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アイデスの憂鬱  作者: 森住千紘
Sprouting of qualities : 2 〜 資質の萌芽 〜
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 Birth of the moonarrow : a single leaf that does not shake

「顔が強張ってるよ」 


 千彩に言われて、昴は我に返る。

 自制しているつもり。だが、内面に抱えたそれは、現実を目の当たりにして滲み出てしまっていたようだ。

 よくない、よくない、よくない。

 三度同じ事を自分に言い聞かせて、千彩に笑みを向ける。


「空元気なのが見え見えっすよ」


 先輩相手に使う口癖じみた半端な敬語で、本来なら自分が掛けるべき言葉を投手である千彩に言われて、昴は苦笑せざるを得ない。そんな昴に千彩はやらかした妹を諭す様に言葉を続けた。


「私らは何かしらを抱えてるけど、それは試合後で良いんじゃないの? ほら、ヨウちゃんを見てみなよ、きっと今楽しいんだ」


 促されるまま、ネクストから動き出すかつてのチームメイトをこそりと窺う。

 そこにあるのは満面の笑み。楽しくて仕方がない、それが見ただけで解る程に彼女の全身から漏れ出ている。

 ああ本当だ、と昴は思う。

 そして、記憶にある彼女のそんな表情を見るのはいつ以来だったろうと、懐かしさにも似た感情が湧き出るのを感じ慄然とした。

 懐かしさを感じる程の遠い過去となっている。記憶の中の金田一葉は笑っていない。笑わなくなってしまった。


 諦観じみた、鉛色の曇天の如き重く沈んだ眼差し。

 自嘲気味な笑みで塗り固めた表情の裏に蠢くのは拒絶、そして怒り。


 思い出したくも無い記憶が不意に昴を襲う。

 夕日に染められた雑木林。見慣れたバットケースを背負った細身の少女が吸い込まれてゆく。その後ろ姿を認めた昴は、そっと彼女の後をつける。

 差し込む夕日も疎な林の中、昏い目をした少女は表皮が剥がれかけた古木にバットを打ち付ける。衝撃が自身に返る事すら厭わず、ただ黙々と。

 止めなきゃ、と思う。

 だが自分にはその資格があるのかと自問する。

 彼女が纏う雰囲気が全てを拒絶している様に昴は感じ、どうしても一歩を踏み出せない。

 曖昧な謝罪の言葉を溢し、逃げる様に雑木林を後にした。只々罪悪感だけが膨れ上がった。


 昴の所為では無い。

 だが、あの時彼女に手を差し伸べていたのなら、自傷行為と何ら変わらないあの様な行動に至らなかったのではないかと思う。たらればを言った所で現実は何も変わりはしない。だからこそ、過去の選択が更に酷く重くのし掛かる。


 心内こころうちを見てしまったから。


 抑えきれない感情をただぶつけるしかないその姿を。

 煌めいていた瞳が色を無くし、昏く沈んでしまったのを。


 そもそも彼女は間違ってなどいないのだ。


 相模原クイーンレッズは硬式のU-15カテゴリの全国トップクラスのクラブ。

 近隣から名のある選手が集まる名門。常勝は義務であり、プレッシャは常に背中に張り付いている。それとの付き合い方を知らない者は無情にも喰い物にされ潰れてゆく。

 運にも恵まれなかった。


 十年に一度の逸材とされた選手が昴達の二つ上にいた。

 彼女は常勝の為の歯車となり、大人達の名声の為に酷使され続けていた。そんな中でも生き残るのが一流の選手だと、目先の名声に目が眩んだ者達はそううそぶいた。本人もそれを納得していたのか、手に入れた地位を手放したくはなかったのか、端から見ると異常な環境だとしても”ここでの日常”として呑み込んでしまう。


 潰される、と誰もがそう思う。だが、それを快く思う者もいる。好敵手がいなくなれば自分がその位置に立てる、自分ならああはならないという淡い希望を胸に邪な期待を寄せる。


 気が強いのは本人の質。

 昴がそれに気付いた時には既に遅かった。

 日に日に憔悴してゆく先輩。だが指導陣は頑として甘えを許さず、結果が出なければ自身の為だと叱責する。そんな環境に嫌気がさしたのか、細身の少女は元来の強気をあらわにする。


 ——こんなやり方じゃ、勝てるものも勝てない。たとえ勝った所で得るものは何も無い。


 それは絶対的な権力を持つ者に、有象無象が楯突いた証。


 ——じゃあ、お前がやってみれば良い。言うからには出来るんだろう?


 子供に正論を吐かれ、頭に血を昇らせた時点で、指導者としてどうかと昴は思う。

 だがチーム内ヒエラルキの中堅より少し上の立ち位置にいた昴は、それらを捨ててまで彼女を擁護する事は出来なかった。彼女を支持するという事は、指導陣に楯突いた事と同意だ。


 ごめん、と昴は目を背ける。

 心のどこかで、やっぱり無理じゃん、という結末を予想していたからかもしれない。敢えて自分が口を挟まずとも、きっと大方の予想通り、羽虫の囁き程度の些事で終わるだろうと楽観視。それを、自分が口を出さなかった事に対しての免罪符として。


 だが、彼女は結果を出し続けた。

 積み重なってゆく彼女の功績は、そのまま指導陣の失策の裏返し。チームは常勝を維持した。フラットな目線で現状を認められれば何も問題はないのだが、彼女を認めてしまえば、自らが間違いだった事も同時に認める事になる。楯突いた小娘に対し指導陣のプライドがそれを許さかった。加えて結果が出ている現状、その力を見抜けなかった指導陣というレッテルはチームに蔓延する。


 チームは水面下で二つに割れた。

 彼女を肯定する者と、彼女を否定し無かった事にしようとする者。後者は指導陣の思惑。それに便乗すれば、彼女のいた場所が自分の物になると踏んだ浅ましい者達がそれを推した。


 プライドだけが高く自分を省みれない者は一定数いるのだ、と昴は知った。

 そのチンケなプライドの保守の為に、外面では褒め称え、裏では野球とは関係のない事で彼女の足を引っ張ろうとする。

 発端の口答えはいつの間にか抜擢に上書きする事で自身の外面を守り、その実、彼女自体を決して認めない。結果を出し続けようが、チームに勝利を齎そうが、楯突いた事実は、決して無かった事には出来ないから。

 昴は事実確認をした訳ではないが、同調する者達の間で、彼女はプレッシャに負けたというシナリオが出来つつあると小耳に挟んだ。


 昴、中学二年の秋口。シナリオは完遂した。

 表面上はそういう発表となったが、その実陰湿な嫌がらせが彼女に付き纏っていた。一抹のミスさえ許されない空気の上、あからさまな当たりの強さ、嫌味、無視等、自分の目的の為ならここまで人を貶める事が出来るのかという、チームメイトの行為と、それを暗に推奨した指導陣。


 反吐が出る、と昴は思う。

 だが自分可愛さに見て見ぬ振りをした自分も同罪なのだ。

 手を差し伸べていたら。

 その言葉がずっと昴の心に纏わり付いて枷となっている。

 たった一人で戦った細身の少女。打ちのめされボロボロになり、人にぶつけられぬ思いを古木に打ち付ける傷ついた乙女。その姿が更に枷を強固にしている。


「確かにさ……」


 千彩の言葉で再び現実に戻される。

 昴は顔を上げる。千彩が微笑む。


「あの頃のヨウちゃんは見てられなかった。けど、ヨウちゃんはヨウちゃん。夏休み前には笑う様になってたけど、私が知る中では今が一番良い笑顔。スバルは私以上に思う事があるんだろうけど、あの笑顔見れば少しは救われない?」


 千彩の言っている事は解る。きっと一葉は今幸せなのだろう。

 でも、だからと言って自分を許せる訳ではないと昴は思う。彼女を追い込んだ原因の一部に自分はなっている。


「でも……」

「ああ、もう」


 千彩は腰に手をやり呆れ混じりの溜息を吐く。右の掌を水平にしてそこにグラブを縦に付ける。撫子が察したのか、荻野にタイムを要求、それが受理される。

 撫子がマスクを剥ぎマウンドに駆け寄る。


「何? ちろ、どっか痛めた? 痛めてないよね」

「どっちかというと、痛んでるのは、こっち」グラブで昴を指す。

「ああね」撫子は解らないでもない、と同情の相槌を打つ。

「埒あかないなあ」千彩はそう言うと振り返り、ゆるりとこちらに向かって来る藍を急かした。


 直ぐに藍が駆け寄って来た。


「どうしたの? 怪我?」

「……アオイちゃんまで」千彩は苦笑。「私ってそんなに怪我心配される様なプレイしてるっすか? いや、それは今は良いっすね。いや、スバルが……」


 藍は、ああと頷く。小さな溜息を吐き肩を落とす。


「あんたの真面目さは長所でもあり短所。でも今は試合中なんだから、自分のすべき事を全うしなきゃ……」藍は言葉を止めて再び溜息。「だめだこりゃ。あんまり女帝に睨まれたくはないんだけど」


 そう吐き捨てて、荻野の所に向かう。

 二、三言葉を交わす。荻野は目を丸くし、クスクスと笑う。藍は何度も頭を下げ、再びマウンドに戻って来た。


「思っていたより、暖かい人みたい」藍は独言る様に言ってから、状況が呑み込めず困惑する三人娘の背中を押し無理矢理促す。「ほら、試合再開するよ」

 藍はちらりと振り返り頭を下げる。


「スバル!」


 自分の名を呼ばれ、ハッと昴は顔を上げる。

 自分に向けられた声。遠く懐かしくも、胸が締め付けられる様な声音。

 ボックスの外で一葉が右手で握ったバットを指し示す。

 それは今いる昴の少し斜め後方。

 それは昴の居場所、遊撃手のポジション。


「お前の頭を越してやる。捕れるもんなら取ってみな」


 まさかの戦線布告。

 千彩の言っている事は間違いじゃない。

 一葉は今を純粋に楽しんでいる。きっと彼女も思う事はあるのだろう。だが、それはそれ、これはこれ。今、彼女は自分に挑戦状を叩き付けたのだ。

 思いは昴の中を巡っている。だが、今はそれに無理やりにでも蓋をして、彼女の挑戦を受けるべきだ。ゴメンナサイは試合の後で。

 半分は無理やり作った笑み。

 もう半分は自然と出たもの。

 少し歪で曖昧な笑顔、でもそれが今の昴の真実。枷を見ないふりをして思った事を口にする。


「誰にモノを言ってるかな、カネやんのフォローし続けたのは私だぜ? 超えられるもんなら超えてみろ」


 そう言い切って昴は一葉の反応を見ずに戦地に赴く。

 口元には微かな笑みを浮かべて。

 思い返せば当たり前だが、同じチームにいたのだ。正式な対戦というのは初めてだ。

 会話が出来て少し枷が軽くなったのかもしれない。

 旧友との対戦に心躍る自分を認識する。

 本当はもっと同じ時間を共有したかった。

 でも今はもう別々の道。ならば、今出来る事に全力を注ぐ。

 昴はグラブを叩き声を張る。


「バッチ来い!」


 千彩が、撫子が、そして藍がホッとした様な笑みを浮かべ、各々の位置に戻る。

 昴は内心皆に頭を下げる。

 今日はきっと謝ってばかりの一日になるだろう。でもそれで良い。自分がそう望むのだ、きっと間違ってなんかない、と昴は自分で自分の背中を押す。


「強打者っすよ、皆さん、よろしくお願いしまっす」


 千彩が声を張り、各々がそれに返す。

 一葉が笑みを湛え、ボックスに入る。

 右手でバットを二回し、背を伸ばして左肩に担ぐ。

 そのまま脱力し直立姿勢でバットを左肩に乗せる。

 笑みを浮かべた顔だけが投手に向く。

 荻野が手を上げる。

 再開。

 新鮮な眺め。この構図は始めてだ、と昴は思う。過去の良い部分だけを思い浮かべ、改めて金田一葉という打者の持つ雰囲気を実感する。

 何も変わっていない。寧ろ凄みは増している様な気さえする。塁が埋まっていようがいまいが、常に平常心。笑みすら浮かぶその姿は凪そのもの。


 昴は踵を少し上げ、膝を柔らかくして腰を落とす。

 感覚を研ぎ澄ませ、狭くなりがちな視界を広く保つ。

 目は打者を中心に。

 千彩の頷き。

 静止。

 始動。

 コースはインコース。

 一葉はそれを見送った。 

 判定はストライク。

 本当に宣言通り自分の上を狙っているのか、と昴は考える。なら、窮屈なインコースを捨てるのはまあ納得。バッテリィはそれを踏まえて、インコース攻めをするのかと思う。

 邂逅は個人的な物。試合は個人戦ではない。有り得る想定、起こり得る現実への対処。自分の守備範囲の再確認と、未来予測。昴は自分の神経が研ぎ澄まされてゆくのを感じる。


 二球目。

 コースは真ん中、球速からスライダーと判断。

 左の一葉にはやや内に入って来る球。手を出した所で、敢えて流す事はしないだろう。

 だが、昴の予測は覆される。

 一瞬溜めて出したバットに球が乗る。

 金属音を響かせて打球は左翼線を切って行く。

 無理して狙う球でも無いだろうと苦笑する。

 有言実行という事かと思い改める。

 予測を上書きし次に備える。

 バッテリィなりの、打てるものなら打ってみろとでも言わんばかりのインコース攻め。三球目は外れ、難なく一葉は見送る。

 一葉は再びバットを二回ししてから肩に乗せ背を伸ばす。

 切り替えか、と昴は思う。

 千彩なりに思う事があるのか、思い入れ故の極度の集中がなせる技か、大抵一打席につき一、二回は逆球がある彼女なのだが、今の所それは一切ない。

 内を狙って逆球になるという事は力が乗っていない証拠だと昴は考える。特にこの打席外に行けば、一葉は確実に狙うだろう。

 それが解っているのか、再びインコース。

 今度もしっかり制御されている。強い腕の振りから、気の抜けた様な球が弾かれる。

 千彩の決め球のチェンジアップ。

 と、同時に二塁ランナーが走り出した。

 な、と昴が思うと同時に、一葉は始動。

 全く崩されもせず、読んでいたかの如く、そのチェンジアップに合わせて来る。

 昴の脳裏に打たれるという未来予測。

 そしてその一歩先、経験が弾き出した打球の行方はセカンドの上。

 癖に近いモノか、ついその予測に従いカバーに動く為重心がセカンドに揺れる。

 感覚的な刹那の間。

 昴の予測は覆される。

 一葉が鳴らした綺麗な音は、宣言通りやはり昴に向けられたものだった。

 合わせ、手首で調整、バットにボールを乗せる。

 舞い上がる白球。

 轍は昴の頭上に伸びる。

 野球を始めた時からポジションは遊撃手。その経験値が打球の行方を教えてくれる。翔べば届くと昴は思う。傾いた重心を無理矢理戻し、力強く跳ねグラブを伸ばす。

 く、と奥歯を噛む。

 予想を超えて来る今。

 僅かに届かない。

 昴のグラブの先端を掠め、打球は左中間に転がってゆく。

 着地し、地面を蹴る。

 中継に入り、セカンドで刺す。

 幸い一葉の足はそこまで速くは無い。打球処理によっては刺せる筈だ。

 先程の碧の打球と同じく、センターの梓が追い付いた。

 藍が叫ぶ。


「バックホーム」


 それを聞いて、昴は瞬時にコースを開けた。

 開けながらも、あら、と思う。

 エンドランじみたスタートだと記憶していたが、ホーム間に合うのか。

 横目で見れば、確かにギリギリのタイミング。梓の肩なら間に合うかもしれない。

 昴の真上を矢の様な送球が通り抜ける。

 だが、速さはなくとも、結城碧は巧者だった。

 捕手経験の浅い撫子を嘲笑う様に彼女の手をくぐり抜けてホームに触る。

 荻野が両手を広げる。

 昴は天を仰ぐ。


 どこにいようとも彼女は彼女。本質は何も変わっていない。レガースを外しながら、二塁塁審を務めている先輩と談笑する彼女。

 はにかみながらも、一定値を振り切らない感情。ピンチもチャンスも彼女の前ではただの状況。揺れない心。

 変わっていない、と昴の中で過去の幻影と今が重なる。

 だが、確実に内面では変化はあった筈だ。

 彼女が通ってきた道は険しく、道半ばで折れてもおかしくはない孤独な道。それを通り抜け今ここにいるのだから。

 自分なんかに尊敬されても、一葉は嬉しくないだろうと昴は思うものの、そうせずにはいられない。かつての相棒は遠い所で同じ様に笑っていた。


「私の勝ち」


 不意に声を掛けられた。

 昴は心臓を掴まれた様な感覚を覚え、熱を持っている筈の身体が即座に冷える。先程は勢い任せに言葉を交わしたが、今、その勢いは無い。談笑する資格が自分にあるのか、と再度自問。


「何とか言いなよ、スバル」

「えっと……」せっつかれても、まともな言葉が口から出てこない。


 何を話せば良いのだろう。

 何を話して良いのだろう。


 伝えたい言葉は山の様にあるが、一言口にすれば、土砂崩れさながらに、山が平地になるまでほとばしるだろう。

 萎縮する昴を見かねたのか、藍が二人の間に入る。


「あんた、相変わらずね。全然ブランクないじゃん」 

「当たり前でしょう、肥溜めに嫌気がさしただけで、野球は好きですもん」


 肥溜めとは相模原の事を指すのだろうな、と半ば上気のぼせた様な頭で昴は考える。


「その、さっきはありがとう」藍が言った。「それから……」

「アオイさん、今私達は対戦中ですよ」藍の言葉を遮り、一葉は柔らかな笑みを浮かべる。「野球、しましょうよ」

「……ッ」


 藍が息を呑むのが昴にも解った。

 彼女だって何かしら思う所はある筈。

 それでも自制し今の自分の役割を全うする事に徹している。


「私にも聞きたい事はある」本音が溢れたのだろう、一葉が呟く様に言う。「でも今は……」

「そう、ね」藍も頷く。「今はお互い全力でぶつかりましょう」


 頷く一葉の顔が昴に向く。


「という事だから、あれからどうなったのかしっかり見せてよ」


 あれからか、と昴は思う。

 互いに過ぎた時間は同じ、その最中に何を思い、何を得たのか。

 きっと一葉は自分なりの答えを見つけたのだろう。だから今笑っていられるし、プレイは練度を増している。

 では自分はどうだろうか。

 自分も新しい道を見つけ、ここにいる。それは正しかったと思う。枷はまだ取れない。取り方も解らない。だが、一葉はいつかの様に結果を出し自分に挑戦してきている。

 ならば。

 自分もそれに応えなければならない、と昴は思う。

 皆何かを抱えている。抱えながら歩みを進めている。昴のそれは酷く重いが、それは抱えなければならないもの。

 試合前に決めた今の自分達を見せるという志。本人を前にして重さに屈し霞んでしまっていた様だ。


 昴は拳を握り、小さく息を吸う。

 よし。

 顔を上げる。


「次は抜けさせないし、今度はカネやんの上を抜いてやる」

「良いね、そうこなくっちゃ」


 一葉は不敵に笑った。


 ああ、そう言えば、勝負の最中はこんな笑い方もしていたな、と昴は思い出す。

 少しずつ何かが解けてゆく感覚。

 昴の中の一葉は仄かに口元を上げていた。

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