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アイデスの憂鬱  作者: 森住千紘
Proof of buds : 1
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 Interlude : Wearing its feathers, soar to heaven

 膨れ上がった感情の中を漂っている。

 これはきっと悲しいのだ、と翔子は思う。


 突き付けられた事はおそらく正しい。

 自分の中のプライオリティは揺らいでも無い。だから、頭では、どうすべきかは容易に解る。

 だが、それを否定したい何かが翔子の中にはいて、そいつが涙を流させる。初めて手に入れた暖かい物を手放したくはない自分もいる、という事なのだろう。


 言葉にして漸く解った様な気がする。

 傍にいて欲しいというのは本当だ。これまで朧げだったモノが輪郭を纏った瞬間、と、同時に、それを手放すべき、という現実。


 今までよく解らなかった、恋愛感情という物が翔子の中で具現化した。そして、解った途端、それを手放すのが最善、という現実。少し違うのだろうが、失恋、というヤツなのだろう。


 まさか、このタイミングでそれに触れる事になるとは、と翔子の気持ちは自嘲気味に傾く。

 とは言え、この場を作ってくれた皆の意図も解る。

 客観的に見渡せば、大屋采配が導くであろう結果は翔子にも解る。納得のいかない結果が見えているのであれば抗いもするだろう。そういう面子が揃っている。そしてそこに自分を取り入れる為にこの場は作られたのだろう。道を外しかけていたのだ、真っ当な道に戻したいと思うのは道理。

 エースだからではなく仲間だから、というのは、これまで培ってきた物とこの場が作られた事から疑いは無い。だから答えはもう決まっている。


 ただ、もう少し余韻に浸りたいだけ。

 涙と共に悲しみだけ流して、これまで得た暖かい物を思い出に変換して心の小箱にしまおう、と翔子は思う。


 暫く漏れていた嗚咽も、今はもうない。

 ただ静かな時間が流れている。

 翔子は今一度、深くタオルに顔を埋め擦り付けると、漸く顔を上げた。

 肺一杯に空気を吸い込み、緩りと吐き出した。思いの外呼吸は整っている。


「……皆、ごめん」誰とも目を合わせられず、翔子は呟く様に言う。「取り乱した」


 くすり、と誰かが笑いを零した。


「泣きっ面なんて筋肉バカには似合わねんだよ、って琴子なら言うだろうね」菜月が笑う。

「ショコも乙女だなって実感したよ」遥が優しげな笑みを浮かべる。「ここはマウンドじゃないし、いんじゃねえの?」

「カミちゃん、ごめんね。ある程度予想してたとは言え、傷付ける結果になったから」佳奈が頭を下げる。

「私が言えた事では無いのかもしれないけれど、どうしてもカミにはこちら側にいて欲しかった」美羽が居住まいを正す。「貴女の心内に気付けなかった私が愚かなのは百も承知している。けれど、だからこそ、もう一度一から築きたいと思う」


 美羽はそう言って、佳奈をちらりと見た。


「ねえ、カミちゃん」佳奈は優しげな表情を浮かべ翔子に語りかける。「傍にいたい理由って、大屋先生がカミちゃんの欲しかった言葉をくれたから?」


 それが始まりだと翔子も認識している。だから小さく頷いた。


「また質問になっちゃうけど」佳奈の表情が僅かに傾く。「それは大屋先生だから?」

「え?」翔子は首を傾げる。質問の意味がよく解らなかった。「どういう事?」

「えっとねえ」佳奈は目線を上に上げる。「カミちゃんが欲しかったのは言葉、というか心の拠り所だったんだよね? 大屋先生じゃなきゃダメな理由ってあるのかな」


 結果として今大屋がその位置にいるのは確か、だと翔子は思う。

 可能性なら考えられなくは無いが、現実として言葉を、拠り所をくれたのは大屋なのだ。だから、彼が翔子の中にいる。やはり、気持ちの向かう先は大屋なのだろう。


「ダメな理由ってのがよく解らないけど、私の中には大屋先生がいるよ」

「うん」佳奈は頷く。


 佳奈はもう一度頷いてから、居住まいを正した。


「カミちゃんが関谷に腹を立てたのってさ、自分の拠り所って思ってた所が奪われたと思ったからだよね? この際関谷の性格は無視して?」


 翔子は言葉を吟味する。

 佳奈の言う事は多分正しい。思い返しても、ネガティブな思いに駆られるのは、やはり関谷の言い方が半分、佳奈の言い分が半分だと思う。


「……そうだね。ムカついた、と同時にまた独りだなって思ったよ」

「うん」佳奈は頷き、ふう、と息を吐き目を伏せた。「……辛い質問するけどさ、さっき泣いたのはなんで? 多分カミちゃんの事だから、総合的に判断して私達の言い分を呑もうと考えてる。つまり、これまであった大屋先生との関係性を断ち切らなければならない。それが悲しかったから、じゃない?」

「……カナって何者?」翔子は力無く笑った。完全に言い当てられている。「何で解るのさ」

「ん、まあ、人間観察の賜物ってヤツ?」佳奈もまた力無く笑った。

「あ、そう。カナの爪の垢でも煎じて飲めば、私でもそうなれるかな」


 軽口を叩く位の元気ならまだ残っていた様だ。

 辛いのは辛いのだろう。だが、自分の進むべき道は確りと見えている。後ろめたい思いを抱えながら進めば、いずれどこかで躓くだろう。だからこれで良い、と翔子は思う。

 それに、この場を設けてくれた仲間がいる事。それが解っただけで、翔子は少し救われた様な気持ちになっている。


「カミちゃん。もう一度きくね?」翔子の了承を待ってから、佳奈は先を続けた。「大屋先生だったって事だよね? カミちゃんに居場所をくれたのは」

「うん」翔子は頷く。「希望を抱き過ぎた私にも問題があったけどさ、それでも最初に私を見つけてくれたのは大屋先生。そこは間違いない」


 翔子が言い切ると、佳奈は目を閉じ静かに頷いた。

 佳奈の表情が僅かに緩んだ。

 翔子の目にはどこか安堵した様に映る。疑問を挟む前に佳奈が口を開いた。


「えっとねえ、カミちゃんの大屋先生に向かう気持ち。厳密に言えば、それって恋愛感情じゃないと思う。もしかしたら、って思ってたけど、色々聞いて確信持てた。確かめる為に、まずは恋愛感情とはなんぞや、ってとこからだったから、結構遠回りはしたけどね」佳奈は明らかな安堵の表情を浮かべた。「カミちゃんのそれって、依存だよ。恋愛感情とは違う」

「え?」

「私が思うに、恋愛感情って特定の人へのこだわりだと思う。ずっと一緒にいたい、とか同じ時間を共有したいとか色々あるけど、その人だからってのが前提。だからカミちゃんのそれもあながち間違いでは無いんだけど、やっぱり違うと思う。カミちゃんは大屋先生じゃなければダメな理由を言い切れなかった。恋愛感情が解らなかったとしても、”その人”でなければならない理由があるはず。カミちゃんにはそれが無い。求めていた物をくれるから慕っている。それって恋愛ってカテゴリとしては、酷く一方通行で都合が良くて、残酷な結末しかないんだよ」

「共依存ってのなら話は別だけどね」菜月が割って入る。「互いに必要としている、ってのが行き過ぎた形だから、不憫とは思えど本人達の世界では完結してるから良いの。でも片方が依存しているだけの状態は不幸な結末しかあり得ない。だってもう片方は、別にその相手がいなくても何ら問題がないんだもん」

「誰だって、誰かの一番でいたいと思う事はある。それは友人であったり、恋人であったり様々。でも、それはお互いが思い合って初めて形になると私は思うよ」佳奈が言う。「仮にカミちゃんの気持ちがそうだったとしてもさ、大屋先生にそれはない。あったなら、関谷があんな態度取れる訳も無い。言い続けてる事だけど、大屋先生にとって私達は単なる駒。その駒が最高効率を叩き出す為なら、幾らだって甘言を吐くよ、あの人は」


 翔子は軽く開いた自分の手の平に落としていた目を佳奈に向けた。


「私が勝手に大屋先生を拠り所にしていたって事?」


 佳奈は首を振った。


「そうなる様に、あの人が仕向けた。カミちゃんをうまく扱えるように。だから私達は何としてでもカミちゃんの目を覚まさせたかった。それで……」


 佳奈は沈黙に沈む美羽に目を向けた。


「ええ」美羽は頷く。「この先貴女にはいて貰わなければならないの。全国を取る為に」

「だからさ、私は辞めないって言ってるだろ?」翔子は溜息を吐き呟く様に言う。「……何もかもがまやかしだったのかよう」


 つい先程理解したと思っていた恋愛感情は、似て非なる物という現実。元々よく解らない代物だったので、間違えた所で然程ダメージは無い。ああ、そんな物か程度の事。

 だが、意識の外で、もう一人の翔子が悲しみに暮れている。感情をラベリングした所で、これまでに語られた話が一層現実味を帯びただけ。自分の置かれている現状は然して変わらない。だから彼女が再び涙を流させる。先程とはまた違う涙。少しだけ悔しさが混じった、孤独な涙。


「カミちゃん」佳奈が優しく語りかける。「カミちゃんは一人じゃないよ。カミちゃんは私達のエースであり、私達の仲間。そして私達の友達だもん」

「そうだよ」菜月がとびきりの笑顔を見せる。「私達だけじゃない、琴子だってそう。少しベクトルは違うけど、色んな事言い合える友達じゃん。あいつはバカだから、多少エグい事言っても気にしない。カミにはカミを解ってくれている仲間、友達がいたんだよ」

「私達はずっとこの気持ちを抱えていたの」美羽が優しげに言う。「でも、きっとさっきまでのカミでは受け入れて貰えない。下手をすればギリギリの関係性が破綻しかねない。だから言えなかった。けれど、ね。貴女が望んでいた世界は、ちゃんとここにあったのよ」

「辛い時は誰にでもある」この日初めて主将が口を開いた。「でもその辛さを分かち合えるなら、その方が良いでしょう? そしてそれが出来るのが私達だと思うよ」

「この締めの為に、これまで口を閉ざしてたのかよ」遥が橙子に言う。直ぐに何かに気付き焦り始める。「やっべえ、私エースに捧げる言葉言ってねえ。ちょっと待ってな、ショコ。今考えるから」


 翔子は滲んだ視界を逸らして、笑いを零しながら言った。


「考えた言葉なんていらねえよ」そう言って、再びタオルに顔を埋めた。「……ありがとう。皆、ありがとう」


 良かったのだろうな、と視界を閉ざしたまま翔子は考える。

 辛さ、と言うのならそれはまだ翔子の中にある。だが、これまで得ていた物とはまた違う暖かさが今自分を包み込んでいる。元より近くにあったのだ。だが、見えなかった。諦めて周りを見ようとしなかったから。


 すれ違いが生んだ悲劇、と言えなくも無いが、原因と言うのなら翔子にもある。寧ろ、大方自分の責任だろう。皆に迷惑をかけたな、と思った所でふとした疑問が沸いた。

 おもむろに翔子は顔を上げる。腫れぼったい目を細めて、周りを見た。


「なあ」誰とでもなく翔子は言う。「確かに私は大屋先生の言葉が拠り所だったよ。でも、立場って言うのなら中立的な所にいた。先生の言動全てを盲信していた訳じゃない」


 皆の視線が自分に集まっているのを感じる。生まれたての疑問は即座に膨れ上がる。


「今なら解るよ。確かに壁はあった。けどさ……」翔子は再び皆に目を流した。「私の目を覚まさせるって言ったけど、そこまで曇ってた訳じゃなくないか? 仮に私が盲信してたとしてさ、その目が覚めたからって、この先どうにかなる訳じゃなくない?」


 そうなのだ。

 確かに翔子自身は大屋の文言に何かを求めていた。だが、それは翔子個人の話であってチームの話とは別なのだ。だから、そこが明確に線引きがなされたとしても、先には繋がらない。


「貴女が泣いてしまったからじゃないの」美羽が肩を竦めた。「あんなに感情を揺らした貴女を見るのは初めてだもの、幾ら私が冷酷と影で言われていようが、その位は慮れるわ」

「自虐を交えるなよ」遥が笑いを噛み殺しながら言う。

「別にそんなつもりはないわ。事実だもの」

「はっ」遥は今度はしっかりと笑いを出し、手の平を上にする。「相も変わらずお強いですなあ」

「余計な茶々が入ったけれどね、カミ」美羽は今一度皆を見回してから口を開く。「ここからが本番、貴女の疑問の答えもそこにある」

「あん?」翔子は首を傾げる。

「物事には順序、という物があるのよ」美羽はそう前置きして語る。「まず、貴女の真意が解らなかった。だから、強硬策は使えない。何せ私は貴女がグラブを置くと思ってたから」


 三度翔子が否定しようとするのを、美羽が手の平で押し留めた。


「まあ、最後まで聞きなさいな」そう言って美羽は先を続ける。「まず貴女の心内がどのようになっているのかを知る必要があった。現状結果は出ている。見かけ上はモチベも十分。でも、大屋先生に対する眼差しは恋する乙女のそれ。さあ、貴女の本心は何処? それが私達の知りたい事。そしてそれ次第で、次の一手が真逆にもなる。慎重にもなるわ」


 美羽の後を佳奈が継いだ。


「だいぶ訝しまれてたけど、あの小説もその一環だったの。カミちゃん、試す様な事してごめん」佳奈は頭を下げる。「でも、まずはそこが明らかにならないと、どうにもならなかったから」

「……そんな、私の動向次第で物事が動くなんて、ないだろ」乾いた笑いと共に翔子は言う。

「貴女はエースなのよ? 動くわよ」美羽は言い切る。「確かに、雪や一年生達にも良い投手はいる。けれどね、やっぱり私達の代のエースはカミ、貴女なのよ。何だかんだ言ったって一緒にやって来た、最後まで一緒にと願うのはおかしいかしら?」


 翔子は首を振る。

 言うべき事は最後まで聞いてからにしよう、と思い手の平で先を促した。


「幸い、と言うべき結果なのかしらね。仮にカミが本気の恋する乙女だったのなら、今ここは怨嗟に包まれ血の雨が降っていたでしょうに」

「ミウ、言い方、って言いたい所だけど、そこは賛成」佳奈が苦笑する。「ある程度の予想はあったけど、予想は予想だし、蓋を開けて見ないと解らないからね。だから、幸いと言うのならそう」

「カミ」美羽が翔子に真摯な目を向ける。

「うん?」

「まだ痛みがあるのかもしれない。けれど、立ち止まっている時間は無い。だから言うわ」美羽は居住まいを正す。「貴女の大屋先生に向かう気持ちが恋じゃなくて本当に良かった。これで何の気兼ねも無く、あの人を地に堕とせる」


 翔子は何度か瞬きをした。美羽の言った事が上手く呑み込めなかった。


「地に、落とす?」


 美羽だけでは無く、部屋にいた皆がそれぞれ頷いた。


「はあ」曖昧な返事が口から溢れる。翔子も自覚している。そこに大した意味は乗っていない。

「今日、ずっと言い続けているけれどね、大屋先生は私達を駒としか見ていない。采配も、勝つ為という上塗りをしただけで、その実、自分の手柄の為。解っているでしょうけど、そんな事では全国で勝てやしない。と言うか、別に今年勝てなくても彼は良いのでしょうね。今年度から彼主動でスカウトを始めたのだし、今の一年生が三年になった辺りで結果が出せれば、御の字といった所かしら」美羽は組んだ脚に肘を乗せ、その手の平に頬を乗せた。その口元が微かに上がる。「駒は駒でも、私達は捨て駒らしいわよ?」


 翔子は美羽に向けていた目を緩め、一息吐いた。


「……ミウがそう言い切るのなら、憶測ではないんだろうな」再び美羽に目を向ける。「で、情報源はどこさ? それなりに信頼出来るとこなんだろ?」

「理香さん」美羽がぽつりと言った「全て、理香さんから聞いた。年始位から相談を持ち掛けていたのよ。あの状況で楽観視出来る人間は、余程のお花畑の住人か、もしくは内申点の為に部活をしている人種だものね」

「……確かに理香さんなら信頼出来るけどさ、何であの人なのさ」

「大屋監督とも知り合いだから、というのが一つ」美羽は人差し指に続けて中指も立てた。「後任をお願いするんだもの、先に話を通しておくべきではなくて?」

「はあ?」翔子は手の平を立てる。「ちょ、ちょい待ち。後任? もしかして、地に落とすって……」


 先程と同じ様に、皆が頷いた。


「そもそもさ」遥が口元を上げながら言った。「私が戻るんだ。そりゃあそうだろ」

「あ、ああ……」


 漸く、翔子の中で色々な物事が繋がった。

 曇りなき眼で周囲にある現実を見てみれば、腑に落ちる事が幾つもある。

 そもそも本来狂犬じみた荻野美羽が、現状に苦言すら吐き出さずに恭順の意を示している事こそが異常。何も言わなかったのは、諦めが勝ったからではなく、反撃の一手を隠し持っていたから。言うなれば雌伏の時。

 紅白戦の時だってそうだ。明らかにおかしいジャッジやら、意図の読めない指導に対して、彼女は何も言わなかった。これまでの美羽を知っている翔子からすれば、それはおかしいのだ。

 あの時は深く考えなかったが、心のどこかで違和感は感じていた。

 小さな違和感は纏まり塊となって、今の結果に収束する。


「い、いや、もう……」翔子は両肩をさする。妙な寒気を感じる。「怖いって」 


 呆れ気味の翔子に美羽は苦笑を見せた。


「怖いというのなら、こういう物もある」少し身を捻り、自分の机にあった携帯端末を手に取る。「この中に、大屋先生と四ノ宮の個人練習の様子が録音された物が入っている。これ自体は四ノ宮の独断が齎した結果なのだけれど、実証にはなるわ。聞きたい、と言うのなら貴女にも送るけれど?」


 翔子は一瞬気が遠くなる感覚を覚えた。

 色々な事が一気に攻めて来た感じ。なす術が無いとはこの事か、とやたら暢気なことすら考える始末。

 翔子は右の手の平を立てた。空いた左手で眉間を揉む。


「……言いたい事は山程ある。聞きたい事もそれこそ霊山級に。でも、取り敢えず一回お茶にしよう」そこで翔子は笑った。「結構泣いたからさ、水分足りないんだよ、私はさ」


 きっと、今この空間に充満している大半は安堵なのだろう。

 少しだけの辛さと、少しだけの怖さが翔子の中にはあるのだが、それを片隅に置いて、今はこの空気に身を委ねていたい、と翔子は思う。


 晴れやかでは決してない。

 だが、悪くは無い。

 思う事はたくさんあるが、それはこれまでとは違った物。

 自分が見ていた物は間違いだったのかもしれない。

 これから見る景色が正しいとは言い切れないが、きっとこれまでよりは自分にとっては良い物だと、翔子は思う。

 背を押してくれた仲間によって、新たに手に入れた羽によって、これまでは見えなかった遥な高みへ翔べる。

 お茶を片手に雑談に興じる皆を見回し、そんな想像を翔子はした。

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