表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第Ⅱの俺に栄光あれ  作者: Og
第1章 異世界到来編
2/13

第2話 バイト探し



 冒険者――罠士になり早三日。

 

 未だに冒険してません。


 仕方のない部分がある。あり過ぎる。

 まず、罠士とは罠を張り、相手に先制攻撃を仕掛けたりする人のことである。

 その罠を買うには、当然お金がいるわけだが……生憎、俺は無一文。

 つまり、俺がこのまま冒険に行ったら、手ぶらも手ぶら。

 身体能力が雑魚な俺は、魔物に襲われて即死確定だ。

 手ぶらで受けられる容易なクエストもあるにはあるが、途中で魔物に遭遇する確率が高いとのこと。

 無理です。死にます。

 というわけで、俺は真っ先に仕事を探した。


 生きていくには、お金を稼がなければならない。

 お金があれば、いい装備だって買える。いい宿にだって泊まれるし、おいしいものも食べられる。


 協会のお姉さんに仕事を紹介してもらい、いくつかの候補の中から、自分にできそうなものを選ぶ。


 ・土木作業員

 ・飲食店店員

 ・清掃員


 これが絞りに絞った候補。全部で三つ。どれもアルバイトだ。

 できれば、早めにたくさん稼ぎたい。この際だ、掛け持ちでもいいと考えている。


「順番に回るしかないか……」


 「ハァ〜」と、道を歩きながら吐息を吐く。


 早く稼がないと本気でヤバい。

 昨日だって、冒険者の人たちに頭を下げてお金を借り、なんとか飯を食べた。水は飲食店で無料だったから飲ませてもらった。……乞食じゃねぇか。

 夜は路地裏。

 少し戸惑ったが、仕方がないと自分に言い聞かせ、そこで一夜を明かした。とにかく臭かった。ネズミやハエなど、害虫が飛び回る音が絶えず聞こえてきた。眠れるわけがない。

 冒険者になればいろいろと援助を受けられるのかと思っていたが、そんな優しい設定は無かった。

 このままじゃ死んじゃう。

 早くお金を稼がなければ。


「一つ目は、土木作業員か」


 土木作業員は、街の外壁や建物の建設、修繕などを主にしている。重い土や石、道具を運んだり、長時間の肉体労働となる。

 主に、筋力が求められる職だ。

 他にも、建物の設計を考えたりする建築士もあるが、そんなものはわからないため、さようなら。

 俺の筋力値はカスだ。

 すぐにクビなる可能性は大。

 採用すらしてもらえないかもしれない。

 だが、俺には奥の手がある。

 中学の時に学んだ理科――物理の数々だ。

 梃子や動滑車を使えば仕事が楽になるぜ、なんて言えば、涙を流して感謝も感謝。

 採用確定。

 イケるな。


「ここか」


 街の端――外壁の近くに、石と木を使って頑丈に建てられた大きめの建物が、ずっしりと佇んでいた。

 

 店の名前は、〈ドイド土木店〉。


 外からでもわかる。

 ヤバい奴らがたくさんいる……感じがする。

 きっと筋骨隆々で強面のおじさんたちがたくさんいるのだろう。

 アウトレイジじゃないことを祈る。


 ドアをノックし、恐る恐る扉を開ける。


「あ、あのー、すいません。こちらで、アルバイトをしたいのですが……」

 

「……あぁ?……ああ、バイトか。

 おい!バイトしてぇって奴が来たぞ!」


 机の上にズッシリと腰を下ろしていた巨漢が、奥の方に向かい声を張り上げる。

 部屋中に声が響き渡り、一気に緊張が更に増していくのを感じた。

 しばらくすると、奥の部屋から三メートルは優に超えているであろう大男が現れた。

 カラダはもちろん、腕や脚も太い。筋肉なのだろう。

 俺の世界だったら、世界記録は余裕だな。

 巨人族ってやつかな?ていうかいるのかな、巨人族って。


「ケンさん、コイツがバイト希望ってよ。相手してやってくれ」


「バイト希望か。こっちへ来い」


「はいっ……」


 黙ってついて行く。

 怖くて声が出にくい。

 少し機嫌を損ねただけでもミンチにされそうだ。

 何なんだよ、あの上腕二頭筋は。タンクトップを着ているせいで、腕の筋肉が丸見えだ。

 ちなみに、名前はケンさんと言うらしい。


 案内された部屋へと入る。

 案外、きちんとした部屋だった。

 綺麗に並べられた机椅子、花壇の飾り、窓から光も差し込み、好印象を与える。

 「座れ」と言われ椅子に座る。


「早速だが、ステータスを見せろ」


 そう言われ、俺はポケットから冒険者カードを取り出し、渡す。

 しばらく、沈黙が続く。

 俺のステータスを見ているためだ。

 またしばらくすると、ケンさんは冒険者カードを俺に返し、俺の顔を見た。

 早速本題に入る、みたいな顔をしている。

 俺は背筋を伸ばし、身構えるようにケンさんの顔を見た。

 バイトなんて元の世界(日本)ではやったことないが、面接は自信がないわけじゃない。俺は一発本番の方が得意なのだ。

 どんとこい!

 


「バイトだって話だが……オマエには無理だ」



「…………え? え、ちょっ……む、無理って、そんな急に言われても……!」


 何も言っていないのに、即断られた。

 面接するんじゃなかったの?

 いろいろ質問とかされて、それに答えて、そこから決めるんじゃないの?

 

「ステータスを見た感じ、オマエに力仕事は無理だ。筋力だけならまだしも、その他のステータスも平均より大幅に劣っている。これじゃあ、オマエにできる仕事は無い」


 キッパリと言い切った。


 た、確かに、そうかも知れないけど……。

 だが大丈夫。俺には禁断の切り札がある。


「待ってください。話を聞いてください。

 僕がこの会社に入った暁には、仕事が捗るも捗るアイデアをお教えしましょう」


 自信に満ちたドヤ顔で、俺はそう言う。


「ほう。言ってみろ」


「梃子って知ってます?」


「ああ、知ってる。重い物を動かす時には、便利だからな」


 よっし!そしてそのまま……って、今なんて?

 え、……梃子知ってる? う、嘘つけ。


「……え、あ、あのー、そのー、

 えっと……、梃子、知ってる?」


「ああ、知ってる」


 な、ならこれならどうだ。

 俺の知識はこれだけではない!

 中学で俺が苦労に苦労して覚えた理科用語はこれだけではないぞ。

 舐めるなよ!!


「動滑車、と言うものをご存知ですか?」

 

「ああ、知ってる」


 ふふん、やはりか!ならこの俺が……って、

 あれ?動滑車知ってる?


 いや、これは何かの聞き間違えだ。

 最近、耳掃除してなかったしな。

 もう一度、落ち着いて、耳の穴を全開にしてよく聴くんだ。


「動滑車、と言うものをご存知ですか?」


「ああ、知ってる」


 ……。

 なんで知ってんの?

 異世界ってもっとこう、あんまり技術とか進歩してないんでしょ?

 街とか見た感じ、そんな感じだったし。

 魔法に頼っているから、知らないと思ってたのに……。


「バイトは無理だ。悪いが帰ってくれ。

 最近、ゴタついてんだよ。星降りもあったしな」


「……星降り?

 なんですか? それ」


 ケンさんは面倒くさそうな顔になるも、説明を始めた。


「……星降りってのは、その名の通り星が降るってことだよ。神神(かみがみ)の贈り物、なんて言われてる。今回は不発だったがな。

 四日前に、その星降りがあった。それもこの街の近くでな。だから、オレたちは今忙しいんだ。ていうかオマエさん、そんなことも知らねえのか?」


「い、田舎者なので……」


 ここも田舎者という設定で行こう。いや、これからもこの設定は離さない。大事に使おう。重宝しよう。


「で、まだ何か用はあるか?」


 ケンさんは俺を軽く睨んできた。

 ただでさえ怖い顔が、更に怖くなっている。

 大きな大きな鬼にすら見えてきた。

 このまま粘り続けても、火に油を注ぐように、ケンさんの怒りパラメーターを上げるだけだ。

 このままじゃ、本当にミンチにされてしまう。


「さ、さようならー」


 このバイトはやめとこ。



 *******************



 どうやら、俺が中学で習った叡智の数々は、この世界では通用しないらしい。

 街並みは完全に中世ヨーロッパ時代のものだったため、油断していた。


 土木作業員は諦め、俺は次の候補である飲食店の店員になろうと思う。

 それがダメなら、清掃員しかない。

 それもダメだったら、諦めてクエストを受けようと思う。もちろん、死なない可能性の高いやつを受けるが。


 飲食店は、冒険者協会の近くにある酒場だ。


 店の名前は、〈ハンデリィ〉。


 この街に住む人の多くが、この酒場に行くらしい。

 協会に行く通り道、見たことはある。協会との距離もかなり近く、立ち寄り易いのだろう。

 昨日と一昨日はここで晩飯を食べた。


 かなり大きい、四階建てだ。

 一階と二階は酒場、三、四階は宿屋になっている。

 中に入ると、その奥行きの広さに驚かされる。一階だけでも、相当な人数が入る。


 ……酒場に宿って、絶対酒飲んでイイ雰囲気になった奴らが、あんなことやそんなことをするやつじゃん。

 リア充め。羨ましい。


 ドイドの土木店からハンデリィまで、かなりの距離があった。

 ドイドの土木店は、この街の西端に位置しており、対するハンデリィはこの街の中心部にある。

 この街――オルダムは円状になっており、端から端までの距離は約七キロほど。

 この街、かなり大きくないか?

 他の街がどのくらいの大きさなのかわからないため、はっきりとは言えないが、かなり大きな街だと思う。

 

「着いたぁ……」


 最近は全く運動していなかったこともあり、かなり疲れた。約半年間部屋に引きこっていたせいだろうか。

 俺はハンデリィの前で荒い息遣いをする。

 歩いてこれとは……。

 そう言えば、異世界(ここ)に来てから、疲れやすくなった気がする。昨日も、少し街を歩き回っただけで、すぐに息切れした。

 元の世界(日本)では、片道三キロの本屋まで歩いて行っても息切れなんてしなかった。

 なのに、今は――。


 俺はしばらく休憩し、呼吸を整える。


 ――異世界の酒場。


 これは憧れであり、夢である。

 異世界の酒場と言えば、冒険者がクエストのクリアを祝い酒を飲んだり、話し合いの場として利用している施設。

 いろんな人がいるため、いざこざが起きることもあるが、いい場所だと俺は思っている。

 そんな場所に、俺は今から入る。


「失礼しまーす」


 飲食店には自信がある。

 人と話すのは得意じゃないが、できないわけじゃない。

 国語のおかげで、ていねい語は割とできる……はずだ。

 些細なミスをしなければ、採用してくれるだろう。


 そう思い、俺は中へと入っていった。


 

 *******************



「………」


 夕日に照らされる男――俺の顔は、怒りと悲しみに染まっている。

 だって、バイト落とされたんだもん。

 マジでふざけんな。筋力値が低いからって理由で即落としやがって。

 少しは考えろよ。


 大体、飲食業に筋力なんているか?

 飲食業で大切なのは、料理の腕前と接客じゃないの?

 まずい飯が出されれば嫌だし、店員の接客態度が悪いと来たくなくなるだろ?

 

「なのに、筋力が弱いから……!? ふざけんな!」


 落とされた時、俺はすぐに抗議した。

 筋力値で判断するのはおかしい、と。

 そして何を言われようとも、俺は言い返して論破してやろうと思っていた。

 なのに、返ってきた言葉に俺は言葉を失う。


『酒場での喧嘩は日常茶飯事だ。その喧嘩も止められんような奴は、邪魔でしかない。今足りねぇ人手は、喧嘩を止める奴だ。ウェイトレスや料理人は間に合ってる』


 それを聞いた俺は恥ずかしくなり、黙ってその場を去った。


 確かにそうだ。クエストで仲間が死んだり、仲間割れしたりと、いろんなイザコザがあるのは当たり前だ。

 酒を飲んだ時、酔った勢いで本音を言って喧嘩になる。

 これが日常茶飯事。


 接客も料理も特に問題ないと言われた俺だったが、筋力値のせいで落とされた。

 逆に、筋力値が高ければ、料理が下手だろうが接客が悪かろうが受かるらしい。

 道理で、マッチョな店員が多いわけだ。

 料理や接客は、ベテランさんがやるから要らないだとさ。


「ああ……どうしよう……」


 俺は弱々しく呻く。

 夕日に染まった空を見上げる。


 時刻はもう夕方。

 最後の候補には間に合うかわからない。

 閉店時間はわからないため、今行っても閉まっているかも知れない。


 この世界の人は皆、活動を始めるのが早い分、終わるのが早い。

 朝なんて、7時になれば昼間と変わらない人通りになっており、夜は23時ぐらいになると、ほとんど人はいない。(酒場以外だが)

 早寝早起きがハンパない。

 遅寝遅起きだった俺からしてみれば、真逆のためキツすぎる。

 帰るなら早めの方がいい。


 ……帰る? あの臭い路地裏に?


 違うだろ。俺の帰る場所はそんな所じゃないだろ。ていうか、あそこ俺の家じゃねぇし。

 お金を手に入れて、道具揃えて、冒険行って、更にお金を稼ぐ。

 それが今の目標だ。

 金さえあれば宿に泊まれるし、飯だってたらふく食える。


 ずっと夢見てきたんじゃないか。

 異世界行って、冒険して、楽しむって。

 それが近くまで来てる。すぐそこまで見えてる。

 手に入れないでどうする。

 やろう。やるんだよ。やらなきゃ死ぬんだよ。


「掃除屋、行くか……」


 そう呟き、俺は再び歩き始めた。


 *******************


 

 もう閉まってるかもしれないが、俺は最後の候補の店まで行くことにした。

 どうせ帰る場所も金も無いし、ラノベに漫画、アニメも何も無いから暇だしな。


 最後の候補は、清掃員。


 店の名前は、〈ソレーヌの掃除屋〉。


 場所は、オルダムの東部――東区に位置している。


 時刻は17時を回ったところだ。

 開いてるかな、と思いつつも店の扉をコンコンとノックし、ドアを開ける。


「すいませーん」


 ドアを開けると、そこにはいろんな道具や家具が置いてあった。

 名前などはわからないが、たくさんの品が棚に並んでいる。

 魔道具とかあるのかな?掃除屋にそんな物あるのか?


 そして、店の奥の方にあるカウンターに、一人のおばちゃんが鎮座していた。


 見た目でかなり歳をとっているのはわかる。六十代くらいだろうか。

 だが、年配にしてはかなり背が高い。

 俺より圧倒的に大きい。座っている状態でも、それがわかる。175センチくらいはあるんじゃないだろうか。

 白髪になってきているのだろうか、髪が鼠色だ。

 顔は少し下を向いており、赤い眼鏡を掛けている。


「――――」


 反応は無い。

 こちらには目もくれない……というか、寝てない?


 俺はカウンターに向かい一直線に進む。

 中はそこまで広くはない。十二畳ほどだ。

 カウンターに着くと、深く息を吸う。


「すいません。アルバイトの募集をしていると聞いたので、伺ったんですが……」


「――――」


 ……あれ、何も言わない。

 目は俺の方を向いたが、何も言ってくれない。


「すいません。バイトの募集を見て来たんですけど……」


「――――」


 あ、あれ、聞こえてないのか?


「すいません!バイトの募集をしていると!聞いたので!来ました!」


 俺は声の音量を上げ、区切りながらも精一杯声を出す。


「――――」


 無反応。


 これはあれだ。あれに違いない。

 難聴だ。

 歳だからな。仕方ないよな。

 難聴相手にはこうしてあげないとな。


「すい!ません!バイト!しに!きました!!」


 おばちゃんに顔を近づけ、更に大きな声を出して言ってみた。


「――――」


 おい、これはひどいなんて話じゃないぞ。

 異常だ。異常。

 かなりの重症だな。



 そして、数十分後。



「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」


 このばあちゃん、全く聞こえてない。

 もう三十回は言ったはずなのに、一向に返事が返ってこない。

 ずっと斜め下を向いたまま、1ミリも動かない。


「す!い!ま!せ!ん!バ!イ!ト!」


「――――」


「おいゴラ、いい加減喋れよこの難聴ババア」


「ん?誰が難聴ババアだ?」


 ……。……?……!?


「あ、き、聞き間違え……じゃ、ない……ですかね?」


「へぇ。聞き間違えか。

 ワタシャ確かに「おいゴラ、いい加減喋れよこの難聴ババア」って聞こえたんじゃがなぁ?」


「す、すいませんでしたああぁぁあああああ!!」


 俺はこれまでの人生の中で最も大きく、誠意のある言葉と共に土下座をした。



 ********************



「本当に、すいませんでした」


 俺は、もう一度頭を下げる。

 どうやら、このおばちゃんは難聴じゃないらしい。

 始めから全部聞こえていたのだとか。

 「じゃあ、なんで一回目で反応してくれないんだよ」と訊いたら、「誠意を試してたんじゃよ」と言ってきて殴ろうかと思った。

 俺は何度も謝り、なんとか許してもらった。

 そして、今はバイトの話をしている。


「改めまして、バイトをしに来ました。雇ってください、お願いします。もう後がないんです」


「いいぞ」


 アッサリと、俺の願いは受け入れられた。


「…………え、いいの?」


「なんだ、嫌なのか?」


「あっ、ありがとうございますっ!」


 どうしよう、まさか本当に採用されるなんて思ってなかったから、嬉しすぎて涙が出そうだ。

 今回も筋力が無いからとか言われて、不採用になるオチかと思っていた。

 

 やっと職を見つけた。

 これで生きていける。

 飯も食えるし宿にも泊まれる。


「で、でも、いきなりオッケーしちゃって大丈夫なんですか? 俺、筋力値カスですよ?」


「筋力値なんて要らんしどうでもいい。大事なのは、どれだけ綺麗にできるかじゃ」


 なるほど。

 つまり、めちゃくちゃ綺麗にできれば給料アップも考えられるな。


「やる気は誰よりもあります。どんな仕事でも、完璧にこなして見せます!」


 俺が唯一まともにできるものと言えば、掃除くらいしかない。

 自分の部屋もかなり綺麗にしていた。

 俺は綺麗好きなのだ。

 

「と、ところで、お給料はどのくらい……?」


「そうじゃな……一日十時間で2500ミリンじゃな」


「低くすぎだろ!労働基準法に反してる!」


「あぁ?」


「な、なんでもないです……」


 威圧されるような目つきで見られ、怖気てしまった。

 十時間働いて2500ミリンって、1ミリンが1円だから、日本円に換算すると時給250円ってことでしょ?

 少なくね?労働基準法とかないの?ないか。あるわけないよね。それが異世界の良いところでもあるが……。

 普通バイト代って時給700〜1000円とかじゃないの? 地域によって違うらしいけど。

 ……雇ってくれるだけマシか。


「やるのか?やらんのか?」


「や、やります。やらせていただきます」


 これ以外に職は見つからないだろう。我慢するしかない。

 冒険に必要なお金が貯まるまでの辛抱だ。

 肉体労働だろうが頑張って耐えよう。


「で、仕事はどんなことを?」


「基本的には、依頼による掃除じゃ。

 冒険者協会には掃除の依頼をすることができない代わりに、ここで依頼をするんじゃよ」


 なるほど。

 それなら依頼が全く来ず、ただ座っているだけにならないと言うことか。


「依頼がない日の給料は?」


「もちろん、ゼロじゃよ」


 ……ですよね。

 

「明日から、もう普通に出勤していいんですか?

 掃除のやり方とか、そういうのを教わったりは?」


「ないよ、そんなもん。ただ普通に掃除してくれたらそれでいい。綺麗になってれば、文句は言わんよ」


 おお、これは案外楽な仕事かもなしれない。面倒なことをするのかと思っていたが、これならいけるな。


 というわけで、やっと職が見つかりました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ