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第37話 みんなのために

 クリスマスからさらに時が流れ大晦日。

 僕は病室の中に備え付けられていたテレビを見ていた。

 テレビのモニターには大晦日恒例の歌番組が映っており、現在は白組のダンスグループがインターネットでバズった歌を歌っている。


「あら。珍しいですね」


 見回りにやってきた看護師の人が僕を見て言う。

 普段はスマホをいじっていることが多いからか、テレビをつけている僕の姿が珍しいみたいだ。

 ――ちなみに、今の時間は本来なら完全に消灯時間だ。

 だけど今日は大晦日だということで、相当重症だったり体調が悪い人以外はこの時間まで起きても良いことになっている。


「ハハ、僕だってたまには見たりしますよ」

「それってギャラクシーズ! の時でしょう? ……ああ、そういうこと」


 歌が終わって司会の番へと移った番組の様子を見て、看護師の人が納得したようにうなずく。


「そういえば、今回はギャラクシーズ! が出るんでしたっけ」

「はい」


 ――そう。今日の歌番組には、ギャラクシーズ! のみんなが出るのだ。


◇ ◇ ◇


 最初にそれを知ったのはネットニュースだった。

 白石さんとしてはいち早く教えたかったものの、仕事の関係とスケジュールの問題もあって中々切り出せなかったのだとか。

 その話を聞いてからすぐリハーサルの方が本格的にはじまってみたいで、最近はあまり会えていない。

 とはいえ、そんな忙しい中でも週に2回は来てくれている。

 僕としては体調を崩さないか心配でもあるのだけれど。


 ある日、お見舞いにやってきていた白石さんが言っていたのを覚えている。


「私、頑張るよ」

「……え?」


 その言葉をはじめて聞いたとき、僕は思わず聞き返してしまった。

 それが信じられなかっただとか、そういった理由じゃない。

 むしろ彼女はいつも全力で頑張っている様子だった。

 だからこそ、わざわざ「頑張る」なんて言葉を口に出す必要性を感じ取れなかったのだ。


「……今回のことがあって、私痛感したんだ」


 白石さんは言葉を続ける。


「芸能人をやっていけるような家に生まれて、親に愛されて、好きだって言えるような人と出会えて、そしてその人と付き合って……それって全部、ものすごく恵まれていたんだってことを」


 彼女はそう言って僕を見つめる。

 その瞳は僕だけを映しているようにも、僕を通してそれ以外のすべてを眺めているようにも思えた。


「ほら、今回のことってものすごいスキャンダルでしょ? だからバッシングとか誹謗中傷もたくさん来たんだ。」

「それは……」

「……あ、黒木くんは気にしなくてもいいよ? ……なんて言っても気にしちゃうんだろうけど」


 まあそこが黒木くんの良いところなんだけどさ。

 白石さんはそう笑う。


「でも、そんな中で応援してくれる人も結構多くてさ。『いつも私たちに幸せを与えてくれるあなたにも、幸せを与えてくれる存在がいるのだと知ってホッとしました。あなたと恋人に大事がないことを願っています』なんてファンレターも届いたんだよ?」


 それに、と彼女は言った。


「それにね、ギャラクシーズ! のみんなも励ましてくれたんだ。みずっちは『今回のことは気にしなくていい。あなたの望むようにするべきだ』だなんて言ってくれたし、むーちゃんは『アタシも爐ちゃんと幸せになるッスから、うみうみも幸せになってほしいッス!』って元気いっぱいに言ってくれた。マリちゃんは『ウェディングドレスはまかせて!」なんて口走っていたし、ななななは『みんなに夢を与えるアイドルだからこそ、自分の幸せを追求するべきじゃない?』つっちーは『これが原因でたるむことがあったら承知しないからな』っていつも通り厳しかったけど、『逆に、特に問題がなければ反対はせん』とも言ってくれた」


 みんなやさしいね。

 そう語る白石さんの表情は、とてもうれしそうだ。


「今まで私は、ずっと自分のことを思って努力してきた。黒木くんに見てもらうため芸能界へ入ったけど、それだって結局は自分勝手な理由だ」

「……でも、僕はそういう白石さんのことを立派だと思うよ」

「ありがとう。……うん。君の言うように、どんな理由でもいろんな人を楽しませられたのなら、それは恥じるべきじゃないことだと思う」


 だからこそ、と白石さんは続けた。


「私はみんなのために頑張りたいんだ。今まで自分のことしか考えていなかった私を見て応援してくれた、みんなのために。……それに、黒木くんのそばに立てるような人間でありたいからね」

「え……」

「だって、黒木くんは私のことを思って頑張ってくれたでしょ? それに配信だって、視聴者を楽しませようとしていつも頑張っているのを知っている。黒木くんは『私のそばに立つなんて』って言っていたけど、私だってそう思っているんだ」


 言葉とは裏腹に、そう語る彼女の姿は力強い。

 きっと彼女は本気でそう考えている。

 ――だからこそ。


「……うん、わかった。僕も白石さんのことを応援しているよ」


 僕はそう返した。

 その気持ちを否定するのも、なにか言い足したりしようとするのも違うと思ったから。

 白石さんは深くうなずいて、それから力強い瞳で微笑んだ。


◇ ◇ ◇


 ――司会のMCが終わり、紅組の番がやって来る。

 それと同時にカメラが変わり、大きなステージの上に立つギャラクシーズ! の姿が見えた。

 歌が、はじまる。

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