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アイデスの憂鬱  作者: 森住千紘
Proof of buds : 1
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 Different world 〜 異世界 〜

 本日も晴天なり。

 澄み渡る青空、流れる白い雲。春風を纏いて花咲ける乙女達がグラウンドに立つ。


 グラウンド整備の為一足先にグラウンドに来ていた乙女達の中において、私の心持ちは薄暗い。グラ整や用具出しは特に苦痛では無い。何事もやらなければ解らないものだ。この場所にはこの場所のルールというものがあるだろうし、自分の思う正しさは、絶対的なものでは無いのだから。なので、雑用を押し付けられたとしても、どうって事はない。ないのだけれど。


 荻野達との密談の翌日。練習前のミーティングで私達の立ち位置が決まった。事前に想定していた範囲ではあったので、心持ちは、だろうな程度で治まってはくれる。ただし、それを快く受け入れられるかと問われれば、確実に否、だ。拒否権があるなら行使したい。


 そんな事を胸に抱きつつ、上級生達を迎えた。

 昨日、かなり込み入った話をしたとて、上級生は上級生。彼我の立ち位置、境界線は理解している。親しき中にも礼儀あり。彼女達の姿が見えた途端、きちりと腰を折り首を垂れる。横目で重鎮達を窺えば、奇異なモノを見る様な目で笑いを堪えている姿。まったくあの方々は、と些か辟易へきえき気味の感想が漏れ出る。


 グラウンド整備が落ち着くのを見計らって、主将の坂巻が集合をかけた。

 大屋監督代行は所用の為少し遅れるとの事で、代わりに坂巻がこの日の細かなスケジュールを発表した。次いで、新入生の私達に向けて普段の大まかな練習の流れを説明。右も左も解らない私達は上級生に先導されるがまま全体でアップをこなし、事前に課された役割の元、内野、外野組と、バッテリィ組で別れ、それぞれグループ別に練習に入るべく行動に移す。大屋登場以降は全体練習になるとの事だった。


 荻野を先頭に、私達はグラウンドの端にしつらえられたブルペンに向かう。

 荻野ら上級生の後ろを歩きながら、隣にいる綾にきく。


「お前は納得してんの?」

「まあ」綾は相変わらず光の乏しい目で頷く。「物は捉えようだよ、アンち。別に投手を辞めさせられた訳じゃないし、調整と実践と考えれば、バッピも悪くは無い」


 綾はその制球力を買われたのか、バッティングピッチャに指名された。大半の一年生が身体作りだけを命じられたのを考えれば、球を使って実践出来るだけマシなのかもしれない。


「私なんかよりもさ、アンちの方がキツくない?」

「言うな言うな」溜息が出る。肩も落ちる。


 私が課されたもの。

 それは、体力作りと並行して関谷みなみのサポートだった。リード面であったり、キャッチャとしての技術であったり、彼女の至らない部分の補強をする、そんなお役目。

 こんな事納得出来るヤツいるのかよ、という位には理不尽なお役目である。だってそうでしょう、教える立場というのだから、現時点ではその分野においては、私の方が優秀、ともとれる。にも拘らず、二人で補い合いましょうではなく、お前の持てるものを全て捧げよ、そう言っている様に聞こえてしまう。私は既に彼女が大成する為の養分なのだ。これに納得出来る人がいるかを小一時間程調べてみたい。まったく、依怙贔屓どころの騒ぎでは無い。


「な、なあ」湊が歩みを緩め横に並ぶ。「えっと、ア、ア、アン……、斑目」


 こいつ、何をモジモジしてんだ。あだ名を呼ぶのが恥ずかしいのか? 何なの、ヨーロッパではそういう文化でもあるの? 先輩相手でも物怖じしないクセに、よく解らんヤツだ、と湧いて出てくるツッコミに蓋をして優しさを振りかざしてやる。


「好きに呼べば良いじゃんか。別に怒りゃあしないよ」そのうち泣かすヤツだとしてもしっかりフォローするのが捕手の役目である。私はデキる乙女。

 ぱあ、っと顔中喜びを広げる湊を見て、なんなのコイツ、と内心目を細める私。

 湊は少し照れつつ咳払いした。


「で、アンちさ、ブルペンには入れるんだよな?」


 茶化すのもアレかと思い、真面目に返す。


「多分ね。見た所、投手より捕手の方が少ないから、そこはそうなるんじゃないかな」

「よっし」湊は両拳を握り、より私に近付き耳打ちする。「関谷じゃ練習にならないかんな」

「逆に組んだ方がいいんじゃないの?」

「お、おま、なんて事を言うんだ」湊は両手を広げ大袈裟なリアクションをした。


 ヨーロッパ仕込みか? なんて事を思う。


「だって、打ちのめさないと解らない事あるじゃん。自分には何が出来て、何が出来ないとかさ、多分だけど、あいつ自己評価高いでしょ。そういう奴には力で解らせるのが一番だと思うけど?」

「ま、まあ解らなくは無いけどさあ、一球毎に弾かれちゃたまんねえよ」

「だよなあ……」みなみの捕球技術は拙い。しかも湊は荒ぶる速球を持っている。湊の予想は決して的外れではない。「まあ、そうなったら宜しく頼むよ」

「よし、契約成立だな」湊は再び拳を握った。

「あの、さ」綾が声を出した。僅かに首を傾げながら続ける。「夏目、さん?」

「えっと、香坂、だったっけ……」微かに上目遣いで綾を見る。


 またモジモジしてる。人見知り、もしくは一対一だと緊張するのか、と情報量の多いヤツだなあなんて事を思いながら、生暖かい目で二人のやり取りを眺める。


「うん。同じポジション、同じクラス。綾で良いよ」

「お、おお」ぱあ、と喜びが広がる。「じゃ、じゃあ、私も名前で良いぞ」

「うん。じゃあミナち」

「お、おおぉ」喜びが迸る。「で、で、で、何?」


 テンションが急に高くなったな、なんて事を冷静に観察する私。二人の会話には興味が湧くので更に静観。二人が話しやすいようにと、湊を促し場所を入れ替えた。


「シンカー、教えて?」

「へ?」湊はキョトンとした。「シンカーって、変化球の?」

「うん」

「ううん、別に良いんだけどさ、あんまり参考にはならないかもよ?」

「なんで?」

「ほら、私ら、腕の出が違うから、回転の掛け方とか、リリースの感覚とか共有しづらいんじゃね」

「まあ、確かに」綾は素直に頷く。

「これは私の自論だけどさ、変化球って、要はどういう回転をボールに掛けるか、って事なんだよ。だから、投げ方や体質で掛けやすい、掛けにくいが出て来ると思うんだよな。まあ、綾はスリークォータだから、まだ共有し易いかもしれないけど……」

「ミナち凄いね。私そこまで事考えた事なかったよ。つうか、そんな事話せる人近くにいなかったし、目からウロコ」

「いやいや、私だって同じ。だからほぼ独学、期待すんなって話よ」

「いやいや、それでも私には為になるよ」


 謙遜だか何んだか解らないけれど、二人して手を振り合っている。その後も変化球について話は弾み、投手談義が盛り上がってますなあ、なんて事を思い、私はそっと身を引く。変わり者もとい、個性的な二人が会話している姿を後ろから眺めるのは中々に新鮮だった。


 ブルペンに到着し、各々がアップに勤しむ。表向き不穏さは見えず、和気藹々とまでは行かなくとも、雰囲気は悪く無かった。ストレッチを終え、そのままの雰囲気でランニングに出掛け、戻って来る頃には身体は臨戦体制へと移行していた。


 続いて肩慣らしのキャッチボール。投手六人、捕手四人。半々なら良いのだろうけれど、実に微妙な配分。仲の良い者でペアをという、一部の人間が恐怖する魔法の言葉を荻野が投げかけるのかと思っていると、真っ先に声を発したのは青山圭だった。


「荻野先輩、捕って下さい」圭はそう言って、荻野に球を渡す。


 女帝は少し困った様に眉尻を下げ、上条に目をやった。


「期待の新人がそう言ってるんだ、私はミッキーとやるよ。な」上条は園川に近寄り、自身より頭半個分は背の高い園川の肩に手を回した。


「ええぇ」園川が嫌そうな声を出した。

「何、ヤなの?」上条は後輩を見上げる。

「だって、祥子先輩の球、痛いんですもん」微妙に肩を落としグラブを掲げる。「言っときますけど、ミットじゃないですからね。これからやるのはキャッチボールですからね」


 拒否した様に見えて、そうではなかったらしい。相手はエースで先輩なのだ、そもそも園川には拒否権は無かったのかもしれない。二人の間でのこの手のやり取りは日常茶飯事なのか、うんざりした様子を隠そうともせず、園川は駆けてゆく。


「じゃあ私は、アンちとだな」湊が私の横に並んだ。


 私はちらと綾に目を向けた。心のどこかで綾とやるものだと思っていたからかもしれない。その綾はと言えば、事前に湊との間で話が纏まっていたのか、小さく片手を上げみなみの元に行った。私の目はその背を追う。


「関谷さん。お願いしても良いかな」綾が声を掛けた。

「キャッチボールの相手なら全然オッケーだよ」みなみははにかんだ。


 この言葉の真なる意味を私は少し後になって悟る事になる。私の意識の大半は湊の球に向けられていた為、この時点では何も引っ掛からなかったのは仕方の無い事なのだけれど。


 たかがキャッチボールと侮る事なかれ。

 相手の事を知るにはとても良い導入。ましてや、いずれバッテリィを組む可能性が有るとなれば尚の事。何せ、私は湊の球を取るのは初めてなのだから。


「いっくぞー」さも嬉しそうに湊は右腕を大きく回す。


 軽く踏み込んで腕が出る。

 投球時とは違い、スリークォータ気味のフォーム。けれど、肩慣らしでも解る球の強さ。経歴とかはどうでも良い。目の前にいる乙女は紛れもなく良い投手だ。

 繰り返し球を投げ合ううちに、座ってみたい衝動に駆られた。彼女の本気の投球はどんなだろう、と思いを馳せる。後少しだった。後少し試合が続けば、昨日のうちにそれを体験出来た筈。別に悔いている訳ではないけれど、少しだけ損をした気分。それだけ、彼女の球は魅力的で、私を取り巻く現状が憂鬱なだけ。雌伏の時と解っていながらも、何とも遣る瀬無い、そんな事を思う。


「一旦集合しましょう」


 荻野の声かけで皆が集まった。彼女を中心に同心円上に皆が囲む。その一人一人に目を向け女帝は声を発した。


「今年も例年通り、月末からの春季リーグにエントリィしているわ。登録メンバはまだ決まっていない様だけれど、今ここにいる者で戦うのは確か。学年云々関係無く、各々がチームに対し何が貢献出来るか、それを考えながら日々を過ごしましょう。昨日投げた園川と香坂は今日は軽く流して。それで……」荻野は笹川に目を向けた。「雪はどうする? 投げるなら場所空けるけれど」

「私は……」笹川は逡巡した後、口を開いた。「後で少しだけ。取り敢えず、園川と香坂連れて走ってきます」

「げっ」


 どこかから濁った声がした。声のした方に目を向けると、園川が苦虫を噛み潰した様な顔で目を逸らしていた。

 女帝はそれを逃さずに追撃する。


「貴女はもう少し持久力をつけなければいけないの解っているでしょう?」荻野が園川に言った。「自分が追われている立場だっていうのをもう少し自覚しなさいな」

「……はい」しなだれ、園川は渋々頷いた。

「ほら、行くよ」笹川が園川を促す。綾は既に笹川の傍にいた。


 三人揃って駆け出すのを見送った後で、荻野は小さく頭を振った。気を取り直すように一息入れて、残った者に目を遣った。


「さて、と」若干うんざりした様な表情を見せる。

「別に私はお休みでも良いよ?」上条が陽気な声を出す。

「もうすぐ試合だって言ったじゃないの。貴女病み上がりなのだし、調整しないとダメよ」

「相っ変わらず、ミウは小煩いね」言葉とは裏腹に上条は少し嬉しそうだった。「解った解った、投げる、投げますよ。という事で、青山、ごめんねぇ」


 上条はグラブを嵌めたまま頭の後ろで手を組み、右端のマウンドに向かった。


「チーム事情的にそういう事だから、投げるのなら他を当たって頂戴」


 防具を着けに行く荻野を目で追う圭の眉根に皺が寄る。

 口から鋭い何かが溢れる前に、藤野が口を挟んだ。


「投げるなら、私が捕るけど?」 


 圭は鋭い目を藤野に向けた。僅かに逡巡。


「藤野先輩、昨日の試合外野でしたよね? 捕れるんですか?」

「貴女が思っているよりは、捕れると思うけれど、ね」肩を竦め藤野は力無い笑みを浮かべた。


 私の知っている藤野紫穂は外野手だ。なので捕手としての実力はよく解らない。昨日の試合前のブルペンで笹川の球を受けていた姿が全てだ。判断材料が乏しいので、確とした答えは出せないけれど、一つだけ解る事がある。


「お前さ」私は一歩前に出る。やけに全身が熱かった。「その言い方はどうなの? 端から決め付けられる程、お前良い投手なのかよ。そもそもさ、投手一人じゃ何にも出来ないんだぜ? 野球はさあ」

「投手がいなきゃ、始まらないのも野球だろ」圭が返す。

「だったらさ」私は顎しゃくる。「周り見てみなよ、別に投手はお前だけじゃないだろ」


 圭は溜息を吐いた。


「さっきから何? 何が言いたいの?」

「選んでんじゃねえよ。自分だけが結果を出せばどうにかなると思ってるんなら、勘違いも良いとこだ。捕手見くびってんじゃねえよ」

「はあ」再び溜息。「別にそんな事思ってないし、見くびってもいない。私は釣り合う人間を求めてるだけだ」

「だから、それが選んでるって言ってるんだよ」


 ここまでいった所で、誰かに肩を強引に引かれた。頭に血が上った勢いのまま、引かれた方に顔を向ける。いたのは藤野だった。


「なんであんたがそんなに怒ってるのよ」呆れ混じりにそう言った。


 確かに、と思う私もいたけれど、だからと言って、飛び出した反面、素直に引っ込める程私は大人ではなかったらしい。


「言われてんの藤ちゃんじゃん。逆に何で怒らないのさ」

「え?」キョトンとした顔を藤野はした。

「え?」今のやり取りで、どうしてそんな顔をする。そんな疑問が私の中を駆け巡った結果の言葉だった。

「おい、ブルーマウンテン」奥のマウンドから上条が声を張り上げる。

「ブ、ブルー……」口を半開きにしたまま、圭は声の主の方に顔を向けた。

「なんか勘違いしてるみたいだけど、藤野は良いキャッチャだぞう。何てったって、私の球捕れるんだからな」


 上条は言い終わると同時に、セットから腕を振った。

 荻野のミットから心地よい音が響く。猛々しくも研ぎ澄まされた一球。

 荻野もまた難なく捌き、エースに球を返す。


「カミの言う通り。ここには貴女の球を捕れる者は少なくない。それが現実、受け入れなさい」

「少なくない?」圭は顔を戻した。「二人は少なくないとは言わないですよ」


 圭の言葉が浸透した。


「おい」私は再び圭に詰め寄った。「お前、今私も捕れない組に入れただろ」

「さて」圭は不敵に笑う。「気に入らないのなら、証明してみれば良いじゃないか」

「言ったな」私は満面の笑顔を向けてやる。「お前、私が捕れたら、今後リードには一切首振るなよ?」


 圭は鼻で嗤う。


「お前とバッテリィ組む事があればね」


 私は防具の準備に取り掛かる為に、踵を返す。

 湊が駆け寄り、小声で抗議。


「おいおい、私との約束は?」ちらと湊は振り返る。おそらく目線の先には関谷みなみがいるのだろう。「アイツとは無理だって」

「ごめんて」割と本心で謝った。「何つうか、売り言葉に買い言葉ってヤツ? つい、ね」

「アンちってやっぱ文学少女の皮を被った狂犬だよなあ、羊の毛皮を被った狼っつうかさ」

「お前には言われたく無いし、全くもって嬉しくねえ言葉だなあ」レガースを付けながら、苦笑し返す。「夏目とは後でちゃんとやるからさ」

「解ったよ」湊は頷いてから視線を上条の方に向けた。「祥子さんの球見たかったから、丁度いいや」


 湊はそう言って、荻野の後ろに行くべく足を向けた。

 両脚のレガースを付け終わり、マスクに手を伸ばし掛けた所に影が落ちた。気になって顔を上げると、みなみが佇んでいた。ゆっくりと腰を折り、私の前に屈む。その手が置いてあるレガースに伸びた。


「なんか、ごめんね」みなみは唐突にそう言った。

「……ええと、何が?」

「色々」はにかみながらも、レガースを付ける。


 いまいち彼女の行動が理解出来なかった。組む相手もいないのに、何故に防具を付ける?


「私は大丈夫だから」防具を付ける事に集中しつつも、口からは言葉が漏れる。

「いや、だから、何が?」再びきく。

「斑目さんは自分の道を進んで。何も私に付き合う事は無いよ。今ならまだ間に合うと思うんだよね」


 彼女の言いたい事の核が解らなかった。主語は何を指しているのだろう。

 それをきこうと言葉を向けると、笑顔で制止させられた。


「斑目さん、足速いし、外野手でもやっていけるって」

「は?」


 みなみは含む所をまるで感じさせない無垢な笑顔を向ける。


「私に付き合ってバッテリィ組にいるよりも、自分を生かせる場所に行った方が良いと思うんだ」

「ちょっと、何言ってんの?」私は身を起こす。

「キャッチャは私がやるからさ、斑目さんは、別の場所で監督の力になれば良いと思うよ」


 私が惚ける傍で、みなみは防具を付け終え、立ち上がった。去り際に何故か同情する様な目を残して。

 何? 何が起こった?

 一旦思考停止。熱量を増す身体を意識から外し深呼吸。冷静に。その言葉だけを頭の中で巡回させる。

 もう一度深呼吸。

 どうしてこうなったかの原因は置いておくとして、現状、何故か私は関谷みなみによってコンバートを勧められた。これでオーケィ? 私の中の私達が皆頷く。顔を見合わせ、再び頷き合う。満場一致での可決。満面の笑みを浮かべ、皆一斉に親指を下に向ける。


 GO!


 緩りと立ち上がり、彼女の元へ。先程のみなみの言葉が蘇る。


 ——キャッチボールの相手なら。


 それはつまり。

 キャッチボールならやっても良いけれど、バッテリィは組まないよ、そういう意思表示。

 何様、の二文字が頭の中を駆け巡る。

 何をどう考えたらその答えに辿り着くのか、皆目見当がつかない。言うなれば異世界人だ。昨日の試合、何を見ていたのか。


 高熱が出た時の様な浮遊する感覚のまま、私は彼女の後ろへ辿り着く。

 マウンドで圭が訝しむ目を向けているのを、横目で捉える。けれどそれはとても些細な事。ブルペンにいる皆が疑問の目を向けているのでさえ、どうでも良い。

 迸る激情。冷静さを保てと誰かが言う。

 私より一回り大きな身体のみなみの背後。薄ら笑いを浮かべた顎を上げ、誰かの様な光の無い目で彼女に刃を突きつけようとする私がいた。

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