を覗かせ悪そうな笑みを浮かべる乙女が一人、私の静止を振り切り突撃した。
反射的に伸ばした私の手は空を切り、闖入者が同窓の世界に切り込んだ。
「なになに、知り合い?」
その場にいた三人が一斉に声の主に顔を向けた。
みなみの曖昧な笑みに苦味が混ざる。
それは更なる招かれざる者の認定。
寧ろそれすら通り越して災厄ではなかろうか、と私はみなみの心持ちを慮る程だ。
常桜の二人はそんな空気を気にもせず、簡単に自己紹介を始めた。
曰く、シニア時代のチームメイト。
その頃のみなみの武勇伝を彼女達目線で大いに語る。
みなみの本質を知る私達からすると、納得出来る部分はあれど、大半が色眼鏡ではなかろうか、という帰結。それでも、慕ってくれる娘がいるのは良き事なり、と私は緩衝材に志願する。
「何だよ、慕われてんじゃんか」小声でみなみに言った。
私の言葉に鋭い目を向けるも、観念したのかみなみの言葉に棘はなかった。
「まあ、仲は良かったよ」二人には聞こえない声でそう呟いた。
人見知りの気がある筈の湊ではあったのだけれど、この日のテンションがそうさせるのか、常桜の二人と打ち解け食べ物談義に花が咲いていた。
もう訳解らん、と私は目を細め遠巻きにその姿を見つめる。その私の横目に映る、みなみの表情が僅かに変わった。
口が開き、この場ではあまり出なかった言葉が溢れた。
「……何で?」
「あ、ミノりん」常桜の娘達が声を上げた。
軽く手を挙げ、茶色のショートヘアを風に靡かせた細い目の乙女。
口元には柔和な笑みが浮かんでいる。
「やっぱり、みなみだ」さも嬉しそうに、細い目をさらに細めた。「そうじゃないかって思ってたんだよね。ミオとシイちゃんが絡んでるからさ」
朗らかな笑みと裏腹にみなみの表情は翳っている。
初めて見た表情だったので、理解まで時間が掛かったのだけれども、それはおそらく気まずさ。
あのみなみが気まずさを感じていた。
柔和な笑みを湛えたまま、みなみの言葉を待つ乙女達。
気まずさは何故か私にも伝わり、取り敢えずの処置としてみなみを肘で小付いた。
音には出さずに舌打ちし、渋々とみなみは口を開いた。
「何であんたがここにいるのよ。あんた確か……」
「私、寮生活無理なんだよね」みなみのかつてのチームメイト、佐伯みのりは苦笑を浮かべ頭を掻いた。「だから、翔葉は断ったよ」
何ですと?
目の前の細い目の乙女は、仮に縁が交わっていればチームメイトになっていた可能性があったのか、と世間の狭さ、ひいては女子野球界の選択肢の狭さを実感する。
辞めた理由は私の思う所と一致し、初対面にも拘らず妙な同族意識が芽生える。
わかるー、と声を出したい所を何とか堪え私は静観に徹する。この場の主役は私ではない。
「まあさ、ミオもシイちゃんもいるし、地元と近いし、そこそこ強いし、条件良かったから」ふ、とみのりは笑みを零す。「スカウトの噂は本当だったんだね」
「何? 言いたい事あるならはっきり言えばいいじゃない」
突然みなみは感情的な言葉を吐いた。
皆が一瞬息を呑み、それぞれが目を合わす。
「おい」私はみなみのユニフォームを引っ張り小声で諭す。「何があったか知らないけど、試合前。そもそも、対戦相手と談笑なんて褒められたものじゃないし、寧ろ睨まれる。さっさと引き上げよう」
普段なら、お前に言われなくても云々、と言い返してくる所をみなみは唇を噛み、その言葉を呑み込む。
「い、いやあ、ごめんね。ほら、お年頃だからさ」湊が普段なら油となる言葉で場を取り纏める。
「……どしたの、みーちゃん」
みのりが手で静止させ、言葉を紡ぐ。
「確かに試合前にする事じゃなかったね。気を悪くさせたのなら謝るよ。久しぶりだったから嬉しくて、さ」
唇を噛んだまま俯くみなみを見て、私は思う。あ、これ泣くな、と。
けれど、私の思惑とは裏腹にみなみは勢いよく踵を返しその場から立ち去ってしまった。
繋ぐ乙女を無くし、初対面の私達だけが取り残された。
「なんか、ごめんね」取り敢えずの言葉を私は伝える。「あいつ最近ちょっと感情的だからさ」
「そうなんだ……」意外と思ったのか、みのりの細い目が僅かに開かれた。
「後でごめんなさいさせるからさ」
「大丈夫だよ」みのりは再び微笑む。「人それぞれ思う事は違うから、時に食い違う事だってあるよ」
同い年なのに出来た娘だなあ、なんて思いつつ、細かいお話は試合の後でと約束し、その場は解散となった。
背を向け合う私達。
後ろ姿を横目に収め、湊がぽつりと言った。
「”ミノりん”だけ番号あったな」




