地球最後の日、私は君に
「ちょっと」
彼女は悪戯っ子のような笑顔を浮かべて、手招きをした。ムスッとした俺の顔を見て痺れを切らしたのか、無理矢理手首を掴んで引き寄せる。バランスを崩して胸元に倒れ込むのを見越し、彼女はぎゅっと抱き締めた。
他愛のない日常の光景。彼女のちょっとした悪戯。それに苛立って、憎まれ口を叩こうとした。
「いきなり何しやがっ」
「うりゃうりゃー」
しかし彼女の胸元に押し付ける形で黙らせた。声に出したのと同じように指先を髪の間に絡ませて、掻き乱す。手荒な歓迎を受けた髪は一瞬にして乱れる。そんな事などお構い無しに、彼女は問答無用で弄り倒している。
流石に腹が立って引き剥がそうとした時、か細い女の声が聞こえた。弱弱しくて、今にも死にそうな声だった。
「えへへ。地球最後の日もこうして君の頭、わしゃわしゃしてたいなーって」
「何かあったのか?」
「なーんもない。何もないから鬱になる。体の中の深淵が私の体を食荒らす」
彼女の腕はいつの間にか俺の体を解放していた。顔を見合わせると、夜の海のような目をした女がいた。苦痛、辛さ、それらを混ぜ合わせた色が俺を射抜く。思わず何も言えなくなった。
俺は今、どんな顔をしているのだろう。愛した女がこんなにも苦しそうで、でも何もしてやれなくて、俺は今――。
「死ぬなよ。自殺とか、絶対に」
「したくなったら君を呼ぶ。最後に熱烈なキスをして、最高の終わりだったって言って飛び降りる」
溶け落ちるような愛の言葉を吐いて、彼女は不敵な笑みを浮かべた。
「そしたら君はずっと私のもの。他の人なんか目に入らない。そうでしょ?」
そう言って、彼女は俺の顔を包み込む。それは彼女の言った熱烈なキスだった。
こんな子がいたら全力で頭わしゃわしゃします。
嫌がられようが関係ありません。
最後どうなったんだろ。最悪な結末? それとも甘い日常?