第1話 幼馴染は恋してる!
「みく! 好きだっ!」
楓真はスマホに映る少女に向かって言った。
立華 楓真。この春中学校を卒業し、今日から高校生になる。得意なことは特になく、強いて言うと漫画が描けることくらいだ。
楓真が見ているのは、去年の修学旅行の時に撮った幼なじみの少女とのツーショット写真。
そこには、グレーの上着とジーンズというおしゃれ力皆無の楓真と、白いTシャツに黒いスカート、ハイソックス、腕時計を身に着けた可愛らしい女の子が写っている。
「可愛すぎるだろ……」
ピーンポーン!
その時、楓真の家の呼び鈴がなった。
呼び鈴のある門の方から来るのは、いつも1人と決まっている。
「はいはい、今出るよ」
ーーガチャ。
「遅い! 女の子を3分も待たしたんだよ!?」
そこには白のワンピースに身を包んだ女の子が立っていた。
「しょうがないだろ? 俺、パジャマのままだったんだから……」
「楓真のパジャマ姿なんて飽きるほど見てるし、今更でしょ?」
「じゃあみくはパジャマ姿、俺に見られてもいいのかよ?」
みくと呼ばれた女の子が頬を赤らめる。
「いいわけないでしょ! このバカッ!!」
みくは持っていた鞄で楓真を叩く。
一条 みく。楓真の家のすぐ裏手に住んでいる。苦手なことは特になく、オールマイティーで何でもできる。
中学では生徒会役員を務め、バドミントン部で市内ベスト4まで行った。
楓真とみくは幼馴染だ。
「んで、どーしたんだよ? こんな朝から……」
「あーやっぱり忘れてる。今日、入学式だってのに……」
「!? あ…………」
「はぁ……。これは起こしに来て正解だったかな」
「入学式は10時からだからね?」
「あと2時間もあるじゃねーか」
今の時刻は7時15分。
「あと、私は先輩に用事があるから先学校行っとくからね」
「はいはい……上条と行くよ」
上条 悠希弥。楓真の親友。よくゲームをしたり、遊びに行ったりする。中学校ではサッカー部に所属していた。
「じゃ! それだけ伝えに来たからバイバイ!」
「あぁ」
みくが帰るのを待ってから楓真は自室へ戻る。
(わざわざ起こしに来なくたって……今日くらい大丈夫だっての)
楓真は部屋の隅に置いていた真新しい制服を手に取る。
「高校生活が楽しみすぎて昨日寝れなかったんだよ……」
真っ白いカッターシャツに丁寧に腕を通す。
一通り着替え終わった楓真は目の前の鏡に目を移し、服装の乱れを確認し、ネクタイを締める。
その後、本棚の後ろに隠すように置いていた本を取り出し、ベッドに寝転がる。
その本の表紙には、
『恋愛マスターが語る〜女の子がキュンとする告白編〜』
と書かれていた。
「告白が今日かぁ……」
楓真は中学時代に出来なかった告白を今日、入学式が終わった後にやろうと計画していたのだ。
「みくが俺のこと好きでいてくれたらなぁ」
(そんなわけ無いか)
ーーその頃ーー
みく宅。
「もうちょっと喋ったほうが良かったかな……」
みくは制服に着替えながらスマホで何かを読んでいる。
「いやいやっ……でもあれくらいのほうがいいのか……」
「あぁー楓真好きぃ!!」
着替え終わったみくはベッドに跳び乗って、中学生の頃、近くのショッピングモールのゲームセンターで楓真が獲ってくれた猫のぬいぐるみに抱きつく。
放り投げられたみくのスマホの画面には、
『WEB版 恋愛マスターが語る〜男の子が惚れる女の子になろう〜』
と書かれていた。
「あーあ楓真が私のこと好きでいてくれたらなぁー」
みくはぬいぐるみを見る。
(楓真は私のことどう思ってんだろう……)
ーーそしてーー
入学式が終わった。
奇跡的にみくと楓真は同じクラスになれたのだ。
(よし、これでホームルームが終わった後にみくに声をかける)
いろいろと書類が配られ、自己紹介、担任紹介でホームルームが終わった。
「それでは、今日のホームルームはこれで終わりです。このあと、下校ですが、部活動を見学したい人は見学してもかまいません」
「起立! 礼!」
ガタガタガタッ
クラスメイトたちが椅子を引いて教室を出始める。
(みく……みくどこだ?)
楓真は混み合う教室の中でみくを探す。
「みくっ!!」
教室の入口付近でみくを捕まえる。
「みく。ちょっと話したいことが……」
「あっ! 楓真いたっ! ちょっと来て!」
みくは楓真の手をとって走り出す。
「えっ? おいみく! どこに?」
「いいから来て!!」
みくは楓真の手を掴んだまま人のいないほうの北校舎に向かう。
「えっ……? みく?」
続く。