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帚木 彗の神通力 あるいは、府中鍋屋敷家における化け猫騒動の顛末

 まず、蔵の鍵を開ける。中に入り床につけられた地下につながる扉の鍵を開ける。木組みでできた階段を降りると、木製の扉がある。またしても鍵を開ける。観音開きの扉を開け先へ進む。地下なだけあって周囲は暗い。持参した提灯の明かりを頼りに進む。意外としっかりしたつくりの廊下を抜けると、急に開けた空間に出る。どこかに明かり取りがあるのだろう、うすぼんやりとした中目を凝らすと、正面に一軒の家があることが分かる。この木戸にも鍵がかかっているため、それを開ける。家の入り口は意外にも開け放たれていた。客商売の店の入り口のようだ。灯りが焚かれており、煌々と土間を照らしている。私は靴を脱ぎ、進む。家の内部は和風を基調とした作りになっており、行燈のつられた木の廊下の脇は、襖が並んでいる。なかなかの室数だが、使用されているところを見たことはない。奥へ進む。とうとう家の最奥まで来てしまった。最後の襖を開ける。「よう。」一応一言声をかけてから室内に入る。そこには、闇に浮かび上がるかの如く真っ白い男が座っていた。白髪、赤眼、白い着流し。文机に向かう彼は、私に目もくれず、手元の行燈を頼りに書物を読んでいる。再三声をかけたものの、こちらに全く気付く様子がない。書物に夢中なのだろう。仕方なく私は彼の正面に胡坐をかいて座り込んだ。数十分は経っただろうか。伏魔殿の中、薄暗い闇に彼の白装束だけが浮き彫りとなる。頁をめくるスピードが徐々に速くなっていき、ついには彼は書物を閉じた。読了したようだ。「なに読んでたんだ?。」頃合いかと思い私は問いかける。彼は、ハッ息をのみ、飛び上がらんばかりの驚愕の表情を見せた。「八十島さん。いつからそこに。」数分前くらいだよとさばを読み、私は再度問いかける。「随分熱心に読んでいたが、なんの書物だったんだ?。」「諸外国の文化や風習をまとめた博物誌みたいなものです。」すごいんですよ、この像という生物。馬よりもすごく力持ちなんです。と無邪気に笑う彼をみて、少し複雑な気持ちになった。それを察したのか、彼は少しトーンを落とし、私に尋ねた。「それで、今日はこんなところまで何の御用でしょうか。」「少し力をいや頭を貸してほしくてね。少し前に起きた事件があったんだが…。」話始めようとする私を遮り、ちょっと待ってくださいと彼が言う。何事かと思えば、長い話になるようだから、茶菓子を準備するという。和紙を敷いた小皿にあられを乗せ、檻の間から私に手渡してくれる。そう、檻である。私と彼は、檻を挟んで向かい合っている。いわゆる座敷牢である。彼の世界は、畳3枚分の座敷牢で構成されていた。初めて会った時こそどうしても彼が囚われているという事を意識しがちだったが、もう随分見慣れてきてしまったように思う。それがいいことか悪いことかはさておき・・・。「じゃあ、改めて、府中に、鍋屋敷家という豪邸があるんだ・・・。」せっかくなので、茶菓子をつまみつつ、私は話を再開した。彼は目を輝かせながら話の先を待っている。ここは帝都、統一教団「箒星の導き」全一教会。その地下に四つの鍵と座敷牢で囚われている彼は、帚木 彗。統一教団「帚星の導き」の生命線にして拠り所。そして私にとっては大切な友人。私はいつものように、彼の退屈を満たすべく巷で話題の事件について話し始めるのだった。


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