88話 追悼式典
魔王討伐の成ったその翌日より、王都ヴェルヴァロッサは盛大な祝典につつまれた。
その一方で、魔王との戦いで亡くなった兵や役職者を悼む追悼式典もまた粛々と行われた。
俺の側にはウサウサとワーグ。
ワーグはものすごい着ぶくれで竜人の姿を隠している。
その他のみんなは、それぞれの地位や立場でそれぞれ別の場所にて参列をしている。
「シーザ、大丈夫? 勇者としてのスピーチがあるんだよね。やれる?」
「やるさ。戦勝祝典のスピーチよりよっぽど楽だ。今度は喜びを演じなくて良いんだからな」
「うん……エルフィリア様、幼いのにすごく素敵な人だったよね。シーザは、ずっとあの方と冒険していたんだね」
「勇者パーティーのサポートを請け負って出会って……思えばまだ半年のつき合いだったんだな。なのに、ずっと彼女といた気がするよ」
聖教会の神父が朗々と演説している側の慰霊碑を見た。
その魔王討伐戦戦死者名誉慰霊碑の碑名最初には、英雄聖女エルフィリア・ノルデン伯爵令嬢の名が特に大きく刻まれている。
魔王を討った最大の働きを認められ、この名誉を授かったのだ。
だから、あそこに刻まれている彼女の名を汚さないためにも、俺は最後まで勇者をしっかりやらないといけない。
「それにしても、クージーちゃんも冷たいよね。こんな日まで治癒院に詰めてなくてもいいのに。エルフィリア様との最後のお別れくらい来なさいっての」
「よせよ。まだクージーQは、彼女の死を受け止めきれていないんだろう。忙しく働いて、気持ちをふりきるしかないのさ」
王族代表として参列しているジョイスロウ殿下。
エルフィリアの家族の中にいるシュウザ。
スキード・ワゴン財団総帥として出席しているスキード・ワゴン。
魔法院のお偉いさんとして出ているアムドウル。
騎士の身なりで参列しているポルマレフ。
誰もかれも、エルフィリアの本当の死に悲しんでいる。
ああ、これがエルフィリアを失うということか。
エルフィリアを死んだことにするなんて、つくづく罪なことに手を貸してしまったな。
「さよならエルフィリア。俺は一生忘れない。君といた、この勇者の試練の冒険を」
……ザッ
俺の近くに小さな人影が差した。
―――「ふぅやれやれ、ようやく見つけましたよシーザ。勇者として魔王討伐成功の式典で忙しいのはわかりますが、居場所くらい教えてください」
聞き覚えのある涼やかな女の子の声が聞こえる。
「まだちょっと動くのはキビしいですが、シーザの晴れ姿を見たくて治癒院から来てしまいました。似合ってますよ、その勇者の正装」
そこには、見覚えある愛らしい小さな女の子がいた。
彼女の死を悲しんでいる誰もかれもが、その少女に注目した。
まるで信じられないものを見るかのように。
「あ、シュウザお兄様。それにビューイお兄様とヒュレンお兄様もいらしてたんですか。お父様お母様もお久しぶりです」
ザワザワ……ザワザワ……
「おまえは……」
「まさか……」
彼女はかわいらしく会釈をして名乗った。
「エルフィリア・ノルデン、ただいま参りました」
「え、ええええええええエルフィーリアぁぁぁッ!!!!!?」
「うわあああああっエルフィリアが生きてるうううう!!!?」
追悼式典中を衝撃の渦につつんだ彼女は、不思議そうにキョトンとしている。
「生きてる? みなさん、どうしたんですの? そんなに驚いて……ああっ!」
彼女は慰霊碑を見ると、飛び上がって驚いた。
「ギャニィーーッ‼ な、何で戦没者の慰霊碑にわたしの名があるんですの!? もしかして、わたしは死んだと思われているんじゃ……!」
「い、いや、あの状況からどうやって生きられるんだよ! 心臓が破壊されて魔力でかろうじて生きていたのに、空から落っこちて!」
―――「それは私から説明させてもらいます。私が今まで忙しかったのは、治癒院でそのエルフィリアの治療に詰めていたからです」
またしても聞き覚えのある声。
その声の場所には、この追悼式典には来ていないはずの彼女がいた。
「お…おまえはクージーQ! なんだいったい!? どういうことか、何か知っているのか!?」
「空から落ちたエルフィリアは、奇跡的に森林の生い茂った場所に落ちて木々に受け止められたのです。そして心臓破壊から生還した理由は”これ”です」
クージーQは懐から大きな深紅の宝玉を出した。
あれ? あれって、どこかで見覚えがあるぞ。
「これは高位錬金術で作られた、命そのものを模倣した魔道具です。エルフィリアが冒険の途中で手に入れたものだそうですが、これを生命維持として使い、命をつないだのです」
思い出した!
あれはたしか、カズスが作ったエルフィリアのホムンクルスに使われていた魔石だ!
すっかり忘れていたが、あれを持っていたおかげでエルフィリアは助かったのか!
「その後、昔、聖女学校で私と組んでいたときに使った連絡方法で私を呼んで、今まで治癒院で療養をしていたという訳です」
な、なんという奇跡!
しかし何故、今までエルフィリアの生存が伝えられてなかったんだ?
「説明ありがとうクージーQ。では、わたしにも説明していただきたいのですが。わたしが無事だったことが、みなさんに伝わっていないようですが?」
「あれ、そう?」
「そうですよ! あの慰霊碑にでっかく書かれている一番最初の名をご覧なさい! わたしが名誉の戦死者になっていますよ!」
「あーあれは計算外だった。名誉の戦死者を刻んだ厳粛な戦没者慰霊碑の、それも一番最初に実は生きていた人の名が刻まれるって、もしかして凄くヤバイかも」
「あああああっやっぱり! クージーQ! ワザと伝えてませんでしたね! どういうつもりです! それでも、わたしの嫁ですか!」
「「「「よ、嫁ェーーーッ!!!?」」」」
「あ、いや、それはエルフィリアの冗談だから驚かないでほしいんだけど。既成事実になりそうでイヤだわ」
「わたしの質問に答えなさい!! 信じられません! 何考えてんですか、このアマ!」
「前にあんたが死んだフリして振り回してくれたお礼よ! 死人になって反省しなさい!」
エルフィリアはクージーQを追いかけまわして行ってしまった。
あとには、唖然茫然としたマヌケ顔になった参列者たち。
「はは……ああ、まったく。何度も死んで生き返る聖女様だったよな、君は」
誰も彼も、俺のように不謹慎に笑う者ばかり。
とりあえず、勇者のスピーチはどうしよう?
俺が用意したのは、聖女エルフィリアへの思い出と悲しみを綴ったものなのだが。
次回で最終回です。最後まで頑張ります。




