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アイデスの憂鬱  作者: 森住千紘
Sprouting of qualities : 2 〜 資質の萌芽 〜
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 Various breaks and new beginnings. I 〜 産み出しの禊 〜

 何事にも区切りというものはある。

 とある一幕は終幕し、そして新たな幕が上がる。時にそれは痛みを伴い、受け入れ難い現実を突き付けられるものだ。


 たとえば進級や卒業。仲の良かった友人との別離は、これからの不安や寂寥感せきりょうかんを植え付ける。

 たとえば考査の結果。出てしまった結果に一喜一憂しようも、それが現実、泣きの一回なんてものはなく、ただそれを受け入れる他、ない。


 私の中で想定していた区切りはもっと後になっての事だった。

 漸く手にした理解を胸に、共に歩んで行くと決めた矢先、偶然の巡り合わせが新たな選択を提示する。別離は寂しさを纏った苦味を伴い、何でと問い質すも、決まってしまった事を覆せる程の何かを提示出来なかった私は、それを受け入れるしか道は残されていなかった。


 住めば都。

 後になって思えば、区切りの先に開けた道はそれはそれで素晴らしく、私の天秤は、これで良かったんじゃない、と簡単に重きを逆転させた。


 だから伴う痛みも、乗り越える事が出来れば、受け入れる事が出来れば、そう悪いものではなく、寧ろ新たな可能性さえ提示してくれる。

 私達はいずれ花咲く乙女となる。けれど今はまだ蕾、のちの花弁に包まれたその中には無限の可能性が眠っている。


 ふらりと舞い上がった白球に安堵と無念が混じり合った視線が集中する。

 定位置から僅かに後方に下がり、空から降ってきた一枚ひとひらの羽根を掴む様に、千家知沙が胸元にそれを収めた。

 感嘆と悲嘆の声がグラウンドに飛び交う。

 主審を務める荻野の声で試合終了が宣告され、一つの区切りが為された。


 初夏の空には雲が集まって来ているけれど曇天という程でもない陽射しの下、少し遅い昼食を挟んでからの、交流会と称した合同練習が提言された。第二試合の構想もあった様だけれど、片瀬熊ノ森側の疲労具合と戦力差を理由に合同練習に切り替えられた様だった。


 まあ、こちらとしては第二試合があるのなら主力が出張るだろうし、あちらの疲労を考えれば理不尽さを感じなくもない。ならば同じ面子でやれば良いと思うのだけれど、ウチの先輩方がそれを認めるとは到底思えないので妥当な結果だと私は思う。


 青空ランチタイムが始まり、私もいざ参らんと意気込んだ所に横槍が入った。

 その御仁が不敵な笑みを浮かべている時点で、ああ、これはもう良くない事が起きるのだろうな、と半ば確信めいた諦観が芽生えた。私の予感は的中し、飲み物を買いに同行せよ、という我が儘プリンセスのお達しに対し、試合結果故に頷かざるを得ない状況に追い込まれている私は、表面上快くそれを享受、彼女に付き従う。グラウンドの脇に設置されている自販機までの僅かな道のりの間に、ここまで詰め込めるか、という程のこの日のダメ出しバリュウセットに納得しつつも内心少なからずの傷を負う。

 余談だけれど、一応飴という事なのか、碧はお茶を一本奢ってくれたのだけれど、そんなん全然嬉しくないんだからね、と口にしつつも内心ラッキー、と思う私であった。


 その帰り道。

 私達はグラウンドの外周を連れ立って歩く人影を認めた。


「チサと杉原、か。ふうん」


 碧は遠目に二人の姿を映して、ニヤリと笑った。私に顔を傾け顎をしゃくる。おそらく後を尾けようとの意だろう、私の承認も確認せずにそそくさと動き出す。

 後ろから小声で、悪趣味ですよ、と訴えるも、我が儘プリンセスは聞く耳持たず、足音を忍ばせつつ歩みを進めてゆく。

 こういう時の碧はまさに二つ名を体現する。なので私は仕方なく彼女に付き従う。


 千家と杉原。

 最終回揃って出場した二年生二遊間。

 千家も杉原も普段通りだったと言えばそう。まあ、そこが問題なのだろうな、と私は思う。

 大方碧よろしく、千家がダメ出しするのだろうな、と安易な予想をしていた私ではあったのだけれど、現実はそれを大きく超えていた。


 外野フェンスと雑木林の間、僅かな陽射しが降る小道の先、丁度左中間の後方に当たる少し開けた場所で二人は歩みを止めた。

 私達は左翼側から近付き隣立する雑木林の中を迂回する。

 幸いにも獣道があり、気を付ければ足音の心配はなく二人に接近する事が出来た。

 二人共私達に背を向けた格好、繁茂する薮と樹木のカーテンも相まってこちらの存在感を大業にアピールでもしない限りはバレないだろう。

 辛うじて声も聞き取れそうだった。

 更に大胆になった碧に促され彼我の距離を詰める。

 二人の表情が辛うじて見える場所で息を潜める。腰程度の藪の陰から窺っていると、まずは杉原が弁解じみた仕草で切り出した。


「チサ、ゴメン。私……」

「別に」


 千家は特に感情を乗せずにさらりと返す。

 その言葉の鋭さに杉原は息を呑み、表情をあからさまに曇らせた。

 いや、既に雨天と言っても良いかのかもしれない。唇を噛み俯いてしまった。

 そんな杉原に対して、千家は僅かに同情じみた目を向け、小さな溜息を吐く。腰に手を当て樹々の合間に覗く曇天じみた空を仰いだ。


「別に謝る事でもなくない? 今日のプレイが今の現状なんだから。大事なのはさ、それをどう受け止めるかだと思うけど」

「でも、私は……」杉原は二の句を継げられずに固まった。

「前にも言ったよね、私と組みたいなら余計な事考えてる暇なんてない。ただでさえ釣り合ってないのに、その差を埋めようともしないで余計な事ばかりに頭を使う」千家は僅かに逡巡し、やむなしと言葉を紡ぐ。「良い加減諦めたら?」

「違う、違うの」杉原は懇願する様な口調で千家の手を取った。「私はただ、チサと……」

「だからさ、最低限の事はこなそうよって言ってるの。今日のプレイは何? 私と組みたいのならタイミングやプレイスピードについてこられなきゃ話にならないでしょ」

「だ、だから、それについてはゴメンって……」杉原が目を逸らし俯く。


 いつかあったなあ、と耳をそば立てながら思う。

 春先の部室で私が杉原に絡まれた時、千家は似た様な事を口にしていた。まあ、杉原の言い分も解る。私だって組みたい相手というものは存在する訳で。

 けれど、それは願望だけでどうにかなる訳ではない事も知っている。

 共に肩を並べ、共に歩むべきなのだ。

 力量差があるのなら手を差し伸べる事は出来るけれど、限度ってものがある。その最低ラインを杉原は満たしていない。


「そろそろ、潮時かな」隣で碧が呟く。「モチベを下げる要因を排除するかあ」


 言い切るのと同時に、わざとらしく地面を踏む音を出し碧が出ていった。仕方なしに私も従う。


「何してんの、こんな所でさ」陽気な声音で碧が割って入った。


 二人が同時にこちらに振り向く。

 普段冷静な千家も驚きが表情に浮かんでいる。

 それはそうだろう、森の中から突然現れたのだ、反応としては至極当然。と、思うものの、どこかわざとらしくも感じる。

 千家の事だ、こちらの存在に気付いていた可能性はある。杉原の事を慮っての演技か、なんて事を私は碧の後ろで思っていた。


 一方の杉原は千家以上に驚き、何故碧がここにいるのか、という疑問も相まって固まっていた。

 碧の奔放さをよりよく知っている千家の方がやはり立ち直りは早く、直ぐに言葉を返した。


「ちょっと話を、ね。ミドリこそ、どうしたのさ」

「私らは飲み物買いに出てきたら、チサの姿が見えたから」

「ああ、そう」


 淡々としたやり取り。それもそうだろう。

 気付いていた可能性は一旦除外して、驚きさえなければ千家と碧の間には蟠りなどない。おそらく向かう方向も同じ、聞かれてまずい話などないだろう。


「……悪いけど、今チサと話してるから」漸く現状を把握した杉原は、俯きながら闖入者に嫌悪感を滲ませながら言う。


「みたいだね」碧は肩を竦める。けれど仕草とは裏腹な二の句が出る。「じゃ、どうぞ?」

「は?」

「や、話たい事があるんでしょ? だから私らにはお構いなくどうぞって」手の平を差し出し杉原を促した後で、碧は僅かに頬を上げた。「それとも聞かれたくない話でもするの? プライベートな事なら退散するけどさ」

「別にそういうのじゃないよ」


 千家が即答した。

 杉原は彼女が即答するとは思ってもなかったらしく驚き目を見開いた。


「チサはそう言ってるけど?」碧は小首を傾げ困惑気味の杉原の返答を待つ。


 無垢で装った正論を掲げ相手の逃げ道を塞ぐ。相手の思惑を理解した上で自らそれを吐露させるべく追い込んでゆく。碧のこういう所は本当に恐ろしい、と私は畏怖の念を抱かざるを得ない。

 私の考えを肯定するかの様に、笑みの中に浮かぶ彼女の灰色じみた瞳は笑っていない。

 そんな目に射られながらも杉原は抵抗を試みる。


「あんたには関係ない事だから、今回はゴメン」


 遠回しに退席してくれとの杉原の意思表示。

 そんな言い回しが碧に通用などするものか、と私が思っていると、案の定鋭利な切り返しが碧の口から飛び出した。


「関係なくは無いでしょ。同じチームで同じ年なんだから。悩みがあるなら共有しようよ」


 耳心地の良い言葉。そして理想的な着地点。それを求めるべきだと私も思う。行き着く所として、碧もそれを望んでいるのは知っている。けれど、この時のそれはおそらく相手の逃げ道を潰す以上の意図はないのだろう。

 だから、徐々に選択肢を狭められている杉原は表面だけを掬い反論した。


「共有? 逃げ出したあんたがそれを言う? 説得力無さすぎじゃない」

「逃げ出す?」碧は小首を傾げた。頭半個分自分よりも背の高い杉原を上目遣いに見遣る。見上げている筈が、何故か見下ろしている様な錯覚を覚える強い眼差し。「私は無駄だと思ったから自主練に切り替えただけ。まあ、そこはどう受け取っても良いけどさ、今日の試合で私は私を示したと思うけど?」

「はっ」杉原は鼻で嗤う。「結果さえ出せば何しても良いのかよ。そんなんじゃさっきの共有なんて言葉が白々しく聞こえるけど?」

「……」碧の瞳から色が消え、とても静かな声が出た。「お前さ、何の為にここにいるの?」


 今までの経験がそうさせる。

 私の背筋を冷たいものが駆け抜ける。次に碧から出る言葉は研ぎ澄まされた刃に他ならない。

 私の懸念は現実となる。けれど、それに気付いた千家が先に緩衝材の役目を買って出た。緩衝材にしては少し鋭利な気もするけれど。


「まあ、言葉に関して言えばミドリの言い方が悪い」肩を竦めて幼子を宥める様な言い方を千家はした。次の言葉は杉原に向けられる。「ただ、現実問題、ミドリは間違ってはいないと私は思う」

「え? チ、チサ?」杉原の綻んだ表情が一転し、縋る様なそれに変わった。


 千家はちらりと碧を見る。

 私にはそれがどちらが杉原の喉元に刃を突き付けるかの相談に見えた。

 碧が溜息じみた息をして顎をしゃくる。

 せめてもの慈悲か、心の距離が遠い自分よりは千家に先に貫かれた方が杉原も受け入れ易いと判断したのだろうか。

 千家は淡々とそれを受け、口を開いた。


「杉原が何を望むのも、君の自由。だけど葉山にいる以上最低限こなさなければならない物ってのがある。ここはさ、仲良しクラブじゃない。私は常に上を目指す。だから肩を並べる相手には同じ物を求めるよ」


 千家の後を碧が継いだ。


「どんな選択をするのもお前の自由。私じゃないし。たださ……」先程の様な色の無い目が杉原に向けられる。「周りを巻き込むなよ。誰かを焚き付けて足を引っ張った所で、戦力が上がる訳じゃ無いだろ。ホント、お前何の為にここにいるの?」

「わ、私は……」

「ショコちゃんの一件知らない訳無いよな? 私はその場所にはいなかったけど、大体は把握してる。そん時にさ、もう全て明らかになってんの。正直さ、この先全国狙うなら要らねえの、そういうヤツら」 

「ミドリ、言い方」千家が苦笑しながら碧を嗜める。

「回りくどい言い方したってこいつら納得しないじゃん」碧は口を尖らせる。改めて千家と肩を並べ、杉原を見遣る。「足を引っ張る位なら、辞めてもらって結構、別にお前らいなくても大丈夫だから」


 流石に角が立ち過ぎだと、つい私は身を乗り出し碧の袖を引く。


「ミドリちゃん、言い過ぎですって」

「あん?」色の無い瞳が私に傾く。僅かに彩りが戻る。「標的になってんのお前だろうに。言われっぱなしで良いのかよ」


 ああ、そういう見方をしているのね、と私は思う。

 確かに吹っ掛けられた事は容易に思い出せるし、今でも継続中の案件すらある。

 ピンポイントで沸騰している事も少なくない。

 けれど、ピークを過ぎれば正直面倒臭いな、程度に落ち着く。その都度苛立ちはするけれど、近場に認めてくれる人がいる訳で、受け流す事が出来る程度の器は持っているつもり。

 チームである以上、対立するよりは仲が良い方が好ましく、その為とならば空気も読もう。

 けれど、それ自体は目的ではない。


「別に気にしてないですよ。だって、そんなんただの我が儘じゃ無いっすか」

「……」


 千家と碧が目を合わせ両者とも口を結び瞬きを繰り返す。ほぼ同じタイミングで両者の口元が綻ぶ。先に口を開いたのは千家だった。彼女の言葉は杉原にとっての最後通告じみていた。


「良かったね。言われている側はそんなに気にして無いってさ。結局君達の目論みは何の成果も上げられなかった訳だ。もうさ、自分の技術の向上に励めば? それでも納得がいかないなら辞めれば良いよ」

「……おい、お前も大概だからな?」千家の言い方の事だろう、碧が白い目を向ける。


 千家は苦笑し肩を竦めた。


「だってしょうがないじゃない、結局行き着く所はそこなんだもの」

「……まあ、概ね同意するけどさ」言ってから碧は杉原に目を向けた。「チサと二遊間組みたいなら、私達を納得させろよ」

「……」潤み、仄かに赤くなった杉原の目が恨みがましく碧に向られる。「内野の問題に口挟むなよ」


 何とか絞り出した杉原の言葉を、碧は簡単に切って捨てた。


「お前本当に阿呆なの? 内野って言うのなら、私らだってそうじゃんか」そう言って碧は私の肩に手を回す。「むしろ、捕手主導じゃなくてどう動くのさ。そういう狭量きょうりょうな考えだから、お前はダメなんだよ」


 口を結び睨む様な目を向けながら反撃の言葉を探す杉原に対し、碧は何か閃いたらしくニヤリと笑った。


「納得できない?」碧は問う。


 杉原の無言を了承と受け取り先を続けた。


「じゃあ、現実を見せてやるよ」碧は続ける。「この後の合同練習でチサの力を満遍なく引き出す所を見せてやる。お前に同じ事が出来るなら、私はお前の言う事を何でも聞いてやる」


 目を見開き、杉原は無言で碧を見つめている。

 おそらく碧の意図を咀嚼している最中なのだろう。そんな杉原を横目に千家が口を挟む。


「それ、やる意味ある?」


 千家の言う事は尤もだと私も思う。

 結果なら一回という短い時間ではあるけれど、先の試合で出ている筈だし、杉原が満開のお花畑で生きる人々でなければ、冷静に自分を顧みて彼我の差を理解出来るだろう。

 まあ、それが出来ないので、今こうしてここにいるのかもしれないけれど。


「決定的な現実ってのをさ、見せてやろうかなって」


 碧は片目を瞑り、頬を上げた。

 千家は目を細め碧を見ていたけれど、何かに閃き目を見開いた。


「ミドリ、もしかして……」


 意図が伝わったのが解ったのか、碧は不敵に笑った。

 千家は溜息を零し首を振った。


「完全にミドリの趣味じゃないか」

「まあ、否定はしないよ」碧は小さく息を吐く。すぐに少しだけ寂しそうに眉尻を下げた。「まあ一人足りないけど、擬似的とは言えあったかもしれない未来なんだ、体験してみたいじゃん」

「不毛でしょ」


 千家の言葉に対し、碧は彼女の耳元で囁く様に言った。


「そう言うなって。半分は私の我が儘なのは解ってる。けど、比べる相手とするなら適任だろ?」


 言い出したら中々に止め難いのが我が儘プリンセスなのだ。

 千家は諦観の溜息を一つ吐く。


「……仕方ないなあ。了承されるなら構わないけど、全部自分でやりなよ? 交渉には私、一切手を貸さないからね」

「解ってるって」碧はそう言って杉原に向き直った。「お前、まだ自分がチサとコンビ組めると思ってんなら、証明してみろよ。ウチの主軸相手にな」

「は?」


 思いがけず、私と杉原の声が重なった。


「いいかげん、はっきりさせようよって話」碧は不敵に笑う。「どっかのクソ野郎が変な事吹き込んだ所為で勘違いやら食い違いが残ってる。ここは葉山だぜ? 伝統とかはどうでも良いけど、そんなくだらない事で足引っ張られるのはゴメンだ」 

「く、くだらない?」杉原の眉根に皺が寄る。思った時には既に遅し、彼女の右手が碧の肩を小突いた。「お前に何が解る、こっちは……」


 思いの外強い力だったのか、よろめいた碧は体勢を整え、何事もなかったかの様に言葉を吐き出す。 


「お前が何考えてるのかなんて知らないよ。現実問題として戦力にならない奴が、雛鳥みたいにうるさいから言ってんの。暴力は別に構わないけどさ……」酷く冷たい、色の無い目が杉原を射抜く。碧らしからぬ低い声音で後を継ぐ。「利き手で小突くなんて意識低過ぎなんだよ」


 暴力が構わない訳ないだろ、なんてツッコミが出来る空気ではなかった。

 おそらく碧は心底苛ついている。

 彼女の表面から感情が抜け落ちている事がその証左。

 静かに、ただ淡々と要らないモノを排除する。怒りが彼女の中にある他者の人格を掻き消し、唯のモノ化させている。


「結局、杉原は変わらないんだね」千家が醒めた声を出した。「前にも同じ事言った記憶があるよ」


 それはきっと私が部室で絡まれた時の事だ。強豪と呼ばれる場所でも、意識の差というものが存在するのだな、と初めて思った出来事。

 その発端が巡り巡って、今ここで杉原自身に返ってきているのは当然の結果なのかもしれない。

 千家が言う様に、最低限というものはどこにでも存在する。

 偶々強豪と呼ばれるこの場所ではそれが他よりも高いというだけ。それがここでの普通、ここでの当たり前。それについて来られない、それを受け入れられないのであれば、この場所には居られない。居続ける事は出来ない。

 碧は顎をしゃくり千家を促した。

 その後に私の肩を軽く叩き、来た道を引き返す。少しだけ進んでから、一人取り残される形となった杉原に顔を傾けた。無い物を見る様な冷たい眼差しが彼女に向けられる。


「やる、やらないはお前が決めれば良い。別にお前の為を思って言ったんじゃないからさ」

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