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アイデスの憂鬱  作者: 森住千紘
Sprouting of qualities : 2 〜 資質の萌芽 〜
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 Brand new early summer day 〜 始まりの初夏の日 〜

 ——アンタイジメられてたの? ダッサぁ。


 合同練習の終盤、小さな隙間時間に事の顛末を聞いた有坂藍は邂逅一番そう言い放った。

 けれど、即座に顔を歪ませ、碧に抱きつく。


 ——キモい、離れろよ!


 心底嫌そうに首を捻る碧。有坂はそれでもその手を緩めはしなかった。


 ——アンタが一人じゃない事位解れよ、バカミドリ。


 耳元で囁く有坂の言葉に対し、碧は気まずそうな表情を作り、傍観している私達に助けを求めた。

 言葉の受け取り方は人それぞれ。

 故に誤解というものは生まれてゆく。少しだけ盛った勘違いをした有坂に再び説明を加え、碧はバツが悪そうに髪を掻き上げた。


 ——別に、そこまで辛かった訳じゃねえよ。慕ってくれるヤツもいたしな。


 事実を呑み込んだ有坂は、少々膨れつつ私の友愛を返せとうそぶいたのだった。


 こうして、少々毛色の違う落とし所も生んだ合同練習は幕を閉じた。

 ただ、主な目的であった野球に関しては両者共得るものは多く、有意義なイベントであったのは間違いない。


 再戦の約束をし、片瀬熊ノ森の面々を見送る碧の横顔は至極晴れやかで、総括とするのならば、チーム、個人、その両方において、まさに憑き物が落ちた、そんな印象だった。


 碧にまつわる話としては、関係者の中で、本人、妹も含めてなのだけれど、一番憤っていたのが、監督の理香だった。

 どうも、彼女は陰湿な行いというものが、それこそ吐くレヴェルで嫌いらしく、監督と選手という垣根を吹き飛ばし、人対人という土俵を作りだし、徹底的に杉原を問い詰めた。

 明らかとなった実態はイメージしていた程エグいものではなかったにせよ、恒常的に碧はいないものとされていた事実、陰口の類、あからさまな嘲笑、と碧が被った事実は概ね陽の目に晒された。

 碧曰わく、自分でも大した事ではないと思っていたので、話を大きくして欲しくはなかったのだそうだ。

 これに対し、実妹である茜の反論として、じゃあ何でガチ泣きしてたんだと問い詰めた。


 碧は一言、悔しかったと口を尖らせた。


 それから頑に口を閉ざした姉に対し、妹はその理由について執拗な追求を続ける。

 姉同様、頑として引かないそれに辟易したのか、碧は渋々その内容を語った。

 それによると、イジメの主犯もそれに連なる者共も判明していて、幾らでも反撃する事は出来たのだそう。

 けれど、敵の数は多く、友人に迷惑をかけたくないという碧の性分もあり、取れる手段は大してなく、行き着いた結果、物理しか選択出来なかったと彼女は言った。

 この時点でそれはどうよ、と思わないでもない私ではあったのだけれど、話は続く。


 仮にその選択をすれば、自分の気は晴れるし、イジメも止むという確信はあったそうだ。

 何せ同世代に比べれば碧は格段に強い身体を持っている。虐殺じみた反撃をされれば普通の精神では恐怖が刻み込まれるだろう。

 だからそこはまあ解らなくもない。

 けれど自分の所属は野球部であり、実力を行使してそれが明るみに出るとなると、確実に波紋は部にも届いてしまう。

 それを吉としない碧は呑み込むしかなく、陰湿な嫌がらせは続き、フラストレーションは膨れ上がった。

 要は吐口がそこしかなかったのだそうだ。


 きっと、大人達に言った所で解決は表面だけというのも解っていたのだろう。

 この手の件の根本的な解決には痛みを伴う、痛みなくして解決には至らない、とは碧らしい考えだと私は思うのだけれども。


 碧曰わく、茜の暴走が生んだ結末、ではあるのだけれど、理香が表に出て風向きが変わった。

 正式に学校側から女子硬式野球部監督兼非常勤講師として公示が成された後に加え、本人の風貌、実父の存在と、一目置かれる存在なのは確かで、自分の教え子を守るという大義名分を掲げれば、誰も彼女に物申せなくなるのは明白。

 内申をちらつかせる、という悪どい手法も行使すれば、事の平定は簡単なお仕事だったようだ。


 おそらく蟠りは抜け切らないだろう。

 そもそもの発端は羨望に近い物らしい。その心が浄化されない限り、フラットにはなれないのだろうし。


 異国情緒が滲む顔立ちに加え、校外にまで名を轟かせる我が儘プリンセス。

 有名税だ、と碧は嘯くのだけれど、あながち間違いでもないのだろう、と私は思う。

 何をどう見るかなんて各々の感性次第だ。

 憧れと妬みの根っこは近い。ふとした事で均衡が崩れれば、容易に両者は入れ替わるのだ。

 この事は肝に銘じておかなければならない。

 周りが見えなくなればどちらに傾いているのかが解らなくなる、正しいと思っていた事も気付けば独善に変わっている、そんな事だってあり得るのだ。

 クワバラクワバラ、客観的視点の大事さよ、である。


 と、まあ、中々に振り幅の広かった紆余曲折ではあったのだけれど、何だかんだで脱落者はおらず、新体制となった私達鳴海大葉山の面々は、そろそろ意識し始める夏に思いを馳せていた。

 とは言え、リーグ戦の真っ只中にあり、戦績的にはかなり追い込まれている状況。

 すべき事斯くも多く、日々の練習は熾烈を極めていた。


「飛ぶなら飛ぶでせめて前に落とせよ!」


 初夏の陽を受け鈍く光るバットを掲げ、普段通りの罵声を碧は発する。

 理香が所用で席を外しているので、急遽彼女がノッカーを買って出ていた。


「うるせえ、もう一本」

「良い心掛けだ、バカヤロウ」


 身体を捻り、飛び出たバットに白球が乗る。

 甲高い音を出し、強く速い打球が一、二塁間に飛ぶ。

 今度は打球がグラブに収まった。

 再び怒声。


「素人じゃねえんだから、取って終わりな訳ねえだろうが」碧はバットを打ち付ける。「投げるまでが遅えんだよ」


 碧の言い分は正論だ。

 故にセカンドに入っていた杉原は何も言い返さなかった。


 加害者と被害者だった二人の関係。

 事を経て両者が手を結びました、なんて事は無く、罵り合いは日常茶飯事と化している。

 けれど、それこそが進歩ではなかろうか、と私は思う。

 これまでなら、そんな事にはならず、後ろ昏い足を引っ張る行為しかなかったのだから。

 イジメの主犯は杉原ではなかったにせよ、羨望というのならそれは当て嵌り、それ故彼女は加担した。

 だからこそ彼女の中には碧を認めている彼女もいる。

 それが少しづつ出て来た感じなのだろうな、と勝手に私は納得している。


「おい、コハクぅ」


 不意に名を呼ばれ、背筋を伸ばす。


「はい、何すか?」

「何すか、じゃねえよ。私が逆に聞きたいよ、さっきからそこに突っ立っててさ」

「ああ」私は我に返る。つい内野練に意識を奪われていた。良くない良くないと内心首を振る。「週末のBチームの試合、ミドリちゃんすよね。先発決めました?」


 実戦に勝る経験は無い。理香の思想はこれに尽きる。

 スケジュール的にはリーグ戦のど真ん中にあっても、登録外のメンバやサブにも光をという事で、理香の根回しで練習試合が組まれていた。

 正式の背番号のない者や、貰いつつも出番に恵まれない者からすれば、光り輝く実践の場である。なので、グラウンドに漂う士気は斯くも高い。それでも足りない部分は確実にあって、目標が明確化した今、そこを埋めるべく奔走する碧のそれも解らなくはないのだけれど。


「え?」碧は一瞬呆けた。

「おい、忘れてたろ?」

「べ、別に忘れてねーし。あれだろ、先発」

「今、私が言った事まんまじゃねえか」私は溜息を吐き、改めて問いかける。「理香さんに言われたっすよね、投手選んで、調整込みで球数管理。まだ週頭とは言え、早いとこ決めてくんないと、こっちのローテ組めないんすよ」

「ええぇ、じゃあユキで」

「おい、今適当に決めたろ?」

「違うって」碧は一息つく。「ほら、クソヤロウの所為で、実戦から遠ざかってたじゃんか。ブランクは埋まりつつあるから、そろそろ本格的にと思ってたし、何よりユキの自覚を戻してやんなきゃならないからさ」


 話を聞いていない様に見えてもその実全て頭には入っている。

 瞬時に必要なデータを照合し最適解を弾き出す。そしてそれには二重三重の意図が込められながらも理に適っている。野球に関する事だけではなく、碧の頭の回転の速さにはいつも脱帽する。普段それが悪巧みに向かう傾向が強いのには辟易するのだけれども。


「それで決定?」私は最終確認をする。

「うん」碧は頷き、さらりと大事な所を私に投げる。「ああ、ユキには言ってないから、伝えといて」

「……」いつもの事、いつもの事、と私は念じる。いつもの事なのだ。だから私の反応も当然普段通りだ。「自分で言えよう」


 と、言いながらも、私は笹川に伝えるんだろうな、と思う。ここまでが”いつもの事”に含まれる。

 仕方ない、と華麗に流し、グラウンドを後にした。

 ブルペンに戻った瞬間、荻野と目があった。女帝は微笑み、周りに聞こえる声で投げ掛ける。


「あら、コハクさん、またおサボり?」


 解ってましたよ、と私は肩を落とす。バッテリィ組にはエンターテナァが斯くも多い。面白いと思った方向への舵取りにプライオリティが割かれている。

 故に、獲物と認定されれば、私に向けられる目は狩人のそれ。常に誰かが狙っている。

 一番槍は私だと、湊が声を上げた。


「隙あらばすぐにいなくなるんだ。まあ、足も速いし当然か」


 私は湊に指を突きつける。


「三十点。大して広がらねえし、面白くもねえ」

「割と高いじゃんか」湊は笑う。

「勘違いしてる様だけど、百点中だからな?」

「三十点なんて私の古文の点数以上だ、問題ない」

「……お前は勉強も頑張れよ」


 錯覚なのは解っているけれど、どっと疲れが押し寄せる。


「それで、ミドリはなんて?」荻野は真正面のマウンドに佇む上条に目を向けたままきいた。


 全てを解った上での茶番の演出。さすがは女帝である。


「ユキちゃんだそうです」と、言いつつ、私は当の本人を探す。「まだ戻って来てないんすね」

「あの子のランニング信仰もここまで来ると少し恐ろしいわね」荻野は苦笑混じりに言った。


 投手の命綱は下半身。故に走る。そんな信仰を笹川は持っている。

 彼女は先日の片瀬熊ノ森戦で感じた違和感、おそらくはブランクがそうさせるのだろうけれど、それを払拭する為に、この時期、投球練習よりもランニングに重きを置いている様で、隙あらば走っている。その意識、見習わせたいヤツがいると思うのは私だけではあるまいよ。とは言え、些かオーバワーク気味なのは確かだった。


「そうすねえ」荻野の言葉に首肯しつつ尋ねた。「それでミウさんはどうするんすか? リーグの先発」

「そうねえ。リーグも後半戦。落とせる試合なんて無いのだけれど……」荻野は淡々と上条の球を受けながらも、答えを出す。「理香さんとも話して、週末の初戦は青山。調子次第という制限はあるけれど、その翌日は湊。実戦での一年生を見ておきたい。夏の戦力として考えられるかをね」

「じゃ、暫くは私はお休みって事だな」上条がマウンド上から嬉しそうに声を張った。


 おいおい、中々の地獄耳だなエース様は、なんて事を思う。


「阿呆な事言わないで頂戴。貴女は常に準備しておくの。落とせないと言ったわよね。崩れた場合、立て直すのは誰の仕事?」

「うへえ」上条は瞳を寄せて天を仰だ。

「仮ではあるのだけれど、そう想定しておいて頂戴」そこで荻野は悪戯な笑みを私に向けた。「それと湊の登板の試合、貴女が受けなさいな。勿論それなりの制限を付けるけれど」

「……まじすか」


 返答は酷く淡々としたものだったのだけれど、内心私は小躍りしていた。私の中の私達が、

ご褒美キター、と口々に叫ぶ。


「あら、自信がないのかしら?」思ってもいないのだろうけれど、挑発的な表情で荻野は言った。

「まさか」私は答える。「謹んでお受けいたしますよ」

「本当に、貴女って可愛くないわねえ」

「褒め言葉として受け取っておきますよ、ミウさん」笑顔でそう返答した。


 この手のやり取りが可能な程度には、女帝との距離は近くはなっている。

 これもまた進歩といえばそう。春の日の畏怖は形を変えて、今に至る。


「まあ……」荻野は笑みを浮かべたまま目の色だけ変える。それは刺す様に冷たい色。「少しでも頓珍漢なプレイをしたら、四人目としてジュデッカ送りにするのだけれど」


 どうやら私がミスをすれば、”イスカリオテのユダ”、”ブルートゥス”、”カッシウス”に続く四人目の大罪人として地獄の最下層に送られるらしい。

 全く女帝のワードセンスには脱帽。幾ら軽口を交わせる仲になったとは言え、雑兵と女帝。その格差は以前と何ら変わりはない。調子に乗り過ぎれば手痛いしっぺ返しが平然とやって来る。

 形を変えようが畏怖は畏怖なのである。


「……肝に銘じておきます」


 そんな私の七色じみた表情の変化をいとも可笑しそうに眺め、女帝は現実的な話に戻した。


「ローテは組み直しておくから、明日からは湊との調整を優先。けれど、自分の課題も疎かにしない。何も試合出場は特別な事ではないのだから、ね」

「はい。肝に銘じます」確りとした釘を刺され私は戒めと共に先程と同じ言葉を出す。女帝の言葉を胸に刻み、今を進める。「この後は藤ちゃんと変われば良いすか?」


 この時間帯の本来のブルペンのローテは、上条荻野、笹川と碧の代役として藤野、そして湊と私。碧がノッカーに出て、笹川が走りに出てしまった為、一人あぶれ、それを利用した女帝のお達し。碧の小間使いという認識が確立しつつある私が彼女に確認しに行き、その間藤野が湊の相手をしていた。


「そうね。ユキが投げるまではまだ時間がかかりそうだし、フジは守備連にも出して上げたいし。まあ、期待の外野手でもあるのだもの、忙しないけれど仕方ないわね」


 荻野の言葉に、藤野がひくりと肩を動かした。


「ユキの準備が整ったら斑目を遣わせるわ」 


 ええ、ええ、解ってますよ。そう私は女帝の伝令役。珍しくも何ともない。日常茶飯事とはまさにこの事。


「解りました」藤野が返し立ち上がる。


 私は藤野に駆け寄った。


「お疲れさま」防具の取り外し等をを手伝いつつ、湊にちらりと目を向けた。「どう、あいつの調子は?」

「いつも通りっちゃあいつも通り……」藤野は少し逡巡し続けた。「公式戦での先発も決まったし、カットは諦めた方が良いかもね。敢えて投げる必要ないかも」

「……やっぱり?」


 藤野は頷く。


「まあ、本人が投げたいと思ってるから、無理にとは言えないけどね」


 ここははっきりさせておいた方が良さそうだと考えて、私は湊を呼んだ。

 半ばスキップじみた小走りで駆け寄って来る、チャーミングな八重歯。


「なによ?」少しだけ息を弾ませて湊がきく。

「お前ん中でのカットって何よ?」

「これまた哲学的な」おちゃらける様に言いながらも、二の句は私の意図を理解した物だ。「引っかけさせる球かな」

「それならシュートなりツーシームがあるじゃん。逆方向が欲しいのは解るけど、精度上がってねえんだろ?」

「前に諦めるとか言っておきながら、お恥ずかしい」湊は頭を掻いた。「なんかさ、出来ないのが悔しいっつかさ」


 効率的にはあまり良くない事なのだろうな、と私は思う。個人のこだわりは尊重したい。けれど、成果の兆しが見えない中で、時間を割き続けるのはいかがなものか。現実を伝えるべきか否か、中々に迷う。


「少し発想をずらしてみるのは?」


 そんな私の逡巡を藤野が新たな意見で持って解決の方向を指し示す。


「と、言いますと?」


 私と湊の声が重なった。見事なハーモニー。

 二人して目を合わし小さく笑う。そして再び同時に藤野を見た。


「まるでおもちゃに目を奪われた子猫みたいな同調っぷりねえ」藤野がくすくすと笑う。自身でレガースを外しながら続けた。「斑目が言った様にさ、打ち損じ狙うのは、シュートなりツーシームがあるじゃない。そこにカットを入れるより、思い切って、スライダーにしちゃえばって思ったのよ」

「ううん」湊は実に微妙な表情を浮かべた。「スライダー二つもいらなくね?」


 藤野がやや困り顔で私を見た。

 まあ、気持ちは解る。

 解るので助け舟というか、捕手的な現実を口にする。


「こっち側としての話なんだけど、お前のスライダーって私らからすれば、緩急用なのよ」

「はあ」曖昧に湊が頷く。

「多分、藤ちゃんが言いたいのって、速めのスライダーって事だよね?」私の問い掛けに藤野が頷くのを見届け、先を続ける。「現状お前の認識のスライダーって、私らからすれば、カーブ的扱いなのよ。だから、曲げるよりは速さを意識したスライダーを目指せば、お前に言う所のカットに近くなんじゃねって話」

「お、おお。な、なるほど」解ったのか解っていないのか判断し難い返し方を湊はした。

「お前、回転掛ける事意識してんだろ?」

「スライダーの事なら、そうだな。考えとしてはシンカーの逆? いや、スライダーから覚えたから、その逆がシンカーか」


 細けえな、コイツは。そしてそれはもうカーブだよ、とも言わない。

 変化球なんて投手がそう主張すれば、黒でも白の世界なのだ。


「だからさ、変化もそうなるじゃんって話よ。でだ、香坂のスライダーってほぼカットな訳。だからあいつの投げ方なり感覚なりを共有すればいけんじゃねえの。つうか、そこまでの事でもないかもだけど」

「どゆことよ?」

「香坂は、回転掛けるなんて事考えてないのよ。握りをずらして後はストレートと同じに……」私は投げる振りをする。「投げるだけ。握りの分だけ回転の軸がストレートとはズレるから、それとは違う変化をする。難しい理論なんてないのよ」

「おっし、じゃやってみようぜ?」


 湊の切り替えの速さと好奇心もまた、彼女の美徳。私は頷くと手早く支度に取り掛かる。今度は藤野が私を手伝ってくれた。


「じゃ、斑目、後よろしくね」


 湊と二人で、藤野を送り出し、私達はぶつけ本番の練習に勤しむのだ。

 湊はマウンドに向かうと、一旦上条に話しかけた。

 おそらく情報収集の一環。一人でも多くの人間から、感覚を聞きたいのだろう。


「……試合までにものに出来ると幅は広がるわね」隣の荻野が言う。「私も一枚噛ませて貰うわ」


 勿論ですとも、一枚とは言わずにもう何枚でも、と私は大きく頷いた。

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