表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第Ⅱの俺に栄光あれ  作者: Og
第1章 異世界到来編
11/13

第11話 認めない



『――じゃあ証明しようじゃねえか』


 タイトにそう言われ、俺達は街の南区にある訓練場へやってきた。

 訓練所に行く途中、宿に寄ってジャージに着替えた。


 この訓練所は、冒険者達が戦いに備えて訓練する場所だ。

 かなり広々としていて、たくさんの武器が置いてある。

 運動場みたいな感じだ。


 俺達がここへ何をしにきたのかと言うと、


 ――決闘だ。


 俺はタイトの挑戦を受けた。

 だから今、こうして目の前で鋭い目をしたタイトと睨み合っている。


「勝負はどちらかが倒れるまで。それでいいな?」


 タイトの言葉に「わかった」と返事をする。

 俺達が持っているのは木剣。

 木でできているから軽いだろうと思っていたが、持ってみると案外重い。

 俺は両手で柄を持つ。


 外野にはセラやウドルにファール。

 他には、俺達の決闘を聞きつけた冒険者達。

 かなりの人数だ。

 大衆の前で、恥は晒せない。

 こんな嘘つき野郎、俺がぶっ飛ばしてやる。

 覚悟しろ。


「ほんとにいいの?」


 セラが尋ねてくる。


「いい。こんな奴に、俺が負けるわけないだろ」


 セラは深くため息をつく。


「……どうなっても知らないからね」


 再びタイトと睨み合う。

 ……こいつ、こんな目もするんだな。

 一体、何があったのだろうか。


「では……始め!」


 始まった瞬間、俺はタイトに走って近づき木剣を振った。

 タイトは後ろに下がり木剣を躱す。

 俺はタイトに再び近づき、畳み掛けるように木剣を縦に振り下ろした。

 だが、タイトは横に身体をずらして躱す。


 また避けられた。

 なら、これなら!


 攻撃を躱したタイトの脇腹に向かって蹴りを入れる。

 だが、またまた躱される。


 まだだ。

 これくらいで終わると思うなよ。


 俺はタイトに向かって走り、勢いよく木剣を横薙ぎに振るう。

 タイトは後ろにジャンプし躱す。


「ちっ!避けやがって……!」


 木剣が重くて振りにくい。これ片手用だよな。

 俺はタイトに向かって何度も木剣を振る。

 一回躱されようが、二回躱されようが、何度も攻める。


 だが、攻撃は一つも当たらない。


 さっきから俺が攻撃してばっかじゃねぇか。


「ッ――!」


 縦に振ろうが、横に振ろうが、斜めに振ろうが、タイトには擦りもしない。

 

 なんで、なんで当たらない。

 当たるはずだ。俺の剣なら当たるはずだ。


「クソ……ッ!」


 ああ、なんだよこれ。

 デジャブだ。この光景を俺は知っている。

 ゴブリンの時と同じだ。

 俺が次どこに剣を振るのか、読まれている、見切られている。


 なんでこいつ、さっきから攻撃して来ないんだ?

 舐めてるのか?

 舐めプかよ。

 ふざけてんのかよ。

 どっちかが倒れるまでって言ったのはお前だろ。

 なら攻撃して来いよ。カウンターでぶっ飛ばしてやるから。


「クソ!くそっ!おらっ……!」


 外野は特に何も言ってこない。

 というか、人数が減ってる気がする。

 いや、そんな事はどうでもいい。

 今は――、


「――当たれぇええ!」


 そう言いながら、再び木剣を振った。

 だが、またもや躱された。


「ハァ、ハァ、おい、ハァ、攻撃、してこいよ……」


 木剣を下ろし、左手で額についた汗を拭う。


「――――」


 タイトは何も言わない。

 先程からずっと、俺を蔑むような目で見ている。


「なんか、言えよ……!」


 重い木剣を両手で持ち上げ、横薙ぎに払う。


 どうせまた避けられる。

 そう思っていた。


 だが、俺の攻撃はあっさりと当たった。

 当たったのだ。

 タイトの横顔に直撃したのだ。


 タイトの顔を見る。

 多分この時、俺は相当なドヤ顔をしていた。

 当ててやったぞ。そう言う気持ちで、タイトの顔を見た。


 何の変哲もない、いつも通りの顔だった。

 変わったことと言えば、左頬がほんの少し赤くなっているだけ。

 不機嫌そうな顔のまま、俺の攻撃を微動だにせず、その場に立っていた。


(……ああ、こいつ、わざと……)


 わざと当たりやがった。

 こいつが、今の攻撃を避けられないわけがない。

 俺の木剣を振る速度は、初めより徐々に落ちてきている。

 初めの一撃をあんな余裕そうな顔して躱したんだ。

 今のを躱せないはずがない。


「――オマエ、さっきから何やってんだ?」


 すると、冷たく冷え切ったような声音で、タイトが訊いてきた。


「お前に!攻撃!してん!だよ!」


 木剣を振りながらそう答える。


「オレ、今日見たぜ。オマエがゴブリンと戦ってるの」


「……は?」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は振り下ろそうとした木剣を止めた。


 今こいつ、なんて言った?


「いや、あれは戦いって言わねえなぁ。

 雑魚が雑魚と戯れ合ってただけだ――ッ!」


 そう怒鳴って、タイトは俺の木剣を弾いた。

 俺は尻餅をつく。


 見られてたのか?

 あれを。あの姿を。

 いや、タイトはあの場にいなかった。

 だって、いたら俺が気付くはずだ。

 気付かなくても、助けに来てくれるはずだ。

 だって俺、殺されそうになったんだぞ?

 友達のお前なら、助けてくれるだろ?


「……ならお前は……俺がやられそうになった時、なんで……助けてくれなかったんだ?」


「助ける理由がなかった。助ける必要がなかった。それだけだ」


「……俺ら、友達だろ?」


「――――」


「なんか言えよ……っ!」


「現実見せるには丁度いいと思ったんだよ。実際、死ななかったし、別に怒るほどでもねえだろ」


「死ななかった……?いや、死んでたかも知れねぇだろ!」


「結果オーライだ。生きててよかったな」


「……いや、そんなの関係――」


「――今は、そんな話どうでもいいだろ」


 タイトはそう言って、木剣を構える。


「……」


 ……そう、だな。

 生きてたんだ。怪我もそこまでじゃなかったんだ。

 この話は、後からでもできる。

 だから今はこいつを――。


 俺は落ちている木剣を手に取り、立ち上がる。


「お前も攻撃しろよ。さっきから俺ばっかで、ギャラリーもつまんねぇってよ……」


「オマエ言ってたよな?自分は強いんだって」


「……ああ、そうさ」


「じゃあ早くそれを見してくれよ。さっきからゴブリンでも避けれるような攻撃しかしてねえでよ」


「……」


「魔法は?技は?」


「……」


「かっこよさそうなのずっと言ってたじゃねえか。それを今見してくれよ」


 ……。

 どうする。

 何をしようが、攻撃はタイトに当たらない。

 当たるならなんでもいいんだ。

 ズルでも反則でもなんでもいい。

 何か……。


 また何か技名でも叫んでみるか?

 いや、多分無意味だ。

 あの時で何も出なかったんだ。

 今やっても無駄だろう。


 止まっててもあれだ。

 今は――。


 俺はタイトに近づき、木剣を振る。

 どうせ避けられる。


 振って、避けられて、振って、避けられて。


 同じことの繰り返し。

 けど、それでいい。

 今はこいつに、俺がこの動きしかできないと思わせる。

 そうすることで、俺の次の動きがこいつにダメージを与えるのだから。


 タイトが、再び俺の攻撃を躱した。


 そして――、


「オラっ……!」


 ――俺は木剣を、タイトに向かって投げた。


 いや、投げたというより、捨てたと言った方がいいだろうか。

 今の俺に、この木剣を槍のように投げるほどの腕力は無かった。


「――――」


 タイトとの距離はほんの数メートル。

 これなら――。


 投げられた剣を凝視しているタイトの顔面に向かって、右拳を――、


「――ガ、ハッ……」


 俺の拳はタイトには届かず、タイトの足が俺を蹴った。

 俺は軽く飛ばされ、全身を地にぶつける。


()ってぇ……」


 ゆっくりと上体を起こす。

 軽く蹴られただけでこれかよ。


 タイトは俺の木剣を拾うと、こちらに投げてきた。

 投げられた木剣を拾い、立ち上がる。


「くっ……」


 奥歯を嚙み締める。


 偏差値40台の俺にできることはもうない。

 これ以上のものは思いつかない。

 運が良ければ何か思いつくかも知れないが、それには時間が必要になる。

 

 俺はひとまず、防御の構えを取る。

 何となく、タイトが攻撃してくると思ったからだ。

 だが、タイトは一向に攻撃を仕掛けてこない。


 数秒、睨み合って――、


「……ぇ?」


 ――気付けば、俺の木剣が手から離れていた。


 気付けば、こうなっていた。

 だが、一瞬、感触のようなものがあった。

 俺の木剣に、何かが当たった。

 多分、タイトの木剣が俺の木剣を弾いたのだ。

 俺は姿勢を崩し、再び尻餅をついた。

 木剣はどこかへ飛んでいった。


 俺は急いで立ち上がり、木剣を手に取ろうと――、


 ――あれ、身体が……。


 全身が氷のように固まって、動いてくれない。

 身体が震えている。

 力が入らない。

 目頭に涙が溜まる。

 唇がぶるぶると振るえて、口がうまく開かない。


「ぁ……ぁ……」


 何だこれ。

 怖い。

 何も考えられない。

 ただただ、怖い。

 タイトの顔を見るのが怖い。


 この正体を、俺は知っている。

 元の世界では触れることなんてなかったが、この世界に来て、ほんの数回触れる機会があったものだ。


 そう。これは――、

 自分が今にも死ぬんじゃないかと思ってしまうほどの――、


 ――殺気だ。


 タイトが殺気を放っている。


 チンピラの時は、こんな感覚はなかった。遊び感覚でやっている感じだった。

 盗人の時は、確かに感じた気はしたが、ここまで強くなかったと思う。

 ゴブリンの時は、殺気のようなもの自体感じなかった。


 俺は今、殺される寸前まできている。


 そう思ってしまうほど、強い殺気だった。


「なんか言えよ、雑魚が」


「ぁ……ぁ……」


 出るのは掠れた声だけ。

 身体の自由も効かない。


「――――」


「……ぁ」


「――雑魚がッ!いつになったら現実見んだ!」


 タイトに胸ぐらを掴まれ、持ち上げられる。

 タイトの顔が目と鼻の先まで来る。


 タイトから放たれていた殺気が無くなった……気がした。


「盗人と!ゴブリンと!戦ったんだろ!?

 その時、オマエに何ができた!?

 一発でもまともな攻撃が当てられたのか!?」


「っ……。そ、その時は、俺が覚醒しなかっただけだ!」


 タイミングが悪かったんだ。

 あの時も、あの時も。

 まだその時じゃなかったんだ。

 でも、いずれ――


「――覚醒?

 んなの簡単にするわけねえだろ!」


「……するさ!」


「オマエのそのしょぼい身体見てたらわかんだよ!

 どうせ家でダラダラしてきたんだろ!?

 親に甘えて、自分に甘えて!

 何もしねえで、一日中怠惰に過ごしてたんだろ!?」


「っ――!」


「木剣もろくに振れねえ奴が、覚醒だの最強だの言ってんじゃねえよ!」


「……いや、だって俺は――」


「――オマエは雑魚だ!いい加減認めろ!」


「っ……!

 認められるわけねぇだろ……!」


「ガキが――!」


「嫌だ!認めない!認めてたまるか!俺は、俺は――!」


「認めろ!これが現実だ!」


「違う!これじゃない!こんなのじゃない!」


「なんで認めない!?何がそんなに不満なんだ!」


「だって、だって俺は特別なんだ!みんなとは違う!何もかもが!それが俺だ!ハヤミ・マヒトだ!」


「なにふざけたこと言ってんだテメェは!

 自分が特別?それのどこが特別なんだよ!

 確かに、魔力無しは珍しいよ!特別っちゃあ特別だよなぁ!?」


「違うって!そんなのじゃない!そんなのじゃねぇよ!」


「じゃあ罠士か!?」


「だから(ちげ)ぇって言ってんだろ……ッ!」


 タイトの頬に向かって右拳を振るう。

 が、あっさり躱される。


「じゃあなんだ!

 魔物も殺せねえような気持ちの(わり)い優しさか!?」


「違うぅ……!」


「だったら何だよ!」


「お前にわかるもんか!」


「大体、魔物が殺せねえってなんだよ。

 敵を殺せない?

 そんな奴が冒険者なんてやってんじゃねえよ!」


「……」


「敵はどんどんやってくるぞ!

 今!明日!いつ来てもおかしくねえんだぞ!」

 魔物も殺せねえ奴が、人間なんて殺せるわけねえだろ!」


「人間なんて殺すわけねぇだろ!何言ってんだよ!」


「じゃあオマエには何ができるんだよ!」


「…………何もできねぇよ……!」


 俺は何もできない。

 だから、異世界に来ればできると思っていた。

 チート使って、特殊能力使って、何でもできるようになって――。


「何度だって言ってやる。

 オマエは雑魚だ。弱い。何の力も無い。凡人以下だ」


「…………なら、なら俺はどうすればいい!?

 こんな世界(場所)で、どう生きればいい!?」


「そんなの自分で考えろ」


「考えたさ!この一ヶ月間、ずっと考えてた!でも、答えは出なかった!」


「……嘘つけ」


「嘘じゃねぇよ……!」


「じゃあ、なんでパーティに入れて欲しいなんて言ったんだ?」


「っ……」


「――――」


「……怖いんだ。怖いんだよ。

 こんな世界で、俺はヒトリじゃ生きてけない。

 ここに来てからずっと、ずっと怖かったんだ。路地裏でチンピラに殴られた時も、ゴブリンに襲われた時も、何もできなかった。何ひとつ、できながっだ……!」


 盗難事件の時、確かに攻撃は当てられた。

 最終的には勝てたし、それはそれでよかったと思ってる。

 でも、あれは一対十五だ。

 あれだけの人数がいて、役割もきちんと決まっていて、作戦だってあった。

 剣士や魔術士が盗人の注意を引きつけてくれていた。

 だから攻撃を当てることができた。


「――――」


「この街に来てからまだ一ヶ月だ!

 ただ安全な場所で毎日アルバイトして、運良く泥棒捕まえて、一回クエストに行っただけで、俺はこのザマだ!」


「――――」


「死にたくないんだよ!怖いんだよ!」


「なら、オマエが守って、守る奴と一緒にいればいい」


「……そんな奴いねぇよ!俺はヒトリだ!昔もこれからも!ずっとずっと!誰もいない!」


「だから、そのための仲間だろ。パーティだろ」


「……」


「確かによ、オレ達はまだ一ヶ月も一緒に生きてねえ。だから、オマエのこと、知らないことばかりだ」


「――――」


「けどなあ、知ってることだってある!

 オマエはそこら辺に湧いてるチンピラやゴブリンに手も足も出ねえような雑魚で、女湯覗くのすら罪悪感覚えて怯えるような臆病で、現実と夢の区別もつかねえようなクソ野郎だ!」


「…………ずっと、憧れてたんだ。一瞬で、どんな敵も倒す、かっこいい主人公に」


「――――」


「夢だったんだ。叶ったと思ったんだ。やっと、やっと俺は変われるんだって。

 ……なのに俺は、何も変わってなかった」


「……変わるのは、これからでもいいだろ」


 そう言ってタイトは立ち上がると、俺に背を向けて出口へと向かう。


「ぁ……」


 離れていくタイトの背を見て、俺は何も言い返せなかった。

 何も言えなかった。

 言葉が出なかった。


「タイトくん、優しいねぇ」


 ギャラリーで俺たちを見ていたセラが、タイトにそう言った。


「……別に、ちょうどイライラしてたからな」


「……妹かい?」


「……」


 タイトは何も言わず、その場を去った。



 ********************



 それから数日の間、俺は何もできなかった。

 何かをしようとしても、タイトに言われた言葉が脳裏をよぎり、なぞの倦怠感が襲ってくる。

 やる気も何も起きず、俺は何日も路地裏でうずくまっていた。


 何度も、自分に問い掛けた。


 ――俺は弱いのか?


 出てくる答えは、わからないだった。

 わからない。一番ムカつく答えだ。

 せめて、どちらかの答えが欲しい。

 けど、ノーは嫌だ。

 ……イエスも、しっくりこない。


 異世界人は強いんだろ?

 異世界に来るまでに、神様から魔王とかの敵を倒してって言われたりして、特別なチカラをもらうんだろ?


 ……俺、神様会ってねぇじゃん。


 いや、でも会ってない奴だっていた。

 神様すら出てこない話だってあった。

 なのに、主人公はすごかった。


 一体、何が駄目なんだ。

 何が足りないんだ。

 誰か、誰か教えてくれよ。

 俺に足りないモノを教えてくれよ。


 俺は強くなりたかった。

 異世界行って、チート使って、強敵を一撃で倒して、恋して、みんなに褒められて、尊敬されて――。そんな世界に行きたかった。

 そうすれば、俺は幸せになれると思ったから。


 今はどうだ?

 ステータスは雑魚だし、ヒロインは全然出てこないし、特殊能力なんてかけらも無い。ゴブリンに一撃で負けて、みんなにバカにされて、笑い者だ。

 真逆じゃないか。

 正反対じゃないか。


 やっと、やっと主人公になれたと思ったのに。

 幸せになれると思ったのに。



 魔物が殺せない冒険者は、猫探しか……。


 そんなの嫌だ。

 俺は、そんな事がしたくて冒険者になったわけじゃない。

 俺は冒険がしたかった。

 いろんな場所に行って、いろんなものを視て、いろんな人と出会って――。


 冒険には危険が付き物だ。

 この世界には、魔物という危険な存在がいる。

 人を襲い、食おうとする存在。

 死なないために、戦わなければならない。

 生きるために、殺さなければならない。

 けど、俺には殺せなかった。戦うこともできなかった。


 突然目の前にライオンを連れて来られて、殺せと言われたら殺せるか?


 無理だろ。

 犬でも猫でも、できるわけないだろ。

 たとえ自分を殺そうとするような奴でも、戸惑ったりするだろ。


 みんな、平然と殺す。

 二次元でも三次元でも、それは変わらない。

 突然異世界に飛ばされた主人公だって、何も言わず普通に殺していた。

 今考えたら、おかしな話だ。命を奪うのに、何の躊躇いもないなんて。


 これは優しさなのだろうか。

 タイトは、気持ちの悪い優しさと言っていた。


 彼らは慣れてるんだ。

 生まれた時から、そういう環境にいたんだ。

 けど、俺は違う。

 今まで殺した生き物なんて、小さな蟻や蚊くらいだ。

 争いだって非日常だった。戦う術も知らない。

 そんな俺が、魔物なんて殺せるわけがない。


 慣れる……。

 多分、俺は慣れないと思う。

 生き物を殺すのに慣れるなんてできない。できるはずがない。

 多分、この手に残るはずだ。

 肉を突き、裂いて、抉る。

 その感触が、きっと残り続ける。

 人なんて殺した日には、俺は責任と罪悪感に押し潰されることだろう。


 殺したくない。

 でも、殺さないと自分が死ぬ。

 死にたくない。

 でも、生き物を殺したくない。


 怖いんだ。

 全部、全部怖いんだ。

 こんな世界(場所)で、どう生きていけばいい。


(わからない……)


 ほら、結局答えは出ない。

 いつもこれだ。

 いつも『わからない』という答えしか出ない。


 だから、考えたくないんだ。



 ********************



「――やあ、元気かい?」


 横から、セラの声がした。


「……」


 俺は何も言わない。

 言うのも、めんどくさい。


 セラは俺の隣に腰を下ろす。


 しばらく沈黙が続く。

 俺は下を見る。セラは気まずそうに。


 もうしばらくすると、セラは世間話を始めた。

 最近起きたことや、誰かの話を。

 ソレーヌが俺が来なくて寂しがってるとか、タイトの機嫌は俺と訓練所でやり合った次の日から元通りだとか、ウドルがセクハラして捕まったこととか。

 全部、適当に聞き流した。

 興味がなかった、他人の話なんて。

 他人の事に頭を使えるほど、今の自分には余裕がない。

 ……他人がどうなろうと、俺には関係無い。



「――僕は知ってる。君が弱い人だってことを」



 セラが突然、そう言った。


「…………弱くねぇよ」


「君は弱いよ。見てたらわかるもん」


「……」


「……癖なんだ。殴られないよう、人の目を気にして日々を過ごす。それが昔の僕だった」


「…………俺は、平和で、穏やかな世界にいたんだ」


「……羨ましいね」


「……退屈だった。何も変わらない、変化のない日々を繰り返すのは」


「だから、ここに来たの?」


「……よく、わからない。

 気が付いたら、景色が変わってたんだ。

 突然目の前が白黒になって、目を開けると、ここにいたんだ」


「……不思議だね」


「……何言ってんだ、って思ってるだろ?」


「うん。何言ってんの?」


「……」


「――――」


「……俺は、どうすればいい?」


「そのままでいいんじゃないかな。これまで通りで」


「……それじゃあ嫌なんだ。俺は、アルバイトがしたいわけじゃない」


「じゃあ、何をしたいの?」


「……冒険がしたい。いろんなものを視てみたい。

 でも、冒険には危険が付き物だ。

 だから――」


「――だから、チカラが欲しかったんでしょ?」


「……多分、俺は強くなりたかったわけじゃない。

 ……チカラを得ることで、死から逃れようとしてたんだ」


「――――」


「チカラがあれば、俺はこんな世界(場所)でも生きていくことができる。だから、生きていくために、死なないために、チカラが欲しかったんだ」


「――――」


「自分が無力だとわかって、俺は焦った。

 ただでさえ、こんな世界(場所)でやっていけるか不安だったのに――。

 俺の不安は大きくなる一方だった」


「――――」


「自由になれた。あの世界から抜け出せた。

 来たかった場所に来れた――はずなのに、あんまり喜べてなかったんだ。嬉しかったのは最初だけ」


「――――」


「不安なんだ。俺は最後まで、やっていけるのか」


「――――」


「俺、やりたい事ができたんだ。

 まだ曖昧なものばかりだけど、いろんな事やってみたいんだ」


「――――」


「だから、死にたくないんだ」


「――――」


「……俺は、ヒトリでは生きることができない。他人のチカラを借りてじゃないと、ちゃんと呼吸できないんだ」


「――――」


「だから、パーティに入りたかった。

 守って、守られる――そんな人達が欲しかった。

 ……けど、断られたんだ。

 魔物も殺せない、ゴブリンに負けるような奴は要らないって」


「――――」


「別のところに頼んでも、どこのパーティにも、きっと同じこと言われると思う」


「――――」


「だから、俺はヒトリなんだ。今も、昔も、……これからも」


「…………君は、独りじゃないよ」


「……」


「だって君には、友達がいるじゃないか」


「……その友達は、俺が死にそうになってた時、何もしてくれなかった」


「タイトが君を見捨てるわけないだろ?

 本当に危ないと思ったら、きっと助けてくれたさ」


「……」


「それに、わざわざ君のクエストに黙って着いてきたあたり、相当心配してたんじゃないの?」


「……」


「僕は君の友達……のつもりさ。

 君が僕をどう思ってるのか知らないけど、僕はそう思ってる」


「……そう、言ってくれると嬉しいよ……」


「――――」


「……」


「――――」


「……なあ、これは夢か?」


「夢でありたいの?」


「……」


「現実は嫌なの?」


「……」


 数分、沈黙が続いた。

 そして――、


「…………夢は、もう見飽きたんだ」


 夢は、もう何度も見た。


 目を覚ますと、夢だと気付き、喪失感に襲われる。

 そんな毎日を繰り返していた。

 それがずっと嫌いだった。


「俺が見たいのは…………夢じゃない」


「じゃあ、何を見たいの?」


「――現実だ」


「……なら、今を見ないと」


 俺は立ち上がって、前を見た。

 前には、薄汚れた建物の壁がある。

 顔を左に向ける。

 路地裏の出入り口から差す光が見えた。

 俺はその光を目指してゆっくりと歩き、路地裏を出た。


 辺りを見渡す。

 そこには、俺が夢で見た中世ヨーロッパ風の景色が広がっていた。



 ……。……。……。



「……ああ。そうするよ……」


 なぜだろう。

 あっさりと、認めてしまった。

 こんなにあっさりと、認めていいのだろうか。

 あんなに否定して、嫌がったはずなのに――。


「ご飯行かない?今日は僕が奢ってあげる」


 俺の後に続いて、路地裏から出てきたセラにそう言われた。


「……ああ、行くか」


「よし、なら今日は――」


「――あ、借金どうしよ」


 現実を見た一言目は、これだった。


 借金、どうやって返そう。



あいつがオレの殺気に気付くとは……。byタイト

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ